第1話:目覚まし堕天使?
朝。
いつも通り目覚まし時計を止め、いつも通り二度寝しようと布団を被り直す。
今日は学校だがそれでも寝坊はしない。何故なら目覚まし時計はあと二つセットしてあるからだ。ぬかりはないのです。
「やっと起きたか」
あぁこれは何の夢だろう。
あたしは布団から顔を出してみた。
「朝だ。早く出て来い」
枕元に、奇妙な男が立っている。まるで演劇の途中で抜け出して来たかのような衣装。鎖のついた騎士服から上に羽織っている銀糸で飾られた長衣まで黒。おまけに髪も黒いので、早朝から陰気なことこの上ない。なんて不吉な夢なんだ。
「……おい」
「いだだっ!」
だが彼はなんとあたしの耳をぐっと引っ張ったのだ。
……え? 痛い?
とするとこれは夢じゃない……?
もう一気に目が覚めた。
心拍数急上昇。冷や汗だらだら。
こいつはきっと泥棒ってやつに違いない。助けを呼ぼうにも、生憎この家にはあたし一人しかいない。黒ずくめの男と寝起きのかよわい女の子。これ、意外とヤバいんじゃない? あ、かよわい女の子ってあたしのことね。
すると男が懐に手を突っ込んだ。
あの手が次に出て来た時には多分拳銃かナイフが握られていて……
嫌ぁぁっ! こんな早く死にたくない!
あたしはぎゅっと目をつぶって……
……?
「寝るな」
いつまで経っても痛みはない。
恐る恐る目を開けると、男は一枚の紙をあたしに突き付けていた。
「この絵を描いたのはお前か、進藤真子」
そう、あたしの名前は進藤真子といいます。だけどなんであたしの名前を知ってるんだろう?
いやそんなことより、なんで友達にあげたはずのあの絵を持ってるんだろう?
彼が手に掴んでいる紙はノートの1ページ。昨日友達と暇潰しに描いたものだ。捻れた角にコウモリの翼。そう、悪魔だ。……いや厳密に言えば悪魔“のような”担任の似顔絵。あんまりにもあんまりで、友達が爆笑したもんだからあげたのだ。 うん、自分で言うのもなんだが、あたしは結構絵が上手いほうだと思う。
あたしが黙って頷くと彼は眉をひそめた。
「では聞くが、進藤真子。人間達はみな悪魔がこのような姿だと思っているわけか?」
あたしは再び曖昧に頷いて、そして違和感を覚えた。
――……人間達?
「なんと失礼な」
心底驚いている男に声をかける。どうやらあたしを殺す気はないみたいだし。
「あのー、何者なんですか」
「私か?」
彼は首を傾けた。
「私はルシフェル。堕天使の長だ」
うわーん。この人、犯罪者な上に頭もおかしい。
頼む。夢であってくれ。
完全にシカトを決め込んで布団で視界を遮断。あたしは何も見ていません何も聞いていません。
「そろそろ潔く起きたらどうだ、進藤真子」
「ふやぁ!?」
寒っ!
勢いよく剥がれる愛しい毛布。嗚呼さよなら……。
彼は現実逃避を許してはくれなかった。