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二銃士の交戦記  作者: 天竺霽
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第4話 昔の、そのまた昔の夢

「レクリア、あなたはここに居てなさい。」


「僕達が食い止めるから何もしなくていい。いいな、レクリア。」


__ああ、またこれか…。


「嫌!父さんと母さんを守るの!二人は下がってて。」


「なぜお前は下がらない!言ったじゃないか、なんとしてもお前だけは助けてやるって!」


__それにしても、なんで私、炎の渦の中にいるの…。


「どうして最期くらい言う事を聞かないの!最期になるかもしれないから聞いてよ、ねえ…聞いてよ…。」


「嫌だよ!嫌嫌嫌!守りたいの、護りたいの!だから二人とも下がってよ!」


__『守りたい』か…何を守りたいのかな…。


「父さんと母さんはお前を苦しませたくないんだ!だから早くさ__」


グジュッ


肉が裂けたような生々しい音が響く。

同時に父親と母親と見られる二人の背中から血が一瞬にして溢れ出る。


「__っぁあ!」


「__っグ!」


二人は地面に崩れるように倒れた。

寸前まで話していた人がもう何も話さなくなった。

血がじわじわと地を浸食していた。

口からもポタポタと血が滴り落ちていく。


「ぁぁ…あ……ぁあ。」


幼い少女にとっては残酷すぎる光景だった。

何の音も耳に入らなくなり全身が縛られたように動けない。

人間はこうも簡単に殺されて命を絶てるものなのか。

そう考えると全身が恐怖という名の鎖にに囚われた。


「…あなたが何もしなかったからあなたのお父さんとお母さんはこうなってしまったのよ。」


目の前から女性の声が響き渡る。

自分の父親と母親を殺したと思われる人物だ。

女の手や服にはまだ真新しい返り血が付着している。

顔にも付いていたがその顔を見たくなかった。

__笑っていた。

ただ、笑みを浮かべている。

女は自身の手についた返り血を眺めるとそのままべろりと舌を出して舐めた。

恍惚とした表情を浮かべ、やがて氷のように冷たい無表情に戻った。


「例えばあなたが何か行動を起こしていればこの二人は私に殺されなかったのよ。例えば言い争いをせずにすぐに二人の前に立ち塞がるとか。他にも色々あるんじゃないかしら?」


「……私が、悪いの?」


女は首を左右に振った。

腰まで伸びてある黒髪がしなやかに首に合わせて左右に揺れ動く。


「いいえ、あなたにとっては自分が悪いと思っているかもしれないけど、私にとっては良い事だわ。ありがとう。感謝するわね。」


女は幼い少女の頭を撫でようと手を伸ばした。

__この子も残念な子ね。私が引き取ってあげようかしら。

親切心があるものの、人を二人も殺した殺人鬼であることには変わりない。


「…やめて。」


少女が撫でようと伸ばす手を寸前で片手で止めた。

少女にとってはかなりの力を加えたはずだが女にとっては軽い力だった。

だがそれだけではやめなかった。


「どうしたの?良い事したから撫でようとしているのに。血が付いているから嫌かな?」


「…やめて、やめろ……薄汚い大人が…。」


「ん?お姉さんに対してその口調はどうかしら?私以外なら殴られているわよ。」


少女は押さえつけていた女の手を離した。

すると少女は何かを呟いた。


「…ぇろ。」


「あらどうしたの?声が小さすぎてさすがのなんでも聞こえる私でも聞こえないわ。もう少し聞こえるようにしてくれないかしら。」


「お前は今すぐその場から消えろおぉ!」


我を忘れたように無我夢中で自分の思いを真っ直ぐに叫んでいた。

目が開き自身の拳を握りしめ、そして立ち上がった。

幼い少女なのだがやけに剣呑なその視線が女に突き刺さる。


「あらら。私に対してそんなことを言う野蛮少女なの?ダメよ、良い事をしてくれたのに傷ついちゃうわ。」


「だから消えろって言ってんだよ!分かったなら消えろ!今すぐ!」


「そんなに言うなら…私があなたを消しちゃうわよ?」


何一つ変わりない笑顔で微笑みかける。

再び同じ鎖に囚われる。


「ッ…ゥゥ。」


思わずその笑顔に再び恐怖を感じつつも負けじと言い返す。


「い、いいよ!私を消しても!ほ、ほら消してよ!」


「よくモノを言う子ね。…あらもうこんな時間。もう少し戯れていたいけどそろそろ時間だし帰るとするわ。」


女は少女の隣にしゃがみ込むと他者に聞こえないように小さく告げた。


「最後に一つだけ言い残してあげる。私はあなたのお父さんとお母さん、次来るときはあなたの血を目当てで来るわね。それで、関係ない話だけど…。」


「私はある人を操ってこの国の王になるわ。絶対的支配者に。その暁にはさっきも言ったけど…あなたの血を狙いに行くわよ。」






「…ん、ぁあ。……またあの夢…。」


「ん?起きたか。」


ルナが夢から覚めると隣にシュラセットが座っていた。

よく見てみるとシュラセットの目元にクマが出来ていた。

おそらく長い時間隣に居てくれたのだろう。

そう思うと自然と胸が熱くなった。


「起きてから悪いが、ちょっとこれからのことで言いたい事があるんだけど…いいか?」


「これからのこと?」


「ああ、そうだ。無罪を勝ち取りに行くための方法だ。」


シュラセットは自身のポケットからメモを取り出すとペンを走らせた。

何人か人を描き、それに文字を書き加えていっている。


「まずは…これは初めて聞くかもしれないが国王を操っている奴がいる。」


「国王を操る…。…あっ。」


__そういえばさっき夢で見た。誰かを操るって。

先程ルナが見ていた夢を思い出してみた。

最後に告げた言葉に中に同じ言葉があったはずだと。


「あの…シュラセット。」


「どうした?」


「私前から連続して見ている過去の夢があるの。多分私が前に経験した出来事が夢に出ていると思うんだけど。それである女の人がいてその人がなんかある人を操ってそれで…。」


「そんな夢を連続して見てるのか、何々、もっと聞かせてくれ。」


意外にも話に食いついてきたことに心底びっくりした。

__凄く興味深そうに聞いてる…。何だかこの人面白いな。

じっとシュラセットの顔を見つめていると当の本人が何かに気づいた。


「どうした?俺の顔に何か付いてるか?」


「いや、何でもないよ。面白い人だな…って思ってみてただけ。」


平和な状況が一日でも多く続いて欲しい。

そうは思ってはいるものの、自分は指名手配犯だ。

一年でも、一ヶ月でも、一日でも、一刻でも早く無実を勝ち取りたい。


__何か行動を起こさないといけないよね。


__晴れていつか色んなところを歩ける日にためにね。




















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