それぞれの道。
湾岸都市ミズリにある高級住宅区域。
そこは平民でありながら、商売に成功した者や高ランクの冒険者などが、住まうエリアとして知られている。
大小様々な建物や屋敷が並んでいるが、どれをとっても上品かつ清潔に造られており、その場所に住まう人達も一定の余裕を感じさせる。
そんな住宅街を、3人の女のコ達が帰宅する為に歩いていた。
「……でね、うちのパパが怒った顔して言うの。 あんなヒョロイ男はイカン!
……なんてね! アハハ! 」
それぞれが同じ制服を着ており、胸についた校章からミズリ聖女子学園の生徒である事が分かる。
学園と自宅までを馬車を使って通学する事を認められているのは貴族だけなので、この3人は平民という事が分かる。
この学園は貴族、又は裕福な平民の子供が通う所ではあるが、最初からある一定の体力、学力、教養などが必要とされ、試験によって選抜されていた。
その為、この学園に通う子供は名実共に〈セレブチルドレン〉であり、ミズリに住む人達にとって憧れの的となっている。
「ティア。 どうしたの? さっきから、そわそわして…… 」
「え? ああ、何でもないよ 」
「あ、分かった! 今日、誕生日だから落ち着かないんでしょ? わかるわかる。 私もそうだった。
どこからか素敵な貴族の殿方が、薔薇の花束を片手にーー 」
「もう、違うったら! 」
「あー、怒ったティアも可愛いねぇ~。 ククク! 」
その後3人は、はしゃぎながらもそれぞれの帰り道に別れた。
「そわそわしてたかな……? 気を付けなきゃ 」
ティアは浮わついた心を押さえようと、自分に言い聞かせる様に呟いた。
確かに今日は誕生日である。それ事態はティアにとってさしたる事ではないのだが、もしかしたら、いやきっと両親が帰って来るのではと思っていた。
いつも忙しい両親は、めったに家に居ない。
だが思い返せば誕生日の日には必ずそばに居てくれたのだ。
今年もきっと……
もしかしたら、もう屋敷に帰っているのではと心が弾んでしまう。
あの角を曲がれば屋敷が見える。
……そして曲がった先の屋敷の前に見慣れない大きな馬車が止まっていた。
「……あ! 」
ティアは足早に屋敷に入る。
「ただいま~! 」
「お帰りなさいませ。ティア様 」
「う…… 」
メイド長のマーサは長年アストレイ家に仕えてくれている、とても真面目でちょっと怖いオバサンだ。
いろいろと礼儀作法や勉強など、私の家庭教師も兼ねているのだが、最近ちょっと苦手……。
私が幼い頃はスゴく優しかったのにな……。
帰って来るなり、今日もあれこれ言われると思っていたのだが、私の誕生日のせいか何も言わない。
「おねぇ~ちゃん! 」
「アリア、ーおかえりなさいー でしょ! 」
「あ! おかえりなしゃ~い! 」
「もう…… 」
……あれ?
いつもならマーサがすぐに注意してる筈なのに……やっばり変だ。
「ティア様、アリア様。 ……こちらに。
御主人様と奥様がお客様とお待ちしております。 ……どうか、 」
「お気を強く…… 」
……ドクン
え?
私には何の事か分からない。
何故、マーサが最後にあんな事を言ったのか。
マーサに尋ねようとしたが、すでに応接間の扉に手を掛け部屋に入るよう促された。
……ドクン
やめて、アリア……
「はやくぅ~ 」
アリアが私の手を力強く引いた。
そして私は簡単に部屋に入ってしまった。
ドクン!
応接間にあった立派なソファーとテーブルは片付けられ、芸術品とも言える広い絨毯の上には白い布で被せられた、2つの何か……
そん……なーー
その近くで立ったままの〈お客様〉は二人居て、一人は顔の下を布で、もう一人は逆に顔の上半分を無骨な仮面で覆っていた。
目線を下に向け、神妙な面持ちの二人は、見た事がある。
すぐに両親を護衛していた冒険者だと分かった。
ドクンドクン!
……いやだ
あ、 ……ダメよ、アリア。
その……
その布を取ってしまっては……
「あ~! やっばりパパとママ! みぃ~つけた! 」
私は……
……どう
……して?
ーーティアは両親の顔をペタペタと触るアリアをそのままに、護衛の冒険者に詰め寄る。
そのまま仮面の冒険者の胸を、うつ向いたまま両手で力いっぱい掴んだ。
「どうして……! 」
「……どうして、守ってくれなかったの? 」
懇願するかのようなティアの言葉に、仮面の冒険者は何か言おうとしたが、隣の仲間に諭される。
「あ…… あぐっ…… 」
ティアの瞳から大粒の涙が溢れ、学園でもトップと噂される可愛い顔は、
……もう、ぐしゃぐしゃだった。
ティアは更に言葉を続けるが……
「お…… おど~しゃんと、おがあしゃん…… 」
「う……」
「ひ……ひんじゃったじゃなぃ!! 」
「……えぐ」
「うわああああ~ん!! 」
その場で泣き崩れるティアは、
……もう、まともに喋る事は出来なかった。
ーーーー
冒険者の二人は屋敷から出ると、馬車に乗り込む。
仮面の冒険者は思う。
あんなに憧れた、都会のミズリの景色は何もかも色あせて見える。
あの少女は大切な人を失った。
これからも一生苦しむだろう。
だがミズリの街並を行き交う大勢の人達。
何も変わらず、何も知らず、生きている事を当たり前に生活して……
「グッ……! 」
仮面の下から涙が流れる。
いったいどれ程の人達が犠牲となったのか。
ジルー
ラウル
ビル
守備隊の仲間
グリフォスのメンバー
冒険者達
親父
ケビン
……エミー
やがて馬車は、二人の待ち人の前に止まった。
車椅子に乗っている帽子を深く被った女性を、後ろの少女が押している。
車椅子の女性が、馬車を降りた二人の冒険者に労いの言葉を掛けた。
「ご苦労様でした 」
「オリビアさん…… あれで本当に良かったんですか? 」
仮面の冒険者が尋ねるも、オリビアは優しい目で静かに答える。
「あの子達の命を守るには、この方がいいわ……。 〈ブル〉と〈マーサ〉に後は頼んであるから……」
オレは何も言えなかった……
「……シャリー、代わるよ。 馬車に車椅子を積まなきゃ 」
「……手伝おう」
マッドと二人で車椅子を詰め込む。
ーーーー
あの戦いの後、最初の砲撃で負傷していたマッドが屋敷に来てくれた。
死んでしまった、エミーとケビンさんはそのままになってしまったけど……
エミーのお面は落ちていたのをマッドが拾ってくれていた。
オレとオリビアさんは、マッドとシャリーに助けられ、地下通路に逃げ込み、飛空挺の大爆発に巻き込まれずに済んだんだ。
なぜかゴブリン達は街を蹂躙した後、1匹も居なくなっていた。
そして幻想騎士団の監視を欺くため、表向きは〈グリフォス〉は解散し、アストレイ夫妻は死亡した事になっている。二人の死体も精巧にに作られたダミーに、幻術の魔法を掛けていた。
もちろん俺とシャリーの生存も秘密だ。
ティアとアリアはほとぼりが冷めるまで、陰から仲間が見守るらしい。無事で居てくれればいいんだが……
オレ達はこれから船に乗り込み、魔道都市ハルシオンに向かう。
魔道工学の優れた所らしいから、パオロのおっさんに何か出来るかもしれないらしい。
何が出来るのか知らないけれど……でも、
ここは……異世界だから信じたい。
ガヤの街編は以上で完結です。
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