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異世界、バトルロワイヤル(2)

硬い壁に穴を空けて、外へ飛ばされた父さん達……とても無事とは思えない。二人とも大怪我をしているだろう。

〈カシラ〉は右腕を切り落とされているし、相手はデタラメに恐ろしく強い。次の一撃でカシラは命を失うかもしれない。

転生者って……

もはやバケモノだ。


どうする……?


「ん? 父さん……!? ひょっとしてあの鑑定士、お前の父ちゃんスか!? あちゃ~、何かオレ悪者みたいスね。 ゲラゲラ! 」


コイツら!


でも……ダメだ。

僕なんかじゃとても敵わない。今は父さん達をなんとか助けに行く事を考えなきゃ。

幸い、会場には強そうな護衛の人達がたくさんいるんだ、戦いは任せよう。


……アレを使う。


僕は全てを諦めたふりを装い、イスに深く腰掛ける。



すると思った通りガントレットの少年はこっちに興味を無くしたのか、会場に軽く睨みを効かせた後、カシラ達を気にしだした。


良し、今だ。


僕はマジックポーチからこっそりと魔道具のブーツを出し、履き替える。


言わずと知れた、足を早くする魔道ブーツだ。クラスはR+(レアプラス)。長時間の使用は魔力を消費する為もちろん無理だが、足にも負担を掛けるので、たいして鍛えられてない僕には何回使えるか分からない。

そして通用するのかも。


次に理力の腕輪を。


く、手が震える……

落ち着け!

仮面はもういらない。邪魔なだけだ。


認識阻害のローブはエリナさんに預けたままだったな。

そうだ。エリナさんもなんとか連れて逃げなきゃ……



「ヤス! 何ボケっとしてるのよ、早くとどめ刺して来なさいよ、何しに来たと思ってんの!? 」


「あ、そうだった。 行って来るッス! 」


不味い、先を越される!


……カシラが!?


僕は……もう迷いなくブーツに魔力を込める。


確信は無い。

だが仮面で分かるハズもないカシラの笑顔が……


僕には見えた。


一瞬の輝きと共に、マガトの身体は弾ける様に飛んだ。


テーブルをひっくり返し、ものすごい勢いで走るマガト。しかしその背中は完全に無防備になり転生者達にとっては良い的になるハズだったが……。


なぜか、誰一人邪魔する事は無かった。



「おや? 一人逃げましたよ。良いのですか?


「よく言う。 囮じゃな? 手を出せばその瞬間、こちらに何かするつもりだったのじゃろう? 」


「フフ。 食えない老人ですね 」


「食えないのはお主の方じゃ。 ヤス、追って仕留めるんじゃ。 今なら大丈夫じゃ 」


ーー


う、おっ、速い! 簡単に壁に出来た穴を抜けた!


マガトは無事倉庫の外へ出ると一旦止まり、辺りをすぐに見回したが……誰もいない。

地面に落ちているのは壁の破片だけ。


……これは!?


破片に紛れて落ちていたのは妖精。檻は壊れているし、妖精は気を失っているようだ。

壊れた檻にそっと手を入れ優しく妖精を掴む。


「可愛い…… 」


手の平で眠る彼女は、小さなサイズながらも凛とした気品と可愛げな顔立ちをしている。とても伝承に聞く神聖な雰囲気や、恐るべき力を持っているようには思えない。


しかし、この妖精は可愛らしくても、恐ろしい転生者だ。


そしてその合わさった価値は計り知れない。



と分かってはいるが……


やっぱり可哀想だ。


転生者が全て悪人とは思えないし、妖精なら尚更だ。話しが出来るか分からないけど、気がついたら逃がしてあげよう。


「ごめんね…… 必ず自由にして上げるから、少し我慢してて…… 」


マガトは妖精を胸のポケットに入れボタンを閉じる。窮屈かも知れないが、あのままでいるよりは、よっぽどいいだろう。


それにしても、父さん達は上手く逃げたのか?

なら取り敢えずエリナさんだ。


最初に僕達が入った穴はすぐに見つかり、中を覗きながら、静かに声を掛ける。


「……エリナさーん…… 」


「…… 」


居ないのか?

考えてみれば、会場の様子を覗いていたんだ。あんな事が起きれば逃げている可能性は高い。それにここに居ない以上、探しようも無い。


不安も残るが時間も無い。最悪、あのローブがあるんだ。ヤグルに戻っていると信じるしかない。


問題は父さん達だ。



……大丈夫だ、落ち着け。 これがある。


再びポーチから出したのは〈運命の赤い糸〉(ズーヘン)。眼鏡を装着したマガトは先ほどと違って慎重かつ素早く歩みを進める。


奴等の仲間がいるかもしれないのだ。油断できない。


ん?

……血の匂い。


近くにある倉庫から漂う匂いは、敏感な僕の鼻を執拗に突いた。 おそらく彼奴転生者に殺られた組織の人達だろうが……まだ生きている人がいるかもしれない。


ドクン。


また手が震える。

一瞬エリナさんの笑顔が頭をかすめた。



まさかここには居ないよね……。


それにしても生きている人がいるなら早く確認すべきなのに……僕の足は歩みを速めない。


情けないけれど……


それが僕って人間なんだ。



倉庫にある大きな扉は開いたままで、夜なのに床が血に濡れているのが分かるほどだった。


「誰か……? マガトです…… 」


倉庫の中を見渡せる入口正面に立つと、そこはバラバラの死体と臓物で彩られた、おぞましい部屋だった。


う、……ひどい。


ろくに直視できずに、すぐにその場を立ち去る。間違いなく顔見知りの人達のハズなのだが、誰がどれか何て分からない。


とても同じ人とは思えなかった。


ハア……ハァ……


これが殺し合い?

……ふざけんな!



父さん、レバさん……


惨劇のショックから気分を悪くし、少しヨタヨタとしながらも、歯を食い縛り壁に身体を預けながら赤い糸を頼りに進む。



ここを曲がって……この倉庫の中?


倉庫街の一角にあるその倉庫は、回りと比べても一回り小さく、扉も開かれたままだ。

隠れるには無用心な所とも思ったが、糸は間違いなくこの中に繋がっていた。


「父さん、レバさん…… 」


「父さん…… 」


「……こっちだ、坊主 」


レバさんの声だ。

良かった……

不安だった僕の心に、不思議と勇気が流れ込んで来る。

さっきまでの、嫌な気持ちはどこえやら……。

人の心はおかしなモノだ。


倉庫の中に入ると、そこには腕を抱えてつらそうなレバさんと、地面に横たわった父さんがいた。

「心配すんな。 痛みで気を失っているが、ちゃんと生きてるよ。 坊主、ポーション持ってねぇか? 」


「あるよ、これでいい? 」


「助かる」


レバは瓶に入ったポーションをひと口飲むと、怪我をした腕にかけた。


「先にすまん。残りはお前の父親に飲ましてやってくれ 」


マガトは半分になったポーションの瓶を受け取ると父親を抱き起こし、口元に瓶を近付ける。


「父さん、しっかり! これ飲んで…… 」


「ん、うう……。 マガト……か? 」


どこか骨折でもしているのか、痛みに顔をしかめながらも、父さんは少しずつポーションを口にしてくれた。


良かった……。


本当に、良かった。







「ねぇ、レバさ…… 」



「おっ? みんなおそろいッスね! 探す手間が省けて良かったッス。」



「そんな……! 」



ガントレットを打ちならし、ヤスと呼ばれた少年は笑った。


「……案内ごくろ~さまッス! 今から全員殺すッスね…… 」







応援よろしくでぇす!

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