ヒロイン登場も甘くない。(第2章)
「ふふ~ん…… 」
湾岸都市ミズリ。
アルティーナ王国の中にあって、【王都エルサルド】の西に位置する大都市である。美しい海と大自然の恵みを受けつつ、諸外国との貿易によって発展し続け、世界的にも憧れの対象となっている街だ。
そんな街の大通りを、胸を張って歩く1人の男がいた。汚れひとつない純白のローブは、宮廷魔術師を連想させ、背の高さほどの長めの杖は、木製で、無骨ながらも重厚さを感じさせている。いにしえの賢者の様な出で立ちだ。フードに隠れて顔は、よく見えないが、ゆっくりと歩みを進めるその姿に、人々は、道をゆずりながらも感嘆の表情を見せていた。
(き、気持ちいい~! ……おっと、浸っている場合じゃない )
急に足どりを早めた純白ローブ男は、冒険者ギルドを目指す。しかし、進行方向から、不穏な空気を感じ取った。
「てめぇ!ふざけんな!」
「い、痛い!……離してよ!」
若い男女が揉めている様だ。 (……く! あと少しでギルドに入れたのに……)
仕方なく近づくと、ちょっとした人だかりが出来ており、冒険者風の男が二人、若い娘の髪を強引に掴んでいる。 (……やはり、強制イベントなのか⁉ )
心配そうに、見守っていた人だかりが、反対方向から近づく異様な出で立ちの男に気が付いた。純白ローブのオーラに気圧され、人だかりが割れていく……。
「おい! ……そのくらいにしとけ! 」
(グス…… ケンカした事ないのに。ギルドで先に訓練したかったな~!)
急な、純白ローブからの制止の声に、乱暴をしていた男達の、動きが止まる。
(……落ち着け! 今のオレの格好なら、ハッタリが通用する!)
「聞こえてないのか? やめろと言っている!」
あまりの堂々した純白ローブの物言いに、野次馬達は、噂をし始めた。
「あの白いのは、誰だ?ーー」
「魔法使い⁉ーー」
「賢者さまか?ーー」
「ーー【白い賢者】様だ!」
(ぐぬぬ! ……耳が痛い)
野次馬達の言葉に、純白ローブのHPが削られていく……