甘い事もたまにある。
夜分に失礼します。
鬱蒼とした木々が、暖かい日差しを遮る。今日も、早朝から森へ入った【陽炎】のメンバーは、午後の西日も届かない深い森の中で、ひと時の休憩を入れていた。
「アーサーどころか、ゴブリン一匹出て来ねえ……」
誰かが呟いた。
その言葉を耳にしつつ、1人だけ離れて座るクレアにロイは、ゆっくりと近づく。
「魔素が……薄くなっていく…… 」
細めた目付きで木々を睨めながら、唐突に言い放つクレア。同じSランク冒険者ながら、魔素の濃度を敏感に感じ取る彼女にロイは、さして驚きなどない。前に所属していたクラン【螺旋】では、よくチームで仕事をこなしていたからだ。そして誰も知らない二人だけの秘密でもある。
「ロイ……探索方向を変え、2チームに別れろ。 先にミズリへ戻る。……アーサーを頼む……」
行方不明になって三日目。
クレアは、あの日アーサーとチームを組んでいた、二人を案内とし【魔力探知】【魔素探知】スキルで行方を追うも、アーサーと、ゴブリンの影を捉えることは、ついに出来なかった……。
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「7番で、お待ちのお客様~……」
マッチョドワーフの、美しくも味のある声が、店内にこだまする。
(く! ドワーフの癖に【声優】スキルでも持ってるのか⁉)
激しく嫉妬を感じつつも、目当ての商品を確認する。お持ち帰りの割りに、けっこう待たされたはずのじじいは、ご満悦だ。続いて、請求書を見た。
(え~……金貨20枚か。あるかな?)
物価や貨幣価値は、その国、その場所、その時によって変わる。だから経験するしかないと思って買い物を考えたが、いざとなったらジョーを頼るか、ネックレスでも売ろうと思っていた。
颯汰は、あの時に持って来た、袋をまさぐる。
(……ピッタリあった⁉)
「ありがとうございました~……」
片手に、赤いリボンの付いた杖を握ったまま、足早に店を出た所で、もう一度袋に手を入れる。今度も金貨が20枚出た。
「⁉ マジックポーチ……ですよね……」
「ふう~…… フフフ……」
「ククッ! やったぜ!」
あれから俺は、店に戻ると気になった物を、手当たり次第に購入し、袋に入れていく。【マジックポーチ】は、やはり出したい物をイメージすると、袋から出せる。他に何が入っているのかは、イメージできないが、金貨などなら、取り出す事が可能だったという訳だ。
初めてじじいに、主人公へのルートが照らされた…… かもしれない。
今日も、お疲れ様でした!