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サーティンズ クロニクル  作者: 風風風虱
13人の怒れる魔女達
11/22

4  狂乱のジェシカ

ラナが右手をあげる。

ジェシカのほぼ真後ろで完全に死角の筈だった。

「ムダじゃ。」

ボソリとジェシカが呟く。

なんの前触れもなくラナの右手が肘の所から切断される。

切られた当人でさえ自分の腕がテーブルに落ちる音を聞くまで何をされたのか分からなかっただろう。

激痛に顔を歪めるラナを完全に無視してジェシカは言か葉を続ける。

「少しおとなしくしておれ。

話がすすまんではないか。

今度何かしようとしたら首が飛ぶと思え。

さすがに首が飛ぶとライラネンの者でも治すのは無理だぞえ。」

「あなたは本当にジェシカなのですか?」

我ながら陳腐と思いながらカトリは目の前の女に問う。

額面通りに受けとるのなら今、自分は伝説の領域の人物に対峙していることになる。

自分が幼き頃、母親が聞かせてくれたお伽噺話の登場人物が目の前にいるのだ。

100年前、絶大な力をもってハルトランサを壊滅に追い込もうとした狂乱のジェシカ。

当代の大魔女達が束になっても倒すことが出来ず、最終的には時空魔法の宗家であるラチューン家が総出で封じ込めたと言われる。

「そうじゃ、と言うても証明するものは何もないなぁ。

見れば分かる、ではダメかの?

それに、一番に聞きたいのはそれではなかろう。」

そうだ、確かに一番聞きたいのはそんなことではない。

「一体何をしようとしているの?」

カトリの問いにジェシカは嬉しそうに笑う。

「そうそう。その質問を待っておった。

何をするか?

勿論、続きじゃ。

この評議会もハルトランサもメチャクチャにしに来た。」

「なんのために?」

ジェシカはこめかみに指を当てて少し考える仕草をした。

「忘れた。」

そのあっけらかんとした物言いにカトリは絶句する。恐らくはカトリだけではない。

「意味が分からない。目的もなく、破壊と殺戮をしようというの?

それだけの労力を払って貴女(あなた)が得ようとするものは何なのですか?。」

「正直、何がしたかったのか、何をしようとしていたのか忘れてしもうた。

余りに長かったからのう。

何かとてつもなく悲しい、やるせない事だったと思うが、今は怒りしか感じん。

お主らの母親、いや、そのまた親かな。そやつらのせいだ。

主らに同情をせんでもないが世の中とはすべからずそういうものだ。

ともかく、妾は100年前にやり損ねた事をやり直そうとしているだけじゃ。

後はどうやるか?だけだ。

そこで色々試した。

ロクバードを各都市に出現させてみるとか、リビングデッドに襲わせるとか。」

「テューラの件だけではなく、ゼファーのロクバードもあなたの仕業だというの?」

「ロクバードは余り上手くいかなかった。

あの空飛ぶ魔導機には面食らった。あのようなものがあるとは思いもしなかった。

しかし、リビングデッドは秀逸であったろう。」

クックッと笑うジェシカ。

「あれをハルトランサの全てで行えば2、3日で全て終わるの。」

ジェシカを見ながらカトリは素早く考えをまとめる。

懐に飛び込まれてしまったこの状況はかなり深刻だった。

何せ直接的な攻撃は時空結界で完全に無効化されている。

時空魔法に対抗できるのは時空魔法のみと言われる由縁だ。

そして今、ジェシカに対抗できる時空魔法使いはいない。

となると、頼れそうなのは呪詛のローラ・ベルガーナか言霊のペリーヌ・ベルドローラの二人。

二人の方をチラリと見る。二人とも目で答えてくれたので分かってくれているとカトリは確信する。

ならば、自分は切っ掛けを作ればよい。

カトリは考える。

ジェシカが評議会のメンバーに危害を加えるつもりなのは明らかだ。その気になれば(まばた)き一つする間でここにいる全員を倒せるかもしれない。

だが、未だにそれを実行に移さないのは何故か?

何か拘ることがあるからだろうと、カトリは推理する。

そこがこの状況をひっくり返す取っ掛かりになるはず。

「やれるのならやればよいでしょう。

でも、その前に何かをしたかったのでは?」

カトリの質問にジェシカは首を傾げる。

「そうそう、忘れておった。主らを殺すのだった。」

まるで散歩の途中で何気なく立ち寄った、というような軽さでジェシカは言う。

狂っている。

とカトリは思う。

何か常人では計り知れない論理でこの魔女は動いている。

もしも、自分達を殺すのが目的ならわざわざ長々と話をせずに乱入して有無を言わさず奇襲をかければすむ話だ。

いや、最終目的がハルトランサの壊滅なら、さっさと全都市にリビングデッドをけしかければよい。

何故しないのだろうとカトリは思う。

「話は終わりじゃ。死んでもらおうかの。」

ジェシカがゆっくりと右手を上げ、他のメンバーが身構えるなかカトリが叫ぶ。

「続きなのでしょう。」

「続き?」

不思議そうな顔でジェシカはカトリを見る。

「100年前の続きなんでしょう。

100年前、あなたは評議会と敵対した。

その続きがしたいのでしょう。」

カトリは昔話、狂乱のジェシカの昔話、を思い出していた。

その昔、ジェシカは評議会の命令を不服として持ち場を離れ、首都アーデレへ向かう。命令を撤回させるためだ。だが、それを敵対行動と見なした当時の評議会は力でジェシカを阻もうとした。

ジェシカは強かったが、最終的にテューラ砦の地点で評議会はジェシカを封じ込めることに成功した。

であるのなら、と思う。

カトリは、その思い付いたアイデアにかけることにした。

「ならばやり直しましょう、テューラから。」

初めて気付いたとでもいうようにジェシカはカトリをまじまじと見詰める。

「そこから私たちの所までくればいい。

100年前に貴女がしようとしたことの続きをなさい。

アーデレまで来ればいいわ。私たちもここで待つ。

そして、決着を着けましょう。」

ジェシカは黙って考えていた。目の前の女の口車に乗るべきかどうか悩んでいるのは明らかだ。

「まあ、変な小細工をされて足元をすくわれるのが怖いのなら、今すぐ行動すべきかもしれないけれど。

でもジェシカ、貴女は強いんでしょう?」

いきなり首が飛ぶかもしれないこの状況下での挑発は怖かった。だが、怒り、戸惑い、恐怖で相手の心の隙を作る必要があるのだ。

呪詛や言霊がつけいる隙が。

「安っぽい挑発だが乗って見るのも一興かの。」

乗ってきた。

カトリは一転小躍りしたい気持ちになった。

「ペリーヌ!」

ジェシカの呟きを受けカトリはすかさず叫ぶ。

名を呼ばれたペリーヌは詠唱を始める。

『誓約の守り主 ログナアゼリアの名にかけ

ここに集いし ジェシカと評議会メンバー 誓うなり

ジェシカ テューラよりて 歩いて来たれ

我ら 待たん この場所にて

しかして 100年前の決着をつけん 

誓約を謀るものには 死の報いを 』

誓約の言霊。

誓約を違えた者に罰則を与える言霊。

無理矢理の誓約は抵抗(レジスト)されるが、双方の合意があれば相手が高位の魔法使いでも抵抗(レジスト)出来ない。

カトリの誘いに乗った一瞬の隙をペリーヌが突いたのだ。

「誓約の言霊か。手早いのう。

最高評議会も地に堕ちたな。詐欺師紛いの事をしよるとはな。」

少し呆れたと言う表情でジェシカはカトリとペリーヌをみる。

「少し主らを侮っておった。

今日のところは退散するとしょう。

まあ、どちらにしても結果は変わらん。

時間が少し延びただけじゃ。

すぐ、会いに来てやるゆえ、楽しみに待っておれ。」

言うが早いかジェシカの姿は掻き消えた。

ジェシカが消えたのを見てカトリは深いため息をつく。

「一旦休憩にしましょう。

マリア、ラナの手当てをお願いします。

まだ、腕くっつくわよね。」

椅子に身体を預けながら、カトリは次にやるべきことを考え始めていた。




2017/5/07 初稿


次話投稿は4月14日 12:00を予定しています。

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