第十一話 火の勇者を求めて
俺は両親に冒険者になると言い、村を出て現在アプールの港町へと来ていた。 だが、一つだけ気になったのは両親にそう告げた時、何故あのようなホッとした表情を見せたのか考えていた。
「俺が出ていくって言った時のあの嬉しそうな顔、一体……あぁそうか、そういう事か、物わかりのいい俺は知らないふりをして弟か妹の誕生を喜べばいいんだな」
それよりも女性陣と別れる事の方が辛かったが、言う事を聞かないで遊んでばかりいると、いつか神に性欲を本当に無くされてしまうかも知れないと言う恐怖心の方が勝り、今に至るのである。
「さて、この町に火の勇者となる素質を持つ者がいるはずなんだが……可愛い子だといいなぁ。 って言うか男だったら俺絶対見ないぞ、その時はどうすんだ?」
港の潮風にあてられながら、心地よい感覚を楽しみつつ街並みを拝見し、勇者の素質を持つ者を探しながら歩いていると、よそ見をしていたせいで誰かと正面からぶつかってしまう。
「きゃぁ」
俺は慌てて手を差し出したが、同時に2つの事が脳裏に浮かび咄嗟に声をかける。
「可愛い、しかも火の勇者見ーつけた(すまない、よそ見をしていたせいでぶつかってしまった。 大丈夫? 怪我はないかい?)」
「危ない人なのです……近寄らないで下さいなのです」
赤い髪を後ろで束ね、赤い瞳の小柄で色白い12歳位の少女はそう言って1人で立ち上がると、背を向けて去って行ってしまったので俺は急いで追いかける。
「逃がすかぁ! 待てぇ子羊ちゃん、捕まえちゃうぞぉ」
「きゃああぁああぁ! 頭がぶっ飛んでる人が追いかけてくるです」
「初対面なのに、そんなに俺の事観察しちゃって。 これは結婚しかないなぁ」
「いやああぁあ! 怖いです、無駄にポジティブなのが余計になのです」
少女は裏路地を逃げ回るも、すぐに力が尽きかけるも必死に逃げるが、やがて行き止まりの道に逃げ来んでしまい、その場にしゃがみ込むと泣き出してしまった。
「はぁはぁはぁ……ふええぇえ、見逃してくださいなのです。 私は母を看護しなければいけないのです。 お金も今日買うお薬代しかないから見逃してほしいのです。 どうしてもと言うのならこの身体だけにして欲しいなのです」
「よし、分かった。 お金は勘弁してやろう。 じゃあ一緒に行こうか」
少女は一瞬、ハトが豆鉄砲を喰らったような顔をして再び泣き叫んだ。
「ふええぇぇえ鬼なのです! 畜生なのです!」
「随分、酷い言われようだな。 お前がそれでいいって言ったんじゃないか。 と言うか何だ? 母親が病気って風邪か?」
先程まで、おどおどしていた少女は急に立ち上がり忽然と態度を変え仁王立ちとなった。
「そんなに軽い病気な訳ないのです! お母さんは……お母さんは万能の薬『エリクシール』でもないと治らない程、重い病気なのです。 でもうちはそんな高価な薬買えないのです。 だから、こうして違う薬で病気の進行を遅らせる事位しか出来ないのです」
憤る彼女とは裏腹に俺は結論が出てるじゃないかと、笑顔になり少女の両肩に手を置いた。
「だったら、取りに行こうぜ。 エリクシール」
「ふぇ? 取りに行くってエリクシールを……ですか?」
俺は少女の言葉に肯定するように親指を立てて見せた。 一方、少女の方はと言うと突拍子もない提案に、ただただ目が点になっていたのであった。