3 時空 VS 呪い first stage
それは突然やって来た。
炎の雨作戦が開始されてわずか5分のことだ。
「第一大隊から連絡。
『我、砲撃されり。』」
オペレーターからの報を聞きミュゼは眉をひそめる。
『砲撃?
どこからです?』
「敵、方位、不明。
どこからともなく砲撃を受けている模様です。」
「そんなバカな話がありますか!」
ミュゼは一喝する。
「ホークアイに連絡。
周辺を探査して敵の位置の特定をさせなさい。
第一大隊は砲撃続行。」
「命令がきたよ。
第一大隊を攻撃している敵を見つけなさいって。」
ホークアイのパイロットが観測員に言う。
「砲撃?
誰が攻撃してくるの?
私たちの敵はターゲット1だけじゃないの?」
「それを調べるのがあんたの仕事でしょ。
さっさとやんなさい。
ターゲット1の監視も忘れないでね。」
「ヘイヘイ。分かってますよ。」
観測員は口を尖らせながらメインとサブの画面をきりかえる。
「うは、大変なことになってる。」
メインの画面には第一大隊が布陣しているところが映し出されたが画面の3分の1はもうもうと沸き立つ土煙で覆われて見えなくなっていた。
「周囲50キロメートルに飛空機の類いなし。
攻撃の種別は角度からして砲弾系ね。威力と魔素反応から魔導砲弾ね。
うーん。あたしたちと同じクラスの魔導砲を使っている。
とすると・・・、
射程範囲にそれらしい熱源、魔導反応なし。
おかしいわね。
敵なんてどこにもいないわよ。」
「ホークアイから連絡。
敵、確認出できず、とのことです。」
「バカなことを。見つからないわけがない。
もっとよく探せと、いいなさい。」
「第一大隊、損耗率30%越えました。」
一体どこから誰が攻撃をしているのか?
ジェシカに協力者いたなど、自分は聞いていない、ミュゼは本部の杜撰な調査、作戦立案に腹をたてる。
(そもそも、敵戦力の把握は基本中の基本ではないか?
・・・、そもそも・・・?)
ミュゼの頭に不意にある考えが浮かぶ。
100年前、ジェシカは一人で戦った。
言い換えれば仲間がいなかったのだ。
彼女の生きた時代ですらそうだったのだから100年後の今、彼女に仲間などいるはずがない。
昔も今もジェシカは一人ぼっちなのだ。
ならば、第一大隊は誰が攻撃しているのか?
「そういうことなの。」
ミュゼは真実にたどり着き愕然となる。
ジェシカは単に時空結界の空間を第一大隊の頭上の空間に繋げただけだ。つまり今、第一大隊に降り注いでいる砲弾は、全てミュゼ達の放ったものなのだ。
「第一大隊、損耗率50を越えました。」
オペレーターの声が司令部に響く。
ミュゼは決断に迫られる。
攻撃続行か中止か。
「攻撃を開始して何分になる?」
「7分37秒です。」
このまま攻撃を続ければ自滅する。
だが、試算に依れば時空結界を展開できる時間はおよそ10分。あと、2分ちょっと我慢すればいい。ただし、試算が正しければのはなしだ。
「攻撃続行。」
ミュゼは苦しげな表情で指示を下した。
「第一大隊、損耗率80。戦闘継続困難です。」
「何分経過した?」
「ちょうど10分です。」
「ホークアイにターゲットの状況を探らせなさい。」
「第一大隊、沈黙。
第二大隊から、連絡。
『我、攻撃されり。』」
ミュゼの指示にかぶせるようにオペレーターの声が響く。
それは、ジェシカも時空結界も健在ということを意味していた。
とはいえ、それはなかば予想していたことだ。
ミュゼは再び決断を迫られる。
結界は10秒後に切れるかもしれないし、1時間以上続くかもしれない。それは誰にもわからない。
データがないからいくら考えても正しい判断はできるわけがない。それでも判断をもとめられる。後はどう腹をくくり、どう責任をとるかだけだ。
ほんの少しの沈黙の後、ミュゼは予備も全て投入して行けるところまで行くと腹をくくった。
「攻撃続行。
第四大隊に連絡。
攻撃準備。目標、ターゲット1。」
命令を下すとミュゼは大きく溜め息をついた。
ジェシカは泥沼化した大地に半身を沈めていた。
超重力で指一本動かせない状況だった。
周囲では絶えず魔導弾が爆発し大地をえぐり、砂ぼこりを舞い上げ、空気を轟音で揺さぶっている。
しかし、ジェシカの極近い空間は静寂を保っていた。時空結界が、それらの煩わしいものを全て遮断したからだ。音すらも例外ではない。拘束魔方陣が発動したのを知覚してすぐに時空結界の空間を調整して反撃開始した。
後は相手が自滅するのを待ってもよいのたが、ジェシカにその気はなかった。
なので、多重展開されている魔方陣の解除を始める。
まずは、遅延魔方陣を解除するために感覚加速かける。
遅延魔方陣のなかでは感覚そのものが外側よりもおそくなるので加速化をしなくては話にならない。
空間を調整して反撃に転じるのにジェシカの感覚ではものの30秒だったが、外の時間では5分は経過していたろう。
遅延魔方陣の解除には10分はかかると見ているので加速化しなければ外の時間だと2時間近く経過することになるので話にならないのだ。
そして、10分後、地面で明滅していた魔方陣が光を失う。次の解除対象は超重力を作り出している魔方陣であったがジェシカはこれをものの数秒で解除する。
『時空魔導師に重力系の魔方陣など、片腹痛い。』
大地の拘束魔方陣は無視する。解除しなくても転移ができれば移動には支障がないからだ。
なので対処しなくてはならないのは転移阻害魔方陣の方だった。
魔素の眼でみると、直径数百メートルの半球が浮くぼんやりした紫色に染まっていた。
再び感覚加速をかける。
すると、紫色の霧に見えたものが無数の小さな球体に見える。
虚空に不意に表れて急速に膨れ上がりある程度の大きさになるとパチンと弾ける。まるでシャボン玉のようなものが、空間にランダムに現れては消えていく。このシャボン玉のようなもの一つ一つが転移阻害の魔方陣だった。このどれかひとつにでも転移の軌跡が触れれば転移が弾かれる仕組みになっていた。
解除しょうにもひっきりなく現れては消えるのできりがない。
実質的に解除不能だ。」
「良く考えられている。妾がいた時代にはなかったのう。」
感心したようにジェシカは呟く。
ジェシカは更に感覚加速をかける。
感覚超加速化だ。
転移阻害玉の明滅がスローモーションになる。
もう一度、加速化をかける。
極限加速。
全てのものが止まって見える。
転移阻害玉も例外ではない。
ジェシカは止まった阻害玉の間を短距離転移ですり抜ける。
加速化を解除する前に落下する砲弾の空間と頭上をうるさく飛び回っている飛空機の直上の空間を繋げる。
そして、加速化を解除。
「さても、さても。
それでは首魁の顔を拝むとしょうか。」
ジェシカは服の泥を払うと転移した。
2017/6/11 初稿
2017/06/17 サブタイトル修正