お酒は、うまいが甘くない。
なんとか出来ました。
クレアと、ロイを残して誰も居なくなり、静かになった部屋の中。
「いいのか?」
ロイが、再び漆黒のローブに包まれた、クレアの背中に語り掛ける。
「……」
だがクレアは、振り向く事もなく、悠々とギルドから出て行く颯汰とジョーを、窓越しに見つめるだけだった。
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「……ダッハッハッ! ひでぇ目に合ったな、爺さん!」
すでに辺りは、暗くなり、湾岸都市ミズリの街は、魔法の文明により大小様々な眩い光に照らされ、更なる賑わいを見せている。そんな街の路地裏にある、小さな屋台で俺達は、メシを食っていた。
「いやいや…… そんな事より、命を救って頂きありがとうございます」
屋台の食べ物は、思ったよりも味付けが濃い物が多い。この世界の人達は、酒好きが多いのだろうか。再び乾杯をしては、安物であろうワインを口にした。
「だいたい爺さんが、あのゴブリン野郎と関係あるはずーーーー」
酒に酔って上機嫌に話し出すジョー。
(なるほど。だいたい事情は、飲み込めた。しかしSクラス冒険者か……ゴブリンにしても、物語序盤にしては、展開が早めだな…… )
何の話でも興味津々な爺さんと、話好きな冒険者は、久しぶりに出会った友人の様に、夜遅くまで楽しい時間を過ごすのであった。
次の日、ジョーの部屋に泊まった颯汰は、街の図書館で調べものを始める。むりやりに、案内させられた二日酔いのジョーは、机に突っ伏して、寝息を立てていた。
『この世界【バース】は、3つの大陸がーー』
『【ラジル大陸】全土に圧倒的なーー』
『千年統治し続ける【アルティーナ王国】のーー』
『【湾岸都市ミズリ】周辺の魔素の濃度ーー』
「う~……」
『魔素の凝縮技術によるーー』
『魔物の魔核がーー』
「あ~……」
『ダンジョンに関する、学会にーー』
『魔王軍との終戦からーー』
『古代魔法兵器【勇者】のーー』
『呪いによって起きた魔力低下が原因ーー』
「面倒くせぇ……」
『異世界人が建国した【シースーランド】がーー』
「……これだ! シースーって……ククッ!」
颯汰は、興奮を押さえ切れないままに、本をジッと見ていたが……
やがて大粒の涙が、本を濡らしていた……。
「……う。……爺さん?」
「すまんが……少し散歩に行ってくるわい」
ヨダレを垂らすジョーに、笑顔を見せたじじいは、ゆっくりと街の風景に溶け込んで行く……。当てもなく彷徨ったはずの颯汰は、いつの間にか【女神の噴水広場】で、透き通った水に手を沈めては、何度も涙に濡れた顔を拭う。
(ああ……何で? )
悲壮感が漂った颯汰の脳裏には、先ほどの本に記されていた、文面が浮かんで来る。
『異世界人が建国した【シースーランド】が滅亡した日』
『【シースーランド】の宣戦布告により始まったーー』
『異世界人の異常な能力ーー』
『魔王認定が各国で承認、古代兵器【勇者】をーー』
『討伐された、国王【ヒロシ・サクラ】ーー』
「……じいちゃん!」