その魔道具は、レア!
よし、さりげなく店を出た。
我ながら完璧だ。
そして…… なぜ今晩、闇のオークションが開催されると思ったか。
僕は建物の陰に隠れ、大衆酒場の入口を見張る。
……ほら、出てきた。
父さんだ。
父さんは商売初日の夜に、必ず一人で何処かに出かける。
そして今日もだ。
やがて父さんは店から出て少し歩いた後、 黒服の男と一緒になった。
これで間違いない。 そしてこのまま後を付ければ……
「マ~ガ~ト~! どっか行こうとしてるでしょ!? 」
「……げ! エリナさん!? 」
むぅ…… 何故見つかった?
「いや、あの~…… 」
「ナイショにしとくから、私も付いて行くわね! 」
参ったな……
「なんかドキドキするわね。 デートみたい! 」
……ハァ~。
「……ごめんね、マガト。 本当は、もうすぐ会えなくなると思ったら寂しくなっちゃって…… 」
「私、帰るね…… 」
ん~…… 父さんのコネもあるし、いざとなれば大丈夫か……。
「いいよ、デート…… 」
「え? 」
「でも、みんなには内緒だよ 」
僕は思いきって闇のオークションの事を話す。
するとエリナさんも一緒に行って見てみたいと言ってくれた。
よし、そうと決まれば……まずは変装だ。
「これを身に付けて 」
エリナさんに渡したのは〈認識阻害〉の魔法効果がある、黒のローブ。 本当は僕が着るつもりだったが、仕方ないよね。
次にマジックポーチから普通の黒のローブを出して自分が羽織った。
……だってもう無いんだもん。
父さん達は見失ったが、それも大丈夫だ。 父さんのレア魔道具の一つである〈運命の赤い糸〉を使う。
これは眼鏡タイプの魔道具で対象者を覗きながらロックすると、半径1キロ以内であれば、眼鏡ごしに赤い糸が対象者との間に浮かび上がるシロモノだ。
追跡にもってこいである。
眼鏡を掛けた僕はあらかじめロックしておいた〈赤い糸〉を頼りに歩き出す。
「じゃ、行こっか! 」
そしてデートと言うにはおかしいが、僕達は手を繋いで歩いた。
……やがて人気のない港の隅にある大きな倉庫区画にたどり着く。 だがやはり人の気配を微かに感じる。 ここいらで間違いないだろう。
「……エリナさん、ちょっと見て来ます。 ここで待ってて下さい 」
「え!? こんな所にか弱いレディーー 」
僕はエリナさんのグチを聞き終える前に素早く走り出した。
路地の角を2つほど曲がった先の大きな倉庫に向けて、赤い糸は伸びている。
周囲に見張りはいない。
まあ……居たらおかしいか。 ここで怪しい事してますよって、教える様なものだ。
僕は慎重に倉庫の壁に近づくと、次のレア魔道具を取り出す。
〈理力の腕輪〉だ。
僕の腕に装備された腕輪は、魔力を筋力に変換する効果を持っていて、こういった事が出来る。
ギギ……
壁の継ぎ目に指を引っ掻け、強引かつ慎重に金属の壁板を剥がす。
人一人がしゃがんで通れるくらいの穴が出来た。
良し、このくらいでいいだろう。
手早く用を済ませ、腕輪をしまい込む。
え? 「しとけばいいのに 」だって? オホン! こういった常時能力発動系は装備してるだけで待機魔力を消費してしまう。
魔力が少ない僕なんかはもしもの時の為に、魔力の節約が必要なのさ。
さて、エリナさんはちゃんと大人しく待っててくれてるだろうか?
少し心配しながらも、先程までいた場所まで急いで戻って来た。
あら……?
エリナさんの姿が無い。
「エリナさん~…… 」
「エ~リ~ナ…… うわっ! 」
何もなかった目の前に、エリナさんの生首が急に出てきた。
……そうだった。 あのローブ着てたんだった。
エリナさんはローブのフードを脱ぎ、首だけ出しているという事か…… なるほど、さっきは手を繋いでいたから効果がキャンセル状態だったんだな。
「ちょっとマガト! いきなり酷いじゃない 」
「ごめんね。 エリナさんを危険な目に遭わせたらダメだと思って…… 」
「む、むむ! そう言う事なら許してあげるわ。 でも今度からは置いてきぼり禁止だから! 」
「へへー。 ありがとうございます! 」
「「フフッ…… アハハハ! 」」
闇のオークション会場を、初めてのデートコースにした二人は、
楽しそうに笑い合っていた。




