表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/84

ヒロイン登場も甘くない。(第2章その4)

【モフカフェ】の仕事が終わった後、大通りを歩く。道は人が溢れ、いつもの賑わいを見せている。


(いた……)


私は、いつもの様に近くを歩く、頭の悪そうな貴族の男とすれ違った。

そして私の手には、さっきすれ違った貴族の財布がある。


絶対に気が付かれる事は、ないだろう。

財布を盗る時、スキル【時間停止】を使ったからだ。


時間を止められると言っても制限はある。まず、止めていられるのは、ほんの一瞬だけ、3秒くらいだ。さらに1日に数回が限度だ。なぜか使えば使うほど、全身の疲労感が凄い。


でも私は止めない。


盗みも悪い事だ。しかし、この世界は、少し違う。



奪われた者に救いは無い。


奪われる方も悪い。


弱い事が、罪。


要は、弱肉強食すぎるのだ。



私は、日本での人生を奪われ、この世界でも大事なものを、ほとんど奪われた。

もうイヤだ。もう奪われたくは無い。


たった一人の家族、アリアを守るために、私は汚ない事もすると、心に決めていた。



(……今日は、貴族を見ないな)


貴族を的に絞っているのは、単純に貴族が嫌いなだけだ。


ミズリの市長、クロップ伯は庶民派らしく皆、好感を持っているが、他の貴族はひどい。平民を見下し、ろくに仕事もしないくせに税金で派手に暮らす。私の良心も、さほど痛まない。


今日は、もう帰ろうと後ろを振り返った時、二人で歩く冒険者が見えた。


冒険者の事は、よく知らない。……でも、両親を護衛していたのも冒険者だった。

両親を守る事も出来ずに……あの時の冒険者達は、今も前を歩く二人のように、笑っているのだろう。



私の心は……黒く濁り始めた。


(……決めた。私のスキルなら、冒険者でも、やれる)





「このガキ! ふざけんな!」


「うっ! い、痛い……離してよ!」



いつもより、緊張していたせいなのか、【時間停止】の効果が短い。


いつもの貴族なら、なんて事無かったが、冒険者相手には甘かったようだ。私は、すぐ逃げようとしたが、髪の毛と手首を掴まれてしまった。



(ああ……もう逃げられない。)


アリアの笑顔が心に浮かぶ。



(私の人生は……奪われてばかりだ……)




「おい! ……そのくらいにしとけ」



いつのまにか割れた群衆の間に、その人は立っていた。

真っ白なローブに包まれたその人は、傾きかけた太陽を背にして、もう一度声を発する。



「聞こえてないのか? やめろと言っている! 」


絶対的強者の威厳を纏ったその言葉は、私だけでなく、その場所に居た大勢の人達をも、一瞬で緊張させた。やかて緊張を伴った人達からの話し声が、耳に届き始める。


(白い賢者……様?)


いつのまにか冒険者は私を離れ、私を掴んでいたその手に、剣を握っている。


使い込まれた刀身を間近に見ると、どれだけの命を奪って来たのか……私は恐怖でへたりこんだ後、ガクガクと震えていた。


「白いーー」

「……Aクラーー」


「……囲んどけ!」



「……ハッ!」

気が付けば、【白い賢者】の後ろに、見た事もないような、綺麗で大きな青い光が、輝いて見える。


(ああ……)


(私を……こんな私を救ってくれるなら…… )




「ワァァァァ~!」


人々の歓喜の渦が空を舞うようだ。

冒険者達は項垂れ、恐ろしく感じた剣は、すでに鞘に納められていた。


私の心臓は、今にも爆発しそうだ。【白い賢者】様がゆっくり、私に近づいて来るからだろう。


……いや、それ以上の感情を……わたしは……



(ああ……)




白いローブの男が、何を言ったかは覚えていない。



……感謝もしている。


……でも、




(お爺さんだった……のか……)



なぜかスッキリしなかった……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ