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ゴブリン侵攻。

「みんな聞け! これより女子供を中心に、避難を開始する。 北門にありったけの馬車を集めよ! 住民にも協力させるんだ 」


会議室を出たポーロは、部下の兵士達に次々と指示を送りながら南門近くにある物見やぐらに到着する。


「どうだ!? 何かみえるか? 」


「ハッ! まだ何もみえません! 」


ポーロは自ら高さ5メートル程のやぐらに登り、遠くまで見渡す。月明かりのお陰でわりと見通しは良く、広がる農耕地帯は外周を含め、いつも通りの静かな風景だった。


「聞け! ポーロである! もうしばらくすればゴブリンの大軍がこの街に押し寄せ、街は飲み込まれるだろう……だが! 俺達の家族は、避難を開始した!

ここで時間を稼ぐ事が必ず家族の命に繋がる! 1匹でも多くゴブリン達を殺し、愛する家族の生還に繋げよ! 」


「「オオー!! 」」


良し、士気は高まった。 後は……


「かがり火を増やせ! 遠慮はするな! 」


これで兵士の数が、多く見えるだろう。多少躊躇してくれれば時間を稼げる。

次は視界の確保か……仕方あるまい。


「外の民家に火矢を放て。」


兵士達に寄って射掛けられた周辺の木造民家は、その壁を焦がしながら、少しずつ炎の勢いを増していく。そして新たに広がる視界の中に……ゴブリンの姿を見た。


「……!? いたぞ! ゴ、ゴブリンだ! 」


民家の陰に隠れながら近づいていたゴブリンは、突然燃えだした家に驚いた様子で、あちこちに走り出した。


「くそ! こっちにもいやがる! 」


「落ち着け! 数が少ない、鐘を鳴らすんだ! 矢はまだ射つな! 」



カーン! カーン!


物見やぐらに取り付けてある鐘が鳴り響く。魔物襲来の合図だ。



ついに来たか……しかし、こいつらは先行したゴブリンなのか?


物見やぐらから身を乗り出し目を凝らすと、死角になっていた建物や木の陰、草の陰からわらわらと出て来る気配を感じる。


む! 来たな、じわじわと……辺り一面ゴブリンだ。


「来たぞ、ゴブリンの大軍だ! 火矢を準備しろ、合図を待て! 」


ハッキリと見える様になったゴブリン達は身体に皮の鎧を纏い、槍や剣を手にしている。

それが目に入った瞬間ポーロは血が沸き立ち出す。ゴブリンが使っている武具は守備隊の兵士が装備している物と同じで、こちらと違う事と言えば血痕が付着している事だ。


(討伐隊の仲間から奪うとは……ゲスめ! )


「……なに!?」


やがて鎧を纏ったゴブリン達数百匹が一歩前に進み、横に並んだ。規律など無縁かと思っていたゴブリンの行動にポーロは驚きを隠せない。


そして更に、白銀の鎧を着たホブゴブリンが前に出た。


「ギ、ギ、絶望セヨ! 人間ドモ 」


そのホブゴブリンは仲間からボールの様な物を受け取ると、街目掛けて投げ込んだ。


ドン!


鈍い音を立てて、塀の内側に落ちた物を見て兵士が驚く。


「あ、ああ……ラウル隊長! 」


つい最近まで高い人望と勇猛な戦いぶりで、守備隊を率いていた男は首だけとなり、なぶり殺しされたのか、顔の半分は損傷が激しい。

だが、その横顔は間違いなくラウルのものだった。


ドン!


ドドン!


「グキャ! マダマダ有ルゾ! 」


次々に舞い落ちる、残酷な生首。

兵士達はそれを手に取っては、顔を確認し仲間の名前を叫び出した。


「うぁ! マイケル! 」


「何て事だ、こっちはジャクソンだ! 」


動揺する守備隊の様子を見て、満足げに笑ったホブゴブリンの〈ゴブリンナイト〉は魔法のメイスを掲げ、突撃の合図を出す。すると前に並んでいた鎧を纏ったゴブリンだけが突撃を開始した。



「グ! ググッ! 」


一方のポーロは悔しさの余り、噛み締めた唇から血がにじみ出していたが、ゴブリンの進軍を確認すると憎しみを込めて、発狂する様に叫んだ。


「弓構えぇぇい! ……てぇぇぇぇ!」


内壁に陣取る、兵士達から一斉に火矢が飛ぶ! 訓練の成果なのか、矢の狙いは間近まで迫ったゴブリンを完全に捉えていた。


……が、


カン! ……カン!カン!


カン高い音があちこちから聞こえてくる。

驚く事に、ゴブリン達は素早く盾を構え、矢をことごとく防いでいた。


「ぐっ、ぎぎ! 」


またしてもポーロは地団駄を踏んで悔しがったが、すでにゴブリン達は内壁に取り付き始めている。後で待機していた別のゴブリン達も、こちらを目指して動き出した。


もう2射目を射つ、時間的余裕は無い。


「白兵戦だ! 」


ポーロは自ら剣を抜き、高らかに声を上げる。

また、兵士達もそれに応え、それぞれが武器を手にした。



ーーーー



ケビンは仲間の冒険者と分かれ、パオロのいる屋敷に向かって走り出す。最早一刻の猶予もない、ゴブリン達は間近まで迫っているのだ。


(これか!? )


屋敷に続く道は暴徒化した人達によってごった返していた。それぞれが冷静さを完全に失い、目は血走って、口々に何か叫んでいる。


「く、これ程とは! すまない、通してくれ! 」


ケビンは人混みをかき分け、強引に進む。


「北門から避難用の馬車が出るぞ! 女子供から先に急げ! 」


少しでも人混みを減らそうと大声を出すが、興奮した住民達の耳には届きそうにも無い。この暴徒化した人達には飛空挺に乗ろうと、年寄りや子供も混ざっている。強引ながらも慎重に進まなければ怪我をさせてしまうだろう。


「すまん、通るぞ! 」


もう少しで人混みを抜け、アルティーナ兵にたどり着こうとしたその時、親とはぐれたのか、地面にうずくまり泣いている子供がいるのに気が付く。ほおっておけないと、思わずケビンは手を伸ばした。


「おい、嬢ちゃん大丈夫か?」


幼い女の子は、ケビンの手を掴みながらも泣き止む様子は無い。


参ったな……


ケビンが女の子を抱き抱え、辺りを見回した時だった。


ガシャン!


パリン!


奥に見える屋敷の窓ガラスが割れている様だ。その音は次第に増えていき、興奮が頂点に達した住民達はアルティーナ兵達を数の暴力で踏み倒し、屋敷へ殺到する。


「なんてこった……」


更に炎に包まれ出した屋敷の光に、頬を染めながらケビンはどうする事も出来ずに屋敷を眺めるだけだった。





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