2 黒鬼と呼ばれた少年
長崎の暴れん坊は黒鬼になった。
黒鬼と呼ばれた男がいた。
高橋 燐という少年がいる。長崎の田舎で生まれた暴れん坊将軍だった。
幼いころはいい子ちゃんだったのだが、両親の不倫が影響で堕ちてしまった。
最初は父親だった、幼い燐を連れてカブトムシを採りに行くと夜に連れ出されたが、山ではなく隣町の人気のない駐車場だった。
そして、そこにいたのはカブトムシなんかではなく、知らない女だった。
その後、ちょくちょくその女と会う父親を見ていたが幼い燐にはそれが何を意味しているのか知る由もなかった。
暫くして、母親がその事に気づき大喧嘩して離婚寸前までなったが、何も知らない燐がそれを止めた。
それが悲劇の始まりだった。
数年後、燐が16歳の時だった この頃から母親が夜中にコッソリ出かけたり、友達とご飯とか言って朝帰りなんてのが頻繁に起こり始めた。
流石に燐もこの年になると薄々感ずいていたが、確たる証拠がなかったので何も言わなかった。
が、事態は自宅に掛かってきた一本の電話で急変した。
それは、母親の不倫相手の妻からだったのだ。
相手の奥さんは妊娠していて、大変な状況にもかかわらず、旦那が毎日のように朝帰りや夜中にコッソリ抜け出すなどで、怪しいと思った相手の奥さんは探偵に依頼したのだ。
結果、自分の旦那が知らない女とホテルに入って行くのを目撃し、その現場の証拠写真まであったのだ。
母親を問い詰めた燐に対して、開き直った母親は逆ギレした。
「お前がいたから! お前のせいで私の人生はめちゃくちゃよ!」
そう言って家を出た母親はそれ以降戻ってこなかった。
母親が家を出て数日後、父親はすぐに別の女を家に連れ込み、当たり前のように生活していた。
不倫がばれて逆ギレする母親。
母親が出て行った途端当たり前のように他の女と暮らし始める父親。
「はぁ もう何も信じられねー 限界だ」
両親への軽蔑と怒りで、嫌になった燐は一人実家を出た。
数年後、燐が20歳のころバイト先の上司の紹介で入れてもらった結構有名な工場で働いていた。
「おーい! 燐! 機械の調子の悪かけんちょっと機関室行ってみてこい!」
「了解でーす えっと機関室ー あったあった 調子っつっても俺がわかるわけ・・・。」
燐が機関室に入ったその時だった。
ドーン!!
突然の轟音と振動。
「なっ? なんや今の!! 工場の方からだっ!!」
燐は急いで工場に戻った。
燐が工場に戻って目にしたもの。工場の入り口におもいっきり突っ込んだ大型トラック、散らばる破片、下敷きになった人間、刀や銃で武装した大勢の男たちだった。
「なんだこれ! おいっ!おやっさん!皆!」
大声を上げたのがまずかった、近くにいた武装集団の一人がこちらに気づき刀を抜いたのだ。
「おやおや? 隠れてたのかなー ごめんなぁ死んでくれや!!」
男は燐に向かって襲いかかってきた!
だが男は知らなかった。燐は両親の影響で幼い頃から剣術道場に通いあらゆる流派の剣術を学んでいたことを。
燐は男の刀を奪い返り討ちにした。
「安心しろ 峰打ちだ。 まさか、現実でこんなセリフを言う事があるとはなー 今だけは、道場に通わせてくれた親に感謝だな。」
倒した男から情報を聞き出したところ、どうやらこいつらは何らかの計画を実行するためにこの工場を占拠しに来たのだそうだ。
工場の中には30人程の武装集団がいて、従業員が縛られ人質に捕られているらしい。
「何でこんなことに・・・。 でも、みんなが心配だ。」
燐は奪った刀を手に中へ乗り込んだ。
見たところ、さっきの男の話は嘘じゃないらしい。
!! ケガ人がたくさんいる! おやっさんは?
工場長であるおやっさんは、武装集団のリーダーっぽい奴に捕まっている。
おやっさんは身寄りのない燐を引き取ってくれた大切な人だった。
それを見た瞬間、燐の理性が飛んだ。
気が付くと、燐は飛び出し近場の敵をバッサバッサと切り倒していった。
背後から突然現れた燐に一瞬驚いた敵だったが、奴らもそう易々とは倒れてくれなかった。
無我夢中で暴れまくる燐に対して統率のとれた大勢の敵、しかし、燐は敵を圧倒していた。
「おやっさん!皆! 今助ける! そこをどけ!」
「よせー!燐! 来るな!バカ 逃げろー!!」
その時だった、 ドスッ 燐の腹に冷たい痛みが走った。
何が起きたかわからない燐が下を向くと、燐の腹に刀が突き出ていた。
後ろから刺されたのだ。 今まで無我夢中で暴れまわっていたせいか全身傷だらけで血まみれな事にやっと気づいた、その瞬間全身から痛みが湧き出てきた。
「グっ ガァアアアア!!」
正気に戻り全身から噴き出る激痛に耐え切れず呻いている燐を囲むように四方から刀が突き刺された。
「バカヤロー! 燐ー!!」
おやっさんが叫んだ時にはもう、燐の意識は薄れていた。
「フンっ 死にぞこないが。 餓鬼がずいぶん仲間を殺ってくれたが、もうこれで邪魔者は居なくなったな 人質を殺せ もう必要ない。」
敵のリーダーが倒れこんだ燐に背を向けて残った部下に指示を出していた。
動け! 動けよ!俺の体!! まだ、敵が 人質が・・・。 動けぇ!!!
その時、急に燐が起き上がった。
その後の事は覚えていない。
暫くして警察隊が突入し、事件は終息した。
「知らない天井だ 笑」
燐は知らない天井の部屋で目が覚めた。自分のベット以外何もない部屋だ。 すると、部屋のドアが開き一人の男が入ってきた。
「よぉー やっと目が覚めたか?暴れん坊 お前さん、一か月位寝てたんだぜ?」
「一か月? 俺生きてんのか? ここどこだよ てか、おっさん誰?」
「そうだな、おっさんは古賀だ 刑事だよ。 ここは、病院だよ。」
「刑事?俺は逮捕されたのか。 そうだ、皆は?あの後どうなった?」
「んー お前にはそれを知る義務があるな。」
そう言って、古賀刑事は話してくれた。
一度倒れた燐は、意識の無いまま起き上がり敵のリーダーを背後から切り倒した。 そのまま、残りの敵を全て倒してまたぶっ倒れたらしい。
その後すぐに警察隊が突入し絶句した。 そこで見たのは、血まみれボロボロの燐とその周りに散らばる敵の残骸だった。
「俺らが突入した時にはもう敵はお前さんに全滅させられてた。 人質は皆無事だったよ、工場長もな。 重傷者13人 死者19人。 それと、お前さんはこれまで散々やらかしてきたそうだな?それら全部含めてお前さんは最重要観察対象に指定された。一応、正当防衛と認められたみたいだな。 知ってるとは思うが今の世の中、最重要観察対象に指定された者は識別コードが付けられる。 おっさん的にはあんまこう言った呼び方はしたくないんだけどなぁ。 高橋 燐、お前さんは只今より、最重要観察対象とする。 識別コードは黒鬼だ。
お前さんはやり過ぎた・・・。」
そういっておっさんは出て行った。
逮捕はないが最重要観察対象か、コード黒鬼。 人生終わったな でも、おやっさんや皆が無事だったなら、まぁ いいか・・・。