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ドラゴニック・ブレイブ  作者: 丸くなれない針鼠
1/8

第一話



「はぁ、はぁ、はぁ!」

 真っ赤に染まる景色をいつまでも走り続けている。

「はぁ、はぁ、はぁ!」

 脇腹が痛い。

「はぁ、はぁ、はぁ!」

 足なんか、とっくに疲れきっている。

「はぁ、はぁ、はぁ…………」

 もう止めたい! 止まりたい! 足を止めてその場に倒れてしまいたい!

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 心が悲鳴を上げても、体は――この脚は止まろうとしない。

 自分の体なのに、自分の体じゃないような。死ぬまで走り続ける呪いをかけられたみた

いに、この脚は動くのを止めない。止めてくれない!

「はぁ…………はぁ…………はぁ…………」

 吐きそうだ。でも止まれない。

 それは背後から迫り来る何者かの気配のせい。それが何かは解らない。ただそれはとて

も危険なモノで、追いつかれると、捕まると、その瞬間にゲームオーバーになるのは確実。

 ソレに殺されてしまうだろう。

 嫌だ! 死にたくない!

 死への恐怖と生への執着を恥ずかしげもなくさらけ出しながら逃げる。逃げ続けてい

る!

「はぁ! はぁ! はぁ……」

 今度は暑い! 熱い!

 逃げ続けているうちに、いつの間にか真っ赤に染まる景色は溶岩地帯へと切り替わって

いた。

 ドロドロに溶け切った溶岩の海。その真ん中に真っ直ぐ延びた一本の道がる。気が付く

とその危険な道を走っていた。

 躊躇うことなく。全ては背後に迫る死神から逃れるために。

「はぁ……はぁ……はぁ…………」

 一体いつまで逃げればいいのか?

 答えは「俺が死ぬまで」だ。

 そんな答えが解り切った質問を何度も頭の中で繰り返す。

 だから必死で逃げ続ける。

 意地でも逃げ切ってやる!

 そんな決意が胸に宿る。

 しかし――。

「はぁ、はぁ…………、はぁ…………」

 目の前の絶望的な状況が、せっかくの決意を打ち砕く。

 ――道がない!

 長く延びた一本道の行きついた先は断崖絶壁。溶岩の滝壺だった。

 さすがにこの呪われた脚も、溶岩の海を望む断崖絶壁を前にしては止まるしかなかった。

「はぁ…………」

 目の前の絶望。

 すぐ後ろの死。

 この二択を突きつけられて、とった行動は――。

「うっ!」

 目の前の溶岩の海へとダイブだった。

 真っ逆さまに落ちていく身体。さっきまで自分が立っていた場所が見えた。迫っていた

死に神の姿をここで確認できた。それは黒い靄だった。

 何故かその靄が、自分を殺せなくて悔しがってるみたいに見えた。

「ざまぁみろ」

 ほくそ笑んで、頭から溶岩の海へと落ちた。

 不思議と熱さは無かった。

 ただ、着ていた衣服は一瞬で蒸発して消えた。後はこの身体が燃え尽きるのを待つだけ

――。

「あ…………」

 何かいる?

 溶岩の中を泳ぐ何者かの存在を感じた。そいつはこっちへと近づいて来て――目が合っ

た。


・         ・          ・          ・


「…………あちぃ」

 寝ぼけてベッドから落ちた衝撃よりも耐え難いこの部屋の暑さへの感想が先に出た。

「ぁぁ、気持ちイイ…………」

 フローリングのひんやりが火照った身体を少しだけ冷やしてくれる。

「…………」

 ごろんと仰向けになると、視界にクーラーが入った。コンセントは刺さっているが、リ

モコンのボタンを押してもうんともすんとも言わなくなったクーラーが。

「ぁぁもう。…………最悪だ!」

 今は八月上旬。既に七月半ばにはもう真夏日が到来し、世間では早々とクーラーが大活

躍してるというのに、我が家では――正確には自分の部屋のクーラーが――夏の到来を待

たずに故障してしまったのだ。

 業者に修理を頼んだが、繁忙期らしく修理を行えるのが八月の終わりくらいになるらし

い。

 それならいっそ新しいのを買おうと親に進言したのだが、お金がないと却下されてしま

った。

「………………暑い」

 床が温くなったので起き上がり、孤軍奮闘の活躍を見せてくれている扇風機様の前に立

つ。

「あーあー」

 温い風だが、大汗掻いた身体にはこれでも十分な涼を取れる。

「…………ふぅ」

 少しだけ体温が下がり、意識もハッキリしてきた。

「…………そろそろ服を着るか」

 ベッドを見る。

 寝汗でベッドの色が変わり、その上には昨日寝るときに来ていたパジャマと下着が散乱

している。

 あまりの暑さで寝ている間に無意識に服を脱ぎ捨てる癖がついてしまったようだ。

「はぁ…………。やっぱあの夢はこの暑さのせいだろうな」

 少年はうんざりした。

 連日して見る奇妙な夢の話。何かに追われ、溶岩地帯を走り、最後はその中に飛び込む

悪夢。

 溶岩地帯を走るのはクーラー無しの熱帯夜の部屋の状態を表し、溶岩に飛び込むのはベ

ッドの上から落ちる。ちなみに溶岩に落ちて服だけが燃えてなくなるのは、寝ている間に

脱いでいたから。…………そんな感じだろう。

「でも…………今日の夢はいつもとちょっと違ったな」

 昨日まで見た夢では溶岩に落ちて体が燃え尽きていた。それが今日の夢は燃えることな

く、さらにその続きがあった。溶岩の中で何かデカい生き物と目が合ったのだ。

「アレには何か意味があるのかな? まさか…………俺の中に隠された未知の力が覚醒す

る予兆とか?」

 姿見の前で、右手で顔の半分を覆うポーズを決める。…………全裸で。

「…………っといけない。いけない。昔の癖がまた出てしまった」

 ポリポリと胸を掻く。指が汗でベタベタする。

「シャワーでも浴びようっと」

 ベッドの上の下着に手を伸ばす。

「うわぁ・・・・・・最悪だ」

 脱ぎ捨てた下着は寝汗でぐっしょり濡れていた。

 一案が浮かぶ。

 このまま何も着ないで風呂場へと向かうか、と。

 だが、さすがに十四歳の思春期真っ直中の青少年には、一階で朝食を作ってるだろう母

親と全裸でかち会う冒険なんぞしたくなかった。

「…………仕方ないか」

 観念して蒸れて気持ちの悪いパンツをもう一度穿く。パジャマは…………これをさすが

にまた着る気にはなれなかった。

「ぁぁ…………暑い」

 火野勇汰ひのゆうた十四歳。パンイチで母親の目をかい潜り、風呂場へと突入する

ミッションをスタートさせた。


・          ・          ・          ・


「ふぁああぁ…………ここは天国ふぁあ……」

 大きな欠伸を何度も繰り返す。

「やっぱりクーラーは良い良い。クーラー最高!」

 リビングでクーラーの恩恵をその身に一心に受けて、改めて文明の利器のありがたさを

噛みしめる。

 ミッションを無事に完了した勇汰は、朝食を済ませそのままずっとこのリビングでくつ

ろいでいた。

 三人掛けのソファーを一人で占領し、ギンギンに冷えたジュースを片手に録画しておい

たアニメを思う存分見る。

「あははは」

 ギャグアニメのワンシーンが壷にハマり、何度も繰り返し見ては同じように笑う。

 夏休みだから、ではなく。日常の休日であっても全く同じようにダラダラと過ごす日々。

「……………………ハァ」

 僅かに漏れ聞こえてくる小さな溜め息。

 中学二年になる息子のそんな姿を見かねた母親が抗議の意味を持たせた溜め息だ。

 そしてその溜め息は、テレビに釘付けになっている息子の耳にもしっかりと届いてたも

のの、聞こえなかったフリをした。

「…………ハァ」

 再び耳に届く。

「あはははは」

 勇汰はテレビのボリュームを大きくする。

「あはははは」

「ハァ…………」

 溜め息が、今度は耳元で炸裂する。

 流石にこの距離では無視することは出来ないので、勇汰は仕方なく母親の相手をするこ

とにした。

「何さ。さっきから」

「それはこっちのセリフ。あんた、来年は受験生なんだから勉強しなさい!」

「うーん…………。わかったから」

 そう答えると、視線をテレビに戻す。

「わかってないじゃない! あんたはそうやっていつもいつもテレビばっかり見て! こ

れじゃどこの高校にも受からないわよ!」

「大丈夫だって。学校のテストじゃ平均点より下は取ったことないし」

「あんたね! 学校のテストと受験は全く別物なんだからね。油断してるとどこも受から

ないよ! いい!? 言っとくけど、受験に落ちても浪人させる余裕なんて無いんですか

らね。私立も駄目。公立一本よ!」

「わかってるってっ!」

 勇汰はテレビの電源を切った。いつもならここで逃げるように自分の部屋へと戻るのだ

が、不幸にも自室のクーラーが壊れているので戻るに戻れない。

 母親もそれを知っているからこそ、こうして口撃に撃って出ているのだ。

「ちょうど良いから、今日こそはちゃんと言わせてもらうわ。あんたは常日頃から漫画や

アニメを見てばっかり。勉強だってしてる気配も無い。学校のテストだって良いときもあ

るし悪いときもある。どっちかって言うと悪いときの方が多い。部活だってやろうとしな

いし、あんたね、それで将来、どうする気なの? わかってるの? 今が大切な時期だっ

て! このまま本当に高校に入れなかったら本当にどうする気よ!? ねぇ、ちゃんと聞

いてるの!?」

「あーもうっ! 聞いてるって!」

 鬱陶しそうに宙を手でぐちゃぐちゃにかき混ぜてる。立ち上がり、玄関へと向かう。

「待ちなさい! まだ話しは終わってないわよ!」

「あーもう! わかってるって! 勉強、ちゃんとするから! ちょっと出かけてくる!」

「あっ! コラッ!」

 怒鳴りつける母親の声を背に、勇汰は家を飛び出した。


・          ・          ・          ・


「ふぅ…………」

 読み終えた雑誌を棚に戻す。それから店内をぶらり一周りする。速度はゆっくりと。何

かを探すような仕草を時折しながら。

 そうして自然に入り口へと向かい――何も買わずにコンビニから出た。

「あちぃ…………」

 たった一歩外に出ただけでもう汗が吹き出してきた。こんな事ならこのコンビニで冷た

いジュースでも買っておくべきだったかなと、ちょっとだけ後悔した。

「ま、いいや」

 ちょっとだけの我慢だと勇汰は自分に気合いを入れた。

 どうせ、これから向かう先もコンビニなのだから。

 二つ目の信号を渡り、ちょっと裏路地へと入るとそこにもコンビニがあった。手前に一

軒、奥の方に別のコンビニの計二軒。

 勇汰は手前のコンビニをスルー。奥のコンビニを迷わず目指す。理由は単純。手前のコ

ンビニでは雑誌が立ち読み出来ないように紐で閉じてるからだ。

 奥のコンビニの方はそんなヒドイことはしていない優しいコンビニなので大好きだ。

「ふふん」

 鼻歌を歌いながら店へと入ると真っ先に目指すは冷たいジュースが置いてある飲み物コ

ーナー・……じゃなくて、やっぱり入り口付近に置かれた雑誌コーナーだ。

 当たり前のように、雑誌棚の前に仁王立ちして品ぞろえを確認する。

 うん。流石だと感心する。

 このコンビニは四コマ漫画がメインの漫画雑誌の品ぞろえが良い。

 ちなみにその前のコンビニは週刊誌が立ち読み出来る店だった。

「ふんふん」

 取り敢えず表紙を見比べて、見覚えのない雑誌を手に取って中を確認。読んでいないと

分かり漫画の世界に没頭する。

 家を飛び出した勇汰はこうして、コンビニをハシゴして漫画を立ち読みする日課がある。

 夏休みで、しかも真夏日が続いていたので、ここ最近はすっかり家に引きこもっていた

ので、読んでいない漫画のストックがまだまだある。

 このコンビニが終われば次のコンビニへと移動する。今度は月刊誌の取り扱いが優秀な

店へと。

「くくく…………」

 声を噛み殺して笑う。やっぱり四コマはギャグが面白い。

「……………………ふぅ」

 一通り読み終わり、また店内をうろつく。奥に陳列されている飲み物のコーナーで足を

止めた。

「……………………どれにしようかな?」

 お小遣いが少ないので、いつもは買う素振りを見せておきながら何も買わずに店を出る

が。流石に今日は暑いので飲み物くらいは買っておこうと財布の紐を緩めた。

「さーてと」

 甘いジュースにするか? それともここはさっぱりお茶にするか?

 少し悩んでお茶にした。ジュースにするとかえって喉が乾くだろうから。

 次はどのお茶にするか?

 緑茶にするか、ウーロン茶にするか?

 それとも意表を突いてジャスミン茶にするか、紅茶にするか?

 それを悩み――悩んだ結果。選んだのはシンプルに緑茶だった。

 緑茶の、それも一番安いやつを取ろうと手を伸ばした時、ふとある事が脳裏を過ぎった。

 伸ばした手を引っ込めてポケットに突っ込む。

「あ…………ない!」

 無い。財布が無いのだ。

「ああ、そうか!」

 母親の口撃から逃げ出して来たために、財布を家に置いてきてしまった!

「はぁ…………」

 深い溜め息を吐いた。しかしすぐに顔を上げる。

「ま、いいか」

 コンビニ来た目的は飲み物を買う事ではなくて、あくまでも漫画の立ち読みなのだ。本

来の目的は達した。そしてその次もある。こんな事で立ち止まっている場合じゃない。

 勇汰は力強い足取りで店を後にした。


・          ・          ・          ・


「あー…………次、何しよ?」

 日陰になっている公園のベンチに座った勇汰は項垂れた。

 コンビニのハシゴは無事に終了し、いつもならば読んだ漫画の余韻に浸りながら家に帰

ってテレビを見るか、ゲームをするかの二択なのだが…………。

「今、帰るとヤバイよな…………」

 頭に角が生えた母親の顔が思い浮かぶ。

「はぁ…………あちぃ」

 日陰とは言え充分暑い。しかも家を出てからここに来るまで水分の補給は一切無し。こ

のままじゃ熱中症になりかねないと危機感を抱きつつも、家で待つ母親に叱られる恐怖と

比べると、その方がまだマシかなと思ってしまう。

「うぅぅ…………」

 親の雷に打たれるか、それとも熱中症でぶっ倒れるか。それらを秤に掛けた結果――勇

汰の出した答えは「家に帰る」だ。やっぱり熱中症の方が怖い。倒れて入院なんてなった

らゲームや漫画やアニメが制限される。それは嫌だ!

 そんなことになるくらいなら、ここはあきらめて素直に怒られようと覚悟を決めた。

「よっこらせっと」

 腰を重たそうに立ち上がる。

「ぅぅう…………あちぃ」

 乾いた身体に太陽は容赦なく照りつける。

 足取りは重く、思考も変な迷路に迷い込んだ。

「…………………………………………」

(進路…………か)

 母親に言われた言葉を思い出す。

(受験に失敗したら…………か。正直、大丈夫なんだよな)

 何の根拠も無い自信を抱く。

(ホント。落ちるイメージなんて無いし。大丈夫。大丈夫。大丈夫なのに、何であんなに

言ってくるんだろ? もう少し、自分の息子を信頼しろって)

 暑さのせいか、だんだん腹が立ってきた。

「だいたいさ。俺はまだ中学二年だよ。将来なりたいものなんてまだわかんないよ。そう

いうものってさ。大人になったら勝手に見つかるもんなのにさ。まだ子供なんだから好き

に遊ばせてくれよ! あーもうっ!」

 心の声が外に漏れてるなど気にもとめずに愚痴をこぼし歩く。

 険しい顔で足取りが早くなる。

 右腕で額の汗を拭う。だが拭ったはずの腕は濡れていなかった。もはや汗も出ない程、

彼の身体が乾いていたのだ。

「あーもうっ! 勉強勉強ってうるさいんだよっ! ああっ!」

 イライラをまき散らし歩く。

 暑さにやられた彼の脳は、もはや怒りの感情に支配されていた。そのせいだろか? 彼

が見ている景色は真っ赤に染まっていた。

「……………………えっ!?」

 怒りのまま歩き続けて数十メートル。ようやく自分の見ている景色が異常だと気がつい

た。

「赤い……………………?」

 空が赤い。いや、空だけじゃない。まるで赤いフィルター越しで見ているかのように、

全てが赤いのだ。

「これ…………ヤバくないか?」

 右手で両目を押さえる。ぎゅっと瞳を閉じて――ゆっくり開く。

「…………駄目だ」

 景色は元に戻らなかった。

「あれ? なんか…………見覚えがあるような?」

 既視感を感じるが…………それよりも、もう一つ気がつてしまったあることが気になっ

て仕方ない。

「俺……いつから汗掻いてないんだ? つうか、これってマジでヤバいじゃん」

 テレビで熱中症の危険性についてやっていたのを思い出した。その中に汗が出なくなっ

たら危険だと。

 加えてその真っ赤に見える景色。

「まさか! 目が充血しすぎてこう見えてるとか?」

 だとしたらもう駄目なのでは?

「はは」

 ここまで来ると笑うしかなかった。と言うよりもこんな状況なのに全く焦る気がない。

脳天気すぎるなと、自分で自分に呆れた。

「ん?」

 ふと、背後に何かの気配を感じた。

 真っ赤な景色の中に湧き出た黒い靄。

「これ…………夢で見た」

 目の前に出現していたのは連日夢の中で見た死神だった。こいつを見た瞬間――勇汰は

直感した。今の自分はどっか道の真ん中でぶっ倒れ、夢を見ているのだと。

「ああ、これ。マジのマジでヤバいじゃんか」

 勇汰は黒い靄に背を向けて逃げ出した。

 熱中症のはずなのに、身体は軽く軽快に走れている。

「ああっ、もうますますヤバいじゃんかよ。つーかよ。俺の身体。大丈夫か?」

 きっと今頃はどっかの道路に倒れているハズだ。親切な通りすがりの人。どうか救急車

を呼んで下さいと一身に祈る。

 祈りながら逃げ続ける。いつもの夢とは違い、今回は自分の意志で足が動いている。

「きっとアレに捕まったら死ぬんだよな」

 黒い靄の正体は解らないが、本能で危険なものだと判断している。なので全力で走る。

 今は逃げきれているが、これが夢の通りならば――。

「っっつと!」

 勇汰は足を止めた。

「ははは。夢のとおりなんだから、当然、こうなるよな」

 町中を走っていたハズなのに、気がつくと崖の上に立っていた。目の前は海――溶岩の

海だ。これも夢と同じ状況。

「んで、次はこの溶岩に飛び込めってか?」

 夢のとおりならそうなるだろう。

 後ろを振り返る。黒い靄はユラユラ揺れながらこちらへと迫ってきている。スピードは

遅いが、迷う時間もためらう時間も足りないだろう。

「ああもうっ!」

 目の前の溶岩よりも黒い靄の方がホントにヤバイ気がした。

 だから勇汰は勇気を出して溶岩の海へと飛び込んだ。





「えっと…………ここは…………どこ、だろう?」

 火野勇汰は天を仰ぎ呆然と呟いた。

 さっきまでの真っ赤な景色はどこかへ消え、あるのは見慣れたスカイブルーの大空。

「は? え、え?」

 ゆっくりと上体を起こす。あまりに唐突な状況に、パニックさえも起きようがなかった

のが幸いした。実に冷静に何を為すべきかの判断を下せたのだ。

「えっと…………」

 まずは自分の身体をチェックする。

 腕、足、手や頭。

「ちゃんとある」

 怪我も…………していない。次に右胸に手を当てる。

 ドクンドクン。

「良かった。…………生きてる」

 この心臓は力強く鼓動している。

「死んでない。…………死んでない、よね?」

 そう確信出来ない、安心できない理由があった。

「…………」

 勇汰は視点を自分から周囲へと移す。

 まず、自分が居る場所の確認。

「草原…………かな?」

 首を傾げた。地面から伸びた草。長さは五センチ程度くらいだろうか? 地面は垂直で

はなくて傾斜がある。ここは緩い坂になった草原の上。

 遠くには森が見える。他に周囲を見渡しても遠くにあるのは森だ。森の中にある草原に

居るようだ。

 また空を見上げた。これまでの人生で見たことの無いような真っ青な大空。今にも吸い

込まれそうだ。

「えっと…………」

 とりあえず、目にした情報を思いついたまま頭の中に並べる。それを整理すると………

…。

「どこだよっ! ここっ!?」

 空中にツッコミを入れる。

「え? え? え? 何これ? どうなってんの? 俺、今、どうなってんの?」

 落ち着いてきたからか、今頃になって軽くパニックを起こし始めた。いや、それはマズ

いと、冷静な自分が土壇場で踏みとどまる。

「えっと…………まずは落ち着こう。深呼吸。…………うん。大丈夫。大丈夫だから。落

ち着いて考えよう。まずは…………順序よく状況を整理しよう。確か俺は熱中症で倒れて

悪夢を見ていた筈だ。変な黒い霧に追われて、マグマの中に飛び込んだ。そこまでは良い。

いや、良くは無いけどっ!」

 自分で何を言っているんだと頭を抱える。

「えっと…………それで多分、気を失ったんだ。そして気がついたらここにいた。そう、

ここに。…………で、ここはどこなんだって話しだ」

 改めて周囲を見渡す。豊かな緑に覆われた場所、としか答えようがない。

「ここは知らない場所だ。来たことのない場所。まさか…………ここが天国!?」

 状況を考えるとそれが一番しっくりくるのだが。

「でも…………生きてる、よ」

 確かに心臓は動いている。足もあるし身体も冷たくない。間違いなく生きている。

「…………いつまでも考えてたってしょうがない、か?」

 立ち上がり、身体に付いた草をパンパンと祓う。

「とりあえず…………動かなくちゃわかんないから!」

 まずは行動あるのみと歩き始めた。


・          ・          ・          ・


「ぷはぁ! 生き返ったぁ!」

 森へと入り、しばらく探索を続けていると湧き水を見つけた。喉が乾いていた勇汰は一

目さんに駆け寄って、湧き水に頭を浸けてゴクゴクと水を飲んだ。

「ふはぁ」

 近くにあったちょうど良い岩に腰を下ろす。そして俯いてしばらく考え込んだ。時間に

して十分程。

「ふ…………」

 不意に不適な笑みを浮かべる。

「そうだよ。この可能性を考えて無かった」

 森を見て回り、水分補給を済ませた勇汰の頭にはある答えと断言できる仮説が浮かんで

いた。

 それは――。

「異世界召還! これしか考えられない!」

 顔を上げて拳をギュッと握る。

「根拠はあるよ。この森、どう考えても日本の森じゃない。見たことのない木や花ばっか

りだし。空気から違う。あっ! でも俺がテレポートしたって可能性も…………ああもう

っ! 不親切だ。もうちょっとヒントとか無いのかよっ! ゲームだったら序盤で不自然

なくらい状況を説明してくれるキャラとかが出てくるのに! そんなのもいないっ!」

 声をあらげて怒りを宙にぶつける。と、ぐぅ~と腹の音が鳴った。

「あぁぁ。腹減った。お昼ご飯、まだだったからな…………」

 何か食べる物はないかと、再び森の中へと戻る。

「異世界召還、か…………。本当にそうだったらどうしよう…………」

 腹が減ったら急に弱気になってきた。

「時間の流れとか…………そういうの。大丈夫かな? もしも時間の流れが同じだったら

…………向こうじゃ俺、家出したことになるのかな?」

 進路の事で母親と喧嘩して家を飛び出した。動機やタイミングもバッチリだ。向こうに

戻ったら、ニュースとかになってて変な注目を浴びたりしたら嫌だなと思った。

「ああっ! それに漫画やアニメも見逃すじゃん。それも嫌だぁ。続きが気になるアニメ

や漫画、たくさんあるんだよぉ。…………はぁ。何で今頃なんだよ」

 もう少し前だったら良かったのになと残念がる。

「小学生の頃だったらな。あの頃はまだ俺が中二病だった頃だから、異世界召還なんて状

況。大歓迎だったのにさ。もう、俺、卒業してるんだよ。ようやく最近。それなのにこれ

ってさ。…………はぁ」

 溜め息が次から次へと零れ出てくる。

「あぁ…………腹が減った」

 グチってるとますます腹が減る。腹を押さえながら木々を見漁っているが…………果物

一つ見つけられない。

「ぁぁ…………。どうしよう…………」

 体がふらついてきた。それから二、三歩進んだ所で勇汰は倒れてしまった。


・          ・          ・          ・


 ――腹が痛い。

 顔を歪ませて身体を丸める。

 その時に腕で何かを払いのけ、体の上から何かが転げ落ちた感覚が伝わってきた。

「…………?」

 瞳をそぉっと開けて見る。開けきらない細目にぼんやり赤くて丸っこいモノが映り込ん

だ。

「…………また赤い」

 最近、赤色と縁があるなと思った。

「…………」

 視界にある赤い何か。ジッと見ていると、もぞもぞと動き出した。

「何だ…………生き物か…………」

 正体がわかりホッとして、また眠りにつこうと――。

「いやっ! 駄目だろっ!」

 ツッコミを入れて起き上がる。閉じかけていた瞳を最大限に見開いて自分を取り囲むそ

いつ等を見た。

 小型犬程の大きさの四足歩行の謎の生き物。体の色は薄い赤色の甲羅?のような物を身

に纏っている。顔は犬に近い気もするが何かが違う。むしろ額にある二本の角のようなパ

ーツが兎を連想させる。その中で一番特徴があるのは背中に一対の羽が生えているところ

だろう。

 こんな生き物はまず地球にはいない。

「…………モンスターとエンカウントした」

 勇汰は膝から崩れ落ちた。

 モンスターと出会えた感動と、空腹と、戦う術を持たない無力な自分のこれから辿るで

あろう未来を想像して。それら一度に迫られて限界が来たのだ。

 事実。もう逃げ出そうという気も起きない。

「おきた」

「おきた」

「おきたよー」

 取り囲んでいた数匹の兎っぽい生き物たちはわきゃわきゃ楽しそうにどこかへ駆けてい

った。

「日本語…………話せるんだ。って言うか、森で倒れた筈なのに目覚めると洞穴の中。き

っとあいつらの巣に運び込まれたんだろな」

 自分の状況を冷静に解説するとさらに気分が重くなった。

「はぁーあ。きっとこのまま食べられちゃうんだろうな、俺」

 こんな時、自分が漫画の主人公だったら食べられないように脱出するんだろうけど……

……。

「駄目だ。疲れと空腹で立てないや。…………マジで」

 立ち上がろうと足に力を入れると膝がガクガク震える。こんな無様な姿を見てしまうと、

流石に笑ってしまう。

 これから食べられると言うのに。

「あー…………。異世界に来て、すぐにモンスターにやられるなんて…………。マジでク

ソゲーじゃんか。誰だよ。俺を召還した奴。最初なんだからちゃんとサポートしてくれよ。

何でこんな中途半端な召還なんだよ!」

 最後に恨み言を遺す。せめてこれが呪いとなって自分の死後、無責任な召還者を苦しめ

てくれますようにと祈りながら。

「あぁ、何か来た」

 ドスンドスンという重たい足音が聞こえてきた。

 足音はすぐに消えて、入り口には巨大なモンスターが佇んでいた。

「おっきいな。さっきの小さい奴らのボスだから大型犬くらいかと思ったらもっと大きい

や」

 昔、動物園で見たライオンよりも二周り以上も大きく、体ががっしりしている。体を覆

う赤い甲羅も角張り、口から覗かせる牙も鋭い。あの口なら人間の体なんて難なく食える

だろう。

「目覚めたようだな」

 モンスターが口を開いた。話した言葉は日本語で、しかも会話が成立しそうだ。

「こういうのはご都合主義なんだな」

「ん? 何のことだ?」

「いえ。何でもないです。あの…………どうして俺をここに?」

「森で倒れていたのを見つけたのでな。放っておく訳にもいかなかったから助けたのだ。

そう言うお前はどうしてあんな所で倒れていた?」

「俺は…………その…………」

 情報が全く無い状況で本当のことを言うのは危険だと判断。なので適当な嘘を思いつく。

「森で遊んでいて…………そしたら迷子になってしまったんです。彷徨っているうちにお

腹も空いて…………」

「なるほど。そうか。お前たち」

「はい!」

「はい!」

「はーい!」

 さっきの小さいモンスターたちが大きいモンスターの背後からわっと出てきた。背中に

は何やら果物らしきものを乗せている。

「好きなだけ食べるといい」

「え…………いいの?」

「当然だ。なぜ聞く?」

「いや、だって…………。俺の事知らないのに。人間なのに」

 と言うよりも、助けるためにここに連れてきたのか?

「変なことを言う。古来より我らドラゴン族と人間は共存してきた仲だ。困ったとき、助

け合うのは当たり前だろう?」

「…………ドラゴンっ!?」

 目の前のモンスターがドラゴンっ!? あのゲームでは最強に分類されるモンスターが

こうもあっさり!?

 その衝撃は勇汰の疲れ切っていた体さえも飛び跳ねさせた。

「変な人間だな。丁度いい。自己紹介をしよう。我らは火の守護竜の眷属「フレイバル」

だ。お前は?」

「えっと…………俺は、火野勇汰」

 何やら知らない単語が出てきたが、その情報分析は後回し。こちらから向こうに伝える

情報は名前だけにした。 「ふむ。「ひのゆうた」か。それでお前は――」

 フレイバルの言葉を勇汰の腹の虫が遮ってしまった。

「あ、すいません」

「いや。悪いのはこちらだ。お前は今はそれどころではなかったのだからな。それを食べ

てゆっくり休むといい」

 そう言って、フレイバルはどこかへ去っていった。

 洞窟に残ったのは小さいフレイバルたち。

「たべてー」

「たべてー」

「たべてー」

 次々に果物を渡してくる。勇汰はそれを一つかじった。リンゴのようなその果物の味は、

ちょっと酸っぱかったが、とても美味しかった。

「あれ…………涙が?」

 助かった。その安堵の涙が今になって零れ出てきた。

 

・          ・          ・          ・


「あのっ! ありがとう、ございました。助けて頂いて…………」

 フレイバルのお陰で腹一杯になった勇汰は頭を下げて礼を言った。

「礼には及ばんよ」

「およばんおー」

「およばんよー」

 岩壁の近くでくつろんでいた大きなフレイバルはチラリとこちらを見た。その瞳から優

しさを感じた。

「およばんおー」

「おー」

「うわっ!?」

 大きなフレイバルの近くをうろちょろしていた小さいフレイバルたちが勇汰の体に登っ

てきた。

「こらっ、ちょっと!」

 勇汰は暴れて振り落とそうとするが、すればするほどフレイバルたちは面白がってどん

どんよじ登ってくる。

「こらこら。お前たち、止めないか。ひのゆうたが困っているだろう」

「こまってるー」

「こまってるー」

 大きいのに叱られたチビたちは蜘蛛の子を散らすようにわっと走り去った。

「び、びっくりした…………」

「すまんな。好奇心旺盛なチビたちなんだ。生まれて初めて人間を見たのではしゃいでい

るんだ」

「…………いえ。急に来たのでびっくりしただけですから。…………大丈夫です」

 呼吸を整え、乱れた服も整える。

 そして遠くに散ったチビたちを目で追う。チビたちは駆けっこしたり、じゃれ合ったり、

喧嘩したりしてる。

「あ、あそこ。喧嘩してますけど…………。いいんですか? 止めなくて」

「ああ、あれか。大丈夫だ。問題ない」

「でも…………」

 勇汰が心配するチビフレイバルの二匹。頭突きをしてお互いがお互いを攻撃している。

鎧のような甲羅のせいでぶつかり合う音が重たく響きわたってくる。

「心配はいらない。あれは稽古だ」

「稽古?」

「そうだ。ああして、大人になるために体を鍛えているんだ」

「へぇー…………」

 しばらくその様子を眺めていた勇汰。ある事に気が付いて、つい尋ねてみた。

「あの、すいません。ちょっと気になったんですけど…………いいですか?」

「ん? なんだ?」

「あの子たちって。まだ子供なんですよね?」

「ああ、そうだが?」

「大人ってあなただけなんですか?」

 フレイバルが横に首を振る。

「いいや。我らフレイバルは本来、この山の頂上にある火山近くで暮らしている。だが子

供たちは体が弱く、そこではまだ暮らせないのだ。だから子供たちはこうして大人になる

まで麓で暮らすのだ」

「へぇー」

「それからな。言っておくが、私もまだまだ子供だぞ」

「えっ!? そうなんですか?」

「ああ。大人のフレイバルはもっと体は大きく逞しい。いつか君にも見てもらいたいもの

だ」

「はい。見てみたいです!」

 勇汰が笑うと、フレイバルも笑ったような気がした。

「今度は私の方から聞いても良いか?」

「はい。どうぞ」

「君は迷子になったと言っていたが、これからどうするつもりだ? まさか、このまま当

てもなく森の中をさまようつもりではないだろうな?」

「えっと…………。そうなります、ね。正直なところ。僕が今、どこに居るのか? 町が

どこにあるのかも全く解らないですから。あの…………よければ、近くの町の場所とか教

えて頂けませんか?」

 この世界に召還されたばかりで、何の情報も無い状態なのだ。正直、手がかりが得られ

るのなら何でもいいと思って聞いてみた。

「ふむ…………そうだな。ならば近くの町まで共に行こう」

 フレイバルの返答は勇汰には願ってもないものだった。でも…………。

「いいんですか? 子供たちに何かあったら…………」

「構わんよ。それに良い機会だ。あの子たちに人間を見せておきたい。大人になると恐ら

く会う機会など無いからな」

「それなら…………ありがとうございます」

「礼には及ばんよ。最近は魔物が増えてきてるからな。大勢で行動した方が安全だ」

 フレイバルがさらりと言った危険そうなワードを、勇汰は心に書き留めた。


・          ・          ・          ・


「ひのゆうた、あそぼー」

「いいよ。あと俺の事は勇汰だけでいいよ」

「ゆーた、ゆーた」

「ゆーた。ゆーた」

 同じ言葉を繰り返す子供フレイバルたち。寄ってきたり、離れたり。散ったり、集まっ

たり。みんな無秩序に動き回っている。見ているだけで飽きない。

 そんな子供たちの中へと勇汰は飛び込んだ。種族が違う突然の来訪者を、子供たちはす

んなり受け入れてくれた。

「あそぼー。あそぼー」

「あそぼー」

 みんな人懐っこく、体に登ってきたり頭の上に登ってきたりして忙しかったが、ここま

で親しみを抱いてくれると、逆に勇汰も心を開きやすかった。

「何して遊ぼうか? 何がいい?」

 ドラゴンの遊びなど知る由も無い勇汰は尋ねた。どんな返事が返ってくるのか楽しみに

していると。

「かけっこー」

「おいかけっこー」

 ドラゴンたちが次々に口にするのは知ってる遊びだ。

「どこの世界も、子供の遊びなんて大差ないんだなぁ」

 ちょっとがっかりした反面、とんでもない遊びじゃなくて良かったとホッとした。

「それじゃー。追いかけっこしようか?」

「するー!」

「それするー!」

「にげろーっ!」

「わーっ!」

「あ、ちょっと!」

 始まりの合図なんて関係なく、遊びが始まってしまった。みんな思い思いに辺りを縦横

無尽に走り回り、或いは相手を見つけて追いかけたり、追われたり。ルール無用だ。

「あはははは」

 ただただ元気に走り回る。幼稚な遊びだが、気が付けば勇汰も夢中になって走り回って

いた。単純だけど面白い。幼い頃の無邪気だったあの頃を思い出していた。

「ははは…………はぁ……はぁ……」

 走り疲れた勇汰は息を切らして立ち止まる。普段、運動なんてしない勇汰にとっては、

十分も走ればフラフラだ。

 少し休もうと、足下をウロチョロするチビたちに気をつけて岩壁へと逃げてきた。

「元気だなぁ」

 チビたちはみんな休むことなく広場を駆け回り続けている。みんな、全速力で走り回っ

ているので、お互いの体にぶつかる事などお構いなしだ。

「痛くないのかな?」

「いたくないよー」

「だいじょうぶだよー」

 何匹かのチビたちが心配して駆け寄って来てくれた。

「体がぶつかってるけど、大丈夫なの?」

「だいじょうぶー」

「ホントに?」

「ほんとだよー。いたくないもん。ねー?」

「ねー。だって。ヨワムシとは違うもん」

「そーそー。ヨワムシとは違うもん」

「弱虫? 体をぶつけられないのが弱虫なの?」

「そーだよー」

「ヨワムシ。あっちにいるよー」

「あっちにかくれてるー」

「あっち?」

 何のことだろうと、チビたちが案内する後を付いて行く。チビたちが元気に遊ぶ広場か

ら少し離れた所に大小さまざまな大きさの岩に囲まれた小さな空間がある。その中に一匹

の小さなフレイバルの子供が居た。

 他のチビたちよりも一周り小さくて、赤い甲羅が無い全身が茶色い毛で覆われたフレイ

バルが。見た目が他とは違いすぎるので、言われても同じ生き物だと信じられなかった。

「ここで何してるの?」

「…………」

 茶色いチビフレイバルは体を丸めて答えない。

「はなしてもむだだよー。いっつもここでこうしてるんだよー」

「どうして?」

「このこねー。こわがりなんだよー」

「そーだよー。だからねー。こうしてかくれてぶるぶるしてるのー」

「怖がり…………? 何が怖いんだろ?」

「とっくんがねー。こわいんだよー」

「いたいのがねー。こわいんだよー」

「こわがりだからねー。からだがよわいままなんだよー」

「…………?」

 チビたちの説明だけじゃ、よく解らなくなってきた。何とか理解しようと試みるも……

……頭から煙がモクモクと出かけてきた。

「体の色が違うだろう?」

 見かねた大きいフレイバルがやってきた。

「我らは産まれた時、この子のように茶色い柔らかい毛で覆われて産まれてくる。そして

他の子のように体をぶつけ合い体を鍛える事で柔らかい毛が抜け落ち、変わりに堅くて丈

夫な鱗が生えてくる」

「鱗って、赤いやつ?」

「そうだ」

「鱗だったんだ…………」

 てっきり甲羅かと思った。

「そうだよね。ドラゴンなんだよな。鱗と考えた方がしっくりくるよな」

「ああ。その通り鱗だ。この鱗はドラゴンにとって身を守る為の盾だ。それを鍛える為に

こうしてチビたちは毎日体をぶつけ合っている…………のだがな」

 大人フレイバルが岩影に引きこもった茶色フレイバルを見下ろす。

「この子だけはちょっと特殊な奴でな」

「特殊?」

「ああ。極端な怖がり屋なのだ。痛みを伴う事を怖がってやろうとせず、こうして逃げて

は隠れて続けている。もしもこの子がこのまま恐怖に打ち勝てず、このままならば見捨て

るしかないな」

「見捨てるって! 駄目ですよ、そんなの! 見捨てたりしたら…………死んじゃうんじ

ゃないですか?」

 この世界の摂理はよく解らないが、恐らく向こうの世界と同じだろうと思う。つまりは

弱肉強食と。

 群から見捨てられたドラゴンは、恐らく他の生き物の餌になる可能性が高い。

「ああ。そうなるだろうな。それが自然界の掟というものだ」

「そんな…………」

「フッ。人間は弱者を助ける事で繁栄してきた種族だろうから理解できぬのだろうがな。

我らドラゴン族は弱者を切り捨てるのに躊躇いは無い」

「…………」

「ゆうたもこのドラゴンには肩入れせぬ事だ。人間には辛いだろうからな」

 そう切り捨てて去るフレイバルの背中を、勇汰は怖く感じた。


・          ・          ・          ・


「よっこらっせっと」

 勇汰は拾い集めた小枝を束ねて抱え上げる。

「もらったー」

「みつけたー」

 抱えきれなかった小枝や落としてしまった小枝を、すかさずチビたちが口でくわえて拾

う。

「ありがと」

「もってくー」

「もってくー」

 ちょこまかちょこまか動き回るチビたちの後をゆっくりと追いかける。ずっと追いかけ

っこと鬼ごっこの相手をした後なので、足がパンパンなのだ。

「キツい。けど頑張んないとな…………」

 気合いを入れる。行く当ての無い異世界人の自分は、この親切なドラゴンに協力しても

らうしか生きていく術がないのだから。

 だから薪を拾ってきてくれと頼まれれば喜んでやってやる。

「だいじょうぶー?」

「だいじょうぶー?」

 自分を通り過ぎるチビたちが、すれ違いざまに心配して声をかけてくる。そんなにキツ

そうに見えるのだろうか?

「大丈夫だよ」

 そう返事を返す。笑顔のつもりなのだが、果たしてチビたちにはそう見えてるのかちょ

っと心配になった。

「おっ?」

 よたよた歩いていると、茶色のフレイバルと会った。この子も他の子たち同様に薪を探

しに森に入っていたようだ。

「こんにちは。君も頑張ってるみたいだね」

「っ!?」

 声をかけると、その子は体をビクッとさせると弾けるように駆けだした。

「そんなに怖がんなくてもいいのに…………」

 チビが逃げた先を呆れ顔で眺める。と。

「うぎゃぁあああっ!?」

 その先で悲鳴が聞こえてきた。抱えた薪を捨てて、慌てて声の出所へダッシュして駆け

つけると頭を抱えて震えるチビの姿が!。

「どうした!?」

 声をかけるとチビは震える手で前を指した。その先に居たのは――。

「うわっ!? 蜘蛛…………だ」

 木と雑草の間に五センチくらいの蜘蛛が巣を作っていた。どうやらこの蜘蛛にビビって

悲鳴を上げたようだ。

「蜘蛛。こっちの世界にも居るんだ。しかも姿形は向こうと大して変わってない。へぇー」

 感心する横で、チビドラゴンが手足をバタつかせて必死に逃げようとしている。

「ドラゴンが。小さな蜘蛛相手に逃げ出す光景って…………」

 なるほど。あの大きなフレイバルが情けなく思うわけだとちょっとだけ納得した。が、

同時に放っておけなくなってしまった。

「しょうがないな…………」

 蜘蛛相手に腰を抜かしたドラゴンを抱き抱える。

「うっ!」

 今度は人間にビクつくドラゴン。強ばってるのが直に伝わってきた。

「大丈夫だよ」

 優しく茶色い産毛を撫でてやる。

「うわっ!? ふわふわで気持ちいい。お前、いいな」

「ぅ…………?」

 しばらく撫で続けてやると、堅かった体が少しだけ柔らかくなった気がした。

「さてと…………」

 もふもふを充分に堪能したので、そろそろ帰るとする。落とした薪を右手に、左手には

チビを抱き抱えて森を出る。

「俺たちが最後みたいだ」

 広場に戻ると既に全員が揃っていた。集めた薪を積み上げ、それを中心にフレイバルた

ちが取り囲んでいた。

「遅くなってすみません」

「いや。こっちこそ。その子が迷惑をかけたようだ。申し訳ない」

「いえ。放って置けなかっただけなので」

 勇汰は薪をくべた。それから左のチビを降ろそうとしたのだが、何故かがっしりしがみ

ついて離さなかった。それで。ま、いいかとそのまま抱き抱えたまま地べたに座った。

「これから何をするんですか?」

 薪を集めてくれと頼まれたのだが、それをどうするのかまでは聞いてなかった。薪だか

らもちろん火をつけるのだろうが…………。どうやって火をつけるのだろう?

「食事だよ」

「食事?」

 予想してなかった答えに、ちょっとキョトンとする。

「え? まさか、この薪を食べるんですか?」

「まさか」

 笑われてしまった。

 薪じゃない。となると他に食べ物になりそうなのは?

「…………」

 嫌な予感がした。目の前の薪。ドラゴンの食事。そして何故か昔何かで読んだ物語のワ

ンシーンを思い出す。腹を空かせた旅人に食事を与えた怪物。旅人はそれを親切だと受け

取って何の疑いもなく食事を食べる。でも実は怪物は旅人を食べるために、食事を与えて

太らせていたのだ。

 …………今の状況によく似ているなぁ。

「…………」

 冷や汗が出てきた。

「我等が食べるのは――これだ!」

 フレイバルが口を大きく開けて――炎を吐き出した。

「うおっ!」

 その迫力に圧倒されて、思わず後ろに倒れそうになる。

 目の前に積まれた薪は一気に燃え上がる。

「我等は火属性のドラゴンだ。故に食すのは火のエレメント」

「火の…………エレメントって?」

「火のエレメントとは火や炎が燃える時に産まれる火属性のエネルギーの事だ。ふむ? 

その辺の知識はドラゴンよりも人間の方が知っているのではないのか?」

「え? あ、ああ、いや。実は俺はちょっと勉強が苦手で…………あはは」

 笑って誤魔化した。どうやら「エレメント」とかの単語はこの世界じゃ日常会話レベル

のものらしい。気をつけなければ。

「えっと。それじゃ…………あなたたちはこの火に当たってるだけで食事をすることが出

来るって事ですか?」

「まあそう言うことだ」

 答えると、フレイバルたちは体を横にして火に当たり始めた。

「ほら。お前も」

「…………」

 抱いたまま火に近づけてやる。すると体がまた柔らかくなった。徐々に緊張が解けてい

ってるようだ。

「ゆうたー。だっこしてー」

「してー」

 他の子たちが寄ってきた。羨ましそうにこちらを見上げている。

「あ、えっと…………後でね」

「えー」

「えー」

 疲れているので、さすがに断った。嫌な顔されるかもと思ったが、切り替えが早く気に

せずに横になっていた。

「俺も食べよ」

 チビたちが薪集めの最中に自分のために集めてくれた果実をかじる。相変わらず強い酸

味が口の中を駆けめぐる。

「くぅー……」

「……だいじょーぶ?」

「え?」

 勇汰は目を丸くした。心配して声をかけてくれたのは、今の今までずっと怖がって話を

してくれなかった茶色のチビ助だ。

「うん。大丈夫だよ。ありがとう。心配してくれて。君は優しいんだね」

 思わずギュッと抱きしめる。

「…………」

 するとまた黙り込んでしまった。

 そのうちにもっと仲良くなれるだろうと、勇汰はそれ以上話しかけなかった。

 和やかな時間が過ぎていく。気が付くといつの間にか夕日が沈み夜になっていた。

「むっ!?」

 急に大きいフレイバルが立ち上がる。

「どうしたんですか?」

「何か…………嫌な気配が近づいてくる」

「嫌な気配?」

「ああ…………。危険な何か――来るぞっ!」

 崖上へと轟く咆哮。

 同時に何かが飛び出してきた。





 夜の闇の中から飛び出した影には見覚えがあった。

「うそ…………」

 勇汰は自分の目を疑った。目の前に現れたその影は、ここ数日ずっと見続けていた悪夢

に出てきた黒い靄と同じモノだったからだ。

「どうして…………」

 数歩後ずさる勇汰。彼を庇うように大きなフレイバルが前に出た。

「気をつけろ! こいつは魔物だ!」

「魔物…………!?」

 一瞬、変な感じがした。ドラゴン=モンスター=魔物。どうやらこの世界での認識は違

うようだ。

「魔物って?」

「魔物とは邪悪なる者。守護竜の加護が失われた世界に現れた災厄そのものだ」

「邪悪なる者…………。危険な奴なんですか?」

「ああっ!」

 フレイバルたちが警戒を強める。

 ピリピリと張りつめた空気が痛い。

「…………!」

 フレイバルに取り囲まれた黒い靄に動きがあった。風も無いのに靄が動きだした。広が

っている靄が一カ所に集まりだし――実体となる。

「ギギギ」

 靄は野球ボール大の目玉へと姿を変え、ぷかぷかと宙に浮いている。眼球が瞼に覆われ

ただけのソレは口も無いのに奇声を上げてこちらをジッと見ている。

「ぅ…………」

 思わず茶色いフレイバルを強く抱き抱える。この子も怖くて体を堅くしていた。

「ギギギ」

「我が炎で滅してくれる!」

 フレイバルが口を大きく上げて炎を吹きかける!

「ギギ!?」

 爆炎に包まれる目玉の魔物。

「やったーっ!」

「まだだっ!」

 フレイバルの警戒が解かれない!

 風は無く、煙がゆっくりと晴れていく。その中から無傷の目玉が。

「ギギギ、ギ」

 本当にどこから声を出しているのか解らないが、相手に恐怖心を与える奇声を辺りに響

かせる。

「ギギギ」

 今度は目玉が動いた。眼球を覆う肉塊がもぞもぞと動き回る。表面に複数の突起がボコ

ボコ現れ、それが長く伸びていく。触手を獲得した目玉の姿は、まるで二昔前の宇宙人の

予想図によく似ていた。

「くっ!」

 フレイバルがもう一度、魔物めがけて炎を吹きかける。

「ギギ!」

 さすがに、この攻撃を今度も黙って受ける事はしなかった。魔物は自分を回転させて触

手を鞭のようにしならせて炎を弾き飛ばした。

「くっ! ゆうた。お前はチビたちを連れてこの場から離れろ!」

「え? でも…………だって!」

 この魔物は恐らく自分を追って来た――のかもしれないのだ。それなのに面倒を押しつ

けて自分だけ逃げるなんて!

「イヤだよ! 俺も…………」

 その次の言葉が続かなかった。自分が無力なのは、自分が一番解っているから。それで

も――逃げたくなかった。

 だって無責任じゃないか!

「君の強い気持ちは伝わってきた。大丈夫だ。ここで逃げても君を軽蔑などしない。魔物

が相手では仕方ない事なのだ! だから…………君を見込んで頼む! チビたちを守って

やってくれ!」

「フレイバル…………」

 唇をギュッと噛む。

「わかった! みんなっ! ここは逃げっ!?」

 振り返り走り出そうとした瞬間――目の前に目玉の魔物が一瞬で現れた。

「あ…………」

 目が合う。体の力が抜けていく。意識が遠のいて――。

「ふん!」

 強い衝撃で体が横に吹っ飛ぶ。フレイバルが体当たりで助けてくれたのだ。

「目を合わせるな! 心を食われるぞ!」

「はぁ……はぁ……」

 心臓が爆発しそうなくらい激しく動いている。

「動けるか?」

「は、はい…………何とか」

「ならいい。急げ! ここは私が押さえる!」

「は、はいっ!」

 勇汰はチビたちを連れて森の中へと逃げ込む。

 残ったフレイバルと魔物はお互いを牽制しあい――。

「ゆくぞっ!」

「ギギギ!」

 しびれを切らしたフレイバルが魔物目掛けて突っ込んで行く。魔物はかわさずに触手で

受け止めた。

「ギギギ!」

「ぐぐぐ!」

 力勝負はフレイバルの方が有利なようだ。魔物は徐々に押されていき、前足で地面に押

しつけられた。

「滅びろ!」

 至近距離からの炎攻撃。魔物の体が燃え上がる。

「これならば――」

 さすがに死んだだろう。そう思った。だが――。

「ギギギギ!」

 魔物はしぶとく生きていた。体を焦がしながらも、さらに新しく生やした触手でフレイ

バルの体を締め上げる。

「ぐっ…………」

 苦しそうな表情を浮かべるフレイバル。魔物を押さえる力が緩み――魔物はするりと抜

け出した。

 そして――。

 魔物が目が妖しく光輝いた。


・          ・          ・          ・


 暗闇に支配された森の中を当てもなく走り続ける勇汰とフレイバルたち。

 しばらくデタラメに走った所で立ち止まった。

「はぁ、はぁ…………。ここまでくれば…………はぁ。大丈、夫…………かな?」

 振り返る。……………………が、暗くてよく解らない。

 ただ、何かが近づいてくる気配はしなかった。

「はぁ……はぁ…………」

 疲れと、罪悪感で膝から崩れ落ちる。

「どうしよう…………。俺、何も出来なかった……。置いて逃げて来ちゃった」

「ゆうたのせいじゃないよー」

「じゃないよー」

「みんな…………」

 身内を置いてきた彼らが、余所者の勇汰を元気づけてくれる。励ましてくれる。勇汰は

顔を上げた。

「ありがとう…………。いろいろと」

「ゆーた、げんきでたー?」

「うん。出たよ。ありがとう。心配してくれて。あの大きなフレイバルも助けてくれたお

礼を言いたいな」

 そのためには無事に戻ってきてほしい。そう心から願った。

「だいじょうぶ。フレイバルはつよいよー」

「そーだよー。つおーいよー」

 チビたちが自慢げにハシャぎ回る。

「うん。そうだね。強いもんね。あー!」

 遠くで暗闇が揺らめいた。

「帰ってきた?」

 ドシンドシンと重たい足音が近づいてくる。ハッキリと姿が見えなくても、誰の足音か

は勇汰にもすぐに解った。

「ほらねー」

「でしょー」

「うん」

 誇らしげに顔を見上げてくるチビたちは、戻ってきたフレイバルへと駆けていく。

「おかえりー!」

「ふぎゃっ!?」

 迎えに行ったチビたちが悲鳴を上げて闇の中へと消えていく。

「――え?」

 何が起きたのか理解できずに頭の中が真っ白になる勇汰。ドシンドシンと足音を立てて

近づいてくるフレイバルの姿が月明かりに照らされてようやく解った。

「そんな――」

 戻ってきたフレイバルの額には目玉の魔物がとりついていた。これが意味するのは――。

「負けた?」

 頼みの綱のフレイバルが魔物に敗れてしまった。その上、正気を失い操られているよう

だ。

「だめ、だ。みんなっ! にげ――」

「うそだーっ!」

 チビたちが駆けだした。操られたフレイバルへと。

「いけない! 行っちゃ!」

「うおおっ!」

「たすけるんだーっ!」

 仲間を助けるためにチビたちが恐れず立ち向かっていく。けれども――。

「うぎゃんっ!」

「ごぎゃっ!」

「ぶぎゃんっ!」

 操られたフレイバルは容赦なくチビたちを蹴散らしていく。

「ああっ!」

 チビたちが次々と倒れていき――残ったのは勇汰と抱いている茶色いフレイバル一匹の

み。

「…………くっ、そぉぉお!」

 勇汰は――背を向けて逃げ出した。

「くそっ! くそっ!」

 自分に力があれば――。いや。問題はそこじゃない。力があろうが、無かろうが逃げ出

さない勇気があれば――。

 こんな最低な選択をしなくてもよかった。

「ゴルルファッ!」

 背後から聞こえる不気味な音。思わず振り返るとフレイバルが炎を吐き出した。

「うっ!」

 勇汰は転びながらかわせた。避けた炎は木々にぶつかり、燃え上がる。

「あ…………」

 危なかった。後ほんのちょっとかわすのが遅かったら今頃は…………。

 リアルに感じた死の恐怖に足がすくんでしまう。

「ヴヴヴ」

 チビフレイバルたちがいつの間にか裕太たちを取り囲んでいた。

「その様子……無事……じゃないよな?」

 目の色が違う。そして明らかな敵意を向けてくる。こいつらもあの目玉魔物に操られて

しまったようだ。

「くっ!」

 ここまで…………か。

 勇汰の心に諦めが生まれた。

 そんな時だった。

「ヴ?」

「……雨?」

 突然の雨。するとフレイバルたちが怯んだ。

「ひょっとして……水が苦手なのか?」

 そう言えばフレイバルは火の属性を持ってるとか言っていたようなことを思い出した。

「今のうちに!」

 勇汰は雨で怯んだフレイバルたちの隙をついて逃げ出した。


・          ・          ・          ・


 小降りだった雨は徐々にその雨足を強め、とうとう本降りになった。

 勇汰は森の中を全速力で走り抜け――逃げ続けた。

 その途中で見つけた小さな洞穴に逃げ込むと、うずくまり体を小刻みに震わせた。

「…………クソッ!」

 なんて情けない姿を晒したんだと悔しかった。

「俺が…………ゲームやマンガの主人公なら…………あんな奴なんて…………倒せたはず

なのに…………」

 何も出来なかった自分。情けなく逃げ出した自分。

 そんな自分が恥ずかしく、それでも今もこうして何も出来ずにいる自分を正当化しよう

と、自己弁護ばかりを考えだしてしまう。

「異世界召還したんなら、もっとちゃんとしてくれよ。戦う力とか、伝説の武器とかさ…

…」

 言葉途中で口を閉じ、唇を噛む!

 ――違う。そんなことじゃない!

「せめて魔法とか使えるようになってるとかさ。なんて不親切なんだよ。こんなの………

…」

 ――だから違う!

「違うって! 違う! 違う……。違うんだ。そうじゃないんだ。そう言う事じゃない…

………んだ。そう言う事じゃ…………」

 ギュッと抱きしめる。ひんやりと冷たさが伝わってきた。

「?」

 顔を上げて、見てみる。自分が腕に抱いているのを。

「あ…………」

 唯一無事だったフレイバルの子供。臆病者でそれ故、生き残れた個体。

 だが――。

「体が冷たい…………。あっ、そうだ。フレイバルは火属性だから濡れちゃ駄目なんだ」

 雨に濡れて弱っている。

「火を…………駄目だ!」

 燃やせる物なんか無い。もしあったとしても火を起こせない。

「ホント…………俺って、こんな時役立たずだよな。こういう時に魔法が使えたら………

……………って。だからこういう事を考えるなって! 今考えなきゃいけないのは、こい

つを助けなくちゃって事だ!」

 そのためにはまず――。

「体を拭いてあげなきゃ!」

 勇汰は着ているTシャツを脱いだ。ギュッと水を絞り、フレイバルの体を拭いてやる。

「…………ぅ」

 僅かに反応があったのを見てホッとした。

「よかった。生きてる」

 死んだのではと思うほど体が冷たかったのだ。正直、怖かった。

「今度は…………」

 体を暖めて上げる。そのためには…………。

「俺だな」

 次に濡れた自分の体を拭いてから抱いて暖める。そして濡れたシャツをフレイバルに被

せてやる。これなら少しはマシな筈だ。

「…………」

 ぼんやりと、洞窟の外を眺める。

 知らない世界。初めましてのこの世界に来て早々、とんでもない事態に巻き込まれてし

まった。

 異世界召還されたはいいが、誰が何のために自分をこの世界へと召還したのか?

 召還してもその後のフォローを一切してくれない放置状態。

 さらには世界観を把握も出来ないまま、魔物には襲われて。自分を助けてくれたドラゴ

ンたちを見捨てて逃げ出した。

 無様で情けない自分を目の当たりにさせられた。

 惨めになった。

「俺…………これからどうなるんだろう?」

 元の世界に戻れるかの不安よりも、今を生き残れるかの心配が先に立つ。

 幸いにもこの辺りは温暖な気候のようで、雨でずぶ濡れになっても、雨が降っていても

寒くは無かった。

「…………ぅぅ」

「!?」

 腕の中のフレイバルが何度も動く。体も暖かくなってきた。もう大丈夫だろう。

「よかった…………」

 胸をなで下ろす。

「ホント…………俺ってば、自分の事ばっかだな」

 勇汰は虚ろな空を見上げた。


・          ・          ・          ・

 

「ぅぅぅ…………こ、こ、は?」

 気を失っていたフレイバルが目を覚ました。

「よかった。気がついて」

 勇汰はシャツにくるまったフレイバルを出して地面へ置く。丸めたシャツを開いて軽く

パンッと叩いてから着てみる。まだ湿っていて肌に張り付いて気持ち悪かった。

「ここはどこかの洞窟の中だよ。あの時、雨が降ってきてフレイバルたちが怯んだから、

こうして逃げ切れたんだ」

 勇汰は外を見る。まだ夜中で暗く目では解らないが、雨音はもうしない。

「ゆめ……じゃ、ないんだよね?」

「うん。悪夢だったらよかった」

 拳をギュッと握り――見つめる。

「でもこれは現実なんだ。あの魔物にフレイバルたちが操られてしまった。そして今度は

俺たちも狙われている」

「…………」

 落ち込むフレイバルに、勇汰は考えていた事を話す決意を固めていた。

「ねぇ、バル。聞いてほしい事があるんだ」

「…………ばる?」

「ああ、ごめん。君の名前。君たちってさ、個人を表す名前って無いでしょ。それだと俺

がさ、混乱するんだ。だから勝手に君の名前を考えちゃった。フレイバルだからバルって。

…………ごめん。嫌ならやめるけど?」

 顔色を伺う。バルは少しキョトンとした表情を見せてから――大きな目を丸くして頷い

た。

「それ、で、いいよ。わかんないけど。ゆうたがいいなら、それでいい」

「良かった。ありがとう」

 思わずバルの頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細めた。

「それで? ゆうたはバルに何を聞いてほしいの?」

「うん。…………色々な事。沢山あるんだけど…………まずは――」

 勇汰は姿勢を正して頭をゆっくり下げた。

「ごめんなさい」

「??? どうしてゆうたが謝るの?」

「あの魔物。多分、俺を追ってきたんだ。それでフレイバルたちが巻き込まれてしまった。

だからごめん。俺のせいだ」

「ゆうたはどうしてあの魔物に何で追われていたの?」

「ごめん。解らない。俺も夢の中で追われていただけだから…………」

「夢????」

「ごめん。ちゃんと説明しなきゃわからないよね。俺さ、夢の中であいつに追われる夢を

見てたんだ。ずっと。それが現実になった」

「??? それ、変だよ。どうして夢の中の話しなのに、起きてる時と同じ事が起きたら、

ゆうたのせいなの?

 バルだって他のドラゴンに襲われる夢なんていっぱい見るよ。他にも怖い夢見る。それ

と同じ事なんていっぱい本当になったこともあるよ。それでどうしてゆうたのせいなの? 

わかんないよ?」

「…………バル。うん。バルの気持ちは、言いたい事もわかる。これは俺の身勝手な責任

感のみたいなものだから」

「???」

 バルは解らないと首を傾げる。

「いいよ。わからなくて。これから話す事も、もっとわからないことだから…………」

 一呼吸――いや、深呼吸を行う。

 この雨に濡れたお陰で頭が冷えた。グルグルと訳の分からない思考の迷路に入り込んで

しまい、自分の置かれた現状を別の何かのせいにする結論を出しては自分を正当化しよう

とした。

 けれども、どれだけ自分を慰めても現状は変わらなかった。だから――。

「俺は支離滅裂になった思考を止めたんだ。そして今すべき事。やりたい事は何だって考

えた。それで出た答えはただ一つ。魔物を倒してフレイバルを助けたい。それだって」

「ええっ!? 魔物を倒す?」

 バルが驚いて顔を上げる。見上げるその表情は本気で言ってるのか? と心配している

顔に見えた。

「怖いとか。戦うと痛いとか、怪我するんじゃないかとか。そういうのはもう考えない。

俺は――フレイバルたちを助けたいんだ」

「…………本当に?」

「うん」

「どうして? 人間なのに、バルたちを助けてくれるの?」

「それを言ったらバルたちだって、森で倒れてた俺を助けてくれたじゃん。それと同じ事

だよ」

「違うよ。だって魔物と戦うことは全然、違う事だよ!」

「…………そうかもしれない」

「逃げなよ。魔物から逃げるのは恥じゃないんだよ」

 勇汰は首を横に振る。

「魔物だから逃げてもいい、って訳じゃないんだ。ごめん、バル。ここからもっと訳のわ

かからない話をするよ。

 俺はさ、マンガやゲームが好きなんだ。特に小さい頃はさ。主人公になりきって空想の

中で遊びまくってた。現実の世界で嫌な事があると、空想の中に逃げ込んでは完璧な自分

を演じてた。いつしか俺は空想と現実が混同して――拗らせて。世間で言う中二病って奴

になったんだ。

 現実でも自分は完璧なヒーローで、今は邪悪な何かに本当の自分が封じられてるだけ…

………とか、そんな設定ばかり考えてたよ」

 少し照れくさそうに笑う。

「そんな事ばかり考えてた俺だけどさ。ある時、ふと気がついたんだ。あ、違うなって。

特にキカッケは無かったと思う。ただ急にこれって違うって事に。それで中二病から卒業

したんだけど…………。

 代わりに心にぽっかり穴が空いたみたいになっちゃったんだ。別にそれでリア充になれ

るわけでもないし、リア充っぽいことをしたいって思うわけでもなし。ただ、だらだらと

毎日をぐうたら過ごしていて、それでお母さんと喧嘩して――気がついたらこっちの世界

に来てしまった」

 ふっ、と自嘲気味に笑う。

「異世界召還なんてさ。まさか現実になるなんて思ってもみなかったよ。中二病のままの

自分なら、舞い上がって今頃天国にいるような気分になれたのかな?

 いや、そうはならないなきっと。俺の本質は変わらないから、この自分と同じように何

も出来ずに逃げ出してた筈。そうして今頃気がついたんだ。自分は主人公にはなれない。

主人公じゃないってさ。そうしてショックを受けて落ち込んだまま、何もせずに終わって

しまう。

 でも――こっちの俺は違う。自分が主人公じゃないってもうわかってたから、だから落

ち込まないしすぐに立ち直れた。

 そんな俺でも、ここは逃げたくないんだ。別に今から主人公になれるって思っちゃいな

い。

 ただずっと。異世界なら、俺なら間違いなくヒーローになれるって思い上がってた自分

に。神様が。じゃ、なってみろとそのチャンスをくれた。いざ夢が現実になった状況を与

えられた状態で逃げだしてしまったら、俺はもうどこの世界でも駄目なままで終わってし

まう。

 だから俺は行くんだ。自分のために!」

 立ち上がり、尻に付いた泥を払う。

「ごめんね。俺の訳のわかからない話しを黙って聞いてもらって」

 ニッコリ笑って、バルに謝る。

「バルに聞いてもらったのは、誰かに話すことで自分に聞かせたかったから。そして自分

の決意をちゃんと残しておきたかったからなんだ」

 ゆっくりと外へ向かう

「じゃあね。バル。君は逃げて」

「あ…………」

 勇汰は振り向かずに走った。


・          ・          ・          ・


「ぅぅう…………」

 勇汰の後ろ姿を見つめながらバルは呻くことしか出来なかった。

「どうして…………」

 どうして勇汰は笑っていたのだろう?

 戦う力なんか持っていないのに。

 自分と同じで怖くて震えていたくせに。

「わかんない」

 勇汰の話しは全く理解できなかった。知らない単語があったからだけじゃない。

 怖い相手に立ち向かおうっていう気持ちが、バルには到底理解できないものだった。

「バルは…………怖いのイヤだよ。痛いのもイヤだよ」

 それなのに…………みんな変だ。

 他のフレイバルたちは、平気で体をぶつけ合って鍛えてる。…………痛いのに。

 だからずっと逃げてきた。痛いのから。怖いのから。

 逃げていたのに――。

「…………」

 今も――痛い。

 身体は痛くない。痛いのは――心。

「…………怖い、よ」

 操られた仲間。ひとりぼっちの自分。

 孤独でさまよう――自分。

「あ――」

 気がつくと勇汰の姿はもう闇の中に溶けて消えていた。

「…………ぅ、ぅうぅわああぁあぁっ!」

 バルは錯乱しかけた。

 いつもは仲間からからかわれるのが嫌で自分から一人になるのだが――これは違う。

 仲間は居ない。勇汰も居なくなった。

 完全な独り。

 自分は世界で独りぼっちなんだと気がついた瞬間――魂の奥底から沸き上がってくる恐

怖に襲われた。

「イヤだ。………………怖いのはイヤだ」

 よたよた歩いて洞窟の出口へと向かう。一歩、足を踏み出そうとした時――真っ暗な外

の世界が怖くなった。

 朝まで――朝までここでこうしていれば、夜の闇の怖さからは逃げられる。

 けれど、このままここでジッとしてたらもっと怖い事になる。

「ぅぅう」

 何度も躊躇う。

 ――逃げたくない――

 ふと、勇汰の言葉が頭に浮かぶ。

「…………ゆうた。熱かったな」

 フレイバルは火属性のドラゴンだ。火や熱が大好きだ。

 熱い感情も大好きだ。

「…………」

 勇汰の感情の熱が今になってバルへと伝わってきた。

「バルも…………このままでいいのかな?」

 魔物が来なくても、バルが仲間から置き去りにされるのは知っていた。弱いドラゴンは

群れから離される。

 それがドラゴンの掟だから。

 もちろん、それはイヤだった。

 けれども…………。それでもバルは身体を鍛える事から逃げ続けていた。

 置き去りにされる。とは言っても、本当には見捨てないだろうと心のどこかで高をくく

って。

 それが魔物の襲撃という形で、独り取り残される結果となってしまった今、ああ、独り

ぼっちってこんなに怖い事なんだなと解った。怖くて痛いことなんだなと。

「ゆうたは…………これを言っていたのかな?」

 逃げ続けても、逃げた先にはもっと怖い事が待ってるって。だから逃げちゃダメだって。

「ゆうた…………」

 勇汰の顔を思い浮かべると、自然とすくんでいた足が動いた。怖かった暗闇の中に飛び

出せた。

 そして――。

 一直線に走る。

 勇汰の匂いと熱めがけて。

「うぅぅうぅうううう!」

 怖くない! 怖くない!

「うううううっ!」

 ただひたすら。がむしゃらに走り――勇汰の姿が見えた。速度を増す。

「バル?」

 バルの呻き声に気がついたこちらを振り向いて――。

「おわぁつ!?」

 バルは勇汰の胸めがけて飛び込んだ。だが高さが足りずに胸ではなくて腹に頭突きをか

ましてしまう。

「ううう……」

 腹を抱えて倒れる勇汰に向かい――。

「バルも…………行く、ぞ!」

「い……いいのか?」

「う、う、うん。バル。独りぼっちの方が怖いって気がついたから。だから……だからバ

ルも魔物と戦うぞ!」

 声と尻尾を震わせながら、そう宣言する。

 勇汰と同じように。

「そ…………うか」

 勇汰は起き上がり、バルの頭を優しく撫でる。

「それじゃ。一緒に行こうか」

「うん」





「こっちに…………いるよ」

「うん。わかった」

 バルの鼻を頼りに、未だ闇深き森を進む勇汰たち。魔物と操られたフレイバルたち目指

して。

「ねぇ…………。どうやって魔物を倒すの?」

「それは…………」

 バルに尋ねられた勇汰は笑顔で返す。

「ひょっとして……考えてないの?」

「う、うーん……。あははは」

「あはは、じゃないよ! どうすんのさ! どうやって戦うつもりなんだよ!」

 バルが声と角を上げて叱ってくる。

「うぅ。ごめん。さっきは勢いがあったし…………。どうにかなる気がしてたし…………。

でも――」

「でも?」

「ここに来て逃げ出す気は無いよ。それは大丈夫!」

「…………バルも…………逃げない、よ」

 お互いがお互いの決意を再確認。

「一応、ね。考えている事もあるんだ」

 勇汰は近くに落ちている気の棒を手に取った。

「……まさか、その棒で戦う気?」

 バルが正気か? といった目で見てくる。

「うん。そうだよ」

 勇汰が真顔で頷くと、バルは呆れて溜め息を吐いた。

「あのさ……わかってる? 相手は魔物なんだよ。強いんだよ!」

「うん。それはもちろんわかってる」

 一瞬だけど襲われて。戦っても勝ち目が無いのは理解できてた。

「それでも、これでやるしかないんだ。俺には戦う力が無いから。武術とかやってないし、

頭も良くないから戦略や戦術も駄目。そんな俺が出来る事は一つしかない!」

「それって?」

「相手に向かって突っ込む!」

 力強く答える。足下でさらに大きな溜め息が聞こえてきた。

「そんなにガッカリしないでよ。…………冗談とかじゃなくて本当にそれしかないんだよ」

「ガッカリもするよ。突っ込んでも勝ち目なんて無いじゃんか!」

「そんな事わかんないって! あの魔物さ。目玉に触手があるだけだっただろ?」

「うん」

「あのタイプの魔物ってさ。だいたい、目が弱点だと思うんだ。俺があいつに近づいて、

この木の棒を目玉にぶっ刺す! そうすれば――操られたフレイバルが元に戻る筈だ!」

「…………本当に?」

「多分。さっき俺も操られかけたから」

「はぁ…………。心配だなぁ。そもそもどうやって近づくのさ? 皆、ゆうたよりも足が

速いよ」

「そうなんだよな…………」

 昼間のフレイバルたちとの駆けっこ勝負では完敗だった自分の足で、果たしてたどり着

けるか…………。

「問題はそこだったんだけど…………。バルが来てくれたお陰で何とかなりそう」

「う、…………どういうこと?」

 勇汰の意図を、何となく察知したのだろう。バルの表情が凍り付く。

「バルが囮になってくれればさ」

「ええっ! バルが囮にっ!? 嫌だよ!」

「そう言わないでよ。それとも代わりに魔物と戦う?」

「う…………。それも…………ヤだ」

「じゃあ考えて。バル的にどっちが怖くない?」

「う…………。バル的には…………囮の方がまだマシ……」

「よし! じゃあ、決まりだ! 頑張ろう!」

「うぅ…………なんか、騙されてる気がする」


・          ・          ・          ・


 雨は上がり、雲も千切れ千切れになった。その隙間から綺麗な満月が顔を出している。

 月なんて普段は気にもとめないのに、こういう時にはやたらと目に付く。

 その上、妖しく輝く満月に魅了されかけていた。

「ゆうた。どーした?」

「あ、いや…………」

 宙へ向けていた視線を慌てて降ろす。

「ちょっと月が綺麗だなと思っただけ」

 このセリフを後に続けなかった。これから戦いに赴くのに、緊張感が無いと叱られるだ

ろうから。

「ふぅ…………」

 考えないようにしていたけれど、これからを考えると気が重たくなった。

「もうそろそろ?」

 勇汰が尋ねると、バルはコクンと頷く。

「そう…………」

 歩幅を狭め、足音を殺して進む。

 木々をすり抜けて進んだ先に彼等はいた。

「あ!」

 その光景を目の当たりにした勇汰は胸が痛んだ。

 大人フレイバルを中心に子供フレイバルたちが散って歩いている。

 そのフレイバルたちの足がフラフラ歩き、辛そうに見える。

「そうか、さっきの雨!」

 さっきのゲリラ豪雨に打たれたのだ。恐らく、魔物は水に弱いフレイバルたちを避難さ

せずに、雨の中を無理矢理歩かせたに違いない。

 それであんなにも弱っているのだろう。

「ひどい…………」

 ズシンズシンと、大人フレイバルの足音が聞こえてこない。昼間は離れていても力強い

振動までも伝わってきたのに…………。

「ぅぅ…………みんな…………」

 仲間の無惨な姿を見せつけられたバルの身体が僅かに震える。

「怖い? それとも魔物が許せない?」

「…………許せ、ない」

「うん。俺も許せない。だから…………絶対に助け出そう!」

「…………うん!」

 勇汰はしゃがみ、バルの頭を撫でた。

「ところでさ。作戦なんだけど…………、変更しようと思う」

「どうするの?」

「あのフレイバルたちには悪いんだけどさ。弱ってるじゃん。今なら強行突破出来ると思

うんだ」

「強行、突破? 真っ直ぐ行くの?」

「うん。俺とバルが二人掛かりで魔物に向かっていく。当然、フレイバルたちが止めに来

ると思うんだけど。あの状態じゃスピードもパワーも出ないだろうから、かまわずに突っ

込む。魔物は倒せなくても最悪、引き剥がせば洗脳は解けるかもしれない。それを狙う。

どう?」

「どうって…………」

 バルは視線を落とし、身体を小刻みに震わせる。

「ゆうたの作戦。なんか…………怪我しそうな気がするんだけど?」

「うん。するね。というか。どの作戦でもするよ。無傷で助けられるって思ってないもん」

 何を今更だとバルに強く言う。

「ぅぅ…………怖いよ。痛いのヤだよ」

「ここで情けない事言うなよな。仲間を助けたくないのか?」

「…………助けたい。でも…………」

「じゃあ、言い方を変えるけど。バルは仲間を見捨てる奴になりたいのか?」

「…………ううん」

「じゃあ、何をすべきか…………。わかるよな?」

「…………う、うん」

「よし。いい子だ」

 勇汰はバルを右腕で抱えた。

「?」

「またまた作戦変更。俺がバルを抱えて走る。途中でバルを魔物めがけて投げるから、後

は上手くやってくれ」

「いいいっ!?」

 バルが嫌だと、ジタバタと暴れ出す。

「やだやだやだ! 怖い怖い!」

「もう! 覚悟を決めろって!」

「ううう…………」

 さすがにもう戻れないと観念したのだろう。バルがおとなしくなった。

「よし! それじゃ――行くぞ!」

 バルの返事を待たずに、勇汰は飛び出した!


・          ・          ・          ・


「うおおおおおっ!」

「ひっ、いぃいいいいいっ!!!」

 草むらから飛び出した勇汰。目指すは群の中心にでフレイバルを操っている目玉魔物!

「ヴヴヴ!?」

「グガアア!?」

 飛び出してからワンテンポ遅れて、ちびフレイバルたちが勇汰に気がついた。

「ヴヴヴ!」

「ヴヴヴー!」

 さらにワンテンポ遅れてから動き始めた。しかしその動きは明らかに鈍い。それに――。

「くっ・・・・・・」

 勇汰は悔しかった。元気いっぱいに走り回っていたあのちびたちの変わりよう。

 あいつらをこんな風にしやがって!

 ギリッと歯を鳴らす。

 勇汰の足はそんなに速くない。体育の授業でも、下から数えた方が早いくらいだ。

 だがそんな彼の足でも、フレイバルたちは彼には追いつけるかどうかだった。

 お陰で勇汰は無事に射的距離まで近づけた。

 と、いう事で――。

「うおぉおおっ! 行くぞっ! バル!」

「うううぅっ!? ほ、ホントにやるのぉおおおおっぉぉお!?」

 泣き叫ぶバルを、勇汰は容赦なく魔物めがけて投げつける。

「ギギギ!?」

 目玉しかない魔物の目が更に大きく見開くのが見えた。まさかバルを投げつけるなんて

魔物にしてみれば予想も出来ない行動だったのだろう。

 深く考えずに勢いに任せた作戦だったが、結果的に上手く意表を突けた形になった。

 問題はバルが上手くやってくれるかどうかだが――。

「ううっ!」

 どうやら大丈夫だったようだ。バルはフレイバルの口の上にしがみついていた。後はよ

じ登って額の魔物まで行けば――。

「ブオッォオオ!!」

「うううぅっ!」

 バルを振り払おうとフレイバルが頭を縦に横に大きく振るのが見えた。

「バ――うわぁぁっ!?」

 バルを投げるために立ち止まった勇汰は、たちまちチビたちに囲まれた。チビたちとは

いえ、数十体同時に飛びかかられてしまっては、さすがに立ってはいられない。

 勇汰は倒れ込み、その上にフレイバルたちが次々と乗っかってくる。

「うっ…………」

 思いのほか重い。

「くっ…………」

 苦しい…………!

 圧迫された胸が膨らまない。意識が遠のく――。

「バ…………」

 バルは?

 意識が消える前にバルを探す。アイツは…………まだ頑張ってる。振りほどされまいと

必死にしがみついている!

「だっ!」

 だったら俺も!

 負けてられないと、亀のように腕を引っ込めて胸と地面の間に隙間をちょっとだけ作る。

これだけでも充分だ。

「はーふーはーふー!」

 雑な呼吸で命を繋ぐ。意識を確保した所で匍匐前進。歯を食いしばり――フレイバルの

山から抜け出した。

「バルっ!」

 ふらつきながら立ち上がり、バルの元へと駆ける。

「ギ?」

 勇汰の声に反応した魔物がこちらを見た。

「あ!」

 また目が合ってしまう。

「ギギギ!」

 駄目だ!

 そう思ったが遅かった。頭を黒い霧が覆い尽くすように、「自分」がどこかへと消えてい

く感覚が襲ってきた。

「あ――」

 足が止まる。

 ――止まるな!

 もう、どうでもよくなる。

 ――しっかりしろ!

「あ」

 ――自分がどこかへ消えていく――。

 闇色の水の中へと――深く――深く――どこまでも沈んでいく。

「ああ…………ここまでなのか…………?」

 沈みながら勇汰の心は後悔の色に染まっていた。

「なに、やってんだろうな…………おれ」

 訳も分からずに異世界に飛ばされてきたら、魔物に襲われてやられちゃうなんて。

「かっこわるいな…………おれ」

 ヒーローになれなかった。そもそもなれる器じゃなかったってことなんだ。

「それなのに…………がらにもなんく、へんな「けつい」をしちゃった。にげちゃいけな

いって…………」

 逃げちゃいけないって――逃げちゃ――。

「ああ…………。そうか。そうだよな。おれ。そもそもにげてたんだっけ? おかあさん

から。しょうらいの、はなしとか。じゅけんとか。じぶんのみらい、のこととかから。に

げてたんだ。

 そうだよな。まものに、たちむかうまえに。じぶんの「じんせい」にたちむかえっては

なしだよな――」

 ああ。そう言えば――。

「バルもにげてたんだよな」

 フレイバルの子供は大人になるために身体を鍛えなきゃいけない。それなのにバルは痛

いのを嫌がって。怖い事を怖がって逃げていた。

 その結果。周囲から置き去りにされるというのに…………。

「なんか…………いっしょ、だな。おれと…………」

 自分も勉強とか、将来の夢とか。いろいろめんどくさがって逃げてきて。その結果、自

分も置き去りにされるんだってこと。わかってなかった。

 自分と似てたから、放っておけなかったのかな?

「バル…………えらそうなこと、いって、ごめん」

 沈みゆく意識の――ゆらゆら揺れる水面に映り込む景色にバルがいる。

 バルはまだ必死で魔物にしがみついている。

「ごめん…………。いっしょ、じゃない、よな。おれ、はあきらめた。けど…………おま

えは、まだ。あきらめてない。おまえのほうが、すごい…………よ」

 身体がさらに重くなった気がした。水底の汚泥にどんどん沈んでいく。

「バル…………」

 水面の向こうのバルは――必死だ。

「バル…………」

 必死で――戦っている。

「バル…………」

 あの怖がりのバルが――。

「お、れ、も…………」

 もうちょっとだけ…………。

 いや!

「もっと頑張んなきゃ駄目だろ!」


・          ・          ・          ・


「あぐぅっ! ぐぅうううっ!」

 まだ丸みを帯びた爪を鱗の隙間へと食い込ませる。

「ぐうっぅうううっ!」

 ――怖いっ!

 バルの目にはうっすらと涙が滲んでいた。

「っぅううっ!」

「グルゥウウッウッ!!」

 バルを振り解こうと、フレイバルが頭を大きく振る。けれども。どんなに身体を振られ

てもバルは離そうとしない。

「うううっ!」

 死んでも離すものかと、今度は大して尖ってもいない牙を突き立てた。

「うぐぐぐぅっうう!」

 ――怖いっ!

 バルの心の中にあるのは、仲間を助けたい、とか。勇汰に勇気をもらったから。そう言

った感情ではなかった。

 ただただ怖い!

 ただそれだけ。

 何者にも恐怖心が勝り――結果的にはそれがバルを普段では出せないような力を出させ

ていた。

 身体を吹っ飛ばされる恐怖。

 地面にぶつかる痛み。

 その後の袋叩き。

 そういった後の恐怖が、「今」に全てを賭けさせていたのだ。

「うううぅっつ!」

「グルウウ!!」

 簡単に振り落とせると思っていた相手が予想外にしぶとかった事で魔物が苛つき始めた。

 フレイバルを操る触手を一本だけ外してバルを叩く。

「ううっ!」

 バシッ、バシッと何度も叩く。

 それでもバルは離れない。

「うっ、うっ…………」

 何で…………こんな事に…………?

 触手で叩かれながら、後悔に似た感情が沸き上がってきた。

 痛いよ…………。怖いよ…………。

 どうして…………どうして…………こんな目に遭うんだ?

 痛くて――怖い目に。

「うぅ!」

 鞭がバルの背中にめり込んだ。激痛が意識を奪いかける。

「うぅ……」

 痛みで朦朧とする意識の中で、バルはちょっとだけびっくりしていた。

 未だに自分の心が耐えている事に。耐えられている事に。

 驚きを隠せなかった。

「うっ!」

 鞭が身体を打つ度に意識がどこかへ行こうとする。それなのに行かない。踏ん張れる自

分がいる。

 自分って…………こんなに強かったっけ?

「うぅぅうっ!」

 これなら…………。こんな事なら…………。

 バルの中に再び後悔が沸き上がった。

 でも今度は違う後悔だ。

「ぅつ…………。みんな…………」

 自分がこんなに頑張れるなら…………どうして今まで頑張ってこなかったんだろう?

 もっと早く自分がこんなに出来るんだってわかってたら、みんなと一緒に遊べたのにな

…………。

「っ……!」

 悔しくて涙がこぼれ落ちる。

 ゴメン。

「ぅ……」

 もう…………ダ、メ…………?

 力が入らない。次来たら耐えられない。

 もう――限界だった。

「…………う?」

 終わりを覚悟した。…………のに?

「う?」

 次が来なかった。

 バルはゆっくりと目を開く。

 最初に見えたのは涙で滲んで映る魔物の姿。その魔物の目がどこかを凝視して動かない。

「う?」

 痛みと恐怖で硬直した身体。それを無理やり目だけ動かす。

「……ゆうた?」

 視線の先に居たのは勇汰だ。彼はフレイバルたちのど真ん中でぼんやりと無防備に仁王

立ちしていた。

「う?」

 違う。彼は魔物と目を合わせてしまい、操られかけているのだ。

「うぅうぅ…………」

 勇汰を助けなきゃ。そう思ったが、バルの体は動かない。

「うぅぅ…………」

 今がチャンスなのに!

 魔物はどうやら誰かを操る最中は無防備になるようだ。今なら自分でも何とか出来そう

なのに!

「うっ!」

 根性を出して見る。勇汰が言ったようにガラにもなく。

「ううっ!」

 すると少しずつだが、体が言う事を聞いてくれた。足がちょっとずつだが前へと向かう

のだ。

「こ、れ、なら…………」

「ギッ?」

 魔物に気づかれた。再び触手でバルを襲う!

「うっ!」

 再会された攻撃。だが――耐えられた。

 次はもうダメだと思っていたのに、まだ耐えられた。ここまで来ると、むしろ誇らしか

った。

 ここまで来たんだ。だったら……行けるとこまで行ってやる!

「うぉおおっ!」

「うぉおおおっ!」

 雄叫びを上げるバルの声――とそれに重なる声。

「うっ! ゆうた!?」

「うおおおっ! バルっ!」

 魔物に操られかけていた勇汰が、まさかの自力で洗脳を解いた。この事実は魔物に戸惑

いと混乱を――バルには希望と勇気を与えた。

「うおおおっ!」

 叫びながら突っ込んでくる勇汰。魔物は混乱しながらも瞳を紫色の妖しい輝きを宿し始

める。

「さ、せ、ないっ!」

 何をしようとしてるのか解らないが、きっと勇汰にとって良くない事だ。そう直感した

バルは魔物の上に飛び乗った。そして魔物の目玉を爪で叩く。

「行くぞっ!」

「ギギッ!?」

 勇汰が手にした木の棒が、魔物の目玉に突き刺さる!

「ギッ!? ギギギッィィイイ!?」

「やった!?」

 寄生したフレイバルから離れ――地面の上を苦しみもがきながら転げ回る魔物。操られ

たフレイバルたちがバタバタと倒れる。

 勇汰とバルはこれで終わった。

 決着はついた。みんな助かった。

 そう確信した――のに!

「ギギギギィイイイイ!?」

 魔物は触手を何本も生み出して自分自身をグルグル巻き付ける。何をしてるのか解らな

かった勇汰だが、何となく察しがついた。

「まさか…………変身とか、しない、よね? もう、いっぱいいっぱいなんだよ。こっち

は!」

「うううぅ…………そんなぁ…………」

 膝がガタガタ震え――崩れ落ちる。

 目の前が真っ暗になる中――うっすらと浮かび上がる赤い輝き。

「バル?」

 それはバルの体だった。茶色い産毛に覆われていたはずのバルの体には、所々に赤い鱗

がちょこちょこっと現れていた。

「バル…………」

 その赤い鱗を見てると、不思議とまだ頑張れるような気がしてきた。

「ゆうた」

 バルがよろよろと寄ってくる。

「バル」

 勇汰はバルを抱き抱えた。

「そうだよな。俺に…………俺たちに何が出来るかわからない。けれど…………最後まで

諦めちゃいけないよな?」

「うん。今度は…………バルももっと頑張るよ。だから…………ゆうたもバルと一緒に頑

張ろ!」

「ああっ!」

 顔を上げる。

 その瞬間――勇汰とバルの体が光り輝いた。

「え?」

「う?」

 勇汰とバルの体が炎に包まれる。

「あっ、っつくない?」

 不思議と暖かいだけ。

「俺の手……」

 変化があったのはこれだけではない。勇汰の右手の甲にもそれは起こった。

「これって…………紋章?」

 赤い光で描かれた紋章のようなものが右手に出現した。そしてそれはバルにも。バル額

にも同じ紋章が浮かんでいたのだ。

「…………行こう!」

「うん!」

 二人は自身に起こった出来事に驚くより先に、何をすべきかを悟った。

「うおぉおおおおっ!」

 炎を纏った二人は魔物へと突っ込み――。

「ギッィイガアアアアッ!!!」

 炎の体当たりを食らった魔物も炎に包まれ――悲鳴を上げて灰となって消えた。


・          ・          ・          ・


 全身を、鋭い針で突き刺すような痛みで目が覚めた。

「いっ…………!?」

 その激痛は思わず上げた悲鳴を途中でかき消すほどだった。

「くぅ…………うぅ…………」

 襲い来る痛みの波が引いているうちに、ゆっくりと呼吸を整える。

「はぁ…………。はぁ…………」

 意識がハッキリしてきて、何が起きたのかを思い出す。

 最後の記憶は確か…………魔物が燃え尽きたのを確認してから喜んで――気を失った気

がする。

 そして今は――。

 見知らぬ天井…………と言うより洞窟と言った方が正確か。

「目が覚めたか?」

 声が聞こえてきた。勇汰はまだ痛む体を横に、首だけ動かして外を見た。そこには大き

い方のフレイバルが居た。

「よかった…………。無事だったんだ?」

「ああ。お前の――お前たちのお陰だ。お前たちが魔物を倒してくれたから、こうして我

らは生きてまた太陽を拝む事が出来る。感謝するぞ。ゆうたよ」

「そんな……。大げさ、だよ。俺は…………放っておけなくて…………。それに途中、諦

めたんだ。最後まで頑張ろうって思えたのはバルが居たからなんだ」

「バル?」

「えっと……。あの怖がりだったフレイバルの子供の事。ちょっと呼びにくくて、勝手に

名前を付けたんです。えっと…………ごめんなさい」

「なぜ、謝る?」

「いや、だって…………。勝手に名前をつけたから…………」

「…………そのバルは嫌がったのか?」

「いえ」

「だったらそれで構わない。ゆうたが好きなように呼ぶといい。その方がバルも喜ぶだろ

う」

 フレイバルの視線が勇汰の隣へ向かう。そこにはバルが眠っていた。

 バルも勇汰同様に疲れ切っているようだ。

「うっ…………」

 フレイバルと話して気が紛れた。痛みが少し引いてきたので上半身を起こす。まるでロ

ボットのような動きでバルを抱き抱えた。

「重っ!」

 全身筋肉痛で力が入らない事を抜きにしても、今のバルは重かった。片手で抱えられた

頃が懐かしい。

「すっかりごつくなっちゃって…………」

 茶色い産毛に覆われていた頃はふにふにと柔らかくて抱き心地が良かったのにと残念が

る。

「まさか。あの弱虫がな…………。バルの心境に一体何があったのだ?」

「多分…………。バルもわかったんですよ。逃げてちゃ行けないって。逃げてた事に勇気

を出して向き合ったんですよ」

「…………? よくわからないが、これで心配事はなくなったな。…………良かった」

 ホッとしたような、安心したのが伝わってきた。

「…………バルの事。やっぱり心配してたんですね」

 見捨てるような冷たい事を言っていたのに、やはり本心は違っていたようだ。

「…………まぁな。それが掟とは言え、同族を見捨てる事はやはり気持ちのいい事ではな

い。

 だが――」

 フレイバルがこちらを見る。その目が急に険しいものに変わって――。

「…………どう、したんです?」

 見えない圧に胸が押されて声が霞んだ。

「ゆうたとバル。お前たちはこれから厳しい試練が待っている」

「試練…………?」

「そうだ。守護竜と勇者としての試練がな」

「それってどういう――」

「愚か者! そんな事も知らんのかっ!」

 謎の怒声が洞窟内に反響した。


緩い感じの物語です。

設定もコテコテの王道(自分ではそう思ってる)と捻りも何にもありません。

連載物なので、気長に読んでもらえたら嬉しいです。


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