表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/84

ヒロイン登場も甘くない。(第3章その2)

「ティア……でいいですよ!」


笑顔で話し掛けてくれたティアに俺は感謝しつつ、ギルドの前は目立つので場所を変える為に歩き出す。ティアは【モフカフェ】での仕事の話しを中心に魔獣の世話や、困った客の事を楽しく語ってくれた。


「ん⁉ そういえば、チャマ耳がないが…… 」


「あ! ……アレは、魔道具なんです。 ……秘密にして下さいね! 」



「なるほど…… すごいな!」

(二人だけの秘密か…… フフ!)



まるで爺さんと孫娘が仲良く歩いているような温かい雰囲気に、すれ違う人達も微笑ましく感じているようだ。


「あ! 良かったらこの前のお礼に、私の家で夕食をごちそうさせて下さい! 」


断る理由もない俺は、ティアの素晴らしい提案を喜んで受ける。


「フフ……良かった! いつもは妹のアリアと二人だけなんで、ソータさんがいれば妹も喜びます! 」


(ぐ! かわいい…… )


じじいの心はスキップしながら……足取りは筋肉痛で重いまま、やがて二人は貧民街へと足を踏み入れた。


(ここは……貧民街か?)


まるで海外のスラムの様な雰囲気に、颯汰は思わず緊張を高める。


「……カラン!」

(うお!)


カン高い物音にビクッとする颯汰だが、その先の路地裏で寝転がる浮浪者を見て、何とも言えない気持ちになった。


「……この貧民街は、【奪われた人達】の街なの。ミズリにこんな場所があるなんてビックリしたでしょ?」


「あ、いや……」


「私は両親を……そこで寝てるオルガさんは、子供と奥さんを奪われたわ……」

「……」


ティアの瞳は貧民街を冷たく映す。


どんな世界も弱肉強食のルールからは逃れる事ができないのか……。いや、やはりこの【バース】は日本から来た俺からすれば、まるで甘くない世界だ。


やがて薄汚れた町並みの中、アパートらしき建物に到着した。


「ここが私の家……なんか恥ずかしくなって来ちゃった……」


「ゴクリ……」

(いやいや……俺はじじいだ。じじいらしく振る舞うのみ!)


自分の心にカツを入れるも、心臓の高鳴りは止むことがない。男とはそういう生きものである……。


「おね~ちゃん、おかえり~! ……だれ~?」


可愛らしい言葉使いで出迎えてくれたアリアは、まるでティアをそのまま幼くした様な愛らしい容姿をしていた。


「君がアリアだね。 ……私はソータじいちゃんだよ 」


俺はアリアに優しく微笑んだ。ティアが先日お世話になった人だと簡単に紹介してくれたが、ちゃんと理解できているのか少々不安だ。なんせ人懐っこいアリアはすでに、じじいの俺をお馬さんにして走らせていた。


「いけいけ~!」


「ひひん! ……ハァハァ!」


やはり、この手の遊びは体にこたえる。……決して幼女を背中に乗せる事で、興奮しながら走っている訳ではない……。またしても全身の筋肉が悲鳴を上げるが、頼みのティアはキッチンで料理を作っていた。


「お待たせしました!」

「おお……これは⁉ まさか…… 」


小さめのテーブルに並べられた夕食はまさしく〈日本食〉だった。


「……オホン。 頂きます!」

(おっと……やはりティアには異世界人である事を話す訳にはいかない)


慌てて颯汰は冷静を装いつつ、茶色のスープを一口飲んだ。


(やはり……)


「お口に合いましたか? これはその昔、異世界人達が世界に広めた料理の一つで〈ソミ汁〉と言うスープです!」

「……ブッ!」


「あ、いやスマン! ……咳き込んでしもうたわい」

(じいちゃん……やりすぎだ……)


「こっちの魚は〈バーサーの塩焼き〉で、骨に気をつけて下さい。おかずはこれだけですけど、ご飯はおかわりして下さいね!」

「……ありがとう」


俺はハシ(・・)を取り、久しぶりの日本の味に感動しつつも、違和感を感じていた。


(試されている……? )


この料理はあらかじめ準備したに違いない。ならば俺の名前から疑われたと予想できる。しかし何の為に……。


「ソータじいちゃん……これ~あげる!」


不意に近づいてきたアリアは一升瓶を両手に持ち、俺に手渡した。


「ニジ……キリシマ……」


「……それは、私の父が店長のブルさんに預けていたお酒なんです。父が亡くなった時に返してくれたんですけど、私はお酒を飲まないので…… 」


「お父さんの大事な形見を……有り難く頂きます 」


ティアの好意をムダにする事はできない。コップに入れた〈ニジキリシマ〉は芳醇で気高い香りを漂わせつつ、ゆっくり俺の喉を通り過ぎた。


「うまい! 」


酒に理屈は必要ない。日本で仕事に厳しい上司に勧められ飲んだ、あの酒に似た味わいは俺の心を揺さぶって……一筋の涙をこぼす。



(……いい酒だ。 ……あれ? )


急に周囲の景色が歪んでいく。


(なんだ⁉ ……しまった! ハニー……トラップ…… )


ティアが何か喋っている様だが、もう何も聞こえない。


(売られた……のか…… )




颯汰の意識は深い暗闇の中へ溶け込んでいった……。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ