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NEW life  作者: 如月駆
2/5

目覚め

 


 誰かに体を揺すられて睡眠を妨害される不快な感覚が体を襲う。

 寝起き特有のだるさを感じながら瞼を徐々に持ち上げていく。

 まだ、寝ぼけているのか視点がうまく定まらない。目を擦りながら、少しずつ開けていく。

 寝床から起き上がるーーー瞬間気が付いた。普段生活をしている自身の家ではないことに。


 視線を周囲へと向けると、まるで教会のような場所にいることが分かった。

 教会のようなと前置きが付いたのは、この場所に人っ子一人いないからだ。

 そして、違和感の原因は現在自分が寝ている場所にあった。


 普段自分は布団やベッド等は使わずーーー両親に使わせてもらえていなかったーーー畳の床を直接寝床としていた。

 しかし、畳であったはずの床は木製であり、現在寝ているのは祭壇のような場所であった。


 傍から見れば今の自分の姿はまるで神に捧げられる生贄のように見えたことだろう。

 祭壇もどきから体を起こすと、目の前には教会にあるような長椅子が真ん中に敷かれているレッドカーペットを開け2列並び、壁にはステンドグラスがあった。


「どこだ、ここは……」


 普段生活をしている家とは違う場所で目覚めたことで思ったことが口を出てしまった。

 自分はなぜここにいるのか、と。

 これが修学旅行や臨海学校というような楽しいイベント事であれば良かっただろう。

 しかし、現在は3月でありそのようなイベント事など卒業式ぐらいしか無い。

 

 考えうる限り1番有り得ないが、まともだと思えることは、両親に捨てられたということだ。

 現代日本において子供を捨てることなどよっぽどの事情がない限り起きないだろう。

 それだけ、発展してきた国なのだから。

 しかし、両親は自分が邪魔だと思えば躊躇無く捨てるだろう。

 彼等にとって自分はサンドバッグ以上の何者でもないから。

 

 誰かに誘拐された、と考えることがきっと普通なのだろう。

 どう考えようとも、両親に捨てられたという考えだけは浮かばないのだろう。

 しかし、両親は自分をストレスの捌け口(サンドバッグ)にしていたので捨ててくれることなど有り得ないことはよく知っている。


 昔であればそんな優しさがあったと思われるが、虐待が日常化した現在ではあり得ないだろうとも。

 自分が家を逃げ出したという記憶は持ち合わせていない。

 考えるごとに混乱を極める思考を現在へと引き戻したのは一つの物音だった。


「ん?ネズミ?ああ、さっきはあれに起こされたのか」


 物音がした方へ視線を向けると自分から少し離れた場所にリスだかネズミのような小さな動物がいた。

 なるほど、あれに起こされたのだろう、睡眠妨害の犯人に目星をつけることが出来た。

 しかし、肝心の教会にいる理由には見当もつかないでいる。

 この混乱も長くは続かず、分からないことをいつまでも考えても仕方ないと意識を切り替え、現状の把握に努める。


「しかし、よく見るとすごいところだな……」


 単に言葉の羅列として見ればプラスに捉えられるが、自分の声音からはマイナスの意味が読み取ることができた。

 よく見ると教会のようだと思った場所は凄く寂れていたからである。ステンドグラスには所々罅が入り、割れているところもある。

 床や壁に使われている木材は誰が見てもわかるほど腐りかけているし、歩くたびに床はギシギシと音を立てるため、日本古来の建築物に見られる鴬張りを連想させられた。

 鴬張りとは違い、こちらの木材は経年劣化によって腐っているだけであるが。


 天井には蜘蛛の巣が張りめぐらされているため、しばらくの間人が利用していないことが分かる。

 まるで、違う時代の世界にタイムスリップしてきたかのようにボロボロの建物だった。

 そうして見知らぬ部屋の姿を見ていると、思い出されることがあった。


「そういえば、変な夢を見たな……異世界転生がどうとか」


 謎の声に告げられた異世界転生という内容はとても信じられなかった。

 姿も風景も何もかも見えず、聞こえてきた話の内容も荒唐無稽であったため、夢だったのだろうと結論付けた。

 夢は時間経過とともに忘れるものであるが、彼は普段夢を見ない。

 そのため、その時の記憶が鮮明に残っていたと思っている。


(考えてるだけじゃ、分からないか……一度外に出てみるか)


 床があまりにギシギシと音を立てるのでドアに着く前に床が抜けてしまうのではないか、と考えてしまう。

 幸いなことに、床が抜けるということも無く無事に扉へと到着する。

 ドアノブに手をかけ、扉が壊れないように最小限の力で慎重に開けていく。

 扉の隙間から差し込んでくる日の光に目を細める。

 光に目を慣らさせながらゆっくりと目を開くと、眼前にはさらに彼の混乱を引き起こす景色があった。


 彼はとある緑豊かな田舎に住んでいたが、眼前にはそこにある森よりも更に鬱蒼と樹々が茂る森林が広がっていた。

 樹海にでも捨てられたのか、と彼は考える。

 しかし、不思議なことに教会の周り半径30メートルには草木の一本も生えておらず不毛の地であるかのようだ。

 空には燦々と輝く太陽が真上に昇り、時間帯は正午だと推測できる。

 森のほうは、樹々に遮られ日の光はあまり見られない。


(これから、どうするか……)


 普通の人間であればいきなり見知らぬ土地に一人で放置されればしばらく混乱が続くだろう。

 しかし、絶望という感情は日常的に味わっていたため、自分は多少混乱するだけにとどまっている。

 すこしすると混乱から回復し、今後の行動計画を考え始めていた。


(まずは、食料を探さないとな……)


 生きるためにはやはり食事が欠かせない。

 虐待生活の中で食事を抜かれることはよくあったため断食には慣れている。

 そのため、何も食べなくても10日くらいはどうにか生きられる体になっている。

 それでも、食事が必要であることに変わりはないため、一度教会の中に戻り、水や食料品の類を探し回っている。


(何もないか、教会なら何かしらあると思ったんだけどな)


 溜息をつきながら心の中で悪態をつく。

 この場所が教会であれば修道女などが生活していたのではないか、と彼は考えていた。

 しかし、よく考えればこのような小さな教会【外から確認した大きさはログハウスほどであり、部屋は先ほどいた教会のような場所しかなかった】に人が住むはずもなく、まして教会の外観からして時代を感じさせることから随分と使われていないことが分かる。

 やはりこの施設を使っていた人たちはとうの昔に死んでしまったのか、と思う。

 しかし、ふと彼の中には新たな疑問が彼の中に生まれた。


(そういえば、何で生きようとしてるんだ?死にたいと思ってたはずなのに)


 ふと彼の心の中に湧いてきた疑問、それは生きようとしている理由だった。

 心が病んでいる人間でもない限り生きることに疑問を感じることはないだろう。

 しかし、彼は両親に虐待される生活の中、ある時から死を望むようになっていた。

 それこそが、地獄を終わらせる唯一の救いであると。


 そのため、生を望むことが疑問であった。

 両親から解放されたから?異世界転生などと夢を見たから?謎の声に人生を楽しめていないと言われたから?

 彼は今までの疑問を忘れたかのようにその疑問にのみ思考を回す。


 そして彼が出した答えは……


(まあ、とりあえずここを離れて着いた先で今後の方針は決めるか……生きるにしろ、死ぬにしろ。)


 行動指針を決めた彼の行動は早かった。

 荷物も何もないため、軽くストレッチや準備運動を行い、森を出る準備を始める。

 彼が急ぐのには理由があった。

 現在太陽は彼の真上にあるため、あと数時間もすれば夕暮れが訪れるだろうことが分かるからである。


 森の中に入れば熊などの動物に遭遇する可能性がある。

 銃などの武器を持っていない普通の人間である彼に、野生動物から逃げ切る自信はなかった。

 また、夜になればなおのこと危険が増える。


「急ぐか……」


 そう言うとあまり急ぐ様子も無く、森へ向かい歩き始めた。




 ******************




 森を歩き始めて一時間、未だ森の終わりは見えない。

 周囲の景色に変化はほとんど見られずただ、樹々が広がるのみであった。

 まだ明るい時間帯であるはずだが、森の中は木々に遮られ日の光はあまり届かず不気味な薄暗さを醸し出している。

 遠くから何かの鳴き声が聞こえてくるため、動物が存在していることだけは分かっていた。

 しかし、彼の興味はそこに対してではなく自身に向いていた。


(なんか、いつもより体が軽く感じるな)


 彼の体育の成績は特段優れているわけでもなく、劣っているわけではない。

 学校でもよくて中の上くらいであった。つまり、普通である。

 しかし、森を歩き始めてから1時間たっても特に息も乱れず、疲れる様子もない。

 常人であれば、整備もされていない足場の悪い森の中を歩けば数十分歩くだけで息は乱れ、疲労感も感じる。

 体力に余裕が生まれることは彼にとって喜ばしいことではあったが、夕暮れというタイムリミットは徐々に迫ってきているため焦りが生まれてくる。


(すこし、急いだほうがいいか……)


 そうして、走り出そうとした時どこからか水の音が聞こえてきた。

 疲れが無いといっても無限に動き続けることは不可能であることは彼も理解している。

 この森がどれだけの広さか分からない現在、食料も水分も無い彼にとっては水の確保は必要性の高いものであった。

 森の水場には動物たちがいる可能性が高く危険であると理解しているが、背に腹は代えられないと水音のする方へと移動し始めた。


 10分ほど歩くと湧き水が流れているのが見えてきた。

 水の流れは細く直径30センチメートルほどの水溜まりを形成していた。


 木の陰に隠れながら周囲にほかの生物がいないか様子を窺う。

 動物の鳴き声は近くからは聞こえず、ほかの生物の気配も感じられない。

 安全だと確信が持てた時には膝をつき、水場へと手を伸ばし水を飲み始めた。


(ここで水を見つけられたのは奇跡だな、助かった。しかし、水筒なんて持っていないしどうやって水を持ち運ぶか)


 水に出会えた奇跡を喜ぶ一方彼は新たな問題に直面した。

 水分を保存する容器が無いことである。


 人間は食事が出来なくとも1週間は生きられると言われている。

 しかし、水分は3〜4日とらなければ脱水症状に陥り死んでしまうと言われている。

 そのため、ここで水分を補給してすぐに先へ進むという考えは却下された。

 未だ森の終わりが見えない現状、再び水分を補給できる環境に出会えるとは限らないからである。


 しばらく悩んだ末、彼はおもむろに来ていた上着を脱ぎだした。

 脱いだ服を水の中へと放り投げ、服に滲み込ませ始めた。

 ペットボトルなど現代の保存容器を持っていない彼は、上着に水を滲みこませ持ち運ぶという考えを導き出した。

 強く握ったり、時間が経過することで水は蒸発してしまうが、無いよりはマシだと考えたのである。


 服全体に水がしみ込んだことを確認すると、水たまりの中から取り出した。

 しかし、彼は服を持ったまま不思議そうな表情をしていた。


(服は水を吸うと思ったより重くなるんだな……)


 水を吸った上着が彼の想像よりに重くなっていたことに驚いている。

 腕に巻き付け歩く予定であったが、疲れてくると足場の悪い森の中ではバランスがとりにくくなると想像できる。

 そのため、上着を腰へと巻き付け歩行に支障をきたさないことを確認する。


(はぁ……生きるのは大変だな)


 心の中で、愚痴を零すと森の出口を目指し、再び歩き始める。


 しばらく歩くと、先ほどの水音よりも聴き慣れた、人の声が複数聞こえてくる。

 近くに人がいると分かった彼は出口が近いと判断する。

 この先にいるであろう人物達に同伴しようとを頼りに歩き始めた。


 生い茂った茂みを掻き分け進んだ先で、問題の人物達は見つかった。

 木の影に移動し、隠れながら相手の様子を窺う。

 何故なら、どう見ても友好的になれそうなタイプの人間では無かったからだ。

 

 彼の視点から見た状況は、男女4人を野蛮な男達が囲んでいるという誰がどう見ても犯罪が現在進行形で進んでいそうな場面だった。


 その集団を観察しているとリーダーらしきローブを纏った女が現れた。

 その女の顔を見た瞬間、彼の心の中は未だかつて感じた事のない熱を伴った激情が襲っていた。

 

 その場に現れたローブを纏った女の顔は、彼の母親のものであった。





ブックマークしてくれた方ありがとうございます。

鴬張りの床って歩くとキュッキュッって音がするんですよね。

あれ不思議だな~何であんな音するんだろうって思うんですよね~。

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