ヒロイン登場も甘くない。(第2章その2)
「……何だお前は⁉ 」
(よし!食い付いた……後は、時間を稼いで助けを待つ!)
揉め事になった場所は、冒険者ギルドからほど近い。騒ぎを聞き付けた衛兵なども、いずれ来るだろう。しかし、民衆の後押しがあるならと、純白ローブが更なる一撃を加える。
(この流れに……俺は、乗る!)
「フッ、知らんのか?【白い賢者】に……慈悲は、ないぞ?」
(決まった……! さあ! 逃げるか、許しを乞うのだ!)
だが男達は、腰に差していた剣をすでに抜いていた。
「【白い賢者】だあ⁉ ……知らねぇな。 ……ハッタリだろ?」
一触即発に陥った3人の様子を見ながら、野次馬達がドーナツ状に、大きく円を描いていく。
「やべえ! 【白い賢者】対【Aクラス冒険者】のケンカだ!」
「見ものだぜ! 衛兵に邪魔されない様に、しっかり囲んどけ!」
不敵にうつ向いたままの【白い賢者】は、不気味な笑い声を出し始めた。
「フ……フ……フフフフフフフフ……」
(は⁉ ……Aクラス⁉ ただのモブキャラじゃなくて⁉)
「ク…… ク……ククククククククク……」
(VRゲーム系ルート…… 消えたぁぁぁぁ!)
馬鹿にした様な笑い声に、しびれを切らしたAクラス冒険者の〈アルファ〉と〈ベータ〉が、迫り来る!【白い賢者】は、すぐに反応。まるで眩しい光を遮るように、左の手のひらを相手にかざした。
(やっ…… 殺られるぅぅ! ……あれ?来ない…… チャンス⁉ )
アルファとベータは、魔法を警戒しただけの事だったが、次の瞬間……二人は確かに魔力の波動を感じ取った。
(……イメージ! 魔力の流れをイメージ! )
ーーミズリの図書館には、数々の魔法教本が存在する。祖父の事を思い、祖父の事を忘れたかの様に、本を読みふける男があの日いたーー
「ガコォ! 」
その音は、【白い賢者】の右手に握られた杖からだった。杖は、何かの音を発すると同時に、少し大きな先端部分を地面に落とす。だが、先端部分と杖の残りは、青い鎖で繋がったままだ。後ろに居た野次馬達は、それが見えてもアルファとベータには、白いローブが死角となってそれが見えない。見えたのは、【白い賢者】の後ろに突然現れた、巨大な魔力の塊だった……。
「ブォン!ブォン!…… 」
(……キツイ!)
杖の先端部分を遠心力で回す。ただそれだけの事だが、魔力を宿した〈回転する杖〉は、多くの溢れ出した魔力を青い残光に変えた。その光の奔流をアルファとベータは、正面から見据える事となる!
(早く来い! こいつをぶち当ててやる! )
驚愕の光景を目の当たりにした、Aクラス冒険者の二人は、突如剣を鞘に納める。
「やめだ! 【白い賢者】……アンタの仲裁を受入れる」
……その言葉を待っていたかの様に、大歓声がミズリの空に舞い上がる……。
【白い賢者】は、助けられた娘の手を取り言葉を交わし、颯爽と冒険者ギルドに消えていった。
誰か……ブクマを……