第15話:“小”盤振る舞い♪
「真子ちんのご飯ー!」
「お邪魔します、真子さん」
「楽しみね」
「ボクまでありがとうございます」
「賑やかだな」
出だしから騒々しいでしょ。
上の声はそれぞれ黎香、アシュタロスさん、奏太、ウァラク君、ルシフェルのもの。今日は我が家で近況報告会もとい食事会なのだ。
「早く早くぅ!」
「はいはい」
事前にルシフェルがハードルを限界まで上げてくれたおかげで、かなり期待されているらしい。
「真子の料理は本当においしいぞ」
「そうなんですか」
「ボクも早く食べたいですー!」
ほらまたそうやって! 堕天使二人がかなりテンションあがってるじゃないか。
……。
まあとても嬉しいんですけどもっ!
「――はい、お待たせ!」
「「おぉーっ!」」
今日のお昼は簡単にスパゲッティです♪ ちなみにキノコとベーコンのやつね。
「「いただきます!」」
皆さん、いい食いっぷりですなぁ。
「うまーい!」
「ホント、上手ね」
「ありがと。黎香、奏太」
「おいしいですー♪」
「ウァラク君もありがとう」
可愛いなー少年。堕天使さんの口にもあって良かったわ。
「おいしいですね。ありがとうございます、真子さん」
「いえいえ」
そして昨日はごめんなさい、アシュタロスさん。
あの後あたしは二人から必死の弁解を聞いた。恥ずかしい誤解してたな。
……でもあれはどう見てもアシュタロスさんがルシフェルを押し倒しているようにしか……。いくら二人が美人だとはいえ、あり得ないよねー!
……。
あり得ない、よね。
あ、黎香からの例の贈り物だけど。普通にびっくり箱でした。人を小馬鹿にしたようなピエロが出てきてさ。
ルシフェルはなんだか「引かずに回すのか」とか呟いてた。引かずに?
「ごちそうさま」
早っ! ルシフェル早っ!
「おいしかったよ、真子」
確かに皿は空っぽ……。
「羨ましいですね、ルシフェル。いつもこんな料理を食べられるんですから」
「むぅ。黎香だってー」
「ああ、はいはい。黎香さんの料理、僕は好きですよ」
「でも黎香の料理って何か入ってそうよねぇ」
「失敬な! 辛子は隠し味さ!」
「カラシ?!」
いやぁ楽しくていいね。
それに……やっぱりおいしいって言ってもらえると嬉しいよ。作り甲斐があるっていうか。
「まっ、真子ちんの料理は黎香も好きッ。ね、ウァラ君?」
「ウァラ君ってボクのこと……?!」
あ、ウァラ君ってちょっといいかも。
そのウァラ君は戸惑いながらも頷いてくれる。
「これなら万魔殿の料理長もきっと納得です! ねえルシフェル様?」
「そうだな。是非食べさせたい」
……なんかよくわからないが。とにかくものすごい過大評価されてる気がするよ。
さて、正式な仕事で地上にいるわけではないと明かしたルシフェルですが、どうしてこうやってのんびりしていられるかというと。
「それは、」
ウァラク君曰く。
「ボクが一度地獄へ行ったら、今は地獄の状況が珍しいくらい安定しているので、ルシフェル様はむしろ地上にいても構わないということでした。代わりに近いうちに顔を見せろと」
だそうです。ふーん……。
「でもボクちょっとびっくり」
ウァラク君がスパゲッティを器用にフォークに絡めて言った。
「人間もこんなに若いうちから一人暮らしするんだなって。すごいですね、真子さんも黎香……さんも?」
若いうちって……。堕天使の年齢ってホントにわかんないわ。
「なんで疑問系なんだよー。そこは“黎香様”でしょ、チビちゃんッ」
「チビって言った! ボク気にしてるのにぃ!」
あらら。まったく黎香の奴は……
「だって小さいじゃん」
「んなっ。君も人のこと言えないでしょ!」
「いいや、チビちゃんより黎香のが2センチはデカいね!」
「変わらないよぉ!」
その通りだウァラク君。
「ナメんな小さい堕天使君っ! 2センチは20ミリもあるんだぞ」
「えぇぇ?!」
不毛な争い勃発。
そのまま二人は部屋をドタバタと駆け回る。あんまり広くないから気を付けろよー。
「ふふ、あの二人は気が合ったようだな」
ルシフェルが笑うとアシュタロスさんはため息。
「まだまだウァラクも子供ですからね。すみません、真子さん」
「いやいや」
いつでもこの堕天使さんは礼儀正しいな。あたしが笑って返すと、銀髪の貴公子はふと首を傾げた。
「しかし、確かに僕もそれは思いました。一人で生活とは……今の地上では常識なんですか?」
すると奏太がひらひらと挙手。
「あ、俺は普通に家族と住んでるけど。んー……真子ちゃんや黎香が珍しいだけよ、多分」
「ほう」
「へえ」
堕天使二人が頷く。
「何か理由でも?」
「あ、うん。あたしは親の職業上仕方なく、って感じ」
ま、あたしの希望ももちろんあったんだけどね。
「真子の親?」
ルシフェルが聞き返してきた。心なしか彼らは“親”とか“お母さん”とかの単語に敏感な気がする。
「今は海外にいるよ」
……と、思う。
「真子ちゃんの親御さんのお仕事、すっごいのよ!」
「本当?」
「もう奏太! あんなん無職も同然じゃない」
「無職……なんですか?」
ええ無職みたいなもんです。
「ちなみに何をなさってるんです?」
とアシュタロスさん。あ、あんまり言いたくないけど仕方ないよね。
「……お父さんはアルピニスト“みたいな”感じ。お母さんは“自称”売れっ子小説家」
……。
彼らはね、地で“職業は旅人です”を行く《自由人》だから。
「ほー……なんだか凄そうだな」
「ええ、格好よさげですね」
……大抵の人は「何それ?!」って最初は疑うんだけどな。
堕天使さん達は基準がわからないから、まあ、仕方ないか。
「では黎香は? あの娘も親の仕事の都合なのか?」
「それはねルシフェル――」
「それは黎香がスペシャルだからだよーっ!」
うぉ?! どっから出てきた爆弾娘!
気付けば黎香が隣に。ウァラク君もとことこ戻って来て座った。
「もういいの?」
「はい。決着がつきました!」
「12ミリの差だったぜぃ」
身長測ってたの?
「ウァラク、あまり迷惑をかけてはいけませんよ」
「はぁい」
ルシフェルに金髪を撫でられながら、ウァラク君はアシュタロスさんの言葉に返事をした。か、可愛い。素直ないい子じゃないか。
にしてもアシュタロスさんは本当にしっかり者だね。
「一応、僕も――当然ルシフェルもウァラクの上司ですから」
なるほどなるほど。
じゃあルシフェルが部下を叱ることも………いや、なさそう。想像つかないもん。
「で、黎香。スペシャルとはどういう意味だ?」
「だ・か・らぁ、この黎香様は跡取りなの♪」
「跡取り?!」
目を丸くしているウァラク君。そりゃまあ驚くわな。こんな奇想天外娘が跡取りなんて。
「そ。深窓の令嬢、箱入り娘、籠の中の鳥♪」
籠の中の………?!
「すごいすごい! ちなみに何の跡取りなの?」
「フフン、聞いて驚けぃ! 実は……“悪の秘密結社”なのだぁっ!」
うっわ無謀な嘘きたーっ!
ていうか秘密結社がまさかの世襲制!
こんなの信じないよ――
「すっげぇ!!」
超素直!
君、堕天使でしょ?!
「でしょー? 黎香様は今、一人暮らしという名の修行をしているのだ!」
あー、はいはい。
違うんだよルシフェル、ホントは――
「それはすごいな!」
堕天使長も超素直! アホかっ。
……。
黎香と暮らしてなかったらアシュタロスさんも引っ掛かってたのかな。それはないよねー! ……と信じてるよ!
けど……修行中ってのもあながち間違いじゃない、かも。だって黎香の家は――
「真子ちん!」
「な、何?」
「デザート!!」
かしこまりましたー
……ってあたしはウエイトレスじゃねぇ。
しょうがないな。スパゲッティだけだとお腹空くしな。
「わかったわかった。ちょっと待ってて」
「わーい♪」
ホットケーキくらいならすぐできるかな。
「みんな! 真子ちんが超絶品☆スイーツを作ってくれるってよー!」
「「おぉーっ」」
無駄なハードル!
黎香のだけ悪の秘密結社らしく真っ黒ホットケーキにしようかしら。世間では焦げてるっていうんだけど。
「じゃあウァラ君っ。黎香と新作おもちゃで遊ぼうぜ」
……。
ウァラク君、無事を祈る。
***
結局そのあとホットケーキを食べつつ、色々喋ってお開きに。
ウァラク君は……
何故か緑色のスライムまみれになっちゃってました。なんてこった。
「これから地獄に戻らないといけないのにぃ!」と嘆きながら帰って行ったよ。
「いやぁ今日は楽しかったね」
「ああ。賑やかだった」
たまにはいいんでない? こういうのもさ。
「ところで真子」
「どした?」
「晩御飯は何?」
「もうお腹空いたの?!」
飽きっぽい私がなんと15話も!(笑) これも読者の皆様のおかげでございます! 最低でも週に一度は更新したいと思っています。ページは日々確認しておりますので、感想やメッセージ、嬉しく読んでます♪ 宜しければお気軽に企画案等お送り下さい。 話の季節が、現実より先行し過ぎそうで焦っている笛吹でしたっ!




