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二銃士の交戦記  作者: 天竺霽
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第5話 お互いの信用

かなり久々の投稿です

「…なるほどね。割と怖い夢見てたんだな。」


シュラセットは一枚の紙を取り出しルナが話した内容をペンで事細かく書き込んでいった。

速書きが慣れているような手つきだ。


「で、その女がおそらくお前のお父さんとお母さんを殺した犯人だと。」


シュラセットは腕を組み目を瞑って脳内で考え始めた。

ルナが言った夢でよく出てくる内容、近頃シュラセットが怪しんでいる国王操作。

この二つの内容を合わせれば犯人の証言と行動は一致し、一つのストーリーとして繋ぐことはできる。

だが、ルナはシュラセットと出会ってから一週間も長い日数は経っていないし、親交を深めているわけでもない。

またお互いのことをしっかりと信用し合っていない状況である。

__ルナが言うことは正しいっちゃ正しいかもな。

__これが嘘か真かと言われたら真と信じたいところだが…なんせまだ会ってから数日ぐらいだしな。

目を開け一度ルナに目をやる。

ルナは頰に手を当てて何か考えているような素振りをしている。

__そりゃ俺のことを信用できるかといえばルナも否定しそうだな。

仕方ないと思うが、まずは行動あるのみと下準備を開始した。


「ルナが言った内容と俺が近頃見聞きしている証言とか行動からすると、偶然とは言えないほどに一致している部分が多い。もしかしたらその犯人とやらはもう絞られてきてるかもしれないが…。」


シュラセットは一度ここで区切りを入れると数秒の間を開けて単刀直入に踏み込んだ。


「…実際お前は俺のことを信用してるか?」


まさかの質問にルナは目をパチクリさせた。

予想通りの反応をしてくれたが、ルナの返答が気になる。


「私は……私のことを助けてくれたあなたとしては信用できる。でも、立場を考えると信用できない…。」


シュラセットはこの王国__ルガ王国騎士団副騎士長である。

王国直属の騎士団の副騎士長でもあるためいつ自分が王の前に差し出され牢獄に入れられるか、十分にその可能性もある。

その立場があるため指名手配犯のルナからすると敵のような存在であり、避けなければならない。

しかし彼は数日前、演技を民衆の前でうちルナを火あぶり台から逃走させるとすぐにこの家へ転がり込んだ。

ありがたいのはありがたいが、今後何をさせられるのかはもちろん分からない。


「まあなんとなくお前の気持ちも分からなくはない。俺の立場か…立場を捨てれば信じてもらえるっていうわけでもない話だとは思う。」


再びここで腕を組み考え始めた。

この二人の間にある壁を壊せば互いに信頼ができ、何事にも一緒に行動ができたりするのだろう。

だが壊し方にもよる。

一人で壁を難なく壊し、自分の強さを相手に証明する壊し方もあるし、二人で息を合わせて「せーの」で壁を壊すという方法もある。

普通ならば二人で壊した方がより仲が深まり、上手くいけばいつしか気が置けない関係にはなる。

だが状況も状況だ。

一刻を争うかのように今の世の中は逃げ出した指名手配犯を追いかけるのに夢中な人は少なからずいそうだ。

さらに偶然ルナを見つけるような民衆もいるかもしれない。

そのような人たちを避けながら無罪を証明するとなれば、いかに早く行動するかが大事になってくる。

判断や行動を一つでも失敗すれば、シュラセットが疑っている国王操作やルナの冤罪も闇に葬られ、迷宮入りになることも少なくともありえる。

ここまで考えると、シュラセットは信頼より時間の方が大切だと考える。


「…シュラセット。」


ルナがここでふと口を開いた。

顔を見ると視線は下を向いている。


「あなたのことは信頼しているかと聞かれたら信頼していない…。でも一人の仲間としては信用できるよ。だって、私のこと助けてくれたんでしょ?」


仲間。

シュラセットはその言葉に僅かに心がしめつけられた気がした。


「だって、私をその、清廉潔白であることを示すためにあの火炙り台から逃してくれたんでしょ。…そのことをしたから信じるってわけでもないけどその後の処理とかまあ色々と聞いてると仲間としては信用出来る、よ。」


「そうか…ならお前は俺のことを仲間としては信用するということか。」


シュラセットは小さく目を伏せた。

__かつてシュラセットは「仲間」として信頼していた人達全員に裏切られたことがあった。

その時彼は迷わずその人達を斬り殺した。

当初は有罪に問われ処刑台にかけられそうになったが、その剣術を国に買われ、騎士団に入団して収入などが安定し生活が良くなったものの、「仲間」に裏切られた心の傷は今でも癒えることはない。


「仲間…ねぇ…。」


シュラセットは小さく呟いた。

ルナは聞こえたのか聞こえていないのか何も反応をしなかった。

__だが、たった一度だけでへこむ男がいるかっての。

目を瞑り、息をすうっと大きく吸い、吐き出した。

なぜだが心が軽くなったような気がした。


「よし、なら俺はお前を信用する。」


ルナは唐突な告白に驚き思わず「ん?」と思った。

だが、初対面である自分を信用してくれ、自分の無罪を証明するために共に立ち上がってくれるのなら…と思いルナも言葉を返した。


「私も…私もあなたを信じる。」


ルナは立ち上がり天井を見上げた。


「私もあなたを信じる。それ相応の事をしようとしてくれるのだから。だから私もあなたに対等な利があるよう努める。」


少女はこちらを向き左手を差し出した。

何故だかその手は数日前と比べ真っ直ぐになっているように見えた。


「今日のこと、刻んでおきますよ。」


ふふっと年相応の少女らしく笑いかけた。

自分で笑っているところを見るのは初めてだ。

その表情にこ胸を打たれ、今この瞬間を切り取りたい衝動に駆られた。


「ああ、刻んでおくよ。」


シュラセットはその左手に自分の右手を差し伸べ立ち上がった。

立ち上がると、身長差は親子並みにあり体格もかなり違う。

性格も見た目も違うが、心だけは同じであった。


「ルガ王国騎士団副騎士長ではなく、シュラセットとして、な。」












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