初めての敗走。(2)
兵士達は訓練通り素早い連携を見せ、見事カールを基地に運び込む。
続いてマッドが転がる様に森から出てきた。慌てて兵士達が駆け寄るが、這いつくばったマッドは制止の声を掛けた。
「待て! ……まだゴブリンが! ……⁉ 」
ヒュン!ヒュン!
「……ぐぁ! 」 「ぎゃあ! 」
駆け付ける兵士の胸に、次々と矢が刺さり出す。
「ちっ! 」
マッドは立ちあがり、矢を弾きながら後退する。そして周囲の兵士に大声で叫んだ。
「討伐は失敗した! 退却しろ! 全員死んだぞ! 」
兵士達は矢を警戒しながらもマッドの言葉に驚きを隠せない。
見知った仲間達があれだけの人数で、森へ入ったにも関わらず、生き残りがたった2名などと、そんな事があるのか⁉
だが現に、ここは強襲されている。
基地を任された兵士長は馬上で悩む。姿を見せないゴブリンの弓手は弓の攻撃頻度から見て4匹か、多くても5匹。随伴者は倍程度か。
対してこちらは、50名がこの基地に配置されている。
ならば目の前のゴブリンを排除し、採取広場の仲間の安否を確認してからでも撤退は出来るのではないか?……と。
(……攻撃が止んだ?)
そしてそのゴブリンは、森から姿を現す。
(なっ⁉ 一匹だけ? )
森から出てきたその魔物は、ゴブリンにしてはスタイルが良く、異様な模様のある革製の胸当てに小手、膝まで一体性のあるブーツをはいている。
「取り囲め! 伏兵に気をつけろ! 」
森の木々がざわめく事は無く、魔物の気配は感じられない。
兵士達はやや、異様な相手に緊張した様子を見せるものの、目の前のゴブリンを仕留めようとやる気に満ちている。
後ろの方ではマッドがカールを急ぎ馬車に乗せているが、一見有利に見えるこの状況にやはり、まだ森にいるかもしれない仲間と荷物を捨てて撤退するなど、合点がいかなかった。
兵士達は盾を前に構え、ジリジリとその距離を縮めていく。如何な弓の達人であろうと、この状況では何も出来るハズがない。先ずはあの奇妙なゴブリンを殺して、マッドから詳しく話を聞かねば……
「良し! かか……れ……⁉」
兵士長の号令が掛かる瞬間、森から幾つもの何かが飛び出して来る。
「ぐえ⁉」 「ぎゃあ!」
その茶色の毛並みをした大きな魔物は物凄い勢いで、弓ゴブリンの頭上を背後から飛び越え、兵士達の上に次々と覆い被さった。
「な、なな……⁉」
次々と現れる狼の魔物は、その鋭い牙で兵士達の喉笛を咬みちぎり、口回りを赤く汚した後、威嚇する様に唸り声を上げる。
「ダイア……ウルフ! ぐぅ⁉」
首に刺さった矢を血に濡れた手で掴みながら、驚く兵士長は馬から落ちた。
「嘘だろ…… 」
後方に待機していたゴンザレスは、基地全体を飲み込もうとする大きな狼の群れと、脅威的速さで矢を連射するゴブリンを遠目に、激しく後悔していた。
(さっきの馬車に乗っていれば……⁉)
ゴンザレスは身構えたままの仲間達を尻目に、近くに繋がれていた馬に飛び乗る。
手綱を引き、腹を蹴ると馬は恐怖から逃げる様に駆け出した。
(よし! いい子だ。)
大弓を持った異様なゴブリンは、ゆったりと矢をつがえる。
ゴブリンの精神集中と供に、革製の装備品に描かれた模様が怪しく光り出し、その異様な模様を一層浮き出させる。また、引き絞る弓も同様に発光を始め、全て魔法の武具である事を証明していた。
そして矢の矢じりが光った瞬間……流星の如く矢は発射された。
凄まじいスピードと光の残照を残しながら、一旦あらぬ大空へと舞った光の矢は途中急激な弧を描き、目視すら難しくなったゴンザレスの駆る馬を目掛け、さらに勢いを増す。
ドンッッ!
着弾を知らせる爆発音が基地周辺まで届くと、悲鳴による喧騒の中……
ゴブリンの裂けた口は、一層の歪みを見せるのだった……。




