ふれるぬくもり。
10月3日は有里紗ちゃんのお誕生日だから書いてみました
カレンダーの日付を見て、息を呑む。前から準備して渡しそびれてたけど、
ポケットの中にあるラッピングを軽く見つめて、それからおずおずと声を掛ける。
「ねえ、有里紗ちゃん」
「何ですか、志乃先輩」
ちょっとツンとした声で、こっちを振り向く。そういえば、有里紗ちゃんは明日が試合なんだっけ。そういえば、今日は軽めの調整だって、私より早く戻ってきてたな。うちは昨日だったからすっかり忘れかけてた。
「お誕生日おめでと、有里紗ちゃん!」
「あ、……ありがとうございます、志乃先輩っ」
慌てたように姿勢を直して、土下座でもしそうなくらいに頭を下げる。そういうとこは、相変わらず真面目だなぁ。そんなに固くならなくたっていいのに。試合前なんだから、ピリピリしてるのもわかるのに。
その目の前にうちも座って、目線の高さを同じくらいにする。有里紗ちゃんのほうがちょっと背が高いから、完全には合わないけど。
「そんなに緊張しないで、ガッチガチになっちゃうと、上手く足動かないから」
「わかってますよ、それくらい……、でも、志乃先輩にきつく当たっちゃったから」
「いいよ、それくらい。それよりも……、渡したいものあるんだ」
ようやく、話を切り出せる。プレゼントにしてはちっちゃすぎるものだから、そうは言えなかったけど。
「なんですか?」
「これ、開けてみて? ちっちゃいのでごめんね?」
きれいにラッピングされたちんまりとした袋を、有里紗ちゃんに手渡す。
その袋を開けて出てくるはずのものは、明るいオレンジのシュシュ。
「これ、試合のとき付けてほしいなって」
「いいですけど、……どうしてですか?」
ただのわがままだけど、ありのままの思った気持ちを伝える。複雑に言おうとしてもできないし、ただ真っ直ぐ走ることしかできないから。
「そのね、……有里紗ちゃん、大会のときは髪結んでるでしょ? それつけてれば、どこにいるかわかるから、……有里紗ちゃん、すっごくキレイだから、ずっと見てたいの……、こんなのしかあげられなくて、ごめんね?」
「そんな、嬉しいですよ、あたし……っ」
顔の奥、ずっと熱くなる。有里紗ちゃんのことを好きになってから、そんなことばっかりだ。
俯いて、上目遣いだけで前を見ると、真っ赤になった、きれいな顔。普段の明るいムードメーカーな様子からは、想像できないくらいに。
体が、有里紗ちゃんを軽く抱きしめていた。
「や、志乃センパイ……っ」
「ただ、ぎゅってしただけだよ?」
「でも、なんか恥ずかしくて……っ」
よかった、いつもの有里紗ちゃんだ。私にしか見せてくれないようなとこ、いっぱい見つけて。ちょっと、からかってみたくなる。
「もっとすごいプレゼント、してあげよっか?」
「そんな、あたし明日試合が……っ」
「大丈夫、ちゅーするだけだから」
体が固まった隙をついて、そのくちびるに、うちのそれを乗せる。くちびる同士の間でなったちゅって音も、有里紗ちゃんが耳まで真っ赤になって、頭から湯気が出そうになってるのも、いつもと同じ。
「明日は、いっぱい頑張ってね、有里紗ちゃんのお誕生日と、二人で区域大会出る記念で、お菓子パーティーしよ?」
「もう……、言われなくても分かってますよ、志乃センパイ」
有里紗ちゃんの手が、背中に触れる。普段だと、有里紗ちゃんは恥ずかしがってなんにもできないはずなのに。
……でも、そうやって近づいてくれるのが、嬉しくないわけがない。
大好きだよ、有里紗ちゃん。
進む道は違うかもしれないけど……、それでも、こうやって二人で歩いていけたらいいな。
ギリギリ間に合ったマンですね。よかったよかった