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サーティンズ クロニクル  作者: 風風風虱
13人の怒れる魔女達
10/22

3  ファラとパジャ

「ハクション!」

「ぎゃ!

バンナ、汚い。ツバがとんだ。」

「ああ、すまん。急に鼻がムズムズして・・・」

口を抑えながらバンナは言い訳をする。

「あらあら、どうしました。

風邪ですか?それとも誰かに噂でもされているんでしょうかね。」

パジャが淹れたてのコーヒーを手渡しながら言う。

「ありがとう。

風邪ではないので、大方誰かに噂されているんだろう。」

「あらまあ、どなたに噂されているのでしょうね。」

バンナは、分からんよといいながらコーヒーを啜る。

が、内心噂をする者の心当たりはあった。

バンナ、カナレ、パジャは最高評議会の会議室の直ぐ隣の部屋にいた。ケンダの町の生存者として評議会に喚ばれているのだ。

さっき、秘書官が来て評議会の開始を告げられ、別命あるまで待機してくれと言われていた。

今頃は評議会で自分の名前が出ている頃だろう。

部屋にはバンナ達以外にもう一人いた。

テューラ砦の生存者、ファラ・プロミネンだ。

ファラは、三人とは少し離れた位置で不機嫌そうに窓の外を眺めていた。

「機嫌悪そうね。」

パジャがコーヒーを二つ持って近くの椅子に腰かける。

「そんな事はない・・・、いや、あるかな。

この間から落ち込みっぱなしだね。」

「落ち込んでいる?何で?」

「・・・分かるだろう。」

コーヒーを受け取りながらファラは顔をしかめる。

「仲間を助けられなかった。

・・・違う。助けられなかったんじゃない。

仲間を見捨てたんだ。

あの時、あたしは自分の事しか考えてなかった。」

「テューラでの事を気にしているの?

でも、仕方ないでしょう。誰もあんな攻撃が来るなんて想像出来ないでしょう。

自分一人を助けるだけでも奇跡に近いわ。」

「でも、パジャはみんなを助けている。」

パジャは、困ったような顔をする。

「単に運が良かったし、属性の問題もあるわ。

正直に言うならあの状況で対応が出来るのは土属性ぐらいだと思う。それもあらかじめシェルターが作れる余裕が有ればよ。」

「そうだとしても!」

ファラの声が高くなる。自分でも声が高くなりすぎたのに驚き、一瞬、口をつぐみ目を伏せる。

そして、小声で続ける。

「そうだとしても、あたしはあの瞬間、恐怖した。怖くて自分の身の安全だけを考えた。逃げたんだ。それが許せない。」

「逃げなければあなたも死んでいるわ。」

「守るべき者を守れないなら生き延びても意味がない。」

ファラは吐き捨てるように言う。

「馬鹿なことを言わないで。

私たちは神様じゃない。出来ることと出来ないことがある。

いつでも誰でも守れるわけないじゃない。

守りきれないからといって自棄(やけ)になって命を捨てるなんて、それこそ意味かないわ。私は絶対にそんなの認めない。」

今度はパジャの声が一段高くなる。

普段のパジャから見ると熱くなっている。ファラは驚いた様子でパジャを見た。そして、彼女の母親が魔物との戦いの中で死んでいることに思い当たる。

詳しい事は知らないが自分を犠牲にして大勢の人々を助けたと言う。

その功績で聖女に列せられている。それは、決してムダ死にと呼ぶものではないが、命を捨てない選択肢もあったのかもしれない。

身内としては複雑な感情があるのだろう。

「命を捨てて守るべき者を守る道もあるでしょうが、命を長らえればより多くの命を救うことができるかもしれない。その可能性についても思いを巡らすべきでしょう。」

言葉はそこで終わったが、だから軽々しく命を捨てるとか言うな

と言いたいのだろう。

パジャの言葉は静かだったが有無を言わせない力があった。

「ああ、なんか、ごめん。軽率なこと言った。」

ファラは素直に謝る。

そして、立ち上がると大きく伸びをして、叫んだ。

「あーー。もう、ぐちゃぐちゃ考えるのはやめた。

その代わり今回の黒幕を見つけて、きっちり落とし前をつけさせてやる。」


評議会会議室。

テーブルのほぼ中央の空間がグニャリと歪み、唐突に女の顔が現れる。

白磁のような滑らかな白い肌。艶やかな亜麻色の髪を後ろで束ねている。彫刻のような美しさであるが、首より下がなかった。

異様な光景にその場にいた12人全員が言葉を失う。

生首が口を開く。

「お初にお目にかかる、小娘達。」

軽い侮蔑を込めた声が響く。死んでいるわけではないようだ。

「何者です。」

カトリが叫ぶ。

幻影か何かなのか、なんにしても幾重にも防御障壁が張られているこの会議室に直接術を展開できるとなると並の魔法力ではない。少なく見積もって、大魔法使いクラス。

カトリは認知されている大魔法使いクラスの人物をすべて覚えていたが、空中に浮かぶ女の顔はそのどれとも一致しなかった。ただ、何処かで見た記憶も微かにあった。どこであったのかが思い出せない。

「さてさて、何者だと思うかえ?」

生首は愉快そうにクックッと笑う。

「何者でもかまわないわ!」

ジョディは一言叫ぶ。

その手の周辺には風が渦巻いている。間髪を入れず風を女の首に投げつける。有無を言わせない先制攻撃。

「!」

しかし、風は女をすり抜ける。何のダメージも与えていない。

「これならどうかしら。」

初撃失敗を見て、間髪を入れず今度はフローネ・ハンプシャーが氷の槍で突きかかる。だが、槍の先端は女に当たる直前に消失する。

槍を引き戻すすと槍の先端に異常は見られない。

フローネはもう一度生首に槍を突き出す。しかし、やはり、当たる直前に先端が消失する。

「時空結界。」

カトリが呻くように呟く。

女の周囲はなにもないように見えるが空間自体がねじ曲げられているのだ。どんな攻撃も女には当たらない。

「まあ、正解じゃ。」

生首の下の空間が波紋のように揺れると首から下が姿を現す。

幻影投影ではなく、転移魔法。

ならば、女は時空魔導師なのだろう。

その瞬間、カトリの記憶が一人の名前に繋がる。

かつてハルトランサを壊滅の危機に追い込もうとした一人の大魔女の名前に。

その名はジェシカ。

狂乱のジェシカ。

しかし、彼女は100年も前に倒されているはずだ。

「我が名はジェシカ・ラチューン。

時空使いじゃ。」

カトリが思い悩むその名前があっさりと女の口から発せられる。

「そんなの・・・あり得ない。」

カトリは絶句した。







2017/04/30 初稿


次話投稿は5月7日お昼頃を予定しています。

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