第八話 調和
俺は何か温かい光のようなものに包まれていた。 生きているのか、死んでいるのか。 ここがどこなのかさえも俺にはもう分からない。
あえて表現するならば精神世界なのだろうと思った。
「声出せるしな。 それにしても温かい光だ。 天国ってこういう所を言うんだろうか……」
――残念、ここは天国じゃない
実体を持たない声が俺に語りかけてくる。
「誰だ? 俺に話しかけてくるのは?」
――僕?、そうだなぁ。 恩恵とでも呼べば分かりやすいかな?
決して言葉で表現できるものでなかったが、俺は言葉ではなく心で理解した。 語りかけるこいつは間違いなく恩恵の意志そのものであると。 そして、声に出来る今ちゃんと謝ろうと思った。
「悪かったな、俺のせいで恩恵の出番全く出ないまま、物語終わっちゃったよ」
――大丈夫、ちゃんと届いた。 だから、僕の思いも届けよう君に。 さぁ受け取って僕の意志を、全てを
恩恵がそう告げると、温かい光が俺の精神体へともの凄い勢いで集まり、身体の中へと溶け込んでいくように光が精神体の中へと次々に吸収されていく。
全ての光が身体の中へと納まると、俺の身体は凄まじい光を周囲に放たれエネルギーはかつて無いほどみなぎっているのが分かる。
――さぁお膳立ては済んだ。 行っておいで、物語はまだ始まったばかりだ
そう言われると、俺はハッと目を覚まし身体を勢いよく起こすも痛みは一切なく、こちらの世界に戻ってきた俺の見た目こそ変わらないが、力が体内から溢れてくるかのように湧き上がってきているのが分かる。 その力に思わず1人ごちる。
「……これが恩恵――か。 素晴らしい力だ」
先程まで対峙していた目の前のスライムは、明らかに委縮しているのが分かる。 先ほどまで殴りつけていた相手とは別人である事を感じ取っているのだろう。
俺はゆっくりとスライムに近寄るも、先程とはうって変り微動だに動こうとはしない。 目の前まで寄るとやっとの事で事態を理解したのか、スライムは背を向け必死に逃げ始めた。
「さらば」
俺はそう告げると、必死に逃げるスライムに何度も手刀でカマイタチを発生させ切り刻み続けると、スライムは光となって消失し、小さな宝石を1つ残した。