初めての困惑。
ガヤの街の宿泊施設で夜遅く、一組の夫婦が愛を語らうように絡み合っていた。
「あなた……嬉しそうね」
「フフ……彼のあの〈構え〉と〈動き〉、まさに〈剣道〉そのままだったよ」
「まだ何も分かってないみたいだが、私達が〈転生者〉である事はまだ伏せておこう」
「いじわる……ね」
「フ……エドガーにもいい刺激になっている。利用させてもらうさ。ゴブリンにしてもね。この件が片付いたら子供達を連れてアルティーナを出るぞ。そろそろ奴等も感付く頃合いだ」
「嘘……ね。 寂しいだけでしょ」
「フフ……君にはかなわないよ」
ーー
今日も丸1日訓練だ。
俺は農作業を免除され、代わりに毎日訓練参加を強制させられている。といってもエドガーと一緒に個人メニューだ。
午前中は採取護衛か対人訓練、午後は魔力筋トレに冒険者向け講義。
俺は別に冒険者や兵士になりたい訳じゃない。
農作業が好きです。……嘘じゃないです。
く……今日も疲れた。
そろそろ勘弁してほしいぜ。無愛想なエドガーと長時間一緒にいるとストレスが溜まって嫌になる……
今日の夕食は俺の担当だ。
たまに配給される牛肉モドキと〈ガジャイモ〉を使って肉ガジャを作る。醤油も昔からあるようなので、和食を作るのも簡単だ。
ひょっとしたら俺みたいな〈生まれ変わり〉が昔居たのかもしれないな……
「おいひー!」
シャリー……髪の毛まで食ってるぞ。
ラウルは肉だけ食べるな! 子供か⁉
親父はいつもの酒……どうでもいい。
オカズはこれだけの質素な夕食だが、旨そうに食べる様子を見て日本の母親を思い出す。
(あの人もこんな嬉しい気持ちだったのかな…… )
さて、俺も食うか……
コンコン!
「失礼するよ……」
そんな声が聞こえながらも、遠慮なく開けられたドアの先にはパオロが笑顔で立っている。
「ギリギリ間に合ったかな? 差し入れを持って来たんだが……」
「これはパオロ殿とエドガー君、このような所に……歓迎いたしますぞ! 」
ちっ! お面野郎までいるのか。
パオロがカバンから、次々と料理や酒を出し始める。
「これはすごい! ……いや、酒もですが魔道具ですか?初めて見た。 」
ふ~ん…… なるほどね。
いつも無口な親父が興奮しているが、ようはゲームみたいな物があるんだろ。
俺からすればこんなの狂った世界だ。
……どうかしてる。
ラウルの家は守備隊長をしてるだけあって、俺の家に比べて大きい。昔は自分の部下を呼んで、酒を飲み騒いでいたらしいが奥さんが亡くなってからは、酒をやめているみたいだ。
「エドガー。君も座りたまえ 」
「いや、ボクは……分かりました…… 」
案内されたパオロは椅子に座ると、玄関で立ったままのエドガーを呼び、座らせる。
あ~。面倒くさい事になりそうだ。
早く帰ろう……。
「エドガー……それも外すんだ。」
「「……⁉ 」」
「え⁉ でも…… 」
場が静まり返っている。
「信頼を得る事でも人は成長する。お金で買えない物を得る為には対価である、行動を示さなくてはならない。 この方達は信用できる。さあ…… 」
「「ゴクリ…… 」」
おいおい…… なんか、嫌がってるな。
どうせあれだろ? ブサメンなんだろ? パオロさんもいい事いうな……
コイツの事は好きじゃないし……ひひっ! 笑ってやるぜ。
「……分かりました。」
ゴト……
仮面は一瞬光った後簡単に外れ、テーブルの上に置かれる。
「あの~……」
シャリーが堪らず掛けた声に、耳を疑うような透き通った返事が返った。
「はい。 ……ボクは女です 」
(……嘘だろ。おい! )




