第2話 転移先にて
俺は瞬時にここが何処か理解した。
周りの華美な装飾や足元のシミひとつないフカフカのカーペット。
正面には絢爛な椅子に腰掛け、白を基調とした清楚なドレスを着ている20代前半くらいに見える美しい女性。
さらにその左右に控える騎士然とした人たち。
そう、ここは王城の玉座の間というやつだろう。
そして中央で座っているやつが王様なのではないか。
これは異世界転移でよくあるパターンだ。普段からよくラノベを読んでいる俺は周囲の状況からそう考察する。
周りを見渡していると、俺以外に状況を理解しているのは正悟だけのように見えた。
その他の人達はただただ混乱している。
正悟の傍に寄るために移動しようとした瞬間、女王と思しき人物が口を開いた。
「ようこそおいでくださいました。別世界の方々。
私はレイロア・エンジェライト。この国の女王をしている者です。貴方達にはこの世界を助けてもらうべくきていただき……」
「何なんだよこれ!」
「何かの特撮か何か?」
まだ理解が追いついていないが、取り敢えず声を出しているのはクラスメイトの吉野勝久と藤原裕太だ。そして、その周りでまだ混乱状態の橋本友希、鈴山京花。
彼らは木村隼也の取り巻きである。
木村隼也
サッカー部の部長であり、イケメンで勉強もできるというクラス内カーストどころかスクールカースト最上位に君臨する非モテ男子の天敵みたいな奴だ。
ただの爽やかモテ男君なら良かったのだが、彼は極度の自己中心主義者なのだ。
しかしそれを知っているのはほんの一握りで、自分の評判が下がらないよう影でうまくやっている。
勿論俺はそれを知っているため、俺は彼のことをあまり好きではない。
決して女子に好かれてるからという理由ではない。
そう、決して自分がモテないからなどではない。
ついでに俺自身の説明もしておくことにしよう。
俺こと雨宮秋は基本的にスペックが平凡より少し上。運動神経だけは結構良い。
顔は中の上くらいで、クラス委員をしている。
さらに外部で武術も習っている。
だが別にスポーツ全般を普通の人より上手くできるだけで、飛び抜けた才能を持っているわけではない。
クラス内カーストは顔と同じく中の上くらいであり、良く言えば器用、悪く言えば中途半端な人間である。
唐突だが、ここで1つ俺の持論を話しておくことにしよう。
俺はなんでも器用にある程度まで上手にできる人より、1つのことに突出した才能を持っている人の方が羨ましい。
何をやっても結局自分より才能を持った人が後から追い抜いていくからだ。
一括りに才能と呼び、努力することから逃げているだけに聞こえるかもしれない。
だが俺は今までやる事には人一倍以上に努力は重ねてきた。特にスポーツには力を入れていた。
だが、勝てない。才能を持つ者には。
同じ時期に始め、特に努力をすることもなく簡単にレギュラーの座を奪っていく。練習も適当にやり、自主練も真面目にやってはいないのに。
才能とは適性のようなものだと思う。適性はそれを発揮する場所を見つけないと発見することはできない。俺はまだそれを見つけていないだけなのか、それとも持っていないのか。
持っていないのだとしたら一生負け続けるのか。
それは嫌だ。だから俺は何でも良いから才能が欲しい。
今何もできない人からしたら贅沢な願いに聞こえるかもしれない。なんでも卒なくこなす。これも一種の才能だ。だが、中途半端にできてしまうが故にそう思ってしまう。
と、そんな木村の取り巻き達が女王の言葉を遮った。
こういう時やってはいけなさそうな行動ランキングN上位に輝きそうな行動をとっている彼らに呆れていると、
「申し訳ございません。
我々は我々の勝手な都合で貴方達を強制的に転移させてしまいました。
ですがそうする他なかったのです。
この世界は今現在魔王軍が支配しつつあるのです。
魔王軍は様々な種族を力で御し、味方につけ、この国に侵攻しようとしています。
我々だけでは魔王を討伐することは叶いません。
このままですとこの国の人々は数年後には魔王軍に虐げられ過酷な生活をすることを余儀なくされるでしょう。
そのような惨事を避けるべく皆様にお力を貸していただきたいのです。
報酬は私にできることでしたら何でもいたします。
ですがらどうか、よろしくお願いします」
女王は悲痛な面持ちで目に涙を浮かべながらそう語り、頭を下げた。
不敬だ!とか言われて捕らえられるかもと思っていたが、どうやらそんな状況でもなく、本当に緊迫しているらしい。
そんな分析をしていると周りの男子たちはみんな女王に見惚れている。
女子までも少し頬を赤らめ、さらに木村の取り巻きたちに至っては何でもと聞いたあたりから何か様子がおかしい気がする。
涙目の美女の破壊力はすごいなと感じながら誰も何もしようとしないので、俺は女王に質問することにした。
こういう異常事態が発生すると人間は保守的になるものだ。誰も行動しないのも仕方がないだろう。
「女王陛下、私は雨宮秋と申します。
質問が3点ほどあるんですがよろしいでしょうか?」
「レイロアで結構ですよ秋様。どうぞ」
「はい。ではまず、元の世界に帰るにはどうすればいいのか?
これは何となく魔王を倒さないと帰れないとか言われそうですね。
次に私たちの魔王とその軍勢に対抗し得る力とやらについて。
最後は何故他の人間ではなく私たちが呼ばれたかです」
「協力していただけるのですか!?」
何という都合のいい解釈。
俺のどうせ帰れないし、協力せざるをえないんだろという投げやりな態度を協力してもらえると勘違いしたのか、レイロアは顔を明るくし、驚いたように答えた。
だいたいこういう時は帰れないだろ!とお約束を考えながら言っただけなのだが。
しかしこの世界の人がわかるわけないかと思い先程の質問に答える。
「いや、それは説明を聞いてみんなで話し合ってから決めたいと思います。
それに今はまだ全員が状況を、理解しているわけではないし、混乱していると思うので、少し落ち着いてから返答させてください」
「わかりました。では応接間に移動しましょう。
飲み物など用意させますのでそこで皆様が落ち着かれたら先程の質問に答えることしましょう」
俺の返事を聞き、レイロアは少し落ち込んだように見えた。
彼女の美しさが最初に感じた大人の女性が醸し出す妖艶さから少女のような明るい可愛さに変化していた。
やばい!可愛い!
おっといけない、俺は彼女の真意を見抜かねばならない。
こういう場合、呼んだ張本人が黒幕と相場は決まっている。これも異世界物のテンプレだ。
可愛い仕草でこちらを取り込もうと考えているかもしれないのだ。
そんな事を考えながら俺たちは女王に先導され騎士達に囲まれてながら応接間へ移動するのだった。