甘い生活。
サミーの朝は早い。
まだミズリの街に朝日が昇る前から、日課のランニングを丹念に行う。Aクラス冒険者でギルドのトレーナーでもある彼は、自分にもストイックである事で有名だ。
最近は朝のランニングに仲間が加わっている。ソータと名乗るじじいだ。ただのじじいだ。可愛いと思う事はあっても好みでは無い。
しかし根性のあるじじいだ。最初は冷やかしかと思ったトレーニングも根性でやりきり、最後に見事細マッチョを手に入れた。
そして戦闘訓練だ。まだやり始めたばかりだと言うのに、吸収力は驚くべき早さだ。
特に弓。強く張られた弦を引けるからといって、あの命中率は驚異的だった。いや、それは必然かもしれない。
バランス良く鍛え上げられた肉体に、凄まじい集中力。矢を放つ前に命中を確信した様なあの余裕の笑み。すでに射程範囲は1キロメートルを越え、エルフの持つ弓術にひけをとらない。
あの集中力で魔法を放ち剣技を磨けば、いずれ高クラス冒険者にもなれるであろう。
サミーは後で何とかついてくるソータを励ましながら、ワクワクする自分に嬉しさを感じていた。
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午前中の訓練指導を終えたジョーは、〈お値段ピッタリ!〉でお馴染みの〈ニブタ〉に来ている。じじいの弓を探しに来たのだ。
誰にでも心を開いて本音で接するタイプのジョーはサミーともすぐに打ち解けM・T計画の全貌を知る事となる。
最初は、お遊び半分で付き合うつもりだったが、鍛え上げられたじじいの体と根性に本気で付き合うハメになってしまった。
ジョーが注目したのは魔力の質である。最初に感じたのは〈真実の水晶〉が青く光った時だ。その時は色に注目していた為さほど感じなかったが、杖が魔力をおびて発光した時に確信に変わった。
じじいの魔力は美しく、そして澄んでいる。まるで何かにろ過された水の様だ。それが何を意味しているかは分からない。ただの勘だ。まずは、魔法の弓で違いを確かめたい。
「お! これなんていいじゃね~の!」
ジョーは目当ての弓を購入し、上機嫌で店を後にした。
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「……では宜しくお願いします。バルト伯爵 」
「フ~……」
バルトを送り出したクロップは、山積みになった仕事を一つ片付けた事で午後のティータイムに入る。
バルト伯爵には【陽炎】が行った調査結果を、王都の然るべき人物に報告をお願いした。要らぬ手土産を渡す事となってしまったが、そうも言ってられない現状だ。
ゴブリンの襲来に備えては、森とミズリの間に砦を築く事で様子を見る事にした。
「……出来る限りの事はする。【陽炎】にも追加の依頼をせねば……」
クロップの苦悩は終わりを見せない……。
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夕日が落ちる前、湾岸都市ミズリの東門前にきらびやかな一台の馬車を主役にした一団が待機している。
その数、馬車六台に随伴の騎馬が十頭、バルト伯爵の一行だ。その中にクレアとロイの姿もあった。
「ロイ……ワタシのいない間、皆を頼んだぞ 」
「ああ……」
今回バルト伯爵の護衛を担当する【陽炎】のメンバーは、クレアを含めて4人。いずれもクランの中で、比較的実力の落ちる若手を同行させている。
ミズリへのゴブリン襲撃に備えて、ロイに信頼の置けるメンバーを残したクレアの判断だ。
またクレア自身はアーサーの遺体を出来るだけ速やかに家族に返す役目があった。これがなければバルト伯爵の護衛など、引き受ける事はしなかっただろう。
「……クレア 」
ロイは珍しく、クレアの乗った馬車をいつまでも見送っていた。
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じじいは今日も貧民街にある、ティアのアパートに来ている。夕食を共に食べる為だ。
「わ~い!おにくだ~ 」
「【陽炎】の人が仕事のついでに仕留めた肉……らしいよ! 」
何の肉かは知らないが、ギルドにある食堂ではさばき切れないと言う事で、余り物を頂いてきた。アリアの喜ぶ顔が見れて俺も思わず笑顔になる。
「まるで高級和牛みたいですね! 早速焼いてみます! 」
ティアは驚きながらも鼻息は荒い。やはり久しぶりのご馳走になるのだろう。
俺達は久しぶりの豪華な肉にありつき、とても幸せな気持ちになる。
いつもの様にアリアを〈お馬さんゴッコ〉で満足させた俺は、心地良い疲れと共にティアのアパートを後にした。




