初めての苦悩。
「た、たすけてぇ……」
(くそ!マジか⁉ )
俺はあわててもう一度遺跡の入り口付近を見た。
ほとんど裸の状態に近い薄汚れてしまった若い女が、ヨロヨロとゴブリンに手を引かれ歩かされている。
(あれは……確かアンナとか言う女。生きていたのか⁉ )
……どうする!助けに行くか⁉ みんな気が付いていないのか⁉
俺が一歩前に出ようとしたその時だった。
ガシッ!
「ボウズ、だめだ……」
誰かが俺の肩を掴み、小声で俺を制する。……マッドとか言う奴か。
くっ……。
確かに助けに行く訳には行かない事は分かる。
俺達全員で動けば何とかなるかもしれない。だがあの遺跡の入り口から、どれだけのゴブリンが出て来るか分からない。
討伐隊の皆にも迷惑が掛かるだろう。
だけど……
ジルー……
お前なら何て言う⁉
(……⁉ )
ふたたびマッドの手に力が入った。
「動けば……お前を殺す」
くそ! ……わかったよ。
俺は身体に自然と入っていた力を抜いた。
そうしてる間にもアンナは引きずられる様に遺跡正面近くにある、石作りの祭壇の上にのせられた。
……ハァ ……ハァ
……ハァ
彼女の両手両足はゴブリンに押さえつけられ、もはや抵抗する力も残っていないようだ。
……く! アンナの父親の顔が浮かぶ。
何をするつもりだ?
遺跡の入り口からはゴブリンがいつの間にか溢れだし、祭壇を取り囲む様にしている。それぞれが足を踏み鳴らし、武器を打ち付け、音が止む様子もない。
やがてゴブリン達の奇声による歓声があがると、遺跡からホブゴブリンが現れた。その数は続々と増え、10匹からは数えるのを俺は止めた。
よく見れば変わった服をきたゴブリンも数匹見える。あれが〈シャーマン〉という奴らか。
「もう十分だ。……今のうちに引き返す」
もう不可視の魔法は消えている。俺はマッドの言葉に頷き、その場を後にした。
引き返す途中、歓声がより一層上がったが……俺達は何も言わず集合場所に戻った。
「戻りましたか……心配しましたよ。 ……とは言っても私達も今戻ったばかりですが。」
なぜ助けなかった……などとは言えない。どの道全員が殺されていただろう。
「……すまない」
「今回は構いません。おかげで奴らの戦力が検討つきましたからね。マッド、監視を頼みます。プランはBです」
「了解した」
「では戻ります。カールには歩きながら説明しましょう」
フェルナンドが言ったプランB。
それは遺跡の周辺を討伐隊で取り囲み少数で潜入、遺跡の入口を魔道具によって爆破、崩落させる作戦だった。遺跡と言うだけあってピラミッドは酷く脆そうに見える。
爆発の衝撃でピラミッドごと潰れれば文句なし。入口部分だけの崩落でも窒息死または餓死させる事が期待できる。
周辺を囲んだ討伐隊はゴブリンを逃がさない様に、残党を狩るだけだ。
「元々パオロ様はゴブリンの根城について懸念されていました。それはゴブリンが力を蓄え始めていたとしたら……と言うあまり良くない予測ではあったのですがね…… 」
フェルナンドが手のひらに乗せた、黒い小さな箱を見せる。これがその爆破に使う魔道具みたいで、フェルナンドの魔力と呪文によって爆発するらしい。やはりパオロが造った物らしかった。
〈PM2:00〉
採取広場に戻った俺は、預けておいたシャリーの弁当を食べる。シャリーの奴、豪華な弁当にしやがって……
B班の皆に遺跡の話をせがまれ仕方なく話したが、やはりアンナの事で途中から静かになってしまった……無理もない、俺だってやるせない気持ちだ。
入口の爆破にしてもそうだ。中には捕らわれた人達がまだたくさんいるんじゃないのか……。
はぁ……
明日が本番だ。今日はなんか疲れた……
他の班との連絡や明日の準備でまだ騒がしい最中、静かに寝息を立てていたのは俺だけだった。
でもみんな、気を使って寝かしてくれたんだ……
……ありがとう。




