その暗い瞳。
まさかあんなモノまで……
エリナは驚愕のあまり思考を停止する。 マフィア〈アスコリ〉が〈ヤグル〉を使い大成功を納めているのは知っている。 組織自体も大きく変貌を遂げているのは想像に難しくはない。
だがオークションに用意した賞品は想像の範疇を完全に越えるモノばかりだ。 一体どうやって手に入れーー
……!?
マガトが居ない……。
先程まで壁に張り付き、食い入る様にオークションを覗いていたマガトはもう、隣には居なかった。
しまった。 あの子が魔道具に対して異常な反応を見せていたのは分かっていたのに……。 まさかひょっとして!
エリナは壁の穴をもう一度覗き、会場を見渡した。
ーーーー
僕はもう我慢できない。
マガトは会場内に通じる入口目指し歩く。遠目に見えた入口には、見張りと思える仮面の男が二人立っていた。もちろんマガトの存在に気が付いているはずだが、こっちを見ながら呆れたような素振りを見せているだけだ。
「マガ…… 坊主、ここから先は立ち入り禁止だ 」
「お願い…… 僕はどうしてもこの目で…… 近くで見たいんだ。 頼むよレバさん、ニラさん! 」
名前を呼ばれた事に驚いた様子のレバとニラだが、マガトの真剣な願いに二人は相談を始める。
「参ったな。 あそこで大人しく、覗いてくれてたら良かったのに。 どうするニラ、カシラは見るくらい構わねぇ ……なんて言ってたけど 」
「そうだなあ…… ま、いいんじゃねぇか~、騒ぎ起こされても面倒だし、見るだけだしな。 よし、オレがここ見とくからレバ、お前が連れて行け 」
やったー!
レバさんが白い仮面を僕に手渡して来る。そして受け取ろうとしたが、レバさんは仮面を離さない。
あれ……レバさん、顔が……いや仮面が近いです。
レバさんが仮面越しに僕に凄んでくる。
「坊主、今日は特別なオークションだ。 だから特別に見せてやる。 だがカシラを困らせる真似をしてみろ……ただじゃおかねぇからな 」
「……ハイ 」
恐いなあ、でも遂に見られるんだ。伝説級の魔道具……いや魔道兵器か。
ん?
入口には受付用にテーブルが置いてあるが、その上に〈水晶〉がある。魔道具には違いないだろうが〈水晶〉ほど大きくはない。そしてその水晶には赤い光点がいくつも映っていた。
「これって、魔道具ですよね。この赤いのはひょっとして人間ですか? いや、生命反応か…… 」
「そうだ。これを使って周囲を監視してる。 もちろん坊主の事も分かっていた 」
「やっぱり…… 」
水晶に映る赤い光点の位置関係から、エリナが映っていない事をマガトは確認し、レバに続く。
……なるほど。エリナさんに渡した〈認識阻害のローブ〉があれば映らないのか。 いや、あのローブが能力的に上なのかもしれない。
……実に興味深い。
マガトはすぐに検証したい欲求に駆られたが、グッと我慢する。
今は何と言っても伝説級の魔道具をしっかり見せてもらわなければいけないのだ。
レバさんに案内され廊下を少し進んだあと、重厚な扉の前に着いた。
「坊主、お待ちかねの魔道具が扉の向こう側にあるが、見るだけだ。 大人しくしとけよ 」
レバはさらに念を押すと、その重そうな扉をゆっくりと開いた。
レバとマガトが静かに会場に入ると、警戒した護衛達などの、さりげなく、それでいて鋭い視線が一斉に二人に向いた。 何とも言えない雰囲気にマガトは一瞬蛇に睨まれたカエルの様に硬直してしまうが、すぐに関係者と気が付いたのか、大多数の視線はすぐに四散した。
司会の男はマガトとレバの存在に気が付くと、仮面の下でにこやかに笑い会場全体に向け話し出す。
「……失礼。 君、此方に来たまえ。」
(僕の事だよね…… )
会場の隅でコソコソ見学するつもりだったマガトだが……その命令にも似た指示を断れるはずも無く……
「皆様、大変失礼しました。 ですが彼は我が組織にとって、将来とても重要かつ有望な人間でして…… 失礼を承知で皆様の貴重な御時間を頂きました。 御礼申し上げます 」
(へ!? どういう事? )
そしてマガトは困惑と緊張を胸に、ステージの真ん中にある特等席に座った。
ーーーー
マガト!
エリナは司会の発した言葉に驚愕する。 だが無理もない、〈ヤグル〉で過ごした二年はエリナに十分な情報を与えてくれた。
父親はともかく、マガト自体に関しては〈アスコリ〉と無関係であり、完全に一般人だと確信していたのだ。
それがまさかあの司会は一時とは言え、客より優先するような行動を取り、組織にとって重要だと紹介した。
まったく……
エリナ達は今夜のオークションを最後に〈ヤグル〉での最終調査を終え、アルティーナに帰還し、しかるべき報告をするつもりだったのだが……
……もう少し調べる必要があるようだ。
アルティーナ特務隊、情報技術官のエリナはその暗い瞳で、マガトを見つめていた。
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