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第2話:成り行き居候?

 

 あたしは今、テーブルを挟んで不法侵入者……もとい、自称・堕天使の男と向かい合って正座している。

 というかさっきは服装に気をとられてわからなかったが、彼はなかなか、いや、かなりのイイ男だった。

 黒髪の奥で光る瞳は暗赤色で怖いといえば怖いが、鼻筋の通った端正な顔立ちは確かに人間離れしてはいる。


「で、」


 何を言うべきか迷ったがとりあえず。


「堕天使さんがウチに何の用なんですか?」

 

 ふむ、と彼は腕を組む。


「地上の査察だ。そのための拠点としてここに住まわせて欲しい」


 え?

 いやいやいやいや。何それ。ちょっと待て。無断で家に入ってあたしを叩き起こして、おまけに住ませろって?!


「ここに? 住む?」

「無論、ただでとは言わない。どうやらお前は一人暮らしのようだな。私のような男がいれば犯罪にあうことも減る。お前にとっても悪い話ではあるまい」

 

 いや確かにそうですけど。男女の二人暮らしって別の問題が発生するんじゃないでしょうか。あたしまだ学生です。

 てかこの自称・堕天使、人間界の事情に明るいな。


「そんなこといきなり言われても。大体、堕天使だなんて怪しすぎです」


 あたしが強気に出てみると彼はおもむろに立ち上がった。ヤバっ、怒ったか。


「ならば証明すればいいんだな」


 言うと僅かに上を向いて目を閉じた。すると、


「へ?」


 ……姉さん、あたしはいつからこんなにドリーマーな子になってしまったんでしょうか(姉さんなんていないけど)。

 なんと彼の背中から巨大な翼が生えている。漆黒の、艶やかな烏の羽。

 ……うん、よくできた手品。だよね……。

 次に、唖然としているあたしを手招きして彼はベランダの窓を開けた。ウチはマンションの5階にあるから眺めはいい。


「あそこのビルを見ていろ」

 

 指差した先にあるビルは確か取り壊される予定の廃墟だ。今は立ち入り禁止になっている。

 自称――いやどうやら本当の堕天使は静かに手を前にかざした。


「少し遠いか」


 呟きが聞こえた次の瞬間、……ビルが消えた。


「…………」


 崩れた、とか爆発した、じゃなくて本当に“消えた”のだ。


「あなたは○ロですか」

「誰だ? そのセ○というのは」


 兄さん、伏せ字にするとこ間違ってます。


「どうせ壊す予定なら構わないだろう。これで証明できたか? なんならあの山を消滅させてやろうか」

「いやいやいや。とんでもないです」


 彼が真面目な顔で尋ねるのであたしは必死に止めた。彼はやると言ったら確実にやるだろう。このままではこの町が消えかねない。


「そうか」


 なんで少し残念そうなんですか。


「で、ここに住んでもいいか?」


 ――気付けばあたしは頷いてしまっていた。断ったらもっと悪いことが起こりそうだったから。異常を前に常識を考える余裕なんてないさ。

 すると彼、ルシフェルさんは初めて笑顔を見せてくれた。


「さすがは私の見込んだ娘。感謝する」


 ……あぁぁ。かなり胸がばくばくいってます。

 何、その爽やかな微笑みは! イケメンは罪だよ!


「して、進藤真子」

「なんですか堕天使さん」

「腹が減ったのだが」


 言われればあたしの胃も思い出したみたいに小さく空腹を訴える。でも


「あたしが作るの?」

「違うのか?」


 心から疑問に思っているような声を返されるとなんだか気が抜ける。

 ったく……


「……いえ。じゃあ一応、何か食べたいものあります?」


 一応、一応。希望言われても朝食だから定番メニューしか作れないからね。


「……イモリの黒焼き以外なら何でも」


 魔女かっ。


「そんなの食べたことあるんですか?」

「昔、無理矢理な」


 彼は顔をしかめた。そりゃ嫌だわね。

 

 ……?


「堕天使ってご飯食べるの?」

「食べずとも平気だが」


 平然とのたまった彼に反論しようと口を開きかけると


「私はお前が作った料理が食べたいんだ」


 ……どうしてこんなにさらっと殺し文句が言えるんだ!

 一瞬固まってしまったあたしに向けて、彼は軽く首を傾ける。


「ダメだろうか」


 ふわりと揺れる黒髪、こちらを見つめる切れ長の目。こ、こいつは乙女キラーだ!

 あたしが焦りを見せまいと必死になっていると


「あ」


 彼が些か間の抜けた声を発する。


「時間、あるのか?」


 指し示した時計。針の表示は……


「ぬぅぁ! 遅刻する!」


 乙女らしからぬ悲鳴は聞かなかったことにしてもらいたい。

 もー、せっかく早く起きたのにっ。


「ちょっ、着替えるから出て出て!」

「何故?」


 本気できょとんとしている堕天使様。


「私は天地創世の時から裸の人間達を見てきた。気にすることはな……」

「そーいう問題じゃないの!」


 ……このひと意外と天然なんじゃないかしら。

 そんなことを思いつつ、どうにか部屋の外へ押しやり、「いいから!」と言ってドアを閉める。小さく息をつくと向こうから控えめに声がした。


「食事は――」

「あとで!」



 こうしてあたしと奇妙な彼の二人暮らしが始まったのです。

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