その、侵入者。 (2)
足の骨が折れたかも……
昨日アスファルトに少し皿の部分をぶつけただけなんですが、経験した事のない激痛と激しい悪寒、熱も出てます。
ブラックの中間管理職の私は仕事を休む事は出来ません。
これから病院行ってきます。
神よ!
魔法により障壁を張り終えた司会の男は、その出来ばえに満足した後、客席に頭を下げる。
「……失礼。 ですがこの障壁、私の命ある限り皆様を守る事でしょう。 もちろん障壁の外へ出る事は可能ですが、余りオススメ致しません。 侵入者は既に表で待機していた私の部下を殺しているのですから…… 」
「……ざわざわ 」
まだ騒然とした雰囲気の残る会場の中、優雅な雰囲気を崩す事無く余裕を持ってワインを嗜む男女が居た。
「フム。この白ワイン、しっかりと冷やした上でグラスに注ぐ前に十分な空気を含ませてある。ソーヴィニヨンのような香り。 ……詰まるところ、食に対する文化だけは行き着く先は同じなのかもな……」
「ウフフ。 貴方そんなにワインに詳しかった? 笑っちゃうわ 」
「フフ。 敵わないな。 時にフェ…… コホン! 護衛のF君、この障壁をどう見るかね?
」
「そうですね。 このレベルの障壁は私の魔法レベルに匹敵します。 あの司会が守ると言った言葉にウソは無い、かと…… ミスターP 」
「フフ。 しっかり守ってもらいたいものだ。
む! このチーズはチェダーっぽいが……生ハムが無いのが残念だ。 詰めが甘いな……、後で文句を言わねば 」
護衛のFと呼ばれた男。
魔法使いが使用するグレーのローブを身に纏い、同じく杖を握っている。
まだ駆け出しの冒険者の様な若々しさを感じさせる声をしているが、仮面の隙間から覗く瞳には知性が宿り、自信の色が濃く出ている。
そして他の護衛の中で一番若くあるが、主人である男に真っ先に意見を求められた事からも、彼に対する信頼と期待の熱さが伺えた。
その彼の杖がステージ上を指し示す。
「ミスターP、何か面白い余興が始まるようですよーー 」
司会の男はいつの間にか懐から取り出した水晶を台座の上に乗せ、説明を始めていた。
「先ほどいらっしゃった、お呼びで無い客はこちらの魔道具の水晶に閉じ込めております。 こちらは非売品ですが皆様にも中の様子をご覧頂けるように、魔法をお掛けしましょう! 」
『おおーー 表現の神、ティーガよ。今まさにその風景をここへ美しく表現したまえ……』
『写亜亜亜亜風!』
台座の上で水晶が輝きを放ち、半立体映像を大きく空中に投影した。
会場の客達は緊張した様子で眺めていたがーー
そこには見知らぬ空間と雰囲気に戸惑った様子の、5人の侵入者が写し出されていた。
「「おお~! 」」
そして、この闇のオークションに侵入し、襲撃を仕掛ける者にとても見えない感じの集団に、会場は失笑と共に落ち着いた雰囲気を徐々に取り戻していく。
「フム。 老人に子供達…… 不思議な組み合わせですが…… オークションを汚そうとした罪は重い。 皆様、この盗人達こそ愚かな侵入者。
これから、胸のすくようなショーをご覧に入れて差し上げましょう! 」
「「いいぞ! やれ~! 」」
「まずはそうですねーー
ーーーー
薄暗く、何もない空間で呆気に取られた5人は、呆然と佇む。だがカズは我に返り、老人に問い掛けた。
「おいおい、誰も居ないぞ~? どうなってんだ、爺!? 」
「フム…… そうさのぉ~、ワシの経験からすると、これはーー 」
「90%、罠じゃの! 」
「「分かっとるわっ!! しかも100%だろ!! 」」
ここで全員が我に返った……。
「ハァハァ…… まったくこの爺…… ガチでボケてんのか、狙ってんのか分かんねえ…… 」
〈爺〉と呼ばれた老人の答えに残りのメンバー全員が突っ込んだ後、呆れた顔をしている。だが不思議と焦りの色は無く、それぞれが落ち着いた様子だ。
不意にカズが辺りを見回し、寒気がしたように両腕を抱え擦り出す。
「お? 〈ゾクゾク〉してきた。 来るなコリャ。 いいな? 俺が全部殺るからな! 」
「「お好きに~ 」」
今度はカズの張り切りように残りのメンバー全員が手を挙げて呆れた返事を返す。
……ザム
「ゥゥ…… ァァ…… 」
ザムザム。
ザムザムザムザムザムザムザムザム。
「「ウウア……アアァ……」」
どこからか、たくさんの何かがゆっくりと近寄って来る気配……。腐臭を漂わせながらも、そのうめき声は生への執着を感じさせる。
それは……
何十匹というグールの大群だった。
「クク。来た来た! 」
カズの歪んだ笑顔と共に、身体が赤く発光し出し…… ついに肩から火が灯り出す。
「あ、あのバカ! ちょっと待ちなさいよ! みんな早く私の近くに! 」
アカリがカズ以外のメンバーを慌てて集めるとすぐに魔法を唱えた。
『大障壁!』
「キュ~ちゃん、お願い! 」
「……わかった 」
慌てる仲間を気にする事もなく、獲物だけをただ見つめ……
ついにカズの身体は白く燃え上がった。
「くぅ~。 熱いぜ! もっとだ! もっと燃えろ俺の身体!! 」
『精霊火蜥蜴化!!』
スキル発動キーの宣言に伴い、カズは白い炎の塊となってグールの大群に突っ込む。
まるで太陽から宇宙空間に向けて降り注ぐ、一筋のフレアの様に、一直線に炎を撒き散らしながら飛ぶ様は、まさに火と光りの精霊が如し。
「オリャャャャャャ!! 」
地面を埋め尽くす様なグールの海をカズは何度も切り刻み、
……焼き尽くした。




