バルト伯爵も甘くない。
クレアに向かうワイバーンの集団。その数およそ100。
編隊を組むワイバーンの軍勢は訓練、もしくはそれを統べる〈存在〉によって強さに変化をもたらす。
この軍勢は前者で、訓練を行いワイバーンを命令する〈上位種〉が複数、背中に跨がっていた。
その〈上位種〉のゴブリン達は〈ホブ〉〈シャーマン〉〈メイジ〉〈ナイト〉からなり、全員が魔法等による遠距離攻撃を可能にしている。
対してそれらを乗せるワイバーン。火属性〈ブレス〉は、射程が短く威力も弱いが、機動性に富み接近戦においては、力強い爪による攻撃を得意としていた。
そしてその軍勢が徹底して、集団による各個撃破などの訓練を受けている。その戦力は更に地上のゴブリン達と連携する事で小国の軍などであれば圧倒するだろう。
そんな軍勢にクレアは慌てる事なく……右手の親指を、自分の心臓に突き刺した!
『魔道光炉点火!』
その瞬間、クレアの身体が真赤な光りに包まれる。
焦げ茶色の髪は瞬く間に伸びて行き、美しく燃える様な紅い色に。
それと共にしわが刻まれた老婆の顔は、少女の様な若々しい肌と凛とした美しさを感じさせ、膨らんだ胸は伸びた身長と合わせ抜群のスタイルに変貌を遂げる。
さらにクレアは指を捻り、古代魔法の詠唱を続ける。
「ガキィン!」
『魔道兵器魔王始動!』
「オラァ!」
『無限牢獄!』
突如としてワイバーンの軍勢は、バランスを失い大混乱に陥る。
魔物達の目の前には無限の広がりを見せる紅い世界と、その場でゆっくりと回転しながら恐怖し叫ぶ同胞達。
「クフッ! アハハハァ~!」
その無重力の紅い世界で絶対的支配者の声が聞こえる。
「……泣き叫んで死ね! 」
ーーーー
「ふぅ……スッキリしたわい」
「お帰りなさいませ。 ……クレア様それは? 」
クレアは空中から鎧を着た、大柄のゴブリンを地面に落とす。
鈍い音と共に小さくうめき声を上げたゴブリンは、ガタガタと震えていた。
「花を摘んでおったら、うろついていたのでの! ゴブリンナイトとでも言うのか、ミスリルの鎧なぞ着おって……どこで盗んだのやら 」
血を流し激しくへこんだ鎧のゴブリンを見たリアーナは、半分呆れた様に話を流す。
「バルトの馬鹿と話をしてくる……リアーナ、付いてこい」
クレアは、ゴブリンの首に縄を引っ掛け、簡単に引きずる。200キロはあるだろう大柄なゴブリンは苦しさの余り、両手で縄を持つだけで必死だ。
「ク、クレア様。バルト伯爵は今お食事中ですが⁉ 」
「急ぎの要件だ! ……邪魔するよ」
伯爵の天幕に着いたクレアに、兵士が呼び止めるもクレアは構わずゴブリンを中に放り込む。
「ぎゃー!」
食事の最中に放り込まれた傷だらけのゴブリンを見て、伯爵とメイド達は震え上がっていた。
「ドカッ!」
ゴブリンの頭を踏みつけながら口角を上げるクレア。
「バルト伯爵。火急の報告ゆえ、食事中の無礼を謝罪する!」
「う、受けよう……で何だ! このゴブリンは⁉ 」
「ウルの街が落ちましたぞ。コヤツらによって」
「な、なに⁉」
「おい、しゃべれ」
クレアが足に力を込めると〈上位種〉ゴブリンは鼻血を出しながら口を開く。
「ソ、ソウダ!」
「ウルの街は陽動だな! 王都に警戒させて次はミズリを襲うのであろう!」
「クク…… アノ街ノヨウニ……オカシ、ミナゴロシ二……」
「……バキョ!」
「おっと。力を入れすぎたか……」
ゴブリンの頭は割れた卵のように、その内容物を撒き散らしていた。
「バルト伯爵。ご理解して頂きましたかの? 」
「う、うむ。」
「まだゴブリン共がウルの街におるやも知れません。ここはミズリに引返し……」
「ならん!ならぬぞ!」
「ワシは王都へ戻る! クレア! ゴブリンに出くわさぬ様に、北へ迂回するルートを探せ!」
「なにを馬鹿な……」
「心配するな。王都へ帰還すればミズリに兵を送るよう進言してやる。お前も護衛中、ワシに死なれては困るのではないか? 帰る理由もあるのだろう?」
「くっ……」
「フフ…… ならば急ぎルートを探せ! 」
天幕から出て行ったクレア達をよそに、バルト伯爵は安堵のため息をつく。
「まったくあのババァめ…… ん⁉ ……ちょっとこの死体、どうすんの⁉ 誰もいないんですけど⁉ ねぇ⁉ 」
ババァのささやかな、嫌がらせは続く。
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