その名はマガト。
新章『受け継ぐ者』編、開始です!
海は好きだ。
暖かい日差しの中、風の恵みを受け、商船〈ヤグル〉は順調な航海を続けている。
一年中世界を巡りながら、様々な人や物資を載せ商売を続けるこの〈ヤグル〉は商船にしては巨大で、軍船にも劣らない航海能力と装備を有していた。
「マガト、こんな所に居たのか。 交代の時間だ 」
「分かったよ、父さん 」
僕の先祖は代々商売を営んでおり、僕達親子も何時の頃からかこの船に乗り、商売をして生活していた。
父は道具屋で、世界中から珍しい物を仕入れてはおもに貴族相手に商売をしている。
他の人から見てガラクタに見える様なモノでも、父は固有スキル〈鑑定〉によって価値ある商品を見い出す。他に取り柄のない父には命よりも大事で秘密の〈武器〉だった。
僕は背伸びして潮風を吸い込んだ後、船内の奥へ通じる階段を降りていく。
この船は商売をしている人が沢山いて、みんなが〈商品〉をこの船に積んでいる。保管場所は船内にあるそれぞれの倉庫に割り当てられており、厳重に鍵と〈鍵魔法〉が掛けられているが、念のため交代で見張り、見回りをする事になっていた。
「遅いわよ、マガト! 」
「ごめんなさい、エヘヘ…… 」
この上から目線の綺麗なお姉さんは、名前をエリナさん。
薬師をやっていて僕と同じ様に親子で世界を回りながら商売してるらしい。
僕より3つも年上だから上から目線は当たり前なんだろうけど、何かと世話を焼きたがって来るから少し怖いんですけど……
「いい? まずは見回りからよ! 」
「は~い 」
分かってるんだけどな……
……何で手を繋ぐんですか?
〈ヤグル〉は次の目的地、アルティーナ王国へ向かう。 港がある所と言えば〈湾岸都市ミズリ〉が有名だが、行き先はミズリではなく……大陸の東に位置する〈モリザ〉と言う港町だ。
近年ミズリがどんどん発展していくにつれ、徐々にさびれつつあるモリザだが、海で獲れる上質な海産物と闇の貿易を利用する人達に助けられ、今尚大きな賑わいを見せていた。
「いい、マガト! 此処から先はちょっと恐い人達が居るけど……私がいるから大丈夫! 」
此処から先は重要な〈品物〉が置かれている……と父が言っていた。
まあつまり、おおやけに出来ないモノが保管されてるんだろう。幾つもある扉の前にはこわもての方々が陣取っている。
もちろん長い航海のせいで既に顔見知りな訳だが……
ちょっとエリナさん……
手が震えてますけど……
……いい加減馴れたらどうですか?
「おお、坊主! 見回りご苦労さん 」
「いえいえ、こちらこそお疲れ様です 」
「こ、ここここ……コン、ニチワ! 」
ーーエリナさんの言語能力が低下中である。
……大丈夫か?
まあ、相手はズバリ〈マフィア〉だからエリナさんが恐がるのも分かる。
だけど中身はただの人間。
みんないい人達に見えた。
「いい? マガトはあんまり喋っちゃダメよ! あなたはまだ子供なんだから
」
「え? ……うん分かったよ 」
もう今年で15なんだけど……まあいっか……
それにしても、いつも気になる。 あの扉の向こうには何があるのか?
ちなみに昼間に荷物の積み降ろしなどは一切していない。夜はこの倉庫区画自体が立ち入り禁止になるのだか……
今度覗いて見ても面白そうだ。
見回りを終えた僕らは、倉庫区画の入口で見張りの人と交代した。これから3時間ほどエリナと二人でここで過ごすのだが……
「マガト! お弁当作って来たわよ。 お腹すいてるでしょ? 」
「え? ああ! ありがとう 」
「どう? 美味しい? ……フフ、良かった 」
「はい! アーン! 」
恥ずかしいなぁ、もう……
ほら、通りすがりの人が笑ってるよ……
そう思いながらも僕はされるがままだ。 こんな内気な性格のせいか、断る事が出来ない。
……どうせ見た目も子供っぽいよ。
「ーーマガトのとこはいつまで〈ヤグル〉に居るの? 」
「分かんないよ。 父さん次第だし…… 」
「ふうん……。 私の親、〈モリザ〉でひと稼ぎしたらミズリで降りよっかって言ってて…… 」
「マガトのとこはミズリで降りない? 」
「え? ん~、たぶん降りないと思うけど 」
「……そうなんだ 」
え? なにこれ…… すごい気に入れられちゃったな……
「お疲れ様です。 交代に来ました 」
エレナさんは淋しそうにしていたが、僕は内心ホッとしていた。
え? だってどうしていいか分かんないし。 一人で居るほうが気楽だし……
エリナさんに別れの挨拶を済ませて、部屋に戻る。
父さんと二人部屋だが、中は所狭しとガラクタで一杯だ。父さんは「売れるから! 絶対売れるから! 〈鑑定〉もしてるし! 」なんて言っているが、ついに〈売れ残り〉は部屋を占領するようになってきた。
あ~。 明日には〈モリザ〉か……
部屋が少しでも片付くといいな……
応援よろしくです。




