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14:妹のカレシ・妹 美咲

 「『フラン・アマドール』、『張麗華チャン・リーファ』……一気に二人も友達登録とか、最高じゃん!」


 「友達」欄に登録してある二人のページを、居留守は右にスクロール、左にスクロールしてはニヤニヤ眺めていた。昼休みの終わりに、たまたま思いついて、二人に友達登録をしてもらったのだ。


 (中学校のころは、一人も登録できなかったからなぁ。あーよかった。よーし、今夜はメッセージ爆撃しまくろっかな~……ん? あれは……)


 部活棟の入り口についたところで、居留守は見知った横顔を見つけた。妹のるぅだ。校門までの道を、キンキラな髪が移動していく。あの特徴的な金髪ツインテは、見間違えようがない。


 「お~い、るぅちゃーん!? 今帰りー!?」


 すると、るぅの肩が驚いたように跳ねる。


 「げ。バカ兄貴、なんでこんなとこに……!」


 振り向いたるぅの表情は、やたらに蒼白だった。


 (ん? いつもなら、にくまれ口を叩くはずなんだけどな……あ)


 妹の様子がおかしい理由は、すぐに知れた。校舎の中から、もう一人の人影がひょいと顔を出す。中学の制服を着た男子生徒がいた。妹と同じく、頭がキンキラだった。


 (あ、なるほど。これが彼氏くんか……たしか、なんとか蓮くんだっけ)


 声をかけないほうがよかったかな、と思わず一歩ひく居留守。が、もう会話を打ち切れる間合いでもなかった。


 「ん? 誰あれ、知り合い?」

 「い、いやっ、えーっと……い、いちおー、兄貴ってゆーか……」

 「へー、兄貴かー。どもっす」

 「あ、どぅも……」


 ぽりぽり頭を掻きながら、彼氏に会釈する居留守。いっぽう彼氏の後ろで、るぅは「しっ! しっ!」という犬を追っ払うような仕草を、さかんにしていた。


 (こりゃー、ちょっと挨拶だけしてすぐ退散したほうがいいかな……あぁ、そうだ。それがいい)


 「い、いやぁ、二人とも仲が良くていいねー。……あ、そうだるぅちゃん。朝話してた携帯とか探してみた? 見つかっ――んぐうぅっ!?」

 「もうっ、ちょっとうるさいっ! いちいちそんなの話さなくていいからっ! あんたに関係ないでしょ! さっさと行けよっ!」


 るぅは必死の形相になり、居留守の口と鼻をふさいだ。


 (そんなに僕を見られるのが恥ずかしいのか……? 息できないよこれじゃ……!)


 るぅは彼氏を引っぱり、逃げるようにいなくなってしまった。


 「はぁー、死ぬかと思った……」

 「ねぇねぇ、今のって誰?」


 部活棟の入り口付近に、やたらに明るい声の女子生徒が一人現れる。居留守の肩をつついていた。


 「わっ、びっくりした! 天使に声かけられて、天国に連れてかれるのかと思った!」

 「なっ……そこまでナチュラルに褒められると、少し反応に困るよー!」


 照れたように自分の指同士を擦り合わせているのは、オカルト研究部員の天橋美咲その人だった。


 「今の、金髪の女子のほうは僕の妹なんです」

 「そうなんだー。名前なんていうの?」

 「るぅって名前なんですけど。ひらがなで。別に、何か深遠な意味が込められてるわけでも、なんでもないんです。もう、語感だけで名づけられたそうです」

 「へ、へー……なかなか、面白い名前ね」

 「いえ、慰めはけっこうです……」 

 「まぁ、ぶっちゃけありえない名前よね」

 「この会話にものすごいデジャブを感じますっ!」


 (それもこれも、変な名前をつける両親が悪いんだ! 僕たち兄妹は被害者だよ……)


 「な、名前は面白いけど、見た目は普通にカワイイ子だったね。で、隣にいた男の子はカレシ?」

 「そう、そうなんですよ。よく分かりましたね」

 「聞こえてたからね、声が。あと、携帯がなんとかって言ってた?」


 居留守は、妹の携帯のことを話した。すると、美咲は思案げに自分の口をさすった。


 「へぇ……二回も失くしちゃったんだ。それは大変だね。携帯だって、安いものじゃないでしょ。もしよかったら、私に相談してくれてもいいよ? 探し物を探すのとか、ある程度できるからね」

 「えっ……どういうことですか? 占いとかで、落し物を発見するとか?」

 「うーん、占いってのとは違うんだけど……まぁ、ともかく得意なのよ。もし、妹さんを連れてきてくれたら、ちょっとは手助けできると思うの。もし、ずっと見つからないようであれば、考えてみて」

 「どっ、どうも……ありがとうございます!」

 「ううん。同じオカルト研究部員の頼みなら、どうってことないよ!」 

 「えっ……?」


 居留守は固まった。美咲は、ニコニコ顔を保って、微動だにしない。あまりに完璧な笑みなので、かえって怖く感じられるほどだった。


 「え? だって、ここに来てるってことは、ウチに入ってくれることなんでしょ? ね、居留守くん」


 (や、やっぱり、いつのまにか名前呼びが定着してる……!)


 「いるすくぅん♪」という言い方が、すこし甘えるように聞こえ、居留守は鼓動が跳ね上がるのを感じた。


 あれよあれよと言う間に、居留守は部室に引っ張り込まれる。


 入部届けは、持ってきたのを見抜かれてしまい、美咲に取られている。楽しそうに、軽やかに何かを準備している美咲。


 (うぅっ、とりあえず美咲さんの様子を見ようと思ってたんだけどな……なし崩し的に、連れ込まれてしまった)


 昼休み、フランから聞かされた話――美咲が、何かのたくらみをもっているのではないか? という話を、忘れたわけではない。もちろん、居留守は信じたいわけではなかった。むしろ、あんな話は杞憂であって欲しいとすら思っている。そしたら、どんな薔薇色の高校生活になることか。


 (でも言われて見れば、美咲さんってちょっと……やっぱり変な気もするし。まぁ、ただ性格が明るすぎるだけかもしれないけど……これから何をさせられるのかは、ちょっと注意しておこうかな……?)


 万が一、カルト宗教の集会にでも連れて行かれるようであれば、逃げよう――普段は考えなしの居留守も、さすがに覚悟をかためた。


 美咲は窓を閉め、カーテンをひく。そして、ドアの内鍵をも閉めた。


 やたらに、厳重な戸締りだった。


 「念のため、鍵も閉めておいたわね」

 「……え?」

 「それから、電気消すね……?」


 パチン……と電灯が消える。ドアやカーテンの隙間から指すわずかな光のほか、部室は暗やみの密室になった。


 中にいるのは、男女二人のみ。しかし、居留守はその唯一の同室者さえ、あんまり見えなくなった。


 「えっ、えええぇぇぇっ!? な、何をしてるんですか!?」

 「何って、じゅんび。人が来たりして、中断しなきゃいけなくなったら……いやでしょ?」


 暗闇の中で、妙に耳の感覚が鋭くなる。美咲が移動する、カツンという靴の音と、スカートがなびくかすかな音が、はっきり聞こえた。

 そして美咲は、居留守のすぐ隣の椅子に腰かける。体の存在している、その圧力が、触れてもいないのに感じられた。居留守は、たちまち体を緊張させる。


 (こっ……このシチュエーションはまさか……! ぼ、僕は……今日、オトナの階段を上ってしまうのでは!?)


 美咲の手のひらが、とてもやさしく居留守の肩に置かれた。


 「さて、はじめましょうか」

 「は、はいぃっ!」

 「――瞑想をね。超能力を開発するには、一に瞑想、二に瞑想よ。最初は雑念が中々消えないと思うけど……頑張りましょう!」


 ピッ! という、タイマーの音がする。そしてオカルト研究部の部室からは、光だけではなく音も失われた。


 (そ、そうだよね! そういうオチだよね! 知ってた。知ってましたよ……!)


 「――あれあれ、何かからだ固くなってない? リラックスしないとダメよ?」

 「わぁぁぁっ!?」

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