表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/30

ドーピングの効果

『今だ!』


俺はワンドを頭上に掲げて、持ち手にあるスイッチを入れた。


『キングモードを発動します』


ワンドから声が聞こえた直後、閃光が世界を白く染め、俺の衣服が消えて、ゴブリンの叫び声があたりに響いた。


涼やかな冷風と熱風の双方を体に感じて、自分が全裸になった事を実感する。

俺は今、社会的ルールや理性という縛りから解き放たれ、真の自由を得たと理解した。

それは魂の開放。

みなぎる活力、躍動するからだ、自由の喜びに心と股間が震え、言い表せない全能感さえも感じた。

だが閃光が収まと、徐々に俺の衣服がもどり、ストリーキング状態が解消され、全能感さえも『じゃ、また』という感じで去って行った。

あとに残るは、目が見えなくなって大騒ぎするゴブリンの姿と、不条理な現実。

そして、全力で駆け戻ってくる、理性と羞恥心。


…死にたい。


俺は変態じゃないと、周囲に向けて叫ぶが、考えてみれば俺の姿は他者には見えず、俺の心情も誰も知らない。つまり、俺の日常に何ら影響はなく、社会的に死ぬこともない。

ありがとう異世界、ありがとう鈴木さん。俺はまだ生きられる。


『キングモードは200円で10回分のチャージ可能です。詳しくは公式サイトのストアをご確認ください』


………って、何なんだ、このワンド!


「ハッピーな記念品って、ヤバい方向にぶっ飛ぶだけじゃねえか!…って、ヤバ!」


叫んでいたら、目の前のゴブリンに俺の居場所がばれたらしく、見えないながらも、手を振り回して接近する者や、弓をつがえる者がいた。まずい、このままだと本当にまた死ぬぞ。

俺は慌てて、近寄ってくるゴブリンを槍で突く。


槍はあっさりゴブリンの胸を貫き背へ抜けた。


「まずい、槍が使えな…」


ゴブリンが邪魔になって、槍が使えないと思いながらも、反射的に横へ振った。

すると、槍はゴブリンを刺したままでも、予想外に軽く、振ったその勢いでゴブリンが槍からすっぽ抜け、他のゴブリンを巻き込んで、彼方へと転がっていった。


「ポーションすげえな」


残るゴブリンは5匹、俺は槍を握りしめ、弓もちゴブリンとの距離を詰める。

足音で接近を感じたゴブリンが弓を構えるが遅い。


ヒュンと風切り音を立てて、振るった槍がゴブリンの首を跳ね飛ばす。

更に切り返しで、別の一匹を袈裟懸けに切る。

ゴブリンの一匹が、逃げ出す。

視力が戻って、不利を悟ったのだろう。

俺は逃げるゴブリンの背に向けて「火球」と、短く言って魔法を放つ。

背に火球を受けたゴブリンは、炎に包まれ悶えながら倒れた。

ゴブリン程度への攻撃なら、単語で十分なようだ。

よし、この機会にもう一つの魔法も試しておこう。


「刃旋風」


火球の威力から推測して、この距離で刃旋風をフル詠唱すると、俺自身も危険と判断して短く唱える。

すると、手の前で風が巻き始めたが、日本でじんせんぷうと言えば、塵旋風と書いて塵を巻きあげた、つむじ風の事をいうのだけど、これは字が違うな。


渦巻く風をゴブリンに向けて、ひょいっと投げる。

俺の手元を離れたつむじ風は、急に2メートルほどの大きさに成長し、ゴブリンに向かっていく。

ゴブリンは、つむじ風から逃げようとするが、つむじ風はまるで誘導ミサイルのように、ゴブリンの後を追う。ゴブリンの背でつむじ風が煌めき、ゴブリンが細切れになって、血煙になる。それでも刃旋風は消えず、次なる獲物を見定めたかのように、最後に残ったゴブリンに襲い掛かり、これもみじん切りに変えた。

なおも数秒その姿を保っていた刃旋風だが、効果時間が切れたのか、解けるように消えた。


思った以上に使えたけど、これ対象をどうやって選んでいるんだろう。


「ホーミングミサイルって、電波とかの反射で敵を感知しているんだっけか? でも、あの魔法にそんな機能は無いよなあ。近くにいる者を無作為に襲うなら、使うときに注意しないと、味方を巻き込んだり、俺自身が切り刻まれたりするかも」


『スキル 忍び足のレベルが上がりました』

『スキル 槍術を取得しました』

『スキル 槍術のレベルが上がりました』


おお、このタイミングで報告来たか、ステータスさんは意外と融通が利くんだな。

んじゃ、ステータスさん現状報告をよろしく。


【名前 世界航】

【種族 人族】

【年齢 21歳】

【状態 健康】

【職業   】

【スキル ステータス開示・鑑定1・投擲1・忍び足2・槍術2】

【固有スキル 訓練所作成】


スキルも増えて、そこそこ見られるステータスに、なってきたんじゃないかな?

俺は一人うなずきながら、捕まっていた女性の方へ向かう。

倒れた女性の顔は見えず、年のころもわからないが、脈をみると生きているようなので、とりあえずヒールをかける事にする。


「万能なるマナよ、その清く温かな力をもって、倒れし者の傷を癒せ。ヒール」


俺の自傷とは訳が違うので、効果を水増しするために、少し言葉を足して唱える。

女性が光に包まれる様子を眺めていると、急なめまいを感じて膝をついた。


「何…だ…こ…」


俺はそのまま地に倒れて気を失った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ