初めての敗走。
ブクマありがとうございました!
やる気注入されました。(笑)
「カール……死ぬなよ……」
森の中、ビルは急ぐ。
討伐隊の実力者はみんな死んだ。あっさりと……。
あの異常なゴブリンの事を思えば、一般的な兵士が何人いようが死ぬのは時間の問題だろう。
(あの奇妙な遺跡を発見した時に、帰るべきだったんだ…… それにさっきの鳴き声、やはりあのゴブリンの仕業か…… )
巨大ゴブリンが発した〈咆哮〉。それはいち早く距離を取り、障害物の多い森の中へ逃げ込んだビルには、幸いにも効果が薄かった。とはいえ、体調は優れない。
「ハァ……ハァ…… 」
道なき道を、勘を頼りにひたすら歩く。
仲間達はどうなっただろう……
グリフォスのメンバーはみんな死んでしまったのだろうか……
早くこの事を街のみんなに伝えなければ……
「カール……必ず連れて帰ってやるからな……⁉ くっ…… 」
近くの茂みが、ガサガサと音を立てる。ビルはカールを背負ったままで剣を抜き、慌てて構えた。
(ゴブリンか⁉ )
「待て……俺だ。 グリフォスのマッドだ…… 」
茂みから出て来たボロボロの男。
いつもの様に顔の下半分を黒い布で覆っているが、小柄で鋭い目つきは間違いなくマッドだった。
「おお……よくぞ無事で!」
「ああ……探すのに苦労した。そっちは谷だ、方向を変えるぞ。俺が先を行くから付いてこい」
さすが〈探索士〉とでも言うのか……魔物の気配を感じては方向を変え、迷いのひとつも見せず、何も目印の無い筈の森の中をどんどん進んで行く。
「その……マッド殿。他の方は…… 」
「死んだ。瓦礫の下だ…… 俺は運が良かった…… 」
「そうですか……残念です 」
「冒険者の最後など……こんなものだ。どれ程凄い奴でも、運が無ければあっさりと死ぬ……お前達は運がいい」
マッドのサバサバした言葉は、それでいて悲しみに満ちている様に感じる。いや、悲しまない為にあえてサバサバしているのか……。
「採取広場に向かうのですか?」
「いや、危険だ。このまま森の外の、中継基地まで戻る。急ぐぞ! 」
そこからはお互い何も喋らない。魔物に警戒してる事もあった。それでもビルは色々聞きたい事があったのだが、聞いてどうなると言うのか。死んだ者達も帰っては来ないのだ……。
どれ程歩いたのか。
大陽は木々に遮られ見えないが、そろそろ森を抜けないと夜になれば危険度は更に増す。昼飯も食べていない為、空腹と疲労感は限界に近い。
……ただ、背中から伝わるカールのぬくもりだけが、ビルの心を奮い立たせていた。
「……そろそろ森を抜けるぞ」
返事をする気力もビルには無かったが、顔を上げた先の森に切れ目が見える。
(助かった……! )
「おい、カール。 もうすぐ森を抜けるぞ。助かったんだ俺達は……⁉ 」
後ろを振り返ったビルは意識の無いカールに優しく話し掛けたが、同時に遠くの木の影からこちらを覗く一匹の、ゴブリンの様な魔物を見つけてしまった。
そのゴブリンは通常よりも背が高く、手足が長い。まるで人間の様な体型だ。構えている弓も大きく、つがえた矢の矢尻が一瞬光って見える。
「マッド殿! ……⁉」
言うと同時にカールを前に抱え直し、素早く背を背けしゃがみ込む。
異変に気が付いたマッドは、腰のダガーを両手に素早く間に割って入った。
ギィンン!
ダガーが矢を弾く。
普通でない、重い接触音を更に二度、三度させながらマッドは、振り返りもせず叫んだ。
「行け! 森を抜けろ! 」
ビルは走る。
カールを抱え、森の外を目指し……。
体力は既に限界を越えて、呼吸もままならない。
(⁉…… もうすぐ……! )
森の外では警戒に当たっていた兵士が、数人こちらに気が付いた様だ。何やら騒いでいる。
(⁉…… ぐっ!……)
だが、もうなにも聞こえない。
視界は赤く染まりつつある。
ドスッ!
……四本目の矢がビルの背中に刺さった時、カールは確かに仲間の兵士に預けられた。
「カールをぉ…… 」
「分かった! よくやったビル!! 」
兵士達はビルに労いの言葉を叫び、盾を構え、素早く後退して行く。
……後に残されたビルの死に顔は、
とても満足そうな安らかな表情だった……。




