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ドラゴニック・ブレイブ  作者: 丸くなれない針鼠
2/8

第二話



「愚か者! そんな事も知らんのかっ!」

 謎の声が洞窟内に反響した。その声に驚いてバルが飛び起きる。

「うっ!? う? うう?」

 何が起きたのだと目を見開いて首を横に振っている。すぐに勇汰を見つけて、事情を聞

きたがっていたが――。

「えっと……。ゴメン。俺もよくわかんない」

 尋ねられた勇汰も首を傾げるしかなかった。

 ただ解るのは大きなフレイバルの後ろに、見知らぬ人間が立っている事だけ。その人物

は……残念ながら逆行のため姿が解らないものの、人間の男だと解る。加えるなら何とな

ーく偉そうにしているのも伝わってきた。

「まったく! こんな奴が勇者だと言うのか!? 冗談ではないっ! 私は認めんぞ!」

「……? 勇者? さっきも言ってたけど……。俺の事?」

 勇者設定か。だとしたらさすがに恥ずい。

「チッ!」

 男の舌打ちが洞窟内で増幅されて響く。何か知らないが、ここまで露骨に嫌な顔されて

は、勇汰も気分が悪い。

「さっきから黙って聞いていれば……。何なんですか!? いきなりやってきて。名乗っ

たらどうですか?」

「ふん! 生憎。お前のような小僧に名乗る名前は無い!」

「騎士団の者だ。神殿の使いで勇者である君たちを迎えに来た」

 答えたのは大きなフレイバルだ。

「騎士団? 神殿?」

 それって一体?

「ふん。そんな事も知らん田舎者が!」

「お黙りなさい! ヴィクター!」

 さっきから勇汰をバカにする男を叱責したのは、彼の後ろから現れたもう一人だった。

「うぐっ……。エマ様」

 エマと呼ばれたのは女性だ。彼女は男とは違い、洞窟の中に入ってきて、筋肉痛で動け

ない勇汰の隣に座った。

「申し訳ありません、勇者様。この度は召還の儀が失敗してしまい、このような事になっ

てしまいました」

 エマは深々と頭を下げる。

「エマ様! なりませぬ! 守護竜の巫女である貴女が、このような男に軽々しく頭を下

げるなど!」

「ヴィクター!」

「うっ!」

 エマに睨まれた男は明らかに動揺して口を噤んだ。

「度重なるご無礼。本当に謝罪いたします」

 頭を深々と下げるエマに勇汰は声をかける。

「いいですよ。気にしないでください。それよりも……事情がわからかったので助かりま

す」

 これでようやく、ストーリーが進められると喜んだ。正直、ノーヒントで異世界を歩く

のはゾッとしてた所なのだ。

「はい。もちろんです。その為に私共と一緒に守護竜の神殿へ来てもらわなければなりま

せん」

「守護竜の神殿……。そこでなければ話せないの……ですか?」

 早く事情を知りたい。好奇心が疼く勇汰にとっては、餌を目の前に待ったと食らった犬

も同然だった。

「はい。申し訳ありません。他の勇者様もそこでお待ちいただいておりますので」

「他の勇者? 俺以外にも異世界から召還された勇者がいるの!?」

 そのパターンは全く想定してなかった。自分以外にもいる。その事実が勇汰の心を勇気

づける。

「……わかりました。行きます」

 勇汰はバルの堅くなった頭を撫でる。

「じゃあな、バル。俺……行くよ」

「う、ぅ……。ゆうたと別れるの。寂しい」

「それなら大丈夫です。そのドラゴンも一緒に来てもらいますから」

「え? いいの?」

「はい。そのドラゴンは勇者と絆を結んだ守護竜の後継者なのですから」

「後継者??」

「ううっ!? バルがっ!?」

 体をビクンと跳ねて驚くバル。

「…………そんなにスゴい事なの?」

 言葉にならずに、バルは頭を何度も縦に振る。

「……ふうん。わかった。じゃあ早く神殿に行こう」

 もう知らない単語に首を傾げるのは飽きた。早く事情を解りたい。

「ではこちらへ」

「うっ……。いった……」

 筋肉の悲鳴に耐えながらゆっくりと立ち上がる。前の方でヴィクターと呼ばれた男が軟

弱者とバカにする声が微かに聞こえたが無視。それよりも――。

「ごめん。一緒に町に行けなくなった」

 勇汰は約束を果たせない事をフレイバルに謝った。

「気にしなくてもいい。どのみち。昨夜の件でちびたちが弱っていてな。しばらくは休ま

せないとダメなようのだ」

「ちびたちが…………」

 そう言えばちびたちの姿が見えないなと、勇汰は探したが……見つけられなかった。

「大丈夫なの?」

「ああ。大丈夫だ。今はぐっすり眠っているが、明日には元通りに元気になるだろう」

「そっか。よかった」

「ありがとう。ちびたちを心配してくれて」

「あ、うん。こっちこそ。ありがとう。助けてくれて」

「お互い様だ」

「うん。お互い様」

 勇汰が頭を軽く下げる。

 今度はフレイバルがバルに視線を向ける。

「バル。まさかお前が後継者に選ばれるとはな。だが選ばれた以上は見事、役目を果たせ

よ」

「うっ、ううぅ……」

 なぜか嫌そうな顔をするバルを勇汰が抱き抱える。

「なんか知らないけど……。俺もいるからさ。頑張ろう!」

「うう……」

「それじゃ。行くね。元気でね!」

「ああ。君たちこそな!」

 勇汰とバルはフレイバルに別れを告げて出発した。


・          ・          ・          ・


 ガタンガタンと車輪が跳ねる。

「いでっ! いでっ!」

 体が宙に浮き上がる度に勇汰の悲鳴が上がる。

「大丈夫ですか?」

 エマが心配して声をかけてくれるが、勇汰はただひきつった笑顔で返すしか出来ない。

「申し訳ありません。まだ舗装されていない道ですので、もうしばらくご辛抱ください」

「は、はい……」

 勇汰は壁際へと体を寄せる。塗装された竜車の壁に体を添わせる事で振動をちょっとで

も和らげようと試みた。

「竜車……ね」

 馬が引く馬車のドラゴン版ってところだ。

 窓から外を覗く。森の中を走る竜車を引くドラゴンの背中が見えた。

 四足歩行の緑色の鱗に覆われた羽の無いドラゴン。軽自動車くらいの大きさで、その一

頭だけでこの竜車を引けるだけの力を持っている。

「…………いろんなドラゴンがいるんだなぁ」

 この世界にはいろんなドラゴンが暮らしてる。そう聞かされたので、早く出会いたいな

と心がワクワクしてる。

「む!」

 ドラゴンの背中を眺めていたら、そのドラゴンを操るヴィクターと目が合ってしまった。

彼は露骨に嫌な顔をして睨み返してきた。

「どうされました?」

「…………あのヴィクターって人さ。何であんなに喧嘩腰なの?」

 初対面にも関わらず、高圧的で上から目線。相手を嫌悪してる事を隠そうもしない。

「それは…………。申し訳ありません」

 エマが申し訳なさそうに深々と謝る。

「彼は…………。普段の彼はあのような人物ではないのです。誰に対しても礼儀正しくて、

優しく、勇敢で正義感あふれる方なのです」

「…………それにしては、ちょっと、ね」

「それは…………。その…………。本当に申し訳ありません」

 またしてもエマが深々と頭を下げる。勇汰にはこれ以上の詮索はしないでくれと、お願

いされてるように思えた。

「…………わかった」

 解ってはいないが、こちらも出会ったばかりで情報が無い。たまたま虫の居所が悪かっ

たのだろうと、納得――。

 ガタン!

「いでっ!?」

 車輪が跳ねる。今度のはかなり大きい。まるでヴィクターが嫌がらせをしてるのではと

思えてくる。

「大丈夫ですか? ひょっとして怪我をされているのでは?」

「いや……。怪我は無い、よ」

 魔物に襲われた時にはかすり傷がたくさんあったこの体。一晩寝たら――いや。手の甲

に紋章が出て自分の体が炎に包まれたら力が沸いて傷も癒えていた。今ある激痛は恐らく

筋肉痛だ。あの炎の力で自分の身体能力が一時的に上昇したその反動――だろうと推測し

た。

「魔物に襲われて頑張ったら、体が痛くて痛くて」

「フレイバルからお聞きしました。ゆうたさんは魔物を倒したのだと」

「そんな……。倒したのは、俺だけの力じゃないよ。バルもいたからね」

 そのバルは竜車のイスの上で力を抜いてだらけきっている。

「よろしければその話をお聞かせ下さい」

「うん。いいよ」

 勇汰はここに来てからの出来事を簡単に説明した。

「そんな事が…………。本当に申し訳ありません。私が召還の儀を失敗しなければ。ゆう

たさんを危険な目に遭わせる事などなかったのに」

「別にいいよ。何とかなったし。それにそのお陰でバルと出会えたし」

「う?」

「こちらに来て早々に火の守護竜の後継者と出会えるなんて……。それがせめてもの救い

です」

 エマが両手の指を組んで祈る。

「守護竜……。後継者……ね」

 勇汰は出掛かった質問を喉仏の所で押し止める。聞きたいことは山ほどある。ありすぎ

て今、質問して答えを聞いてもそれを整理できそうにはない。

 それに自分以外にも異世界から召還された人間がいると言うし。

「…………ん?」

 ふと思った。

 これがゲームやマンガなら。主人公は自分で、他の仲間は女性ばかり。つまりハーレム

路線ではなかろうかと。

「むふ」

「どうされました?」

「いや、何でも」

 ちょっとだけ抱いた邪な感情を、清浄な巫女様に悟られぬように口を噤んだ。


・          ・          ・          ・

 

 ガタンゴトンと竜車に揺られて半日ほど過ぎてようやく目的地の神殿へと到着した。

 始めの頃は初体験の竜車の旅を楽しんでいた勇汰も、神殿に着く頃にはさすがにぐった

りしていた。

「あー…………。疲れた」

 竜車を降りて開口一番。でた感想がそれだった。

 目の前にある神殿が、教科書で見た古代ローマの石造りの建造物に似てるとか。エマの

巫女装束が真っ白い法衣を纏っていて、結構可愛いなとか。ヴィクターはムカつくけど着

ている鎧が格好いいなぁとか。

 そんな感想をすっ飛ばして出た。

「ふん。情けない。この程度の移動でもう根をあげるとは。そんな軟弱者のくせに勇者と

は。まったくふざけてる!」

「ヴィクター!」

 小言で出迎えるヴィクターをエマは叱責する。叱られた彼は不満げに神殿の中へと入る。

「申し訳ありません!」

「いいよ。なんかもう……。疲れたから」

「では。休憩いたしますか?」

「ううん。それよりも話しが聞きたい。俺が今置かれている状況がハッキリしなくてモヤ

モヤするから。これじゃどっちみちゆっくり休めないよ」

「わかりました。ではこちらへ」

 エマに案内されて神殿へと入る。煉瓦みたいな石のようなものを積み上げられて作られ

た薄暗い廊下を進む。途中でエマが着ているような法衣を纏った女性とすれ違った。彼女

たちは明らかにエマよりも年上に見えたが、挨拶の仕方や仕草などから、エマに敬意を払

っているようだ。

「ひょっとして…………。エマさんって偉いの?」

「そうですね。一応私は守護竜の巫女を任されていますので」

「その守護竜の巫女と言うのが一番偉い役職なんだ」

「いいえ。私の上にはまだ大司祭様がいらっしゃいます」

「じゃあ、エマさんはナンバー2? どうしよう。俺、もっとちゃんとした方がよかった

かな?」

「いいですよ。おそらく、私とそう歳が離れていないですので」

「え? エマさん。歳いくつなの?」

「私は十六です」

「十六……。俺と二つ違い。俺は十四だよ」

「やはりそうですか」

「やはり?」

「はい。他の三名も貴方と同じ年齢です」

「へー。俺と同い年なんだ」

 一体、どんな子なんだろうと胸が高鳴る。

「さあ。こちらです。もう皆さんもお待ちかねのはずです」

「う、うん」

 木で出来た扉の前に立つ。経験したことないが、きっと転校生はこんな気持ちだろうと

思う。この上手くやれるかどうかの不安やドキドキは。

「では。こちらへ」

「は、はい!」

 声を裏返させて扉をくぐる。そこに居たのは美少女たち――ではなくて、三人の少年だ。

(野郎ばっかじゃねぇか!)

 さっきのドキドキは胸の中のツッコミで吹き飛んだ。

 ハーレムルートが無くなったと嘆きながら空いてる席へ座る。この部屋は学校の教室に

似た構造だ。正面の壁に黒板があり、教壇があり、机と椅子がある。その椅子に四人はバ

ラバラに座った。

 エマは教壇に立ち、こちらを見ている。

「皆さん。この度はこの世界へ――カウンティアへ来ていただき感謝いたします。勇汰さ

んを除いた三名にはすでに簡単な説明を致しましたが、勇者様が全員揃った所で改めて詳

細な説明を致したいと思います」

 エマがクルリと背を向けて黒板に何やら図を描き始める。

「この世界は皆さんが暮らす世界とは異なる異次元にある世界です。この名前は「カウン

ティア」と呼ばれ、人間と、ドラゴンが共存する平和な世界です。

 ですがある時。この世界に強大な邪悪なる者が出現しました。邪悪なる者の名はラグナ

ゾート。ラグナゾートはその邪な力で魔物を生み出し、このカウンティアを滅亡寸前へと

追い込みました。

 もうダメだ。人々とドラゴンがそう諦めかけた時でした。異世界から召還された勇者様

が選ばれしドラゴンと共にラグナゾートへ立ち向かい――見事勝利致しました。

 その後、選ばれしドラゴンは守護竜となりこの地を見守ってきました」

 エマが一息つく。空気が少し重くなった気がした。

「それが今から数百年も前のことです。守護竜は寿命で亡くなった後も、その御力でこの

地に住まう人々とドラゴンを守っていただいております。ですがその御力も消えつつあり

ます。それに伴い、魔物が復活し再びこのカウンティアで驚異をもたらそうとしています。

 そこでこのカウンティアを魔物から救うため、伝説をなぞって異世界より皆さんを召還

したのです」

 一人一人、エマが勇者の顔を見つめる。最後に勇汰の顔を見たエマが申し訳なさそうな

顔をする。

「本当は勇汰さんもこの神殿へ召還するはずでした。ですが……勇者召還を察知した魔物

によって邪魔をされてしまったのです」

「だから俺だけ森の中に召還されたのか。そんでもって魔物に襲われたし」

「…………本当に申し訳ありません。私の力が及ばす」

「いいですって。しょうがないですよ。それよりも。それじゃ、俺たちの役目ってその魔

物を倒すことなんですか?」

「いいえ。皆さんには勇者として次代の守護竜を育ててほしいのです」

「育てる?」

 勇汰はバルを見る。そう言えばバルが守護竜候補だと。

「勇汰さんはもう守護竜候補を見つけて契約なさっていますね」

「契約って、コレの事?」

 右手を挙げる。少し意識を集中すると右手の甲に紋章が現れた。それに呼応してバルの

額にも同じ紋章が浮かび上がる。

「ええ! それです! その紋章こそが契約の証。他の皆さんもこのカウンティアで契約

するドラゴンを見つけて下さい」

「……」

 他の三人の戸惑っているかのような息づかいが聞こえてくる。

「あの……。今までの説明でわからないところとかありませんか?」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………大丈夫、かな? わかんないとこあったらその時に聞きますので」

 正直言うと、今の説明では不十分だったが。今はこれ以上はお腹いっぱいだ。何より、

勇汰が一番知りたかった事が知れたので問題ない。

「よかった……」

 ホッと安堵する。召還された理由が魔王を倒す。だったら正直どうしようかと思ってい

たが、今の話しだと育成ゲームに近い。これならと、血塗れになって魔物と戦う覚悟をし

ていた気負いや恐怖から一気に解放された。

 目的がハッキリした事で、心を覆っていた一番の靄が綺麗に晴れた。必要以上の心構え

が解かれた事で――。

 ぐうぅぅ。

「う!?」

 静まりかえった教室に鳴り響く勇汰の腹の虫。勇汰は顔を真っ赤にした。


・          ・          ・          ・


「ぅぅぅ……は、腹へったよぉ…………」

 空腹で死にそうな勇汰はテーブルの上にくっぷした。よくよく考えてみれば、こっちに

来てから食したのは何かの果物だけ。しかも昨日の昼間のみ。夕飯は魔物の襲撃で食べ損

ね。朝飯は寝坊して食べられず、昼ご飯は移動中でもちろん食べてない。

「俺…………。よく今まで持ったな」

 我ながら関心した。

「お待たせ」

「おっ!」

 バッと顔を上げる。自分と同じく異世界から召還された勇者たちがトレイを持って立っ

ていた。

「はい。召し上がれ」

 彼等はそのトレイを勇汰に差し出した。その上には大小さまざまな器に盛られた料理が。

「うわぁー…………」

 勇汰は瞳をキラキラ輝かせる。

「え? いいの? これ全部食べちゃっていいの?」

「もちろん」

 三人のうち、一番背の高い勇者が答える。

「やったー! いただきますっ!」

 スプーンを手に取り、まずはスープから手を着ける。

「あ。これ。美味しい!」

 暖かい。と言うのもあるが。それは別にして。初めて食べる味付けなのに味覚に合う。

「それ。美味しいよね。ボクも初めて食べたときは美味しいって思ったんだよ」

 さっきの背の高い彼が隣に座る。続けて残りの二人が正面の席に座った。

「えっと。まずは自己紹介をしなくちゃね。ボクは水島友希みずしまともき。よろしく」

「よ、よろしく」

 口に含んだジャガイモを慌てて飲み込んで、彼の顔を見る。

 水島友希。彼は自分を含めた四人の中では一番背が高く、そして顔が良い。いわゆるイ

ケメン枠だ。真っ先に話しかけてくれたり、見せる笑顔も爽やかだったりと人当たりが良

さそうな性格のようだ。

「なら。次はオレだな。オレの名前は土屋猛つちやたけるだ。お互い。なんかよくわ

からん事に巻き込まれちまったが、まぁ、よろしく頼むわ」

「うん。よろしく」

 軽く頭を下げる。

 土屋猛。彼は四人の中で一番背が低いのが一番強い印象を受けた。話し方から少し乱暴

そうなキャラだろうか?

 そして最後の一人。

 眼鏡をかけて猫背の彼。俯いて目を合わせようとしないどころか、一度もこちらの顔を

ちゃんと見てくれてない。

「えっと…………君は?」

 待っていてもその彼が口を開こうとしない。ジッと見てると唇が僅かに動いたような気

がしたが…………。

「ああ…………。無理だぜ。こいつ」

 代わりに土屋が答える。

「こいつな。なに聞いても答えないんだ。挨拶どころか、自己紹介もしてくれねぇ」

「え? じゃあ、二人は彼をどう呼んでんの?」

「ちゃんと名前で呼んでるよ」

 そう答えたのは水島だ。彼はポケットから何やら紙切れを取り出した。そこに名前が書

いてある。

 風祭輝かざまつりあきらと。

「これは?」

「彼の名前。紙に自分の名前を書いてもらったんだ」

「そ、そうなんだ…………」

 食べるのを忘れるほど呆れてしまった。

「こいつ。うじうじしててさ。ほとんど部屋に引きこもっててよ」

「それはしょうがないよ。急にこんな世界に召還されてしまったんだから。彼だって混乱

してるんだよ」

「それにしてもよ。さすがに限度ってもんがあるだろ? オレだって混乱してたけど、す

ぐに気持ちが切り替えられたぜ」

「皆が皆。君みたいに心が強い訳じゃないんだ。きっと彼の反応が普通なんじゃないのか

な?」

「…………それじゃオレが普通じゃないみたいに聞こえるな」

「うん。ボクはそう思うよ。キミは体は小柄だけど、鍛えてるでしょ? 普通の人に比べ

たら十分に強く見えるから」

「…………そ、そうか? なら、そう言う事にしとくぜ」

 土屋が少し照れて収まった。

 こっちに来て早々、この二人が険悪な関係というのが出来上がってたのではと冷や冷や

したが、水島が一枚上手だった。

 どうやら彼は人と波風立てずに付き合うのが上手そうだ。

 そしてもう一人。話題の中心になってた風祭は、二人が言い合いをしてる間、間に挟ま

れて申し訳なさそうにキョドキョドしていた。これを見る限りでは人付き合いが苦手なだ

け。他人に興味が無い。もしくは干渉されたくないタイプでは無いようだ。もし仮にそう

だったら、そもそもここには留まっていないだろう。

「えっと。それじゃ、最後に俺の番だね」

 勇汰はスプーンを置いた。

「俺の名前は火野勇汰。よろしく」

「おう! よろしく!」

「うん。こちらこそ」

 二人は挨拶を、風祭は軽く頭を下げて返事をしてくれた。

「ああ、そうそう。それでこっちの赤いのがフレイバルのバル。よろしく」

 膝上でくつろいでいるバルを抱き抱え、顔に近づける。そしてバルの右手を操って三人

に手を振る。

 バルを見た三人は少し驚いていた。

「す、凄いね。火野くん。もうこっちの生き物と仲良くなったんだ」

 水島がバルに顔をそおっと近づけるが、バルがアクビしたら驚いて後ろに下がってしま

った。

「大丈夫だよ。噛みついたりしないから。ね、バル?」

「………………う? ううっ!?」

 ウトウトと閉じていた瞼を大きく開いて、バルが固まる。

「ひょっとして。バル寝てた?」

「う、うん」

「そんなに怖がらなくったって大丈夫だよ。別になにもしないから」

「ほ、ほほ、ほんとに?」

「本当だって」

「うぅう……」

 だがバルは体を硬直させたまま動かなくなってしまった。成長したと思っても恐がりが

直ったわけじゃないのかと、バルを膝上に戻す。

「ほ、本当に人間の言葉を喋るんだね。…………話しには聞いていたけど、実際に目にす

るのは初めてだよ」

「オ、オレも…………」

 三人が驚く様子が、勇汰の目には新鮮に映った。

「三人ともビックリしすぎだよ。俺なんて全然、驚かなかったよ」

「本当に!?」

「嘘だろー!」

「本当だって。だって俺。こっちに来て森の中をさまよったり、気を失ったり。魔物に襲

われたり。本当にいろいろあってさ」

「…………大変だったんだね」

「そうなんだよ! 向こうの世界で魔物に追いかけられてさ。いつの間にか溶岩地帯に入

り込んでるし。魔物に追いつめられて溶岩に飛び込んだらこっちの世界に召還されてさ」

「なにそれ!?」

「ん? どうしたの?」

「えっ!? 溶岩に飛び込んだって!? え? 大丈夫なの!?」

「うん大丈夫だよ」

 ピンピンしてるじゃんと、腕を振ってみる。

「ひょっとして。皆は召還のされかたって違うの?」

「うん。ボクは世界が暗くなって目の前に大きな門が現れたんだ。それを潜ったらこの神

殿に出てきた。他の二人はどう?」

「オレも同じだぜ」

「………………」

 コクンと頷く風祭。

「うわっ! じゃあ俺だけかぁ。そういや、エマさんが言ってたな。魔物に邪魔されたっ

て。それのせいか!」

 勇汰は肩を落としてため息を吐いた。

「あー……。ホント。俺ってよく無事だったな」

 幸運か悪運か。自分の運に感謝しつつ、ぬるくなってしまったスープを口に含んだ。


・          ・          ・          ・


 食堂から聞こえてくる笑い声。

「よかった…………」

 エマはホッと胸をなで下ろした。

 守護竜の巫女という大役を仰せつかった最初の大きな役目である勇者召還。新たな守護

竜誕生を望む全ての人間とドラゴンの期待を一身に背負い挑んだ。

 結果は――失敗だった。

 神殿の祈りの間に現れた勇者は三人だけ。一人足りない――。

 その事実を目の当たりにして、エマは気を失った。召還による消耗と重責で限界だった

彼女の精神はそれに耐えられなかったのだ。

 本来なら異世界から訪れた勇者たちに彼等の使命を伝えるのも巫女の役目の一つだった

のに。それすらも満足に果たせなかった。

 彼女が気がついたのは半日以上過ぎた夜中。再び勇者召還を行い足りない一人を呼び出

そうと試みる。すると彼女に新たな信託が下った。

 最後の一人は召還されていると。そしてその場所と魔物に襲われている事も。

 それを知ったエマはすぐに神殿を飛び出した。その後をヴィクターが追いかけ彼女を手

伝った。

 夜通し探し回り――無事に最後の勇者を発見できたエマはこの奇跡を守護竜に感謝した。

見知らぬ世界に来たばかりで、しかも魔物に襲われたというのに。

 勇汰は今、こうして笑っている。これも奇跡だ。

「本当に…………よかった」

 元の世界へ戻してくれと言われたらどうしたらいいのだろうと困り果てる所だった。

 ――本当に。

 ただでさえ、召還が失敗し。他の三人への事情説明も気を失っている間に他の者が代わ

りに行ってくれていた。一応、勇汰を含めて改めて行う事で一応の体裁と面目は保たれた

事にはなるが……。

 とりあえず。巫女としての役目は果たしている事にはなっている。

「…………大丈夫か?」

「あ…………ヴィクター」

 廊下で呆然と立ち尽くしてるように見えたのだろう。ヴィクターが心配して声をかけて

来てくれた。

「ええ。大丈夫ですよ! なんてたって、私は守護竜の巫女ですからね!」

 両手で拳を作り、肩の所で二、三回上下する。だが元気だとアピールするはずの動きで

よろけてしまった。

「おっと!」

 思わずヴィクターがエマの肩を掴んで支える。

「無理はするな。食事だってとっていないのだから」

 ヴィクターは食堂にいる四人の勇者――の勇汰を睨みつける。

「あいつ! あの食事はエマの為に用意させたものだぞ! それを勝手に!」

「いいのです。私が彼にと」

「そんな事する必要などないっ! あんな奴、その辺の草でも食わせとけばいいんだ!」

「ヴィクターっ!!!」

「うっ!」

 エマが鋭い形相で睨みつける。

「貴方の気持ちは知っています。ですが、これは決まっていた事なのです。貴方も守護竜

の騎士ならば、貴方の役目を全うしなさい!」

「ぅう…………」

 エマに諭されて、ヴィクターは悔しそうに顔を歪めながらフラフラとどこかへ歩いて行

った。





「あー。良い湯だった」

 体からホクホクと湯気を出しながら勇汰は用意された寝室へと入った。

 神殿には宿泊施設は無いので、近くにある信者用の宿舎をわざわざ用意してもらった。

異世界なのでテレビやエアコンはもちろん無いが、それにしても殺風景な部屋だ。

 煉瓦作りの部屋にあるのはベッドが二つだけ。机やテーブルさえも無い。もっとも荷物

が無いので困りはしないのだが。

「おっ! 布団だ! やったー! 今日はふかふかのベッドで寝られるぞ!」

 助走をつけてベッドへとダイブする――と!

「うわっ! 堅っ!」

 予想よりも遥かに弾まなかった。それどころか、体が沈んで下の木の堅い部分の感触が

伝わってきたのだ。

「あー…………」

 やっぱりマンガとは違う。現実の異世界は――この世界の生活水準は日本よりも遥かに

下だという現実に、早くも心が挫けそうになる。

「ふぅー」

 遅れて土屋がやって来た。部屋割りは二人で一部屋なので彼と一緒と言うわけだ。

「あちーっ」

 彼は真っ直ぐ部屋の奥にある四角い枠を目指す。到着すると枠の中に手を入れて――布

をクルクルと巻き取った。

「あっ! それって窓なんだ!」

「ああ。この世界ってガラスが貴重品みたいらしいんだ。だから窓ガラスの代わりにすだ

れみたいな布がかかってんだよ」

「へー。よくそれでいいんだね。防犯とか大丈夫なのかな?」

「それだけ平和なんだって事だろ? 良い事じゃねぇか」

「そうだね」

 窓から少しヒンヤリした風が入ってくる。お風呂で火照った体に心地良い。

「う……ぅ……」

 バルが唸る。見るとベッドの上でぐったりしていた。

「バルだっけ? どうしたんだ?」

「えっと…………。多分のぼせちゃったんだと思う。フレイバルって水が苦手なんだけど

……。お湯は平気、みたい。どうして?」

 バルに聞いてみる。

「う、うぅ……。お湯には、火のエレメントが沢山入っているから……。平気、なん、だ

…………けど」

「けど?」

「一度に沢山の火のエレメントを食べたから……。お腹が苦しい……」

「のぼせたんじゃなくて、食べ過ぎかよ」

 呆れて肩でため息を吐いた。

「…………だって」

「ふぅん。そっか……」

 土屋はそこまで興味はなさそうに鼻で返事した。

「…………さてと」

「?」

 土屋がベッド上でストレッチを始めた。

「どうしたの?」

「筋トレ。寝る前の日課なんだ」

 そう答えると、彼は着ている服を脱いだ。ちなみに風呂上がりの服は神殿が用意してく

れた服を着ている。浴衣に似た真っ白い服だ。

 それを脱いで下着一枚になった土屋は仰向けになり腹筋を始める。力を入れる度に、ち

ゃんと綺麗に割れた彼の腹筋がぼっこり盛り上がる。

 そう言えば水島が彼を鍛えてると褒めてたが……確かにと勇汰も同感した。

 昼間の格好――タンクトップに短パンと四人の中で露出が一番多い彼の体は凄く引き締

まっていた。一緒に風呂に入ってそれを確認できた。

「…………何かスポーツやってるの?」

「いいや。スポーツも格闘技もやってねぇよ」

「それじゃ。何で鍛えてるの?」

「んー。趣味だ、な。筋トレで筋肉を鍛えるのが」

「そうなんだ」

 この日の会話はこれで終わった。さすがに出会ったばかりの相手とこれ以上の会話はキ

ツかった。

 勇汰はベッドに横になり、バルの頭を撫でながら壁に設置してある蝋燭の火を見る。ゆ

らゆら揺れる影をぼんやり眺めながらウトウト。

 ああ、そうだ。明日、エレメントについて、教えてもら――。

 そこから先は記憶に無かった。


・          ・          ・          ・


「ああ、もうっ! 起きてたんならどうして起こしてくれなかったんだよっ!」

「う? なんで起こすの?」

 バルに文句を言いつつ、ベッドの上に服を脱ぎ捨てた。そして昨日の内に洗濯して干し

といた自分の服を着る。この世界は暖かく、濡れて干していても一晩で乾いてくれる。

「朝ご飯。食べ損ねたじゃないか!」

 もうすでに窓からお昼の日差しが差し込んでいる。

「う? だったら今から食べに行けばいいじゃん」

「……言っとくけど。人間はドラゴンとは違って、一日三食なんだよ」

 バルから聞いた。ドラゴンは腹が減ったら食事をとればいいと。

 そして好きな時に起きて、好きな時に寝るのだとも。

 なのでバルは朝が来たら勇汰を起こすなどの人間の生活を心得ていなくても仕方がない。

 それを解っていても勇汰はつい文句を言ってしまう。

「ほら。行くぞ!」

「ふふぁぅー……」

 ベッドの上で大きな欠伸をするバルを連れて宿舎を飛び出した。幸いにも、昨日までの

筋肉痛は嘘のように消えていた。これなら異世界探索も満足に行える。

「時間がもったいない!」

 ただでさえ、アクシデントで出遅れているのだ。

 早く町に出たい!

 ゲームのように、武器屋や防具屋なんかがあるのだろうか?

 魔法もあるのかな?

 逸る好奇心に駆り立てられる。

「う? どこ行くんだ?」

 後ろをトコトコ付いて来るバルに答える。

「神殿だよ。まずはそこで朝ご飯と情報収集。それから町に出る!」

 早歩きで神殿へ向かう。と言っても、神殿をグルリと回り込んだ後ろに宿舎があるので

もう着くのだが……。

「ぅ」

 勇汰は速度を落とす。神殿の入り口で嫌な顔が見えたからだ。

 早くどっか行け!と心で願うが――向こうは腕を組んで仁王立ちしている。ひょっとし

て自分を待っているのだろうか?

 原が減ってもいるので向こうが居なくなるのを待つわけにも行かず、意を決して向かっ

た。

「良いご身分ではないか!」

 やはりヴィクターは自分を待っていたようだ。顔を見るなり文句を言ってきた。

「あー…………。すみません。寝坊しました」

 別に学校でも家でもないのだから謝る必要なんて無いのに……と心の中で付け加える。

「ふん! 寝坊? ふざけるなっ! 貴様は間違っても勇者なのだぞっ! その自覚があ

るのかっ!?」

「別にいいじゃないですか。それくらい」

「それくらいっ!? それくらいじゃないっ! いいかっ! よく聞けっ! 勇者とは次

の守護竜様を育て上げるために選ばれし者だ。世界を平和へと導く守護竜様を正しく育て

上げるためには、勇者が規則正しく、そして品行方正でなければならないのにっ!」

 ヴィクターが人差し指を勇汰の額へと押しつける。

「あろうことか貴様はそれが全くなっていないっ! 早寝早起きは基礎中の基礎だという

のにぃいっ!」

「…………そうですね。俺が悪かったです」

 勇汰は謝った。

 正直。ヴィクターがなぜここまで神経質になっているのか解らないが、これ以上刺激し

てはメンドクサい事態になりそうなので。

「それじゃ。俺はこれから朝ご飯を食べに行きますので、失礼しますね」

 彼をかいくぐり中へと入ろうとすると――。

「朝ご飯!? ふんっ! そんなものあるわけないだろう! もうとっくに食べ尽くした

さ!」

「いっ!?」

 これにはさすがに参った。勇汰は池で餌をもらえるのを待つ鯉のように口をパクパクさ

せる。

「そ、そんな…………」

 あまりの衝撃に頭が真っ白になる。ヴィクターの勝ち誇った顔や高笑いも遠くに聞こえ

――。

「大丈夫ですよ」

 エマの声がすぐ近くで聞こえてきた。

「え?」

「大丈夫です。勇汰さんの分はちゃんと用意してあります」

 エマがニッコリ笑って立っていた。その姿はまるで天使だ。

「本当に!?」

「はい。勇者をサポートするのも、巫女である私の役目ですので」

「やったぁ!」

 ヴィクターを横目で睨みつける。だが彼は悪びれた様子などみせはしない。

「もうヴィクター! どうして貴方はそんな意地悪をするのですか?」

「意地悪ではありません。これは教育です。守護竜様の親となる勇者がコレでは守護竜様

の成長に悪影響を与えると思ったからです」

「むっ!」

 言ってくれるなと勇汰はヴィクターを視線で突く。確かに彼の言うとおり、自分はちゃ

んとした人間じゃないので言い返せない代わりに出きる唯一の抵抗だ。

「………………ふんっ!」

 ヴィクターもエマが居るからか、それ以上は何も言わずに勇汰を睨みつけて去っていっ

た。

「…………ありがとう。エマさん」

「こちらこそすみませんでした」

 エマは深々と頭を下げる。

「こちらへ来たばかりで。まだ慣れない生活に苦労されている貴方にあのような暴言を…

………」

「いいですよ。俺は気にしてませんから。それよりも…………もうお腹が空いて空いて」

「すみません。気が付かずに。すぐご用意いたしますね」

「うん。お願いします」

 エマの後ろを付いて行く。

「ところで他の三人は?」

「お二人はもう早くに出ましたよ。町を見て回ると」

「二人?」

「はい。猛さんと友希さんです。後の輝さんは食事をすませてからずっと部屋にこもって

います。…………どうやらこちらの世界に来たショックが大きいようで」

 エマが表情を落とす。

「…………ま、こればっかりはしょうがないですよ。来ちゃったんですから。後は本人次

第って事で。それよりもエマさん。後でエレメントについて教えてよ。昨日からずっと気

になってたんだ」

「はい。何でも聞いて下さいね」


・          ・          ・          ・


「ふぅ……」

 歩き疲れた水島友希はひとまず公園にあったベンチに座った。

「思ってたよりも広い町だな…………」

 時計が無いみたいなので正確な時間は解らないが…………およそ二時間くらいは歩き回

ったのではなかろうか?

 ほんのちょっと。朝ご飯を食べた後の軽い運動と、そこら辺を見てくるつもりだったの

に、気がつけばがっつり観光客になっていた。

「ここ。異世界か…………」

 一見すると海外のどこか田舎に居るんじゃないかと錯覚しそうになる風景。だがその中

に溶け込んだ向こうの世界では決して見る事の叶わない生物たちが、当たり前のように町

中をうろうろしている光景を見せつけられては、受け入れるしかなかった。

「不思議な光景だよな…………」

 ベンチに座って行き交う人々やドラゴン。町並みを改めて観察した。

「人種はバラバラ。金髪や黒髪の人もいれば、肌の白い人や黒い人もいる」

 さすがにマンガみたいに、髪の色が赤だっり青だったりと奇抜な色の人は居ないし、ま

してや角が生えてたり耳が尖っている人も居ない。

「ドラゴンたちは…………この世界ではどういう立場なんだろ? 向こうの世界の馬や牛

と同じ家畜扱い? …………いや。ドラゴンは人間の言葉を話せるし、意志の疎通も出き

る。家畜扱いしたらきっと怒るだろうから…………。うーん」

 町の様子を見るついでにその辺の事も見ておけばよかったと後悔。

「でも他に見るものが多すぎたんだよな…………。町の様子とか。どんな暮らしをしてる

のとかさ」

 町の様子。それは一言で言って平和そのものだ。人々は笑顔に溢れ活気づいている。

 通りには大小の商店が並び、店頭で品物を販売している。店にある看板を見てみたが、

見たことのない文字が書いてあるので全く読めなかった。それでも観光と言う意味では十

分楽しめた。

「食事もそれなりに美味しいし。これが異世界召還じゃなくてリゾート観光ならいいのに」

 不意にポケットに手を突っ込む。そこには何も無い。

「はぁ…………どこ行っちゃったんだろ? 落とした…………覚えは無いんだよな」

 こっちの世界に来る直前まで持っていた携帯電話。こっちに来たらなぜか無くなってい

た。携帯で記念撮影とかしたかったのに。残念だ。

「あの門を潜ったとき…………かな?」

 友希はあの時の出来事を思い出した。


・          ・          ・          ・


「それじゃ、今度の月曜日に勉強会をやる?」

 メールを送信。数分後、帰ってきたメールにはこう書いてあった。

「ゴメン! その日は予定入ってるんだ」

 そうなのかと、返事を打つ。

「わかった。それじゃあ。都合の良い日に連絡してよ」

「わかった。じゃ!」

 それでやり取りは終了。

「はぁ…………」

 ベッドの上に寝そべりながら携帯電話をギュっと握る。

「またか…………」

 落胆した吐息を宙に漂わせて虚ろを眺める。

「俺ら。来年、受験じゃん? だからさ。夏休みに入ったら一緒に勉強しね?」

 そう誘ってきたのは向こうだ。なのにいざ夏休みに入ると勉強会のスケジュールは白紙

のまま。今も約束を断られてしまった。

「それは、ま。別にいいんだけどね」

 何か急の予定が入ってしまったんだと相手を弁護する。

「…………どうしようかな?」

 一応、友達と勉強するつもりだったのでやることがない。一人でも勉強は出きるが……

……。

「宿題はやってしまったし」

 夏休みの宿題として出された学校の宿題は早々と終わらせている。後は――。

「受験勉強か…………」

 塾には通っていないが、学校の授業は常に上位をキープし続けている。ただ受験には全

く備えてはいなかった。参考書とかを買って勉強する。それしか無いのだが…………。

「相談とかしたかったのにな…………」

 本当は夏休み中の勉強会で友達とどの参考書がいいのか? そんな話しをしたり、本屋

へ一緒に買いに行きたかったのだが。そんな目論見が全てパァだ。

「…………一人で行くか」

 そう思い立ち、携帯電話と財布をポケットに入れて家を出る。

 扉を開けた瞬間――。

「うわっ!」

 すさまじい熱気に襲われて外出を戸惑ってしまった。

「…………まさか、暑いから家を出たくないってわけじゃないよな?」

 ドタキャンした友達の顔が頭に浮かぶ。

 友希も外出は暑さが弱まってからにしようと、靴を脱ぎかけたその時――。

「え?」

 急に辺りが暗くなった。

 いやー別の場所に立っていた。

「ここ…………どこだ?」

 家の玄関じゃない。どこかだだっ広い所。果ての無い地平線だけが見渡せる何もない薄

暗い世界。

「どうなって………………なんだ? あれ…………」

 振り返ると門が立っていた。三メートルくらいはあるドデカい門が。

「…………っ」

 この門を見てると、なぜか背筋がゾワゾワした。まるでこれから何かよくない事が起こ

るのではと。

「え? なに?」

 友希は聞き返した。門に――門のてっぺんに付いている竜の頭らしき石像に向かって。

「だからなに?」

 石像の目が青く光り――自分に向かって何かを語りかけてきているのは解るのだが、何

を言っているのかがどうしても解らない。

 石像からの声はすぐに消えて――門が音もなく開いた。

 多分――この門を潜るように言っていたのではないだろうか?

 そう思った友希は――不思議と疑問に思わずにその門を潜っていた。

 そして――このカウンティアへと来ていたのだ。


・          ・          ・          ・


「…………自分でもびっくりなんだよな。こんな不思議な出来事に何の考えもなく関わっ

てしまうなんて」

 今思うとどうかしてたと思う。不思議な門を無警戒で潜ってしまうなんて。常識的な行

動では無かった。

「はぁ…………」

 神殿の人の話しでは、無事に役目を終えると向こうへ送り返されるらしいが…………。

「逆に言えば役目を終えないと返してもらえないって事じゃないか」

 だから横暴だと騒ぎ立てても返してもらえないだろう。

「…………守護竜を育てるって、具体的にどうすればいいんだろう?」

 何か特別な育て方がるのだろうか?

「わざわざ異世界からボクたちを召還までしたんだから。それに何か特別な意味があるん

じゃないのか?」

 いや――それよりも!

「そもそもボクが育てる守護竜をボクが見つけるって…………。もうっ、訳わかんないよ」

 頭を抱え込む。

「こんな状況なのに、皆は勝手に動くし…………」

 風祭輝。彼はこの世界に召還されたショックから回復出来ずに、今日も部屋にこもって

いる。

 土屋猛。彼とは…………正直、馬が合わない気がする。何となくだけど。今朝だって朝

ご飯を食べ終えた後、一緒に町を見て回らないかと誘おうと思ったら、いつの間にか一人

で先に出て行ってしまったし。

「一言くらい声をかけてくれてもいいじゃないか!」

 初対面とは言え、共に異世界から召還された仲間じゃないか!

 少しイラついて、いつの間にか握っていた拳に力が宿る。

「後は…………彼か」

 残る一人。火野勇汰。彼の場合はちょっと特殊な事情がある。一人だけ召還に失敗して

どこかの森の中にただ一人だけで来てしまった。

 そして森の中をさまよい倒れた所をドラゴンに助けられたけど、そのすぐ後に魔物に襲

われてしまった。

 それだけでも十分ショッキングな内容なのに、なんと彼は襲ってきた魔物を撃退してし

まったと。

 一人だけ冒険をしてきた彼は、疲れきって眠っている。

「…………まだ寝ているのかな?」

 顔を上げる。太陽はもうすぐ頭の上に来る。ひょっとしたら起きているのかもしれない。

「そうだよ! 彼を待ってたら良かったんだ!」

 何でその事に気が付かなかったのだろう?

「これじゃ、彼を責められないな」

 自分に声をかけずに一人で先に町探索に出て行った土屋猛の事を。結果的に自分もまた

同じ事をしていたのだから。

「戻ろうっと」

 昨日、ちょっと話した限りでは彼とは上手くやっていけそうな気がする。色んな悩みも

相談出来るかもしれない。

 そう思った友希の足取りが軽やかだった。





 大きな通りに沿って町の中心へ向かえば、元の神殿へと戻れる。これなら初めて訪れた

自分でも迷子にはならなずにすむなと、友希は軽い気持ちで外に出た。

 しかしつい調子に乗って遠くまで出てしまうと、小道が網の目のように細かく別れてい

た。なので。

「あれ…………?」

 来た時と同じ道をそのまま戻ってきたつもりが……。

「迷った?」

 どう見ても初めて見る建物ばかりが並んでいる。

「困ったな…………」

 頭をポリポリ掻く。頭を上げて視線を遠くへ飛ばすと他の建物よりも遥かに大きな建物

が見える。

「見えてはいるんだけどな…………」

 町のシンボルである神殿はこの町で一番大きな建物だ。なのでこの町からはどこに居て

もその姿を見る事が出来るが……。

「見えててもたどり着けないな」

 浅く息を吐く。初めての土地。見知らぬ人々。それでも友希は別に焦っていない。なぜ

なら。

「誰かに聞こうっと!」

 この町の人なら神殿への行き道を知らないはずもないだろうと。

「…………それじゃ、どうしようかな?」

 来た道をまた戻るか? それともこのまま進んで出た通りに居る人にでも聞くか?

 どっちにしても人は居る。ならばと…………。

「先に進もうっと」

 戻るよりは前へ進んだ方が神殿には距離的には近づいているはずだから。

 そう考えて前へ前へ進んで行く。しばらく進むと地べたに布を敷いて品物を並べて販売

するバザーみたいな通りに出た。

「へぇー。…………こういのもあるんだ」

 この通りも大勢の人で賑わっていた。じっくりと見て回りたいが…………。

「今は我慢。とにかく一度神殿に戻らないと」

 お昼には戻る約束もしてたし。お腹も減ってるし。一人じゃ寂しいし。

 と言うわけでとりあえずバザーに居る人たちを見て回る。声をかけても良さそうな人。

親切そうな人を捜して――。

「あれ?」

 人混みをかき分けて進む人たちがいる。その人たちは足早にバザーの端を目指して進ん

でいる。

「どうしたんだろ?」

 途中の店には目もくれず一目散に真っ直ぐ進む人たち。友希はちょっと気になりだした。

「………………反対だけどな」

 この人の流れは神殿とは反対の方向へ向かっている。でも!

「ちょっとだけなら」

 目を凝らせば人の行き着く先――終着点は見えている。端の一角に人の溜まりが見える

から。あの距離ならば一目見てから戻っても時間はかからない。

 そう思ったらもう足が動いていた。自分を駆け抜けていった人たちに並んで自分もそこ

へ向かう。

 やはり時間はかからず、一分もかからずにそこへ辿り着いた。けども……。

「うぅ…………。人が多い」

 人が集まりすぎて、そこに何があるのか全然見えない。背を伸ばしてみるが…………。

「ダメだ」

 学校ではクラスで一番。いや――学年で一番の高身長の自分も大人相手ではまだまだ低

いという事だ。

 と言うよりも。この世界の人は背も高くて体格も良い大人が多い気がする。向こうの世

界ならきっとこれでも何とかなったと思うが……。

 電気とか機械とかに頼らない生活を送っているからだろうか?

「うーん。見えないな…………」

 隣に立ってた男がそう呟いた。

「あの…………。ここに一体、何があるんですか?」

 友希は聞いてみた。

「ああ。何でも凄く珍しいドラゴンが来てるらしいんだよ」

「ドラゴン?」

「そう。俺もよくは知らないんだけどな。滅多に人前に姿を現さないドラゴンで、見れた

人は幸せになれるって曰く付きのドラゴンさ」

「へぇー。そんなのが居るんですか……」

「ああそうさ。と言っても俺も今日初めて聞いた話しなんだけどな」

 そう男は笑った。

「けれど困ったな…………。これじゃ見るのに時間がかかっちまうな」

 男の手に小銭らしきものが握られてるのが見えた。

「あ。ひょっとして見るのにお金がいるんですか?」

「そうみたいだね」

「困ったな。今はちょっと持ち合わせないんですよ。それにもう戻らないと…………」

「そうかい。それは残念だね。この見せ物は当分はこの町に居るらしいから、また来ると

いいよ」

「そうですか。そうします。…………あ、そうだ。あの。ちょっと聞きたいんですけど…

………いいですか?」

「ん? なんだい?」

「神殿への道を探してるんですけど?」

「神殿? ひょっとしてあんた旅人かい? だったら簡単だよ。この通りを向こうへまっ

すぐ行けば神殿へ着くよ」

「そうですか。親切にありがとうございます」

 友希は男に一礼してから帰路についた。


・          ・          ・          ・


 男に教えてもらったお陰ですぐに神殿へと帰る事が出来た。すれ違う神殿で働く兵隊や

神官さんたちに挨拶をして食堂に入ると、火野勇汰とエマが楽しそうに話しをしていた。

「ただいま!」

 楽しそうな二人の間に割ってはいるのはちょっと気が引けたけれど、お腹が空いたので

しょうがないよねと自分を納得させた。

「あ、お帰りなさい」

「あ、えっと…………。水……島、くん?。お帰り」

 二人も笑顔で挨拶を返してくれた。友希は勇汰の隣に座る。

「お昼。もう食べたんだ?」

 テーブルの上を見ると、二人分の食器が空になっていた。

「お昼っていうか…………。うん。まあ、そんなとこ」

 なぜか勇汰は視線を漂わせる。

「ボクもお昼を食べに戻ってきたんだ。エマさん。まだ残ってる?」

「ええ。もちろんです。すぐ用意しますね」

「え? いいよ。ボクの分だし。自分で用意するよ」

「いいえ。これは私の役目ですので私にお任せください!」

「…………そう? じゃあ、お願いします」

「はい!」

 エマは自分と勇汰の分の空になった食器を持って部屋を出ていった。

「…………」

「…………」

 ――間。

 会話をしたいのに、話題に困って出来た空白の時間。

「…………体の調子はもう大丈夫なの?」

 変な空気に耐えきれなくなった友希が、頭をフル回転させて出した会話がこれだ。

「うん。もう大丈夫」

「そう。それはよかった」

 これなら一緒に外出してもらえるかもしれない。

「あのさー」

「お待たせしました」

 エマが食事を持ってきてくれた。友希はそれを受け取とる。

「ありがとう。エマさん」

「いいえ。お役に立てて何よりです」

 礼を言ってから食事に手をつける。

「そう言えばさ。水島くんってさ。朝は町を見て回ったんだよね? どうだった?」

「…………。うん。けっこう…………雰囲気が良かったよ。お店とか栄えてたみたいだし」

「へぇー。俺たちもこれから行こうって思うんだけどさ。ここは見といた所が良いよって

な場所ってある?」

「そうだね…………」

 ジャガイモに似た野菜を租借してる間に考える。こちらから一緒に町に出ないか誘うつ

もりだったのでラッキーだ。

「ボクもこれを食べたら、また町に出るつもりだからさ。火野くんも良かったら一緒に見

て回らない?」

「うん。いいよ。一緒に行こう」

「うん」

 友希は内心ガッツポーズを決める。

「この町の事。気に入ってもらえて嬉しいです」

 エマがにっこり笑う。

「この町はここ、守護竜の神殿があるので巡礼に来る信者たちの為にたくさんの商店があ

りますので。きっと退屈しないと思いますよ」

「うん。確かにお店がたくさんあって全部見るのに一日じゃ足りなかったよ」

「へー。すっごい楽しみ。どんなお店があるんだろ?」

「いろいろあったよ。アクセサリーやお土産とか」

「他には? 例えば武器屋とか、防具屋とか」

「え…………? それは…………。ちょっと無かったかな?」

 武器? 防具?

 友希は一瞬、聞き間違えたと思った。

「えー。そんなー」

 何をそんなに悔しがるのか友希には解らない。

「大丈夫ですよ。ちゃんとありますから」

「おっしゃ!」

「あるんだ…………」

 そんな店が本当に…………。

「…………そう言えばさ。帰る途中にすっごい人だかりが出来てたんだよね」

「人だかり? 行列店?」

「そう言うのとは、ちょっと違うみたい。人が多くてボクは見れなかったんだけど。なん

か…………珍しいドラゴンが来てるって」

「珍しいドラゴン?」

「うん。何でも見ると幸せになれるとかなれないとか。エマさん。知ってます?」

「はい。それはきっとアクレインですね」

「アクレイン?」

「はい。海底奥深くで暮らしていると言われているドラゴンで、一生をその海底で過ごし

てまず人前に現れる事が無い事から見ると幸せになれると噂が広まったと言われています」

「それじゃ、本当に幸せになれるわけじゃないんだ?」

「はい。見られること事態が幸運ですね」

「そうなんだ」

「…………どうするの? 見に行く?」

 勇汰が聞いてきたので、ちょっとだけ悩む。

「うーん。どうしよう? 見るのにお金が必要みたいだし…………」

「お金か……。そういや、俺たちってこの世界のお金って持ってないんだよな」

「それなら大丈夫ですよ。皆さんの活動資金も協会が負担してくれますので」

「えっ? いいのっ?」

 勇汰が目を大きく開いて喜ぶ。

「はい。もちろんです」

「…………なんでもかんでも。本当にありがとう。エマさん」

「いいえ。皆さんを助ける事が、ひいてはこの世界を救う事に繋がりますので」

 エマのその答えを聞いて、友希の大きなプレッシャーがのしかかった。


・          ・          ・          ・


「この町は神殿を中心に作られているみたいなんだ」

 町を歩きながら友希は勇汰に簡単な説明をする。

「大きな通りが東西南北に伸びていて、その通りには商店が並んでいるんだ」

「へー。そうなんだ」

 説明を聞いているのかいないのか、勇汰はキョロキョロと辺りを見るのに忙しくしてる。

「…………ひょっとしてさっきエマさんに聞いてた武器屋とか防具屋とかを探してる?」

「うん。ほら、ゲームだとさ。そういうの当たり前にあるじゃん」

「ゲーム…………。火野くんってさ。ひょっとしてゲームとかマンガとかが、大好きな人?」

「うん」

「…………中二病ってやつ?」

 自分はマンガは少ししか読まないし、ゲームは携帯電話のアプリを暇つぶし程度にしか

やらない。学校の友達は結構、そういうのにハマって課金しすぎて親から怒られた話しを

聞かされたりしたこともある。

 その友達から、あいつは中二病だって教えてもらった事がある。ゲームやマンガが好き

すぎて現実と混同してしまっている奴だと。

「昔はね。今はもう卒業したよ。ただ…………」

「ただ?」

「さすがにこうして異世界に召還されると、再発するかもしれない」

 困った台詞を嬉しそうに笑って言う火野。

「水島くんはゲームとしないの?」

 聞き返されてちょっと戸惑った。ここは話しを合わせる為にやってると答えた方がいい

のだろうか?

 ただそう答えたらきっとついていけない話しをされるおそれがあるが……。

「…………ごめん。ボクはゲームはあまりやってないんだ」

「そうなんだ。よく見るマンガとかは?」

「マンガは…………。マンガもそんなに読まないね」

「そうなんだ。………………水島くんはリア充か…………」

 ボソッと小声で呟いた勇汰の一言が、やけに大きく聞こえてきた。

「…………そんな事ないよ」

 友希も小声で返す。その囁きは彼の耳には届かなかったようだ。

「…………」

「…………」

 二人して無言で町を見て回る。しばらく町を進んでいると不意に彼が呟いた。

「なんかさ…………古代ローマってこんな感じなのかな?」

「そう…………。なのかな?」

 古代はともかく現代のローマにも行った事がないので曖昧に答える。

「確かに石柱とか町にいる人たちの服装なんかは、テレビとかで見たことのある古代ロー

マの人たちに似てる気がするけど…………。偶然じゃないのかな? たまたま似るってこ

ともあるんじゃない?」

「うーん…………。そうかな? 俺さ。さっきエマさんから聞いたんだけどさ。この世界

にいる人間ってさ。元々は俺たちの世界にいたんだって」

「ええっ!? そうなのっ!?」

 あまりの衝撃に大声を上げる。その声にビックリした町の人たちの視線が集まり、急ぎ

足でその場を立ち去る。

「…………本当なの?」

「うん。そうみたい。ずっと昔に俺たちの世界から何かの拍子で次元の扉が開いてこっち

の世界に来てしまって帰れなくなった人たちが住み着いた世界だって。

 だからさ。俺は思うんだよね。この町の人たちってさ。きっと古代ローマ人の子孫じゃ

ないかと」

「…………うーん。そうかな? 一概にそうは言い切れないと思うけど…………」

 パッと見。ヨーロッパ系の人以外にもアジア系とかも居る。

「…………まぁ。俺の勝手な推測だから」

「…………そう。でもどっちかと言うと、ボクは町の人たちよりもドラゴンの方が気にな

るよ。ドラゴンってさ。この世界じゃ、どういう存在なんだろ?」

「どうって?」

「信仰の対象? それにしては普通に接しているし。家畜とかの扱いじゃないみたいだし」

「うーん。俺が聞いた話じゃ。ドラゴンと人間は助け合う共存関係にあるって聞いたよ」

「共存関係…………。でもボクが見た感じだと、ドラゴンを牛や馬みたいに扱っている人

たちがいるみたいだけど…………」

「うーん。それは…………どうなんだろ? よし! 直接、本人に聞いてみるか」

「本人?」

「おう! つーわけでバル! 出番だぞ!」

「う?」

 勇汰は腕に抱えていたバルの顔をのぞき込んだ。バルはなぜか体や表情を強ばらせてい

た。

「…………どうしたの?」

「ああ、大丈夫。単に怖がっているだけだから」

「怖がってるの? 何に?」

「うーん。………………何でも無い事に、かな? こいつ、筋金入りの恐がりだから」

 勇汰がハハハと笑うと、バルが勇汰の手をがぶっと噛んだ。

「いってぇ!」

「大丈夫!?」

「大丈夫、大丈夫! こらっ! 俺にバカにされたからっていきなり噛むなよ!」

「…………バルはもう恐がりじゃないもん」

 顔と尻尾をぷんと背ける。

「ほう。それじゃバル。お前、俺が抱いてやらなくてもこの人混みの中を平気で歩けるん

だろうな」

「う…………。それくらい……大丈夫、だもん。で、でも……。歩くのは疲れるし、ゆう

たもバルを抱っこしたいからさせてやるもん」

「俺は別に抱っこしなくてもいいんだぜ。よーし! それじゃ…………降ろそうかな?」

「う!? ううぅ!」

 バルが勇汰の腕にしがみつく。

 それを見た友希が慌てて止めに――。

「ちょっ、と。待ちなよ。怖がって――」

 入るのを止めた。

 ――ああそうか。

 友希は気がついた。二人は単にじゃれ合っているだけなのだと。こういう事が自然に出

来るほど絆が出来上がっているんだと。

 ああ――。またか。

 誰かと一緒にいるのに、感じる孤独感。そして疎外感。

 まさか。異世界に来てまでこれを感じるとは思わなかった。


・          ・          ・          ・


「うわぁ、凄い人の数!」

「…………朝よりも多い」

 町の中を簡単に見て回り、最後のイベントとして例の珍しいドラゴンを見にバザー通り

へとやって来た友希と勇汰。

 二人がそこへ到着すると、朝よりも更に大勢の人だかりが出来ていて近づけそうにすら

ない。

「困ったな…………」

 友希は隣の勇汰の顔色を伺う。自分が話しをふって連れてきたので、見れないとなれば

機嫌を損ねるのではないかと心配してしまう。

「…………どうしようか? 今日はあきらめて別の所を見て回る?」

 勇汰に提案すると、彼は少し考えて――。

「うーん。いいよ。このまま待ってようよ。どうせ、俺たちはこの世界じゃ。暇人なんだ

からさ」

「………………それもそうだね」

 友希はクスっと笑う。

 二人は行列に並び、順番が来るのを待つ事にした。

「…………なんかさ。こういうのに並んでると、遊園地とかを思い出さない?」

 待ち時間の暇つぶしに向こうの話しをふってみる。

「あー。そうだね。…………でも俺はさ。遊園地よりも、どっちかってーとゲームの限定

品とかアニメの限定品とか。そういうのを買うために並んだ事を思い出すよ」

「へー。そうなんだ…………」

 またゲームやアニメ。三人の中で一番話しやすそうな火野でさえ、こうして会話が噛み

合わない。

 友希はどうしようかと悩んでいると、今度は彼の方から話しをふってきた。

「水島くんってさ。遊園地とか結構行くの?」

「うん。友達と一緒に遊びに行くことが多いね。火野くんは友達とどっかに遊びに行かな

いの?」

「俺は…………どっかに遊びに行く友達とかはいないからなぁ…………」

「………………えっと………………ごめん」

 まずいことを聞いてしまったと、つい反射で謝り――謝った事をすぐに後悔した。

「いやいやいや! 謝んないでよ! それじゃあ、俺がぼっちの寂しい奴みたいじゃん

か! 大丈夫! 大丈夫! 友達いるし! 友達も俺みたいに遊園地とかにはあまり興味

無い奴ばっかだし!」

「そ、そうなんだ」

「そうそう。一緒にゲームやったり、本屋寄ったり、アニメショップ寄ったり。友達付き

合いもちゃんとやってるから」

「そう…………」

 自身の事を笑いながら話す勇汰の様子で、友希はとりあえずホッとした。

「水島くんはさ。俺とはタイプが違う感じがするからさ。普段、どういうとこに遊びに行

くの?」

「えっと……。ボクはね。学校がある日は真っ直ぐ家に帰るかな。休みの日は友達とデパ

ートに行ったり。ボーリング行ったり、カラオケ行ったり」

「カラオケ……ボーリング……。うわぁあ。やっぱ凄いな。リア充って感じだ。見た目通

り。いいなぁ!」

「…………そんなんじゃないよ」

 なぜか、やたらとリア充を褒めてきて、どう対応したら正解なのか解らない。そもそも、

彼だってリア充なのではと思う。

 とりあえず、愛想笑いでその場を凌ぐ。

「おっ!? もうそろそろかな?」

「そうみたいだね」

 行列の人数は多いが、回転率が凄くいいので待つのにそう時間はかからなかった。

 前の人がどんどん先へと進み――とうとう自分たちの番がやって来た。

「いらっしゃい! 見物料は一人たったの10メルだよ!」

「10メル…………」

 ポケットからコインを取り出す。エマの説明では、一メルが銅の硬貨一枚だからこれを

二十枚………………のハズ。

「はい。これ…………」

 ドキドキしながらお金を渡す。受け取った男はそれを一枚一枚数えて――。

「はい。丁度だね。毎度あり。ささ。こっちへどうぞ」

 男に案内されてテントの中へと入る。このテント、細い木の棒を数本組み合わせその上

からボロボロの布切れを被せてあるだけの簡素な代物だ。ちょっと強風が吹けば簡単に吹

き飛んでしまうだろう。

 それにこのテントの中も横が一メートルくらいの木で出来た桶みたいなのに水を入れて、

その中でドラゴンが泳いでいる。まるで生け簀だ。

「これが…………珍しいドラゴン?」

「そうさ。名前はアクレインって言うんだ」

「アクレイン…………」

 友希が顔をのぞき込む。ドラゴンも生け簀の中からこちらを見上げていた。

「………………」

「………………」

 綺麗だ。

 友希はそう思った。勇汰が連れ歩くバルとは違い、蛇のように細長く、魚の鰭のような

ものが二本ずつ頭の下から尾の先まで伸びている。頭部もイルカみたいな流線型で愛嬌の

あるフォルムをしていて、細い目がどこかクールさを醸し出していた。

「凄く………………綺麗ですね。体の…………濃い青色とか特に」

 思わず感想が口から零れ出てしまう。

「おおっ! そうだろ! こいつも喜んでるよ!」

「きゅう!」

 アクレインが嬉しそうに鳴く。

「さて。こいつを褒めてもらって悪いんだが、他のお客さんが待ってるんでな。そろそろ

出てってくれ」

「あ、はい…………」

 友希と勇汰はそそくさとテントから出た。

「…………さっきのアクレイン。綺麗だったね」

 友希が勇汰に感想を求めると、彼は何かを考え込んでいるような顔をしていた。

「…………どうしたの?」

「いや…………。あの人がちょっと気になって」

「さっきのお店の人?」

「うん。格好がさ、着物っぽいって言うか…………。お祭りに着る法被? っていうんだ

け? そう言うのに似てたなぁってさ。ふんどしみたいなのをしてたし。…………ひょっ

としてあの人のご先祖様は日本人なのかも?」

「………………凄いね。そういうのをちゃんと見てるんだ。ボクなんてアクレインに見と

れてそれどころじゃ無かったよ」

 勇汰の着眼点に感心して、友希たちは次の店を見て回った。


・          ・          ・          ・


「いっただきまーす!」

 夕飯は五人揃っての食事になった。食事は野菜のスープ系がメインだ。根菜類が多いが、

この町の特産なのだろうか?

 似たようなメニューが続いたにも関わらず、誰も文句を言わずにそれを美味しそうに食

べていた。

「…………今日は皆さん。町へと出ていらっしゃいましたが、どうでしたか?」

 食事を終えて一息ついてからエマが聞いてきた。

「どうって…………楽しかったよ。でも武器屋とか防具屋とか見つけたはいいんだけどさ。

子供は入店禁止とかで、入れなかったんだよ」

 勇汰は肩を落として悔しがる。

「入店はお店それぞれですが、その手のお店は騎士団などの紹介がなければ購入も出来ま

せんよ。素人に武器を渡すのは危険ですからね」

「ちえっ」

「…………武器や防具とか見てどうすんだ? ダンジョンにでもモンスター退治にでも行

くのか?」

 猛が呆れた顔をする。

「いやぁ。やっぱりさ。こういう世界に来たら冒険したいって思うでしょ?」

 さも当然のように勇汰が答える。てっきり猛はそれに異を唱えると思いきや。

「…………確かにな。男ならそういうのに憧れるよな!」

「でしょ!」

 意外にも二人の気が合った事に友希は驚いた。

「土屋くんは今日はどうしてたの?」

「オレか? オレはこの町をとにかく歩き回った」

「歩き回っただけ?」

「ああ。どこに何があるのか。それだけでも把握しておこうと思ってな」

 なぜか猛が偉そうに腕を組んで答える。

「良さそうなお店とかありましたか?」

「店はまだ見てないな。ただ…………」

「ただ? どうしましたか?」

「いや…………。ちょっと気になる事があってな」

「気になる事?」

「この世界のドラゴンは人間にとってどういう存在なんだ?」

「!?」

 友希は勇汰と顔を見合わせる。自分たちも昼間、そんな話しをしたばかりだ。

「それは――」

 答えるエマに視線を集中させる。

「ドラゴンは人間と共存関係にあります。お互いがお互いを助け合って生きています」

「………………」

 エマの答えを聞いた猛は腕を組んだまま、難しい顔をしてる。

「オレが今日見たドラゴンは、まるで家畜のように人間にこき使われていたぞ?」

「それは――」

 エマの言葉が詰まる。彼女はしばらく考えて、ゆっくりと言葉を紡ぎ出した。

「確かに……仰るとおりです。人間の中には野生のドラゴンを捕らえて金銭で売買し、無

理やり働かせている者もいます」

「それってさ。この世界じゃ、大問題じゃないの?」

 友希の指摘を受けてエマは力強く頷く。

「はい。それら悪人を捕らえて裁くのも騎士団の役目でもあります。ですが…………ドラ

ゴン族の中には自ら人間の元で働く事を望むドラゴンも多くいるため、取り締まりが難し

いのが現状なのです」

「…………そうか。自分から人間にこき使われるのが好きなドラゴンもいるのか」

 猛の視線が地面に刺さる。

「何かありましたか?」

「いや…………。オレの勘違いかもしれないし。…………一応、確かめないと」

「…………? 何かありましたら、遠慮なく言って下さいね」

「ああ。もちろんそうする」

 そう答えて、猛は黙り込んでしまった。

「お二人はどうでしたか? アクレインを見る事が出来ましたか?」

「うん。すっごく綺麗だったよ!」

 ハシャいで答えて、すぐに友希は頬を赤らめる。

「俺はアクレインよりも、お店の人が気になったな」

「どういう事です?」

「着ている服とかがさ。俺たちが暮らしてた世界の国のに似てたんだよな。ひょっとして

その人のご先祖様が俺たちの国の出身なのかもしれないのかなって」

「その可能性はありますね。このカウンティアという世界は町ごとに服や建物が違います

から、ひょっとしたら皆さんの見覚えがある町や文化があるかもしれませんね」

「そうかー。行ってみたいなー」

 勇汰が背伸びをする。それから皆の視線は自然とただ一人、無言を貫いている彼に集ま

った。

「………………」

 風祭輝は黙って俯いて…………急に立ち上がり逃げ出してしまった。

「…………」

 残った四人は顔を合わせて肩をすくめるしか出来なかった。





「…………うん」

 布団にくるまって小さく呻く。

「…………ん」

 寝返りをうつ。

「………………くっ」

 布団の中で背伸びをする。昨日の疲れは殆ど残っていない。気持ちのいい目覚めだ。

「…………」

 友希は布団をゆっくりはいで上体を起こす。

「…………」

 隣のベッドの様子を伺う。

「…………」

 そこで寝ている輝は頭から布団を被っている。寝ているのか起きているのか判断できな

いが――。

「…………」

 寝ていると判断して、彼を起こさないように静かに支度を始める。寝間着を脱いで綺麗

に畳み、枕元に壁に掛けて乾かしていた服を着る。

「…………このままじゃ駄目だよね」

 同じ服をこのまま着こなすのはさすがにキツい。お金を貰ったし、今日は新しい服でも

買いに行こうと思う。

「…………どんな服があるんだろう?」

 昨日一日、町の人がどんな服を着ているのかを見てたが…………実に様々だ。

 古代ローマのような町と表現したように、それこそ古代ローマ人のような素肌に布を纏

っているような格好をしている人が大多数だ。

 それ以外の服装はおそらく観光客。素材は解らないが、あっちの世界にあるような短パ

ンやTシャツに似た服を着ている人も居た。

「…………あんなのがいいな」

 無難なのが良い。

 間違っても古代ローマ人のような格好は勘弁だ。もし店で進められたら絶対に断ろう!

「………………行ってきます」

 まだ寝ている輝にそう囁く。返事が無くても構わない。挨拶をする習慣が出来てるだけ

だ。

 部屋を出てまずはトイレ。それから手を洗いに外の井戸へと向かう。

 手を洗い終え、そのまま井戸の水を一口飲む。

「ふぅ…………」

 空を見上げる。まだまだ薄暗い。夜明け前だ。時間が解らないので予想だが、午前四時

くらい? だろうか?

「…………早く起きすぎたかな?」

 この世界に来てからまだ数日。テレビやネットの無い環境なので、日が沈むと寝て日が

昇る前に起きるという健康的な生活を遅れているが…………慣れないので何か気持ち悪い。

「…………散歩でもしようかな?」

 部屋に戻っても何もする事がない。寝ている輝を起こす訳にもいかないし、本があれば

まだ違うだろうが…………。

「この世界の文字とか読めないしな…………」

 会話が出来るのに文字は読めない不思議。

 なので今出来るのは朝ご飯までに軽く運動して腹を減らしておく事くらいだ。

 そう思い立ち、すぐ行動。正面玄関を出ると――。

「あれ? 土屋くん?」

 玄関には猛が準備運動をしていた。

「おっ。おはよう。早いな」

「うん。おはよう。…………土屋くんも早いね。何してるの?」

「暇なんでな。ちょっくら、ジョギングをしてこようとな」

「ジョギングか…………。それもいいね。でも…………」

 友希は猛の格好を眺める。

「その格好で行くの?」

「ああ、そのつもりだ」

 彼は恥ずかしげもなく普通に答える。

 猛は下は短パンで上半身裸という格好だ。

「昨日。歩いて回ったら、結構、裸の奴がいたからな。問題ねぇんだろ」

「それはそうかもだけどさ…………」

 友希は思い出す。確かに温暖な気候ゆえか、上半身裸で町を歩き回る男たちも結構いた

が…………。

 だからと言ってそれを真似しなくてもいいのではないか?

 そう言えば、彼はこっちに来た時も一人だけタンクトップだったし。風呂上がりも結構、

裸でうろうろしてるし。

 …………体を鍛えてるから見せたいのだろうか?

「服の着替えも無いから、あんまり汚したくないってのもあるからな」

 彼がそう付け加えるが…………友希にはむしろそっちが後付けの理由に聞こえた。

「そうだ。一緒にランニングに行くか?」

「えっと…………ごめん。ちょっと遠慮しとくよ。寝起きに激しい運動は得意じゃないん

だ」

「そうか。…………じゃあ、行ってくる。朝飯までには戻ると伝えておいてくれ!」

「うん。気をつけて!」

 朝霧の中へ消えた猛を見送って、友希も出発した。


・          ・          ・          ・


 朝の町はちょっとミステリアスだ。

 ほんのり明るくてどこか暗い。白んだ空と表現するのが正しいのだろうけれど、友希に

はこの空が濃紺に映った。

 この深い深い青色にだんだんと白が混じって薄まり、鮮やかな青色へと変わる。始まり

の瞬間に立ち会っている。

「…………空気が美味しいな」

 歩きながら深呼吸する。湿り気を纏った夏草の香りが肺を満たす。

「静かだな」

 同じ町とは思えないほど静まりかえっていた。当然ながら道を歩く人、すれ違う人は誰

も居ない。自分だけの世界に来たみたいだ。

「…………どこに行こうかな?」

 目的も無く適当にぶらぶら歩く。神殿の周りを一周しただけでは時間を潰すのにまだ足

りない。

「そう言えば…………こっちに公園があったっけ?」

 確か噴水みたいなのがあったような…………?

 記憶がぼんやりと霞んでいるが…………構わずに行動する。

 いつも慎重な友希も、今は何だか適当な気分だ。

 ――どうせ俺たちは暇人なんだ――

 勇汰が言った台詞を思い出したからかもしれない。

「…………確かに。暇人だもんなぁ。ボクたちは」

 まだ。この世界で成すべき事と出会っていないのだから、何も出来ない。何も進められ

ない。

 だからなのかな?

 じっとしてられず、何かをしていたくて、朝早くから動きまわっているのは?

「…………ドラゴンね」

 エマの話しの通りならば、勇汰にバルが居るように、自分にもドラゴンが居るはずだ。

「…………どんなドラゴンかな?」

 いや。どんなドラゴンでも仲良くしなくちゃいけない!

「上手くやっていけるかな?」

 不安でため息が出てくる。

 そんな事をぼんやりと考えていると、あっという間に目的地に着いた。

「――到着っと」

 公園に着いた友希は園内を眺める。広さはおよそサッカーコート二面くらいだろうか。

公園の周りは柵と樹木が植えられていて、中にはいると外にある町の様子が解らない。中

は噴水があり――今は水は止まっているが――その周囲を取り囲むように石で出来たベン

チが所々に並んでいる。 それだけのシンプルな公園だ。

 昨日来た時は、それでもそれなりに人が居てのんびり過ごしていた。

 さすがに今の時間帯は誰も――いや、一台の竜車が端の方に止まっている。

 荷車を引く巨大なドラゴンはまだぐーすーぴーと眠っているが…………迂闊に近づくの

は危険だろう。

 友希は竜車から一番、距離を取った噴水の縁に腰掛けた。

「ふぅ…………」

 ちょっと一息。

「けっこう疲れたなぁ…………」

 部活には入っていないが、付き合いでスポーツを一緒にやる事が多い。なので体力には

それなりに自信があったのに…………。

「………………はぁ」

 また、ため息を一つ。

「ボク…………。この世界でやっていけるのかな?」

 今更ながらな質問を投げかける。

「………………皆は良い人たちばかりなんだけどさ。…………ただちょっと個性が強すぎ

るんだよな。ボクだけ浮いちゃってるような気がするし。…………はぁ」

 ここが河原なら石を投げたい所だが、綺麗に舗装された公園には石ころ一つ落ちてなか

った。

 それに水は前ではなくて後ろにある。

 ぴちゃん。

 背中から水の音が聞こえてきた。

 噴水が動き出したのかなと思って振り返ると――噴水は止まったまま。

「あれ?」

 気のせいかと思うと、またぴちゃんと音がした。

 よーく確かめてみると、噴水に溜まった水面が揺れている。

「…………魚でもいるのかな?」

 のぞき込んで探すと――キラリと光る目玉と目が合った。

「うわっ!?」

 思わず仰け反り、地面に尻餅を着く。水面から何やら細長い生き物が飛び出してきた。

「なっ! なんだっ!?」

 驚く友希の前に現れたのは――昨日、出会ったアクレインだ。

「…………また、お会いしましたね」

 アクレインは静かな口調で友希に語りかける。

「あ…………う…………あ、え、そう…………ですね」

 言葉を詰まらせる友希を見て、アクレインの細い目が更に細くなる。

「ふふ。そんなにビックリしないでください。ちょっと傷つきます」

「え? …………あ、す、すみません」

 お尻をパンパン叩いて立ち上がる。

「まだ、ちょっと…………慣れなくて」

 ドラゴンが人間の言葉を話すという現実に、まだ少し戸惑いが残る。

「ところで、どうしてこんな所にいるんですか?」

 友希は思い切って聞いてみる。珍しいドラゴンがたった一匹で噴水の水の中にいる。ひ

ょっとして、人間から逃げ出してきたのだろうか?

 だとしたら事件の臭いがする。

「いえ、ちょっと水浴びをしたくなったのですよ」

「そう…………」

 事件じゃなくてホッとした。

「って! ここの噴水は真水ですよ! いいんですかっ!? 海水じゃなくてっ!」

 確かアクレインは深海で暮らすドラゴンのハズだ。真水の中を――いや、それ以前に水

圧の違う環境に居ても平気なのだろうか?

「大丈夫ですよ。水属性のドラゴンにとって大切なのは水のエレメントがあるか、無いか

ですから。深海だから生きられないとか、海水じゃないと駄目だから。そんな魚みたいな

制限は私たちにはありません」

 アクレインが水の中から飛び出す。ふわりと宙に浮かび、まるで水中に居るかのごとく

空中を泳ぎ回る。

「それに私たちアクレインと言うドラゴンは単に静かな環境が好きなだけですので。それ

でわざわざ深海底で暮らしてるのですよ」

「…………そうなんですか」

 アクレインの説明が、目の前で宙を泳ぐ光景のインパクトが大きすぎてあんまり入って

こない。

「ところで、貴方はどうしてここに? 今日はお友達と一緒ではないのですか?」

「友達…………」

 アクレインの言葉がちょっと胸に引っかかる。

「友達…………と呼んでもいいのか。って思います。まだ…………出会って数日しか経っ

ていないので」

 友希はもう一度、噴水の縁に座り――俯いた。

「…………そうですか? 少なくとも、私が見た限りでは、もう一人の方は貴方の事を友

達と思っているように見えましたよ」

「彼が…………? だとしたらボクは最低だな。彼の事を友達と呼んでもいいのかって」

 更に頭を下げる。

「………………貴方は彼とは友達になりたくないのですか?」

「――え?」

 そう質問されて頭を上げる。

「友達に――?」

 そんな事、考えた事もなかった。少なくともこの世界の中での付き合いだけの相手であ

り、表面上の付き合いだけで十分事足りると思っていたから。

「友達になっても…………どうせすぐに別れるから」

「それはつまり、ずっと一緒に居ない相手とは友達になれないと言う事でしょうか?」

「………………それは、そう言う事なんじゃないかとボクは思います。だって…………友

達ってつまりそう言う事でしょう?

 これからの人生をずっと一緒に歩んでいく存在。一緒に遊んだり、勉強したり、悩みを

打ち明けあったり」

 助け合える存在。それが友達だ。

「では…………貴方にはそんな存在が居るのですか?」

「え…………い、いるよ」

 即答出来なかった。胸を張って言えなかった。

 向こうの世界に居る友人の顔を――すぐには思い出せなかった。

「…………そうですか」

 アクレインの視線が下を向く。ちょっと悲しそうな表情に見えて――きっと嘘を………

…虚勢を張っていると思われたに違いない。

 だが友希はそれも否定できなかった。

 こっちの来る直前の約束のドタキャンもそうだが、約束を破られるのも一度や二度だけ

じゃない。

 前に友達とショッピングモールに遊びに行く約束をしてたのに、都合が悪くなったから

と断られたら。実はその友達は別の友達とプールに遊びに行っていたのだ。

 後でその事実を知った友希はその友達を――責めなかった。むしろ泳げない自分を気遣

ってくれたのだと、無理やり納得して悲しさを紛らわせたくらいだ。

「なら――いいのですが…………」

 アクレインは冷たく声で続ける。

「それなら――貴方はどうしてそんなに寂しそうな目をしているのですか?」

「…………え?」

 突然、何を言い出したのかと思った。

「寂しい? ボクが?」

「ええ。寂しそうにしてましたよ。昨日、お友達と一緒にいる時に」

「それはっ………………!」

 勢いづいた言葉を一端、飲み込む。そして租借してゆっくりと吐き出す。

「それは…………仕方ありませんよ。だって…………ボクよりも彼らの方が仲が良かった

のですから」

 あの二人には絆がある。なら自分は部外者だ。だから仕方の無い事だ。そう言う事だ。

「――本当に?」

 全てを見透かしたかのような、アクレインのその一言に、友希は思わずイラッときてし

まった。

「だったらっ! 貴方はどうなんですかっ! ボクの事ばかりいって! 貴方だって寂し

そうな目をしてるじゃないですかっ!」


・          ・          ・          ・


 どこまでも続く暗闇の世界で生まれた。

 親の顔は知らない。

 仲間も居ない。

 産まれた時から独りぼっち。

 でも生き方は知ってる。本能が教えてくれたから。

 一人で生きろ!

 それがアクレインだ。

「――本当に?」

 そんな疑問を抱いてしまった。

 本当に。アクレインは一人で生きていくドラゴンなのだろうかと。

 そんな事を相談する相手など当然、居るはずもなく。胸の内に沸き上がったこの疑問と

感情を、否定できる者も、止める者も当然居ない。

 ならば――。

 それを確かめに行けばいい!

「――そうして私は暗くて冷たい深海から、明るくて暖かい地上へと上ってきたのです」

 アクレインが淡々と自分の事を語り出す。友希は隣に座り、それをただ黙って聞いてい

る。

「初めて空を見たのは夜空でした。その日は雲が無く、月明かりが水面を照らしていまし

た。

 その月を目指して泳いでいると、やがて岸に着きました。着いた頃には月は沈み、太陽

が昇っていました。

 日が昇ると世界が明るくなり、世界が広がりました。目に飛び込んでくるのは初めて見

るものばかり。私は楽しくなり、その世界へと飛び込んだのです」

 冷たく感じた声に、いつの間にか熱がこもっていた。

「初めて地上に出たのは水の町スイベール。そこで初めて出会った人間が今、一緒に旅を

している親方なのです」

 友希は思い出す。昨日出会ったあの男の顔を。

「親方は良い人です。私の為に世界を見せてあげると言ってくれました。

 こうして一緒に旅をしてくれてますが…………」

 アクレインの声が低くなる。

「ただ。私は申し訳なく思っているのです。親方は元々は漁師。家族も居て、自分の生活

を送っていたのに。私についてきてくれた。せめてもの恩返しと罪滅ぼしのために私を使

って生活のためにお金を稼いでもらっていますが――それでも申し訳なく思うのです」

「…………だったらそう言ったらいいんじゃないですか?」

「でしょうね。話せば、親方はきっと解ってくれます。その上で気にするなと笑うでしょ

う。

 だから私は早く見つける事にしたのです」

「何を?」

「大切なもの。いずれ私が、孤独が待つ深海底に戻る日が来た時に持っていける大切な物

――思い出を」

「思い出…………」

「ええ。こうして旅をして得たものを。出会った人々との語らいを一つ一つこうして記憶

に留めておくのです」

「…………ボクとの出会いも?」

「もちろん」

 アクレインの目が細くなる。

「貴方を最初に見た時――その目を見た時――。私は私を見ているようでした。孤独を恐

れるその目を」

「ボクが…………孤独を恐れてる?」

「心当たりはありませんか?」

「………………」

 友希は自分の胸に手を軽く当てる。そして考える。これまでの自分の気持ちを――感情

を――。

「確かに…………そうかも、しれません」

 心のどこかで気がついていて、でも気づきたくなくて蓋をしていた感情と目が合った。

 目が合ったので、もう知らんぷりは出来ない。認めるしかない。自分の弱さを。

「寂しいと…………感じるよ。いつも。どこでも…………。どうにかしたくて。友達と一

緒に居たくて…………でも居てもむしろ寂しくなってしまって。その理由がわからない」

「…………残念ながら私にもその理由がわかりません。なぜなら私も孤独しか知らないの

ですから」

「どうすればいいんだろう?」

 さっきアクレインに話した理想の友達像。そんな友達が見つかればこの孤独から解放さ

れるのだろうか?

 アクレインが思い出を見つけて孤独から解放されたがっているように。

「何か…………ちょっとだけ似てるかな? ボクたち」

「…………そうですね。似てますね」

 お互い顔を見て笑う。

 なぜだろう?

 この瞬間――孤独を忘れられた。


・          ・          ・          ・


 何か面白い話しをしてた訳じゃない。むしろ会話は途切れ途切れ。沈黙の時間の方が多

かった。

 会話の間。お互い黙り込んでしまう空白。それを友希は嫌いだった。

 会話が続かない事が苦痛で、相手は自分と一緒にいると楽しくないんじゃないのかと不

安にもなる。

 だからなるべく会話を続けようと友希は頑張るのに…………。

 どういうわけか。アクレインとの会話は楽しめた。沈黙と言う時間も含めて。

 楽しい時間だった。

 あっと言う間に時間が過ぎ、気がつくと朝日はもうとっくに顔を出していた。

「それじゃ、ボクはそろそろ帰ります」

 立ち上がり、振り返る。アクレインの顔が寂しそうに――見えた気がした。

 だったら嬉しいな。

 ついそう思ってしまう。

「そうですか…………。それは残念です」

 アクレインも水の中から飛びだした。

「私もそろそろ帰りますね」

「うん。…………じゃあね」

「はい。ではまた」

 また――。その言葉を聞いて。そうか、また会いに来ればいいんだと気がついた。

「そうですね。またね」

 手を振り――別れる。後ろ髪を引かれない別れは初めてかもしれない。

 足取りは軽く――そのままスキップでもしそうになるをのこらえて歩く。

「朝ご飯食べたらまた来よ――」

「うわぁああぁぁぁっ!?」

 突然の悲鳴。小さく飛び跳ねて振り返る。

「!?」

 声の出所はアクレインが帰って行った竜車の方から。

「っ!」

 すぐさま駆けつけて――竜車の後ろへと周り、中を覗く。

「アクレイン!」

「うっ…………あぁ…………」

 竜車の中でアクレインが締め上げられていた。締めているのは一緒に旅をしている男―

―親方だ!

「何してるんですかっ!?」

 竜車へと乗り込んで親方の腕を掴む!

「ぐっ!」

 だが細い友希の腕では太い親方の腕をふりほどくどころか満足に掴めない。

「うぅぅ…………」

「離してください!っ」

「ヴヴヴ!」

 友希の声は親方には届かない。

 普通じゃない!

 顔つきがまるで鬼の形相になっている。アクレインを本気で絞め殺すつもりだ!

 冗談ではない!

 友希も歯を食いしばり腕に力を入れる。

「離してっ!」

「ブヴヴヴ!」

「ぅ……」

 駄目だ! 腕は解けずアクレインも危険な状態だ。

「こうなったらっ!」

 悪いと思ったけれど非常事態だ。友希は竜車の中に置いてあったイスで親方の体を叩

く!

「ヴッ!?」

 さすがにこれは効いたみたいだ。一瞬だけ腕の力が抜けて、アクレインがするりと落ち

た。

「今だっ!」

 すかさず友希がアクレインの体を抱き抱えて竜車から飛び降りる。

 その後を追うように親方も竜車から降りて追ってきた。

「一体…………どうしたんだっ!?」

「ぅ…………親方…………」

 アクレインが気がついたようだ。

「良かった! 大丈夫ですか?」

「…………ええ。何とか…………。しかし親方が!」

「親方…………。どうしてあんな事を?」

 良い人そうに見えたのに。

「魔物の…………せいです」

「魔物? 魔物って………………あの魔物!?」

 頭が混乱していて回線が上手く繋がらないが、良くないモノだとは理解している。

「はい。親方の体をよく見てください」

「体?」

 足を止めて振り返る。

 親方はゆっくりと…………まるでゾンビのような歩き方で近づいてきている。

 なので距離は十分取れている。

「あの…………肩!」

 親方の右肩、首の付け根の所にぼっこりと何かが出ているではないか!

「何…………あれ…………?」

「あれが魔物です」

「魔物…………あれが!?」

 まるで肉腫のような瘤。それが裂けると中には目玉が入っていた。ギョロギョロ気味悪

く動かしてこちらを見てくる。

「あの魔物は人間やドラゴンに寄生して操ることができるのです」

「だから親方は君にあんな酷いことをしたんですね。それでどうします? どうすれば親

方を助けられるんですか?

「それは親方の肩に憑いている魔物を退治すれば…………」

「退治…………」

 勇汰の話しを思い出した。

 魔物に襲われた事やその時、どうやって切り抜けたのかを。彼の話では確か尖った木の

棒で目玉を刺したと。

「…………出来ないよ」

 あいにく、公園内には武器となりそうなものは見あたらない。

「何か…………何か…………無いのか?」

 目玉を動かして何かを探す。それを見つける前に親方が動いた!

「ヴヴヴ!!」

 親方が突然走り出したのだ!

「走れるのっ!?」

 驚いて逃げるのが遅れた。友希はすぐに捕まり――今度は友希が首を絞められる!

「うっ…………」

「…………!」

「彼から離れてください!」

 今度はアクレインが友希を助けるために動く!

 親方の腕に絡み付き、ぎゅっと締め上げる。

 だが、それでも親方は友希を離さない!

「友希!」

「…………ア、ク…………レイン!」

 友希とアクレインの視線が交差する。

 その次の瞬間――友希とアクレインの体が光を放ったのだ。そして友希の右手の甲とア

クレインの額に紋章が浮かび上がる。

「これは…………勇者の…………証」

 友希とアクレインの体が水に包まれる。その水は彼の首を絞める腕を伝い――親方の体

も覆う。

「ギギギギギッ!?」

 この水に包まれた魔物が苦しそうにもがき――親方の体から離れる。

「うっ…………」

 ようやく友希は解放された。

「ギギギッ!」

 魔物はもがき苦しみ――水に溶けて消えていった。

「やっ、たぁ…………」

 友希はすぐに気を失った。


・          ・          ・          ・


「うっ……?」

 目覚めるとアクレインが顔をのぞき込んでいた。

「あれ…………ボクは、一体?」

 体を起こそうとすると、全身が痛かった。

「筋肉痛!?」

 何が原因かと考え――すぐに答えを出す。

「さっきの…………」

 右手の甲を見ると、紋章が浮かび上がってきた。

「これ…………」

「勇者の証ですね」

 アクレインの額にも紋章が浮かんでいる。

「どうやら私は守護竜の後継者として選ばれたようですね」

 落ち着いて、自身の身の上に起きた事を整理している。

「…………ごめんなさい」

 友希は謝った。

「なぜ、謝るのですか?」

「だって…………。アクレインは思いで作りのために旅をしたかったのに…………。ボク

のせいで守護竜の後継者になってしまって」

 そうなってしまってはもう自由に出来ない。勇汰やバルと同じくアクレインも友希と行

動を共にしなければならなくなるからだ。

「それは…………。平気ですよ」

 アクレインが微笑んだような気がした。

「私は別に旅をしたかった訳ではないのです。素敵な思い出を作りたかったから旅をして

探していたのです」

「だったら尚更…………ボクと一緒にいたら、駄目、なんじゃないですか!?」

「そんな事はないですよ。だって――」

 アクレインの見下ろす表情が嬉しそうに見える。

「貴方と一緒なら楽しい思い出が作れそうな気がするのですから」

「…………え?」

「先ほどの貴方と過ごした時間。私はとても充実していました。こんな経験は初めてです。

なのでこれから貴方と一緒にいるのは楽しみなのです」

「アクレイン……」

 アクレインの言葉を聞いて、友希はちょっとだけ瞳が潤んだ。

「ボクも…………正直、嬉しいんです。アクレインが相方だったら良かったらなと思った

ので…………」

「それは私も嬉しいです」

 アクレインが頬を擦り付けてくる。

「…………そう言えば親方は? 無事なんですか?」

 キョロキョロと瞳を動かすが…………姿が見えない。

「ええ。大丈夫ですよ。親方は魔物が消えてからすぐに意識を取り戻しました。そして気

を失った貴方を竜車へと乗せて走らせているのです」

「…………どこへ?」

「神殿です。もうすぐ着くと思いますよ」

「おーい! アクレイン! 話し声が聞こえるが…………ひょっとして目が覚めたのか?」

「ええ。友希は無事に目が覚めました。大丈夫です!」

 どこからか聞こえてくる親方の声。

「そいつは良かった! すまねぇな坊主! 酷い目に遭わせちまってよ!」

「い、いいえっ!」

 体が痛いが…………それを我慢して声を上げる。

「気にしないでください! それよりも――」

 アクレインを見る。

「すいませんっ! アクレインを…………これからボクと一緒に行きます!」

 言い終えて、まるで彼女の両親に挨拶する台詞みたいだなと恥ずかしくなった。

 けれど、これはちゃんと言っておかなければならないこと。アクレインの相方が変わる

のだから。

「そうかぁ! そいつはよろしく頼む!」

 親方はすんなり承諾してくれた。そして――。

「よかったなぁ、アクレイン! 捜し物。見つかってよ!」

「……ええ!」

 アクレインと目が合ってにっこり笑いあった。



第一話を投稿してからすぐに評価をしてくださった方、ありがとうございます。

この話しはスローペースで進める予定なので、どうか気長にお付き合いお願いします。


では読んでくださった方。

ありがとうございます。


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