誤解
目を覚ますとまたしても見知らぬ天井が見えた。
倦怠感に襲われ、中々ベッドから起き上がる事が出来ない。
ベッドから体を起こそうとすると、手に違和感を覚えた。
見ると手錠が嵌められていた。
今いる場所は、ベッドと格子の扉があるだけの刑務所の様な場所だった。
(何処だここ?)
寝ぼけて働かない頭で記憶を必死に探す。
自分の最後の記憶では・・・・・・
(確か、森の中にいて、それで・・・・・・そうだあの女がいて、でもどうしてこんな場所に・・・・・・
徐々に鮮明になる記憶から先程の戦いで自分が攻撃を受けた場所を確認する。
(傷が、無い?何でだ、いつもの傷は残ってるのに?)
「おい、起きた様だな、出てこい」
声がした方向に目を向けると、格子の扉から見知らぬ男たちが自分を迎えにきた。
「あの、ここは何処ですか?」
不安を隠しきれない表情で問う彼に対し、男達は面倒だと言わんばかりの表情で答える。
「お前に発言権は無い。さっさと出てこい」
こういう時に抵抗しても後でより酷い何かになって返ってくるというのは経験から学習しているため素直に従う。
まるで自分が囚人になった気分だなと思いながら言われた通りに扉を出る。
両脇を男達に挟まれながら素直に付き従っていく。
この刑務所の様な場所は今どき珍しい石造りの家なのか床はタイルや木材ではない。
廊下は意外と長くこの家が結構な広さである事を証明していた。
脇の男達のように家に使用人が複数いる事からもお金持ちの家なのだと分かった。
暫く歩くと1つの大きな扉の前についた。脇の男が扉をノックする。
「例の少年を連れてきました」
「入れ」
扉の向こうから入室許可が出ると扉が開かれその先の部屋へと進んでいく。
部屋の広さはかなりのもので目の前には昔本で読んだ王様が座る玉座のような椅子に座る男性がいた。
「おい、モルス辺境伯様の前だぞ跪け」
乱暴に床に押しつけられ、膝に痛みがあるがこの程度は慣れたものだ。
「それで、その者が我が娘を襲った一味の者だと」
「は、そのように報告を受けております」
「ふむ」
辺境伯と呼ばれた男は無精髭の生えた顎を撫でながら何かを考えるようだ。
「何故我が娘を襲った?」
「あの、何の事でしょうか?」
「ほう、惚けるか。おい、少し痛めつけてやれ」
辺境伯から支持されると男達は身につけていた鞭をもって彼に向かって打ちつける。
「くぅ・・・・・・」
「そろそろ喋る気になったか?」
「だから、何の事か分からないと」
「おい、素直に吐くまでもっとやれ」
先程よりも更に強く激しく鞭を打たれ、血も流れ始めた。
(あぁ…結局どこに行ってもこういう運命なのか・・・・・・折角あいつらから解放されたと思ったのに)
自分の運命に絶望さえ感じる。
気がついたら見知らぬ場所に放置されており、森の中を歩き回り、挙句今はこんな場所で鞭打たれる。
いつから自分の運命はこんな事になってしまったのかと神様を恨む気持ちが大きくなる。
(こんな事なら生まれてこなければ良かった・・・・・・早く死にたい)
しかし、心の奥底から先ほどから別の感情が湧き上がってくる。
(あぁ、こいつらを殺して逃げないと)
黒く湧き上がってくる衝動を自分では抑える事が出来ずに、ドロドロとへばりついてくる。
「何故我が娘を襲った!」
「・・・・・・い」
「何だ?おい、一旦止めろ」
鞭を打っていた男達は手を止め命令に従う。
「ない・・・・・・」
「もっとはっきりと喋れ」
「知らないって・・・・・・言ってるでしょ」
既に顔も腫れ、全身痣だらけになり所々血も流れている。
日本で普通の生活を送ってきた少年には耐えられないような痛みを既に味わっている。
しかし、彼にとって痛みは日常茶飯事だった。
痛みを堪えながらも喋るくらいは出来た。
「まだ口を割らないか」
「俺は貴方の娘なんて知らない」
「そんな戯言を誰が信じると思う。我が娘を襲ったのでなければ何故貴様はここにいるのだ」
「そんなの俺が知りたい!何で俺はこんな所にいるんだよ!」
勢いで立ちあがろうとするが脇にいる男達に押さえ込まれてしまう。
「はぁ・・・・・・こやつから情報を引き出せればと思っていたがどうやら無駄だったようだな。牢屋に戻せ」
「はっ」
「暫くすれば自分から情報を吐き出すだろう」
その言葉を最後に彼の意識は途切れた。
その日から彼の地獄の生活が再び始まった。
手を鎖で拘束されて吊るされ、鞭で打たれる。
情報を吐けと言われるが知らない事なので知らないと答える以外にない。
拷問官は何が楽しいのか彼が苦悶の表情で声を上げるたびに下卑た笑い声をあげている。
それからどのくらいの日がたったのかまた起きてから鞭で打たれていると、それまでは開くことのなかった部屋の扉が開いた。
「失礼するわ」
「誰だよお楽しみの邪魔するのは・・・ってお嬢様!?」
扉の方に向かった拷問官から驚愕の声が聞こえてくる。
「こ、このような場所にどのような御用件でしょうか」
「ここに私の恩人がいると聞いたのだけれど」
「恩人?ここにはお嬢様を襲った一味のガキしかいませんが」
「その人は何処にいるの!?」
その声からはどこか必死さが滲み出ている。
拷問官もその剣幕に気圧されたのか素直に部屋に招き入れ、案内する。
「こいつがお探しのやつですか?」
「あぁ、酷い・・・・・・今すぐ彼を下ろして!」
「え?ですが、これは伯爵様の命令で」
「早く!」
「はっはい!」
拷問官は急いで彼の元まで行くと、吊るしていた彼を下ろして手錠を外す。
「ッ!」
「大丈夫ですか!?」
「うっ・・・・・・」
彼の意識は自分に近づいてくる少女の姿を最後に途切れた。




