第六話 やっぱり話を聞いてはいなかった
~~天界より~~
「彼をクライティアに転生し、そろそろ3年が経とうとしているな。 どれ、少し様子を見てみる事にしようか」
彼には前もって説明しておいたので、心配はないだろうが絶対に何もないという保証はない。 恩恵が身体に馴染むのには時間がかかり早くても5年はかかる。 なので、乳幼児は特に気をつけて生活しなければならないと、そこは強調して伝えてあるから大丈夫であろうが、馴染む前に病気で死んでしまうと言う事も十分あり得るという事は伝えておいた。 果たしてどうなっているだろうかと、神は異空間より巨大な鏡を取り出しクライティアの世界を覗き込んだ。
鏡はぼんやりと世界を映しだしていくと、焦点となる彼へとゆっくりとズームアップしていき、やがて彼との距離およそ上空20メートルと言う所でズームが止まる。 鏡には彼が元気よく村の中を歩いている様子が映っていた。
「ふむ、病気などにはなっていないようだな。 幸い、孤児でもないようだし、後は大人しく2年程家で大人しく生活していれば自然と恩恵が身体に馴染むだろう」
一見、馬鹿のように見え話を聞いていなかったのではないかと心配はしていたが案外話を聞いているようで安心したと笑みを浮かべたが、その瞬間彼の口からとんでもない事を口走るのを聞いた。
「何か恩恵を感じないんだよなぁ。 よし、本当にかかっているか確かめに行こう。 少なくともスライム位には勝てるだろう」
彼はそう独り言を呟くと、村の外へと1人で出て行ってしまった。 一部始終を見ていた神は手で額を覆い憤る。
「あの馬鹿、最初の方から聞いてはいないではないか」
神は注意を呼びかけようにも、彼が恩恵に馴染まない限りは神から声をかける事は叶わず、動向を見守る事しか出来ないでいた。
そんな、神の心配など余所に彼はどんどん森の中へと入って行く。