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初めての敗走。(3)

ドドッ! ドドッ!


マッドは必死に馬車を走らせる。


その顔はまるで悪夢にうなされた男が、まだ正気に戻れていないかの様だ。



既に森は遥か後方に微かに見えるだけで、残った兵士達がどうなったかを知る由もない。ただ、最後に聞こえた爆発音……何らかの魔法に依るもので間違いないだろう。

あの弓使いのゴブリンか……それともまた別の奴か。何よりまずいのはダイアウルフがゴブリンと共闘していた様に見えた事だ。通常ゴブリンより圧倒的に強く種族の違うダイアウルフが、協力し合う筈は無い。


(ゴブリンごときが、ダイアウルフ達を支配するなどと……考えただけで悪夢だ! )


マッドは事の成り行きを、整理して考える。


初めて見る形の遺跡から始まり、多数の上位種の存在。

ここまでは、まだいい。

見張りのゴブリンの少なさから見ても、フェルナンドが立てた策は悪くなかった様に思う。


それがたった一匹のゴブリンに全てをひっくり返されてしまった。

〈新種〉としか考えられない、スキル持ちの巨大ゴブリンと人間の様な体型をした弓使い。

更に遺跡から持ち出したであろう強力な魔法の武具を装備し、見事使いこなしている。

そしてダイアウルフの存在だ。最早、国難として早急に対処しなければ、死人の数は止まる事は無いだろう。


……しかし、奇妙な遺跡を発見した日にはパオロ様に連絡が行ったはずだが?あの方に限って何もしないなどと……分からん。



「ふぅ…… ここまで来れば、まずは大丈夫か…… 」


マッドは馬車を引く馬の手綱を、成り行きで同乗した兵士に任せる。



「マジックポーションは積んでいるか?」


「後ろの小箱に確か…… 」


「了解した。ひとつ貰う 」


マッドは荷台に移動し、横になっているカールにマジックポーションを飲ませるため小箱を開く。



「マッド…… 」


「気が付いたか。マジックポーションを飲め。楽になる…… 」


カールは身体を起こす事もつらそうな為に、抱き起こしながら飲むのを手伝ってやる。初めての魔力切れだろう、無理もない。


「……ビルは……皆はどうなった? 」



「生き残ったのは……俺達だけだ」


「ビルは…… 立派だった」



「…… 」


カールは何も喋る事なく、再び横になる。マッドに背を向けたままのその背中は、小刻みに震えている。思わず昔の自分を見ている様に感じたマッドは目を背けた……。


(今は、泣けばいい…… )


Bクラスの〈探索士〉(リチェルカー)であるマッドは、今でこそ【グリフォス】で良くしてもらっているが、パオロにスカウトされるまでは酷い生活を送っていた。


貧しい家庭で生まれ育ったマッドは、家族の食いぶちを減らす為に若くして冒険者となった。元々器用な事もあったが飽き性で、色んな〈職業〉を転々とする。

〈ポーター〉から〈剣士〉、〈魔術士〉は見習い程度。才能が無いと諦めては傭兵稼業に手を出して、戦争に参加し、〈救命兵士〉(ソルダ・ドットーレ)〈暗殺者〉(アサシン)の真似事をしたり……


だが、そんな馬鹿でガキだった俺を、いつも誰かが可愛がってくれた。

その有り難みはいつだって、その人が居なくなってから感じるもんだ……。



「ん⁉ ……あれは何だ? マッドさん! あれは⁉ 」


「む…… 」


いつの間にか辺りは薄暗くなり、そろそろガヤの街が見える距離に差し掛かった頃、街の上空で浮かんでいるなにか(・・・)が見える。嫌な予感を感じつつもマッドは冷静に答える。


「……馬車を止めてくれ」


馬車の外へ出たマッドは腰のポーチから、小さな望遠鏡を取り出し目に当てる。人差指ほどの長さのそれは、やはりパオロ製の魔道具で、付与された魔法により夜間の使用も問題無く行う事が出来る。



「あれは、飛空挺…… 」


望遠鏡から見える空飛ぶ船は、街の中心部上空で停泊していた。


そしてその白い船体に掲げられた旗には、アルティーナ王国の紋章が、



赤く描かれていた……。



ぽちぽち宜しくです。

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