ヒロイン登場も甘くない。(第3章その3)
なろう勝手にランキングにて393位で確認しました!(笑)
「ちゅん!ちゅん!」
「う……」
(頭が……身体中痛い。 ……動かない⁉ )
そこは冷んやりと、鉄格子に囲まれた部屋……ではなく、温かなベッドの中だった。
「お……うまさん……」
毛布の中、アリアが俺にしがみついている。カーテンから朝日が差し込むその先に、ティアは一人、イスに腰掛けたままで寝息を立てていた。
(ハニートラップじゃなかった…… )
俺はベッドから抜け出すと、ティアの肩からずり落ちたであろう毛布を優しく掛け直す。しかしその拍子に彼女は目を覚ましてしまった。
「あ…… ソータさん、おはようございます。」
「ティア!昨日は……」
「ごめんなさい! 私、あのお酒があんなに強いだなんて知らなくて……」
「そうだったのか……こちらこそ迷惑をかけた。色々ありがとう……ティア」
(昨日は完全に俺の勘違いだった。この貧民街を初めて見た事で、少し神経質になっていたのかも知れない……)
颯汰はもう一度謝ろうと、ティアを見た。
「ガシッ!」
「へ⁉ 」
ティアが両手で俺の手を取り、まっすぐに見つめている。
(柔らかい……って、この状況……まさか⁉ )
ティアの瞳は少し潤いを持ち、その唇は緊張の為にぷるぷる震えている。颯汰は自分がじじいである事も忘れ……顔を近づけ様とした瞬間……。
「あなたは……日本人ですか⁉ 」
「⁉ 」
「昨日、お箸を上手に使っているのを見て……名前からもそうじゃないかなって……」
……ティアは昨日俺が酔っ払って寝てしまった時に、衛兵を呼ぶ事ができた筈だ。ならば俺が言える事はただ一つ。
「俺の名前は、桜…… 桜 颯汰。日本人だ……」
「ああ……やっぱり…… 良かった……」
異世界に来て初めての告白に、ティアは俺の胸に額を当て……涙を流していた。
彼女は今日仕事が休みと言う事もあり、朝からずっと話し続けている。俺達はお互いの全てを知り、やがて大きな安堵に包まれていた。
彼女の名前は〈片桐 雫〉転生者だ。日本では高校生だったらしい彼女は、交通事故に巻き込まれた事で【バース】に転生したらしい。物心付くまでは転生前の記憶が無かったらしいが……これが転生者の特徴なのだろうか。
そして驚くべき事は、時間を停止させる彼女の【転生スキル】である。図書館で見た〈異世界人の異常な能力〉とはこの事を指しているのだろう。
俺達はこれからも頻繁に連絡を取り合いながら、協力していく事になった。今日からは一人じゃない……そんな感じがして、やる気が満ちていく。
「できた~!」
アリアはすでに目を覚まし、朝から一心不乱に何かを描き続けていたが、ようやく完成したようだ。
「えへへ……」
アリアが描いていたもの。それはじじいをお馬さんにして喜ぶアリアと、隣で笑うティアの姿だった。
「アリア、ありがとう。大切にするよ……」
小さな羊皮紙に描かれたその絵をマジックポーチに仕舞うと、俺は二人に別れを告げアパートを後にする。
また一つ、俺にはやるべき事が生まれた。あの妹の様な二人を守る強さが欲しい。
貧民街を歩くじじい。
自信とやる気に満ちたその目は静かに燃えていた。




