その客、道具屋に現れる
この受け継ぐ者編は、ガヤの街編より更に前の話になります。
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ついに〈モリザ〉が見えた。
昨夜辺り倉庫を覗きに行こうと思ったが、結局睡魔には勝てず寝てしまっていた。
船の中が慌ただしい。
いつもの事だが、これから商売と言う名の戦争が始まるのだ。みんな準備に抜かりは無さそうだ。
……いや、一人いた。
「父さん! もうすぐ〈モリザ〉に到着だよ! 早く起きてよ! 」
「ぐ、ぐぅ…… 」
……絶対わざとだ。
僕は結局いつもの様に、商品をリュックに詰め込み始めた。
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〈モリザ〉の港に巨大な特設ブースが設けられ、所狭しと店舗用の仮設テントが並んでいた。
全て〈ヤグル〉に乗り込んでいる者達が準備し、さながら〈何でも市場〉の装いになっている。
既に近くには噂を聞き付けた人々が、長い行列を作って待っていた。
〈ヤグル〉は到着する主要な港に対して一月前には告知を必ず行う。
その通信手段こそ、父さんが見出だした古代通信魔道具の〈水晶〉だ。
父さんが若い頃に遺跡を探索した冒険者から買い取った物で、それを〈ヤグル〉の持ち主であるマフィアのボスに売りつけたらしい。
そして、世界の主要都市10ヵ所に配置された〈水晶〉は〈ヤグル〉にある〈水晶〉と文字のやり取りで通信可能となっている為、効率良く色々と商売に利用する事が出来た。
結果、商船〈ヤグル〉は大もうけし、今に至る。
お陰で父さんと僕はタダで船に乗り放題、商売し放題……と言う訳だ。
……さて、今日こそは何か売らなきゃ!
ついに〈市場〉にて販売が開始された。
客はごった返し、飛ぶように物が売れていく。 港に作られた仮設市場では戦争でも起きている様だ。
そして、僕達親子のテントの前には……
誰も居なかった。
「ハァ~。 今日もダメか~ 」
原因はやっぱりアレかなぁ?
隣では父さんが客引の為の声を張り上げていた。
「イラッシャイイラッシャイ! 道具が安いよ! 魔道具に普通の道具、ちょっとHな道具もあるよぉ! 」
ああ、こっちまで恥ずかしくなって来た……。
もう夕方になり陽が沈む。
日没になると仕事は終わりだ。
「まだやっておるかな? 」
そこに現れたのは初老の男性。
白髪頭を後で束ね、ボロボロのローブから片手を出して挨拶して来た。
「あ、もう終わりなんですけど、少しならいいですよ 」
参ったな、父さんはどっか行っちゃったし……
その初老の男性は真剣なまなざしで道具を見つめる。
「鑑定書付とは珍しい。 店のご主人はよもや〈鑑定〉が出来るのかな? 」
「いえ、父さんは〈鑑定〉は出来ません。 出来るのは〈目利き〉ですが、知合いに〈鑑定士〉がいるらしくて…… 」
こういった質問をされるのは珍しくはない。
〈鑑定〉スキルを持つ人間は非常に少ないらしく、引く手あまたになるらしいがトラブルも多く、死んだ祖父さんが秘密にしろと言っていたらしい。
「ほう……〈目利き〉と。 それにしても全て素晴らしい品揃えだな ……おっと、長居してすまんな。 ありがとう 」
そう言うと、初老の男は人混みの中へ消えていった。
ーーーー
「父さん、今日閉まいがけに変わった事を言うお客さんが来てたよ 」
〈モリザ〉にある大衆酒場では〈ヤグル〉で商売する人達が店を貸し切り、宴会を開いている。
商売の初日は景気を付ける為にマフィアのボスが必ず全員にご馳走してくれていた。
「ほう、どんな事だ? 」
父さんは好物の骨付き肉をかじりながら、興味無さそうに聞き返す。
「ウチの商品見て、全て素晴らしいだって。 変わってるよね 」
ピク!
「なにぃ? 全てだと!? フフ……アルティーナには見る目がある奴がいると見えるな…… ガハハ! 」
父さんは上機嫌だ。
さて……
そろそろ行きますか。
僕は父さんに、先に船に帰ると伝えると店を出た。
いつもなら最後まで店にいるか、ちゃんと船に帰るのだが……今日こそは行く所がある。
僕の予想ではおそらく今晩、闇のオークションがある筈だ。
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