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サーティンズ クロニクル  作者: 風風風虱
ザ・バードからナイトオブリビング・・・
5/22

4

大隊本部に向かう途中で、パジャは完全武装した兵士達に遭遇した。

15人程いた。

携光球の発する光をまともに顔に当てられて、パジャは顔をしかめる。

「とまれ。何者か?」

兵士の鋭い声。

と、同時に数人の兵士が魔素杖を構える。真っ直ぐパジャを狙っている。

「第14師団補給大隊第2中隊所属のパジャ・ランドリア准尉です。」

少しムッとしながら、パジャが答えると相手は少し動揺を見せる。

ランドリアってあのランドリア?

と、いう小声が聞こえてきたが、パジャは無視する。いつもの事だからだ。

「私は、第107連隊第1大隊所属のアルサ少尉です。

その廻りにいるのはなんでしょうか?」

本来、上位であるアルサが敬語を使ってくるのは、パジャがサーティーンズであることを認識したからだ。軍隊のように上下関係が厳しい世界ではサーティーンズと言えど階級の上下が優先されるが、思いもしないところでサーティーンズに遭遇すれば地がでるものだ。ハルトランサに住む者達の条件反射のようなものなので仕方がない。

「自分が召喚した精霊です。害はありません。」

そうですか、と答えたところでアルサは軽く咳払いをする。

「ここで何をしていますか?」

「大隊本部に行くところです。緊急事態が起きました。」

「リビングデッドの事ですか?」

少尉の言葉にパジャは少し驚く。物々しい雰囲気だったので、もしかしたらと思ったが、大隊指令部では事態を把握しているようだ。ならば、思ったよりも状況は悪くないのかもしれない、とパジャは思う。

「現在、ケンダの町はリビングデッドの襲撃を受けています。

私たちは、町に侵入したリビングデッドに対処しているところです。」

「対処?」

「診療所にいると思われるリビングデッドを排除するよう命令を受けています。」

「だとしたら、もう遅いかもしれません。」

パジャは診療所の事を手早く説明する。

「4体ですか。」

アルサの確認にパジャは頷く。

「微妙ですね。最低1体と聞いていました。

不死感染持ちとなると、まちがいなく増殖してますね。」

「導話兵!

本部に連絡。初動の感染阻止は失敗。」

アルサは近くに待機していた導話兵に指示をする。

「リビングデッドは町に拡散した模様。

数は推定、5体・・・」

アルサの言葉は、別の兵士の叫びに遮られた。その場にいる全員の視線が兵士の指さす先に注がれる。

携光球が照らす先に複数のリビングデッドが浮かびあがる。

陸軍の制服ではない。ケンダの住人だった。

「・・・訂正。

推定10体以上。

既に住人に被害が出ています。

これより、リビングデッドの排除行動に移行します。

と伝えなさい。」

アルサは、パジャに顔を向ける。

「准尉は、早急に中隊に戻りなさい。」

アルサは、それだけ言うと近づいてくるリビングデッドに対処すべく部隊に指示を飛ばす。

「分隊構え! 撃て。」

アルサの命令で兵士達が魔素杖を構え、一斉に魔素弾を射つ。

魔素弾に射抜かれ、リビングデッド達は次々と地面に倒れ伏すが、ゆっくりと起き上がってくる。

「違う。頭を狙いなさい。」

アルサは、叱責すると手をかざす。

白く発光するものが手から放たれ、一体のリビングデッドの頭を粉砕する。

パジャはアルサをただの小隊長だと思っていたが、それはまちがいだと気付く。大隊付きの魔導師、それがアルサの正体だった。

魔法を扱える者の事を総じて魔法使いと呼称する場合もあるが、扱える魔法のレベルで魔法使いの呼称は厳密に分けられている。

先ず、内因魔法(インナーマジック)しか扱えない者は魔導師と呼ばれ、内因魔法(インナーマジック)外因魔法(アウターマジック)の両方扱える者は魔術師と呼ばれる。

中位、上位の魔法が扱えるとそれぞれの呼称に正、大がつけられる。たとえば、中位の内因(インナー)外因(アウター)魔術(マジック)が使えれば正魔術師となる。上位の魔法が使えるが、内因魔法(インナーマジック)しか扱えないと大魔導師となる。

上位よりもさらに高度な魔法が使える者は魔法使い、大魔法使いと呼ばれる。

魔法は、使いこなせるようになるには地道な鍛練が必要だが、それだけで使えるようになれるわけではない。持って生まれた才能も必要だった。

というのも、魔法を使うためにどうしても必要な特性が二つあったからだ。

魔素を一度に制御できる量と体内に蓄積できる量。

それぞれを最大魔素制御量と最大魔素蓄積量と呼ぶ。

この二つが高くないと魔法を発動できないのだが、これらの特性は生まれながらの体質によるもので、努力でなんとかなるものでは無かった。

そのため、魔導師、魔術師になれる者は限定された。

魔導師は100人に1人、魔術師は200人に1人と言われる。当然、正、大となるともっと少ない。

それでもハルトランサは他の地域よりも、その特性を獲得した者が多かった。魔女の国と云われる所以である。

そのため、陸軍の大隊には魔導師クラスが5人配属されていた。

彼女達は、支給されている魔導装備、例えば、魔素杖のようなものより遥かに高い戦闘力を発揮できるだけではなく、障壁も展開できるので防御力も高かった。

「ここは私たちに任せて、早く行きなさい。」

さらにもう1体のリビングデッドの頭を吹き飛ばしてアルサは叫ぶ。

リビングデッドはあらかた倒されていた。

パジャはアルサ達にその場を任し、広場へ向かうことにした。


「連隊本部との連絡は、まだつかないの?」

アリス大尉は、苛立たしく導話兵に問う。

「はい。どうも、空間の接続が切れているようで全く繋がりません。」

導話兵の回答にアリスは小さく息を吐く。

異変は、夕刻にリビングデッドの発生と第2中隊の第2小隊壊滅の報告をバンナ准尉から受けたところから始まった。

カラスを媒介にしたリビングデッドの不死感染の事、さらに不死感染の疑いのある者をケンダの町に送った事だ。

最初に話を聞いた時には直ぐには信じることができなかった。

とにかく、第1中隊から1分隊を抽出し、魔導師のアルサを付け、診療所の状況を確認に行かせた後、連隊本部に連絡を取ろうとしたが何故か、繋がらない事が発覚した。

導話機の空間接続が切れている、とのことなのだがどこに問題があるのかわからないようだ。

さらに、同じ連隊に所属する大隊とも接続が切れていた。

最悪なのは、直下の第3、4中隊との連絡も出来ないと言うことだった。

「とにかく、連隊と他の大隊との導話を確保しなさい。」

導話兵に厳命すると、別の導話兵、大隊本部には導話兵が複数いる、に注意を向ける。

「まだ、バンナ准尉とは繋がっているか?」

繋がっていることを確認すると、アリスは導話機に向かって話し始める。

「もう一度確認する。

第3小隊はリビングデッド化した第2小隊と交戦、排除した、でよいですか?」

「そうです。」

「第2、3小隊の被害はどうですか?」

「第3小隊は、交戦での戦死1名、第2小隊はカナレ准尉含めて生存者3名。大隊から派遣してもらった部隊からは、1名戦死です。」

「第1、4小隊の状況は?」

「分かりません。連絡が取れません。」

「分かりました。

第2中隊長と連絡が回復するまで、第2、3小隊は大隊直下とします。私の指示に従いなさい。

第2、3小隊の指揮は、バンナ准尉に任せます。

では、バンナ准尉。貴官は、早急に大隊に合流してください。」

「了解しました。」

バンナとの話を一旦終えると、導話兵には、第2中隊長への呼び掛けの継続を命じる。

「バンナ准尉との定期連絡も、小まめにやるように。

どのくらいでケンダの町に到着するか、後で報告してください。」最後に、それを付け加えると、アリスは急ごしらえの指揮所へ戻った。

光球台と簡素な机、机の上には周辺とケンダの町の地図が置かれていた。

「さて、状況をお復習(さらい)しましょう。」

机の回りには大隊長を補佐をする幹部士官5名と第1中隊長が集まっていた。

「突然のリビングデッドの発生。

それが、今、私たちが直面している脅威。

カラス、およびリビングデッド化した人間から不死感染するようです。

既に第2中隊の第2小隊が壊滅している。第2中隊は、第1、4小隊とも連絡が取れなくなっていていて、実働しているのは第3小隊のみ。さらに、第2中隊で出た不死感染の疑いのある者が既にケンダの町の大隊診療所へ搬送されています。

リビングデッド化する可能性が高く、そこから不死感染が拡がる可能性が高いです。既に1分隊を状況確認に向かわせているので、状況は追って分かるでしょう。

次に共有する必要のあることは、連隊本部、および他の大隊に連絡がつかない状態と言うことです。

理由はわかりません。

さらに、第3、4中隊とも連絡が取れていない。

昼頃、第3、4中隊で体調不良者が出たと聞いているので、最悪の場合、既に第3、4中隊もリビングデッドに襲われているかもしれません。

昼から夕刻にかけての各中隊の配置はこう、」

と、言いながらアリスはケンダ周辺地図の南、北西、北東側を指で順々に差し示した。

「つまり、最悪の想定だと400体近くのリビングデッドに周囲を囲まれていることになる。

アンデットの性質上、ケンダの町に集まって来る可能性が高い。

確かな情報が得られていない以上、最悪の状況を想定していきます。」

アンデットの性質とは、生きているものに引き寄せられ、生きているものに嫉妬し、自分達の世界に引き込もうとする悪意。それがアンデットの基本的な性質だった。

「勿論、100人ちょいで町全体を守ることはできない。」

アリスは、一度、全員の顔を眺め、地図の一ヶ所をトンと叩く。

「そこで、ここに防衛線を張ります。」

そこは、補給中隊が設営している広場だった。

「町の人達をここに集め、バリケードを作り、リビングデッドを迎え討つ。

ソフィア。

ジェシー中尉と協力して防衛拠点を作って。

アナ。

あなたは、補給中隊に住人の避難を手伝って貰うよう調整して。」

そこまで話したところで伝令が現れ、アルサの感染阻止失敗の件が報告された。その場が一瞬、暗い沈黙に包まれたが、アリスは、手を叩いて言う。

「さあ、行動する時よ。

私たちには時間がないの。解散。

みんな、やるべき事をやって。

ソフィアとジェシーは残って、もう少し話したい事があるわ。」


***** サーティーンズ クロニクル *****


「町に着いたら、周辺の状況の確認と住人の保護ですか?

え?

保護じゃなくて避難勧告。

町の中心部の広場へいくように伝えるだけ、ということですか。

了解。

町に着いたら状況を連絡します。」

そこまで言うと、バンナは導話機を横に待機していた導話兵に返す。

「町に着いたら、周辺住民の避難勧告と南部地区の防衛をしろ、とのことだ。」

「何からの防衛ですか?」

「恐らく、リビングデッド化した、第1、4小隊からだ。

あるいは、不死感染した町の住民かな。」

「もう、不死感染がひろがっているのですか?」

隣にいたマギー軍曹が深刻な面持ちで質問する。

みたいだ、と答え、バンナはイルダとマリ達を思う。

恐らく、もう、人ではなくなっているだろう。

そう思うと、痛恨である。もっと早く気付いていれば助かる命もあっただろう。

本当にそうか?

バンナは自問する。

難しい。

そもそも、今回の不死感染は分からないことが多い。

アンデットの発生原理は、死んだ者の負の感情、怒り、怨み、嫉妬という想いが魔素を引き寄せ魔物化するものだ。

故に感情豊かな者がアンデット化しやすい。人型(ヒューマノイド)のアンデットが多いのはそのためだ。逆の言い方をすると鳥や魚、虫のアンデットの発生頻度は低い。しかし、カナレの話では100羽以上のカラスのアンデットに襲われたという。普通では考えられなかった。

更に、不死感染の問題だ。

不死感染は、簡単に言うと呪いである。アンデットに襲われる事により、負の感情の呪いに曝され、呪いの耐量を越えるとアンデット化する。感情、それも怨み系の呪いのため、共有できる感情を持たない者同士では呪いの伝搬が起こりにくい。

だから種族をまたぐ不死感染は起こらない、というのが不死感染の常識だった。人型(ヒューマノイド)は喜怒哀楽といった感情を共有しやすいのでヒューマノイド同士では不死感染が発生するという例外的現象は起こり得る。

しかし、カラスと人間では感情の動きや考え方が余りに異なるので不死感染は起こらないはずだった。

しかし、現実は不死感染が起きた。しかも、かすり傷であっても不死感染をした。時間はかかりはしたが・・・。

時間がかかったというのがポイントだな。とバンナは思う。

可能性の域をでないが、事実を積み上げた結果、導き出される答えは一つだろうと考えていた時、マギー軍曹に現実に引き戻きされる。

マギーが指差す先、ケンダの町並みが見える。

ついにケンダの町に到着したのだ。

バンナはひとまず、思考を中断する。

「これより、ケンダの町に入る。

我々の任務はケンダの町の南部地域でのアンデットの迎撃と住民への避難勧告だ。

皆、手筈どおりに行動してくれ。

絶対、リビングデッドを近づけるな。

かすり傷でも負わされると、リビングデッドに成り果てるぞ。

必ず班単位で行動して互いの死角をカバーしろ。」

小隊全体に指示をすると、一度、深呼吸をする。

バンナの目の前には、夕闇に包まれようとするケンダの町並が広がっていた。

ケンダの町は街道沿いの宿場町の性格が強く、町の真ん中を街道が貫いている、その街道沿いに宿屋や食べ物屋、土産屋が並んでいる。そして、街道に並行して左右にやや細い生活通り、町の人達が使う道、が走っていた。次に、その生活通りに沿って日常生活に必要な様々な設備、病院や、雑貨屋、銀行等が並んでいる。そして、それらの設備を囲むように住宅地が作られている。町の中心には高級住宅が広がり、外縁になるほど簡素な家が建ち並ぶ。平たく言うと貧民街だ。

バンナ達は、街道をちょっと外れたところから北上してきたので、丁度、東の生活道に突き当たっていた。道の更に東側に住宅が広がっている。

バンナは、左右に建っている建物を1、2班で探るよう指示し、残りは、外で待機させる。

リビングデッドの感染状況が分からないのでどう対応するのが最適なのか悩ましい。

「カナレ。大丈夫か?

気持ちは分かるが、しっかりしろ。

最後の最後では、お前の魔法が頼りだからな。」 

バンナは、横に立っているカナレに声をかけるが、カナレの反応は薄い。いつもの明るい表情は影を潜め、暗く、思い詰めた表情で黙々とついてきていた。自分の手で部下に止めを刺さしたことと、守れなかったことがかなりのショックだったのだろう。

カナレが最もダメージを受けるシチュエーションではある。

簡単には立ち直れないかもしれない。

世間では、魔法使いは、とんでもない力を持っているから、どんな状況でも平然としているだろうと勘違いされることが多い。

だが、どんな凄い力を持っていても精神(メンタル)は普通の人と大して変わらない。

強力な力を自制する能力が必要なので、大魔法使いと呼ばれた人々はいずれも強靭な精神力の持ち主だが、それは逆説的にいうなら、強い精神力があったから大魔法使いになれたとも言えた。

現に、凄まじい力を持ちながら、いや、持っていた為に自滅した者も大勢いた。

『狂乱のジェシカ』が良い例だろう。

バンナは、カナレに視線を戻す。

カナレは天才だと、バンナは常々思っていた。

魔素制御の緻密さ、魔法修得の早さ、応用力、どれをとっても、バンナ達同世代の中でも群を抜いている。サーティーンズという魔法のエリート集団でのその評価は、常識的水準の遥か上であるということを意味する。

大魔法使いになれる素養は充分ある。だが、まだカナレには精神的な弱さがあった。今、それが出ていた。

時間をかけてやりたいところだが、その時間がない。

「カナレ。」

バンナは、もう一度カナレに声をかける。

無表情で自分を見上げてくるカナレのふっくらした頬を、バンナは思いっきりツネル。

「痛ッ、イタタタタ。」

悲鳴を上げるカナレを無視して、容赦なくツネリ続ける。

「痛い、マジ、痛いから。」

身をよじり、バンナの腕を振りほどくと、ぜー、ぜー、息を吐きながら、カナレはバンナを睨む。

「な、な、何すんの。」

涙目で抗議をする。

「痛かったか?」

「痛いわよ。当たり前でしょ!」

「痛いって事は、生きてるって事だ。

俺達は生きてる。

生きてるならできることがある。

ケンダの町にも生きている人がいる。

今、俺達が守れるかも知れない人達だ。

守れなかった人を思うことがダメだとは言わない。だが、今は、守れる人のことを考える時だと思う。

守れなかった人の事は、申し訳ないが後で考える。

俺はそうするつもりだ。」

「そりゃ、そうだけど。

分かってるけど。」

『頭では分かっていても、そう簡単に割り切れるものじゃない。

だから、悩んでるんじゃない。』

ヒリヒリする頬を撫でながらカナレは思う。

『全く、乙女の柔肌に何てことするんだ。』

更に、カナレは思う。

『バンナの馬鹿。

バカバンナ。あ、何か語呂がいい。

・・・あたし、なに馬鹿なことを考えているんだろう。』

フッとカナレの表情が緩む。そして、ゴシゴシと両目の涙を拭う。

「リャンちゃん、ゴメンねー。

まだ、やることがあるから、ちょっと、待ってね。

後で、いっぱい謝るから。」

カナレは、小さく呟くと、自分の両頬をパシンと叩いた。

「ウン、わかった。

もう、あたしの目の前で誰も死なせないよ。」

そこには、いつものカナレが立っていた。


アルサは診療所付近を皮切りに周辺を調べたが、結果はかなり、壊滅的だった。

診療所付近は住宅地、それも、貧民街に属する場所の近くだった。住居が密集しているので住人達は、あっという間にリビングデッドの餌食になったようだ。入り組んだ細い路地や物陰に無数のリビングデッドが潜んでおり、排除どころか、身を守るのに精一杯だった。

「くっ。」

アルサの放つ魔素弾がリビングデッドを倒す。もうちょっと反応が遅かったら危なかった。

アルサの左右、後ろでも兵士達が懸命にリビングデッドを攻撃している。

押し込まれていた。

想像以上に感染する速度が早い。アルサ達は焼け石に水のような徒労感に襲われていた。

更に悪いことに、住居地に不用意に進出しすぎていた。

路地は狭く、至近距離からリビングデッドに急襲されるケースが多くなった。

今は何とか凌いでいるが、いずれ犠牲者が出るだろう。

「導話兵、指令部に応援要請を、」

応援要請をしようとするアルサだったが、途中で言葉を飲み込む。

不意に空から何が降ってきたからだ。

ドサリと黒い大きな塊がアルサのすぐ横に落ちる。

続けて、もう二つ落ちてくる。その内の一つは導話兵を直撃する。

導話兵は、悲鳴も上げる間もなく地面に押し潰される。

何事かと上を見上げて、愕然となる、屋根の上をノタノタとリビングデッドが歩いているのだ。

つまり、落ちてきたのはリビングデッドなのだ。

導話兵を押し潰したリビングデッドは、そのまま、導話兵に食らいついていた。

「何てこと。」

アルサは言葉を失う。

ヨロヨロと落ちてきた残りの2体のリビングデッドが立ち上がる。その背後で屋根から、更に3体落下してくる。

突然、分隊の真ん中にリビングデッドが現れ、隊は軽いパニックに襲われた。

「まずい、後退しろ。」

アルサはすぐに指示するが先行していた1班が分断、包囲される。

助けたくとも余りに数が多い。

包囲された兵士達は四方から襲われ、あっという間にリビングデッドの群れに飲み込まれる。

だが、それを悼んでいる暇はない。

残った者に後退を命じようとするアルサの目に新たなリビングデッドの一群が映った。

既にアルサ達も、絶望的な数のリビングデッドに包囲されているようだった。





次回投稿は3月12日を予定しています。

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