外に出ても甘くない。
いやぁ……
読む時は、思わなかったですが、書くのは大変ですね(笑)
颯汰は、悩んでいた。
一度は、覚悟を決めたものの、やはり不安なものは、不安である。
(外に出るのやだな……やっぱり何かしらのチートが欲しかった……)
不安を解消するべく、行動を開始する。
まずは、祭壇のある部屋まで戻ると、再び死体を確認する。
自分がどれだけ寝ていたか分からない。
しかし死体から出た血は、たいして固まっておらず、1日も経っていないだろう。
(自分が刺された傷が何かの能力によって、回復したと考えれば期待できるかもしれないが……)
もちろん自分の体を使って検証する度胸は、……ない。
「ネックレス?」
颯汰は、男が巻いていたネックレスを外す。小さな赤い宝石が装飾されたネックレスを、申し訳ないが頂いておく。
自分は、不死身もしくは、傷を回復するスキルがあるかも知れない。
そして意味ありげなネックレスと、お金の入った袋にグレートソード。心が少し軽くなった颯汰は、外に出ると用心深く草原が広がる方向に歩き出す。
振り返ると、鬱蒼とした森が見えるだけで祭壇への入り口は、何処にもなかった。
森の中は、久しぶりだ。颯汰は、山育ちである。子供の頃によく山に入って、友達と遊んだものだ。
「なにこれ……」
だが……この森は、違う。怖いのだ。
姿は、見えなくとも何かに見られている感覚が、恐怖を呼んでいた。
慎重に歩き始めた異世界の世界だが、颯汰は、思わず無意識に走り出す。
やがて森を抜けるちょうどその時、全身の毛が逆立ち恐怖を感じた。
「グオオオオォ!」
何かが吠えた。ライブ会場でしか経験できないような大音量に颯汰は、転がる様に全力で逃げる。
「はぁはぁ……はぁはぁ……」
何かによる咆哮は、もう聞こえない。
「ヤバかった……魔物だろうな」
振り返る事は、しなかったので何なのか分からない。だが新たに分かった事がある。走る速さなど体力は、転移前となんら変わる事がないと言うことだ。
(疲れた……なんて言ってれないよな……)
周囲に生き物がいないのを確認すると、グレートソードに布切れを巻きつける。祭壇の部屋にあった飾り付けのカーテンを利用した鞘代りだ。そのまま背中に括りつけ颯汰は、再び歩き出す。
やがて小高い丘に登りあたりを見渡すと、大きな川が近くに見える。
川幅は、3㎞ぐらいだろうか。このぐらい大きければ、海も近いし街もある可能性が高い。
やがて川にたどり着いところで、喉の渇きを潤そうと水をすくい上げた。
「……嘘だろ……」
清らかな水面に反射した自分の顔は、弱々しくみすぼらしい白髪の老人だった……
ショックで震える手を使い、懸命に水を飲む。一息ついた颯汰は、そのまま仰向けに寝ころがり、少し長い髪をかき上げながら1人苦笑していた。
(ちょっとハゲてるし、……フフッ)
見上げた空には、暖かく降り注ぐ太陽の日射し。月の3倍程の大きな星が2つも見える驚きの光景だが、そんな事などどうでもよかった。
(まだ死にたくない。でも……)
この異世界で老化した自分は、長く生きれないだろう。
地球に残した家族の事を考えながら目を閉じる。親、子供達や嫁、同僚などの笑顔を思い出しながら、涙を手で拭う。
やがて過去には、戻れない異世界の現実を受け入れ始め、前を向かねばと考えだした……その時。
「馬……か?」
その嘶きは、小さい。だが間違いなく馬だ。
さらには、複数である事が聞いて取れた。
すぐに起き上がり視線をその先に向けると、川の上流方向から物凄い勢いで、馬車がこちらへ向かって来る。
鼓動が高鳴る……
ただならぬものを感じた颯汰だが、最早隠れる事もせずに呆然としていると、馬車から身を乗り出した男が、懸命に手を伸ばしながら叫ぶ。
「爺さん、つかまれぇぇ!」
颯汰が思わず手を伸ばすと男は、勢いよく引き上げる。
馬車は、3頭引きの大型であり、1人分の重量が増えたにもかかわらず、スピードを維持しつつも驚くほど揺れが少ない。男は、颯汰を馬車に掴まらすと笑顔で肩を叩いてくる。
「爺さん、運が良かったな。……あれ見てみ」
男が馬車の後方に向かって指を指した……。