ヒロイン登場も甘くない。
(おお……)
その外壁のスケールに颯汰は、圧倒されていた。
高さ30メートルほどの巨大な石づくりの壁は、いびつな曲線を描きながら、何処までも続いている様に見える。
初めての海外旅行で興奮している一般人の様に、颯汰は、ペタペタと壁を触っていた。
(プッ。このじじい、……あたま大丈夫か⁉)
【陽炎】のメンバーは、あきれた様子で笑っている。ジョーが、こらえきれずに声を掛けた。
「ダッハッハッ! 爺さん、そんなんで驚いていたら、街入って腰抜かすぜ!」
そんな中、副団長のロイだけは、真剣に蒼汰を見ている。
やがて門番との手続きが終わり、一同は、ゆっくりと巨大な門をくぐり抜け始めた。
「……う!」
一瞬ピリッとした感覚を颯汰は、感じ取る。
(なんだ? この感覚……)
やがてミズリでもっとも有名な名所である、【女神の噴水広場】を通りかかる。
「すごい!」
思わず声を上げた颯汰の前には、女神をモデルにした巨大な石像と噴水の公園、そしてその奥に広がる美しい街並み。
計画的に設計された大通りには、人が溢れ、騒がしくも生活の営みが確かに息づいていた。
そんな街並みの……とある屋根の上。
大通りを進む一向の馬車を見つめる者がいた。
スラッとした容姿に整った顔立ち。少女とも女性とも言えない年頃の彼女は、ポニーテールに結んでいる紅い髪を風になびかせながら、一点を見つめている。
「……フン!」
不機嫌そうに見える彼女は、馬車から身を乗りだして騒いでいる老人を見て、いっそう不機嫌に目を細めると、何処ともなく姿を消していた。
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ミズリの冒険者ギルドは、3階建ての巨大な建物だ。冒険者用の宿泊施設に食堂、夜に酒場も利用できる。そんなギルドは、今日も賑わいを見せている。
そのギルドのある部屋の中、Sランク【陽炎】のメンバーに囲まれた颯汰は、1つのピンチを迎えていた……。