戦闘訓練は、甘くない。
ミズリの街の中心部にある、2つの巨大な白い塔【ツインタワー】。
古代遺跡を利用して街を管理するその塔の会議室に【陽炎】のメンバー8人と、クロップ伯爵はいた。
「……で、話とはいったい何かね? 」
「市長。まずはこれを……」
そう言ってクレアが取り出したのは、一本のベルト。
皮で作られたそのベルトは高級な素材を利用して作られた物だが、所々シミと千切れたような後があり、誰が見てもゴミにしか思わないだろう。
「これは……ベルトかね?」
「そうです。市長もご存じの通り先日、ゴブリンによって殺された仲間の物 」
「ゴブリン? 死体は空から落とされたとか。ワイバーンなどではないのかね?」
クレアはベルトのバックル部分に手を当て魔力を流す。バックルは僅かに光り、魔道具である事が見てとれた。
「この魔道具は高価な物でして、アーサーがよく自慢しておりました……少しの間ですが、音を記録しております……」
「ではそれにゴブリンが⁉ 」
うなずくクレアは閉ざした口に人さし指を当て、クロップに静寂を促した。
ーー
『みんな…… 後は頼む…… 』
『……ガガガ!』
アーサーの壮絶な最後に、クロップは唾をのみ込んだ。
「んん…… では聞こう。この喋るゴブリンは何だ? 自分の事を〈勇者〉と言った様に聞こえたが……」
「分かりませぬ。……ただ声の大きさ、質を鑑みるにかなり巨体……〈ホブ〉や〈シャーマン〉とは考えにくいかと」
「ならば他の魔物ではないのか?」
「その可能性も否定できませぬが、すでに数種のゴブリンを皮切りにワイバーンやダイヤウルフを支配しております。」
「ばかな!オーバーロード級とでも⁉ 」
「他種族の長を支配する。ゴブリンロードが無理とは誰も言い切れる事など出来ますまい。」
「ぬ……ならば〈勇者〉と名乗ったのは何だ⁉ 」
「分かりませぬが、捕らえた人間にでも聞いたか……」
興奮してしまった事を一瞬恥じたクロップは、あらかじめ用意されたお茶を飲み、落ち着きを取り戻す。
「もうよい……では最後、〈咆哮〉だ 」
「……ゴブリンは〈咆哮〉などしません。しかもSクラスの冒険者相手に影響を与える〈咆哮〉となると……」
「〈異常な能力〉を持った新種かと……クロップ伯、いや市長。ミズリの人々の命はあなたに懸かっておりますぞ。すでに事は狩る方から、狩られる側に……アーサーの死を持って奴らは宣戦布告したのですからの!」
一人残された会議室で、クロップは苦しむ。
「ぐ……信じられん!」
クロップが信じられないのも無理はない。ミズリ周辺は魔素の濃度が比較的薄く魔物が大量発生しにくい地方だ。大森林はやや高いが魔物が森から出て来る事もあまりない。1年前〈ガヤの街〉で起こった事にしても森に近い街が、いたずらに魔物を刺激したのではないかと考えたほどだ。それがオーバーロードなどと……。
(どうする……)
クロップは思考の闇に落ちていった……。
ーーーーーー
じじいは相変わらずジョーの部屋で寝泊まりし、ギルドの中で引き込もっていた。しかし、そこらの〈ヒキニー〉とは違う……〈本気を出したヒキニー〉になっていた!
「ルァアア!」
「何だそのかけ声は! 本気出せ!」
日本で読んだマンガを参考に気合いを入れるも、いきなり本気を否定される。
あれから俺はジョーとサミーにギルド内の訓練所で戦い方を教わっていた。本気で強くなりたいと二人に頼み込み、渋々付き合ってもらっている形だが……
すでに俺の筋肉は回復し、念願の細マッチョを手に入れた。
どこまでパワーが上がったか楽しみだ。しかし筋力と魔力が上がったからといってのんびりしている訳にはいかない。
あの二人を守れる強さを身に付け、仕事をし、金を稼いで、マジックポーチからチョロマカした分を返す。市の落とし物係りにマジックポーチを渡したら、あの二人を引き取って……幸せに……フフ。
『……バシー!』
「ほげっ!」
「……何で笑ってんだ! じいさん、舐めてんのか⁉」
……ジョーの指導は今日も熱が入っている。
今日最初の訓練は杖だ。
魔力を流しながらひたすら殴る。気合いでイメージせず、自然体でコントロール出来なければ、戦いで使えないそうだ。
しかしこれが当たらない!ジョーはハンデとして目隠しの素手で戦ってくれているが、全て紙一重で避けている。
「はぁはぁ……」
次に剣技、じじいに両手剣はムダと言われ、片手剣と小振りの盾を借りて練習する。片手剣では盾の使い方が重要だ。
防ぐにしても〈受け流し〉〈弾く〉〈フェイント〉など色んな技があって中々に便利だ。今度はサミーを相手にしているが、Aクラスなので対戦結果は同じだ。
「ひぃひぃ……」
そして弓。
こいつは得意だ。なんせ筋力アップのお陰で硬い弦も引ける!ティアとアリアに褒められている妄想をする事で五十メートルくらいなら、百発百中だ!
「……ありがとうございました」
じじいのM・T計画は着実に進んでいた……。




