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NEW life  作者: 如月駆
3/5

初めての感情



既に太陽は地平線に沈みだし、空は茜色に染まっている。

獣たちが跋扈し、活動を始めだす森の夕暮れ。

そんな森の外の街道を獣の咆哮をBGMに、1つの影が移動していた。


その影は、この先にある町のへと続く街道を馬車で走っている。

傍から見て分かるほど豪奢な馬車であることから、平民が利用する乗り合い馬車ではなく貴族が私有するものだとうかがえる。

街道はあまり舗装されておらず、時々石ころに車輪が乗り上げ、車体が跳ね上がる。

馬車の周囲を護衛の兵達が馬に乗って並走し、馬蹄の音が響く。

御車台では白髪に眼鏡をかけ燕尾服を纏う、まさに執事といった風貌の老人が馬を巧みに操っている。


「お嬢様、街へはあと1時間ほどで着きます。旦那様も今回のご帰還、喜んでいらっしゃいましたよ」

「分かったわ。家に帰るのは久しぶりだものね、私も早くお父様に会いたいわ!」


老執事にお嬢様と呼ばれた少女は、馬車の中から嬉しそうに返事を返す。

腰ぐらいまで伸びた豪奢な茶髪とクリっとした翡翠色の瞳が特徴的な、見た目15,6歳くらいの少女だ。

馬車の中には、その少女の他にメイドらしき妙齢の女性が一人側に控えている。


「お嬢様、学院での生活ももう終わってしまいましたね」

「仕方ないわよ学校なんて修学期間が決まってるんだから。それよりもこれからが長いのだから。マリア、帰ってからもあなたを頼りにしているわ」


この馬車は、国内有数の貴族家が通う全寮制のフィネル学院を卒業したお嬢様をお迎えし、領地へと帰還している最中である。

マリアと呼ばれたメイドは、お嬢様の学院在学中にお付として付き従っていた。

とある経緯からお嬢様に心酔しており、先の言葉にも満更でもないようで、興奮し頬を紅潮させている。


「勿論ですお嬢様、このマリアそのために……」

「ヒヒィーン」


馬が急に嘶き馬車が速度を落とし始めたため、マリアは最後まで言葉を続けることが出来なかった。

話の腰を折られたマリアは、何事かと勢い込みかけるが、お嬢様の手前どうにか抑えていた。


「どうしたのかしら」

「お嬢様、しばしお待ちを」


護衛の兵士が外から何やら焦ったように声をかけると前方に進みだした。

少しすると前方から何かを言い争うような会話が聞こえてくる。

何かあったのだろうか、とお嬢様が考えていると


ボンッ!!!


急に爆発音が轟いたかと思うと、馬の嘶きとともに馬車が横転した。


「お嬢様」

「きゃあ」


倒れる馬車の中では、悲鳴を上げるお嬢様を隣に座っていたマリアが庇うように抱きかかえる。

馬車の揺れが収まり2人は横転した馬車の扉からどうにか脱出すると、外の惨状に絶句せざるを得なかった。


御車台に座っていた執事は爆発が直撃はしていないだろうが、かなりの至近距離で受けたことが分かるほど服はところどころ焦げ破れ、全身に火傷を負っている。

かなりの重傷で、もはや助からないだろうことが分かる。

護衛の騎士たちも数名爆発に巻き込まれたようで、負傷者がでている。

それでも、お嬢様を守ろうと相手に剣を向けている。


そして、横転している馬車の前方には街道の行く手を阻むように盗賊集団がいた。

使い古されているであろうよれた服に革製の胸当てなどを身に纏い、それぞれ思い思いの武器を身に着けている。

ある者は剣を、ある者は槍を、ある者は弓を。

しかし、盗賊の中に一人だけフードを被り、明らかに他とは様子の違う者がいる。

ほとんどの盗賊達は体格がよく、ところどころ体に傷跡が見て取れる。

周りの盗賊達に比べると体格の細いその女は、どうやらリーダーであるようで、他の盗賊達に指示を出している。

その女は折れた木の枝のような物を二人に向け、厭らしい笑みを浮かべてみている。


「よくやったルーク、ほめてやるよ」

「フヒヒ、これで約束通り、俺にもお嬢様をまわしてくれよ」


盗賊の方へと歩いていく影が一つ、護衛隊の一人であった男だ。

少し前までの騎士然とした態度は様変わり、その顔は盗賊達同様厭らしい笑みを浮かべている。


「そう、あなたが私を売り払ったのね」

「すみませんね~お嬢様。でもこれも仕事なんでね、許してくださいよ」


何が面白いのかルークは悪びれる様子も無く、気持ちの悪い笑みで答える。

これが、お嬢様をさらって実家の貴族家に身代金の要求をする手筈であること。

身代金を受け取った後、自分たちで楽しんでから奴隷として売り払う予定であること。


「お、お前には騎士としての誇りはないのか!」

「そんなもん、あるわけねーだろが」


同僚である騎士たちは、怒り心頭といった様子でルークを責め立てる。

耐え難い侮辱であると、マリアは激昂し今にもとびかからんばかりの勢いで、ルークを睨みつけている。

一方のお嬢様はいたって冷静に状況分析を行っていた。


(おかしいわ、何であいつらは私を襲ってこないの?それに盗賊の中心にいる女、間違いなく魔法使いね。魔道杖を持ってるし、それなのに襲ってこないのはなぜ?もしかして、何かを待っている……)


実際、先ほどから主に会話を行っているのは、ルークのみである。

アークの後ろでは盗賊の頭らしき女が何事かを呟いている。

その姿を見た瞬間、お嬢様は背筋が凍り付く感覚を覚えた。


(やられた、魔法詠唱の時間稼ぎをしていたのね)


魔法は魔力を持つものにしか発動の兆候を感知することはできない。

そのために、反応が遅れ相手に隙を与えてしまった。

そして、魔法は発動するために詠唱を必要とする。

しかし、これは集中して行わなければならないいため、戦闘において致命的な隙を生む。

その隙を補うために前衛職である騎士などが発動までの時間稼ぎをすることが常識である。


先ほど爆発が起こったことから相手の魔法は火属性であると推測を立てる。

そして、森の中では自身も危険に晒すため使うことが出来ないはず、と。


「逃げるわよ、マリア」

「え、お嬢様そちらは危険……」


現在の状況では形勢不利と判断すると、状況の理解が追い付いていないマリアの手を引き、護衛の騎士たちを引き連れ、魔物が跋扈する森の中へと走り出した。


「お前たち、あいつらを逃がすんじゃないよ」


舌打ちをすると、女盗賊は他の男たちに指示をする。

男たちは折角の獲物を逃がしてたまるかとばかりに急いで追いかける。





「おい、あいつらどこに行きやがった」

「くそ、見失っちまった。けど、近くにいるはずだ」


盗賊達はターゲットを見失い、あちらそちらへと探し回っている。


既に日が沈みかけているため森の中はとても薄暗くなっている。

そのうえ地面は、木の根や蔦などが張り巡らされ足場も悪く、逃走のスピードも自然落ちていた。

現在お嬢様たちは、体力の回復を兼ねて、近くの茂みに隠れ盗賊達の様子を窺っている。


「お嬢様、大丈夫ですか?」

「静かに。今は声を出さないで、あいつらに見つかるかもしれないわ」


普段あまり運動をしないお嬢様は、他の者たちと比べて体力が劣っている。

それが、この集団の逃走スピード減少の最大の原因の一つでもあった。

普段の彼女であればマリアが自身を気にかけてくれていることが分かっただろう。

しかし、余裕が無い現在では余計なことに思考をまわすことはできなかった。


「我々が不甲斐ないばかりに、申し訳ございませんお嬢様」

「いざとなれば、我らこの身をとしてお嬢様をお守りしますゆえ、どうか安心なさって下さい」


周囲の騎士たちは覚悟を決めたような表情をしている。

すでに何人もの騎士が盗賊を道連れに倒れ、残りは二人を残すのみとなっていた。


(家に援軍を呼ぶこともできないし、このまま隠れていてもいずれ見つかるか、魔物に襲われてしまう)


混乱する思考を必死に回転させ、逃走手段を考える。

護衛達の必死の行動で、相手の数が減っているが現状は好ましくない。

夜が近づくにつれ、魔物が活動を始めるために危険度が増す。


自身の護衛達であれば魔物相手に後れは取らないと彼女は自負している。

しかし、それは万全の状態の話であり、逃走を重ね疲弊している現在では勝率も低いだろうことが推測できる。

追い詰められいることで全員精神的な疲労もかなり溜まってきていた。

そのためだろう、近づいてくる一つの陰に気が付かなかったのは。


「みーつけた。おい、こっちにいるぞ!」

「まったく、手間をかけさせるんじゃないよ!」


自分たちのすぐ側に現れたのは、ルークであった。

大声を上げ居場所を知らせると、すぐに他の仲間も集まり、彼女らを取り囲む。


「もう逃げることは無理ね」


盗賊達に周囲を包囲され、諦める彼女を誰が責められようか。

戦力差は明らかであり、むしろここまで逃げられたことを称賛するべきだろう。


「いいえ、お嬢様は私が守ります」

「い~や、終わりだよ」


女盗賊の指示が下り、盗賊達が襲い掛かる。

お嬢様たちが諦めかけた瞬間


「がぁっ!!」


苦悶の声を上げ、女盗賊が地に倒れた。

盗賊達も何が起こったのか分からないようで困惑している。


近くには、何かをくるんだ布が落ちている。

後頭部から血が滲み、布の一部にも血がついていることから、これが女盗賊の頭に直撃した物だと悟る。

何が起きたのかと布が飛んできた方向を見ると、一人の少年が目を血走らせ、棍棒を手に襲い掛かってくるところだった。




************************************





まず、母親の顔を見た瞬間、彼の中に絶望が襲ってきていた。両親が自分を逃がしてくれるはずが無かったのだと。


しかし、母親が他人を襲おうとしている状況を見ていると、自分の中に徐々に良く分からない感情が湧き上がってきていた。

あの女を殺さねばならないと。


感情に突き動かされるまま、武器になりそうなものは無いか周囲を確認する。しかし、森の中に武器などあるなずも無く、そこには折れた木の枝や石が転がるばかりだ。


彼は近くにあった木の枝と呼ぶには少々太い枝と、野球ボールほどの大きさの石を手に取る。石を投げ、致命傷を与えるにしては投げるにしては、母親とは若干距離がある。


何を考えたのか腰に巻いていた服を外すとそれで石を包み、それを頭上で回しだす。遠心力を乗せたそれは彼がただ投げるよりも明らかに早く、強い衝撃を与えてくれそうであった。


母親の様子を注視し、狙いを定めるとそれを放つ。と同時に近くに置いていた木の棒を持ち彼も動き出す。投げられた石は母親の後頭部に狙いたがわず命中し、その衝撃を余すことなく伝える。母親はその場に倒れ周囲の男達は何があったのかと、その場を見ている。


「な、なんだ?あ、姉御どうしたんですかい?」


男達がこちらを見るころには、彼我の距離は既に10メートルを切っていた。全員硬直したように動けずにこちらを見るばかり。手に持つ木の棒を振り上げると、一番近くにいた男に頭めがけて振り下ろす。すると、その男も先ほどの母親同様頭から血を流し地に倒れる。


「おい、今がチャンスだ行くぞ」

「分かっている。お嬢の護衛は任せるぞマリア」


これが、戦端の始まりとなった。襲われていただろう騎士然とした恰好の者達はこの状況をすぐに飲み込み、盗賊集団に襲い掛かった。


ただの盗賊が騎士といて修行をしてきた彼らに敵うはずもなく、また混乱から抜けきらないために一人、また一人と数を減らしていく。


彼は倒れた母親に追撃を行うべく、真っすぐ突き進む。しかし、目の前に騎士装束のルークが立ちはだかる。


「やってくれたな糞ガキ、ただじゃおかねぇぞ!!」


盗賊に加担しているとはいえルークは立派な騎士である。武道の心得があるわけでもないただの子供である彼に敵う相手では無い。


ルークは手に持つ剣を上段に構えると彼に向て振り下ろす。

彼の視界には死を予感させる剣が迫り、死を受け入れようとした。しかし、先ほど母親を見た時のような訳の分からない感情がいや、激情が湧きあがてくる。


「うわぁぁああああああああああ!」


激情に流されるまま、雄たけびをあげながら手に持つ木の棒で迫りくる剣に向かい打つ。

ただの木の棒が剣に敵うはずもなく、彼は木の棒ごと一刀両断されるはずであった。

しかし、ルークは何故か硬直したように動かなくなっている。


突き出した木の棒を勢いのまま、ルークを殴り倒す。しかし、鎧を纏うルークに打撃は致命傷にはならない。


彼はルークが倒れたときに手放した剣を素早く拾い上げると、まだ殴られた衝撃で立ち上がれないでいるルークに向かい剣を振り下ろす。

剣は鎧など存在しないかのように、ルークの身体を切り裂き、瞬く間に絶命させた。


周囲の盗賊達は自分たちの最高戦力であったルークとリーダーである女が倒れている姿を見ると狂乱をきたしたのか、我先にと逃げ始める。


騎士たちは盗賊達を追うでもなく、警護対象であるお嬢様の周囲に戻り、彼の動向を警戒している。

彼はそんな周囲の様子を気にすることなく、母親の元へ歩み寄ると剣を振り上げあらん限りの力で振り下ろす。


しかし、後頭部に致命的な打撃を食らわせたと思っていた母親は、彼の剣をギリギリ避けると、手に持っていた木の枝から炎を灯すと彼に向け放ってきた。


その炎は彼に当たると、爆発を引き起こしその体を吹き飛ばした。


「あなたたち、私はいいから彼を助けてあげて!」

「し、しかし、お嬢様あいつが味方かどうか」


その状況を見ていたお嬢様は居ても立っても居られなくなったのか、護衛達に指示を出す。だが、騎士達も彼が味方かどうか分からない状況では護衛を放棄するわけにはいかないという。


「先ほどの様子を見ていたでしょう!私たちは彼に助けられました。相手も今なら弱っています。私たちの安全のためにもお願い!!」


騎士たちは顔を見合わせると嘆息し、一人が飛び出し女盗賊に襲い掛かる。

魔術師にとって近距離戦は不利であるそのため、近距離戦闘にたけた前衛を配置する。しかし、仲間である盗賊達は既にいない。

その結果は当然の帰結だろう。彼が適当に振るっていたよりも流麗な洗練された一振りが女盗賊に襲い掛かり、一瞬でその命を絶命させた。


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