第二章恋愛神に出会って恋から遠ざかる俺 2
「お兄ちゃん朝だよ~、おはよう!」
朝、琴莉が盛大に俺の部屋の扉を開けた。そこで俺は
「うぐーーーひっくひっく、俺のなにが悪いんだよ~、ひっく」
盛大に泣きじゃくっていた。ちっくしょう。
「どうしたのお兄ちゃん!?朝から目の下も雰囲気も真っ黒にしてなんで号泣しているの!?」
「・・・・・・・っ!」
「くふっ、兄の威厳が台無しのようだの~」
「琴利、なにも言うなよ!こいつにもなにも聞くなよ!」
「お兄ちゃん、とうとう性欲不満でおかしくなっちゃったの?」
「なぜそこで性欲不満が連想されるんだよ!?せめて欲求不満と言ってくれ。とにかくこいつだけには話しかけるなよ」
「だからお兄ちゃんそんなに性欲溜まっているならいつも私で・・・ふぐ」
「それ以上しゃべるな!それをこいつの前で聞かれたら・・・」
「変態紳士だけでなく鬼畜兄貴でもあるんじゃな」
「うがぁ~もうやめてくれ!そして琴利も俺の手を舐めるな!」
「だってお兄ちゃんが喋らしてくれないからだよ。それよりさっきからなに言っているの?」
「なにってなんだよ?だからなにも聞くなって「誰に話しているの?」・・・・はい?」
「こいつって誰?部屋にはお兄ちゃんと私の二人きりでしょ?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へっ?
琴莉は言っていることが確かなら最悪の状況なんですけど?朝兄を起こしに行ったらその兄貴は号泣しながらなにもいないところに話しかけている・・・・・・精神科病院?
「やっと気づいたようじゃの、私はおぬしにしか見えておらんぞ?」
先に言いやがれ~って言いたい!けど今言ったら終わる、病院だ!もう遅い気がしているけど、とにかく琴莉を誤魔化さないと。色々めんどうなことになる気がする。
「ふ、ふわぁ~。あれ?なんで琴利が部屋にいるんだ?」
「えっ?急にどうしたのお兄ちゃん?」
「はい?いやだからなんで琴利が俺の部屋にいるんだよ?」
くそ、無理やりすぎたか?
「私がお兄ちゃんの部屋にいちゃダメなの!?」
あっ、注目するところはそこなんだ。なんか違う意味でややこしい方向に話が進みそうだけど、このままうやむやにしてしまおう。
「いやいや、そうゆう意味じゃないんだよ。目が覚めたらいきなり琴利が居たからなんで居るのかなと思っただけだ」
「起こしにきたに決まっているでしょ~、いつも起こしてあげているのに~」
「いや、そんな記憶はないぞ?いつも俺が起こしているだろ」
「ぶー、お兄ちゃんが起きるの早すぎるんだよ!とにかくご飯だから早くきてよ~」
・・・・・・・・・・よし、行ったな。どうにかうやむやにできた。琴莉がバカでよかった。俺の言うことは絶対信じるからな、ちょっと心配なぐらいだ。
「よかったの~、誤魔化せて。あのままじゃ確実に病院送りじゃったのに、もったいないの~」
「病院送りになってたまるか。一晩中いじりたおしやがって、気分も目の下も真っ黒だろうが!」
「ついでに人生もの」
「余計なものを付け足すな!」
こいつが俺にしか見えないなんて良いのか悪いのか。何時でも何処でもいじられるのはうっとうしいけど、他の奴に説明しなくていいのはよかったかもしれない。進夢にリティを説明するとなると殺されかねないからな。
絶対に進夢には「僕に二次元をよこせ!」とか言われそうだし。
「とにかく今から飯食べるけど食べている間はおとなしくしとけよ?」
「私がおぬしの言うことを守る必要はないじゃろ?」
「もう守ってください、頼みます、お願いします」
「私にもなにか食べさしてくれたらいいじゃろう!」
「お前食べ物食べれんのかよ!」
もういった何者なんだよこいつ!設定むちゃくちゃにするなよな!
「幽霊が食事しようとするなよ~」
「だから神じゃと言うておろう。神にはお供えするじゃろ?それを食べているんじゃからご飯を食べてもおかしくないじゃろ」
「えっ?あのお供えって食べていたのか?」
「あんな不衛生な物は食べたりせんぞ?」
「食べたって言ったろうが。まったく、じゃあなにか食い物やるから話すなよ?」
「契約成立じゃ、それじゃ引っ込んどるの」
「引っ込めるのか?というか何処に?」
「おぬしの体に取り憑いているわけじゃから何処なんて決まっているじゃろ」
「え~、俺の中かよ。乗り移って勝手なことしたりするなよ?」
「大丈夫じゃ、安心せい。普通の生活を邪魔する気はないからの」
恋愛は邪魔するってことだよな。はぁ、なんでこうなったんだ?ついてないにもほどがあるだろ。ある意味憑いているけど・・・・・・・寒い。
「食べ物の件、忘れるでないぞ。で、でわ」 ムギューーーー
「あのリティさん?何をしていらっしゃるんですか?」
そんなに抱きつかれたら背中に当っているなんともいえないマシュマロに意識がいってしまうじゃないですか。また鼻血吹かさせるつもりですか?つーか俺って女子に対して免疫なさすぎだろ。
「私だって好きでやっておらん!・・こうしないとは入れないだけだし・・」
「なんだって?はっきり言ってくれ」
「黙って前を向いておれ!すぐ入る!」
いやいや、こっちの鼻の事情も考えて欲しいんですけど?
「・・・ぅむん・・・」 ポフン
おお!なんか自分の中が暖かくなっていく感じだ。別に悪い気分はしないな。
これでやっとうるさいのが消えてくれた、安心安心。
『誰がうるさいやつじゃ』
「はい!?なんで俺の心が読めたんだ?しかもなんで声が聞こえるんだ?」
『消えたわけじゃないんじゃから、おぬしの中に入っただけじゃ』
「だから俺の心が読めると?」
『読めちゃったみたいじゃの、ラッキーじゃ』
うわぁ、こっちの方がだるいじゃん。最悪だ、もうどうしようもないじゃん。
『まぁ、そう落ち込むでない。気にしなかったらよいじゃろ』
「絶対に気になるからな。しかもお前絶対にしゃべるだろ?」
『ご飯を食べているときは約束どおり静かにしておくから安心せい』
まったく本当かどうか、これも筒抜け出しな。とにかく腹の減りがやばいし気にせずに頑張ってみるか。
『その調子じゃ、気にするな』
・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ。
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「お兄ちゃん遅い~、ご飯冷めちゃったよ」
「悪かった、色々やることがあってな。今日の朝飯ってもう昼か、昼飯ははなんだ?」
「愛情たっぷりのカップラーメンだよっ♪」
「ついにカップラーメンにまで愛情を入れ始めたのか」
手抜きのどこが愛情なんだよ。
「そんな言い方しないでよ~。だって買出し行ってないから作れないんだもん」
そういえばもうなかったな。今日金入れてくれているはずだから引き出しとくか。
「わかった、後で食費引き出してくるから晩飯は作ってくれよ」
「もちろんだよ!愛情たくさん入れるね♪」
「おう!もちろん家族愛だよな!?」
授業参観までに少しでも琴莉との関係をできるだけ兄妹にしておかないとな。鬼畜兄貴として授業参観行く度胸は俺には備わってないからな。
『変態じゃったのか?』
勝手に人の心を見るなよ。しかも俺は変態じゃないし、どちらかといえば妹の方が変態なような気がする。まったく親父に似てしわまないように気をつけとかないとな。あのクソ野朗は生粋の変態以外の何者でもない。どれだけ自分の娘を愛してやまないんだよ。
『さっさと食べて私のご飯を買いに行くのじゃ』
つーか食べている間に話さないって言っていたくせに守りやがれよな。
『まだ食べておらんじゃろ?』
屁理屈かよ、神様の癖にせこい奴だ。さっさと食って俺の中から出て行ってもらおう。
『そうじゃ、さっさと食べて私にお供えをするのじゃ』
無心だ、無心。なにも考えずにこの「(愛情たっぷりの)キムチラーメン!過激なスパイスに注意」ってなんか書き加えられているカップ麺を食べよう。
ずるずる~ ずるずる~ ずずずーー
「なんか今日のお兄ちゃんは素直だね。いつもなら私がお兄ちゃんにご飯を食べさそうとしたら抵抗するのに」
無心だ、無心。今はなにも考えまい、機械的に動くんだ。食べるのを止めたらこっちの負けだ。
「なんだかラブラブのカップルみたいだね」
『いや、妹さんにご飯食べさしてもらっている時点でアウトだと思うんじゃが?』
「食事中だろ?喋るなよ!」
「えっ?お兄ちゃんはいつもベラベラ喋っているでしょ?」
しまったつい口に出してしまった。
「いや気にするな、ちょっと考え事していたからな。飯は自分で食うから、琴莉も自分の食べろよ」
俺に無心とか無理だ。さっさと食べて出て行ってもらわないと精神的に崩壊しそうだ。
『しかもずっと入っていると私も同化してしまうからの』
「それを先に言え~!」
妹に奇異な目で見られながら俺は食事をするのだった。
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「まったくそんな大事なことは先に言ってくれよ。つーか、もう入るなよ」
「別にそれでもいいがおぬしの周りにずっと居ることになるがそれでもいいのじゃな?」
「別にそれぐらいなんとも思わないけど?」
「常に邪魔し続けるってことじゃぞ?」
こいつに邪魔しないって選択肢はないのかよ。でも同化されるよりましだし、心読まれるのは嫌だしな。しかも同化ってどうなるんだ?
「同化ってどうなるんだ?乗っ取られるとか?」
「おぬしの意識を保ったまま変態行為を行って人生を崩壊するつもりじゃ」
「お前はどれだけ極悪非道なんだよ、生き殺しもいいところだ!しかも、つもりってことは違う可能性もあるじゃん!」
結局どうなるのか分からないし、とにかく人生を破壊されるぐらいなら邪魔されるほうがいいか。あれ?結局一緒じゃないか?
「もう好きにしろよ、どっちも一緒だしな」
「それじゃ、乗っ取らさしてもらうかの」
「ごめんなさい、見逃してください」
「まったく、最初から素直にしておれ」
ちくしょう、口で勝てる気がしない。でもどれだけ邪魔されてもあきらめないぞ。
「おぬしのことはどうでもよい。さっさと私にお供えをせよ!」
「本当にリティは自分勝手な性格しているよな」
「神は元々自分勝手なものじゃぞ?」
「はいはい、そうですね。それで何を食べたいんだ?」
「う~ん、これと言って食べたいものはないんじゃが・・・おススメはないかの?」
「そんなことを言われてもな~、お菓子でいいか?」
「私を子ども扱いするでない!せめて果物じゃろう」
「果物とか言われてもな~、冷蔵庫にはカットフルーツぐらいしかないぞ?しかもスイカだし」
「スイカとな?夏によくお供えにある緑と黒のシマシマのやつかの?」
「それそれ、今は季節はずれだけどな。俺好きでよく買うんだよ」
「それを食べてみたい!すぐに持ってくるんじゃ」
「食べたことないのか?お供えでよくあるだろ?」
「そんなに置いてないの。しかも不衛生だから食べんと言ったじゃろう」
神の癖にそんなの本当に気にするのかよ。いやだな~、あれは俺が今日の風呂上りに食べようと思っていたのに。
「なんじゃ嫌そうな顔しおって」
「いや実際に嫌なんだけど、他のじゃダメなのか?」
「約束守ったじゃろ、反論は認める気はないの」
いやいや全然守ってなかっただろ、思いっきり喋ってたし。あげる気失せてきたな、もうほっとこうかな?
「もし反論したら問答無用で乗っ取るからの」
「仕方ないすぐさま用意してやるよ」
「ふむ、殊勝な態度じゃな」
ここは穏便にすませよう。びびったわけじゃな、脅されてなどいないぞ。純粋に食べさしてあげようと思っただけだ。やさしさ、やさしさ。
「ほらよ、季節はずれだからそこまで美味しくないのは我慢しろよ」
「それぐらいは仕方ありせん。それでは頂くとするかの」
「どうぞ召し上がれ。溢さないように食べろよ、って食うの早っ!」
どうぞって言い始めたくらいにはもうなかったぞ。味わって食えよな、せっかくの俺のデザートなのに。一口もらうつもりだったのに抜かったな~。
「なんじゃ・・・・これ・・美味すぎじゃろ。本当にあの緑黒シマシマの食べ物なんじゃろな?」
「なんで嘘つく必要があるんだよ。中身は赤いんだよ」
「ふむ、まことに美味じゃ。甘いくせにさっぱりしており喉の渇きも潤しよって。なんて贅沢な食べ物なんじゃ、これなら食べておけばよかったの」
「よっぽど気に入ったのか、この美味しさが分かるのはうれしいぞ。それじゃ種は捨て・・・・・あれ?リティ、種はどうしたんだ?」
「種ってなんじゃ?」
「黒い粒がいっぱいあっただろ?あれはどうしたんだ?」
「そんなの食べたに決まっておろう」
「バカ、あれは食べるもんじゃないんだよ!おいしくなかっただろ!?」
「味はわからんが邪魔ではあったの。なんじゃ、食べてはダメじゃったのか?」
「害があるかどうかは知らないけど、あれは食べるもんじゃないんだよ。あれをチマチマ出して食べるからよりいっそう美味しく感じるんだぞ」
「・・・・・・やはりMじゃったか」
「違う!それは違うぞ!」
「そんなめんどうなことを楽しめるのはMぐらいじゃろ」
「楽しんでなんかいない、ただその方が美味しいって言っただけだ」
「ふむ、それでは次からは捨てるとしよう」
まったく隙あらば俺をからかおうとしやがって、常にこいつが付きまとうと思うとうんざりするな。
「今から買い物行くんだけどついて来るんだよな?」
「行きたくなくてもついていってしまうからの~」
いちいち言うなよな、完全な嫌がらせだろ。
「まぁ、ついて行きたいから別にいいがの」
「なんでついていきたいんだよ?言っとくけどなんにも買ってやらないぞ?」
「なにを言っておる、単純について行きたいだけじゃ」
・・・・・・理解できん、何を考えているんだ?
「そ、そうか。妹も一緒に買い物行くからなるべく黙っていろよ?」
「なるべく努力するとしようかの。ほれさっさと行かんか」
「お兄ちゃん~、そろそろ買い物行こ~」
「呼ばれておるぞ?急がんでよいのかや?」
「わかったから、先に靴は履いとけ~」
なにか仕組まれているようにしか思えない。どうせ買い物には行かないとダメだしな。とにかく警戒しておくぐらいでいいか。
「買い物中はなるべく黙っていろよ」
「しつこいの~、努力すると言っておろう」
「お兄ちゃんまだ?妄想に浸ってないで早く来てよ」
「先に靴履いとけって言っただろ。しかも琴莉、お前は兄をどんな人間だと思っているんだ?」
「そんなの「鬼畜兄貴」意外にないに決まっているでしょ!」
かぶせてきやがった~!なんて言ったか聞こえなかったじゃないか。とりあえず肯定しておくか?
「そうかそうか、琴莉はそんな風に思っていたのか」
「あれ?いつものお兄ちゃんならツッコミするところでしょ?」
えっ?
「本当に鬼畜兄貴だったの?」
「断じて違う!しかもお前もか!?」
「・・・・?もちろん冗談だよ、お兄ちゃんが遅いから悪いんだよ」
「わかったわかった、行く行く」
「ふむ、それじゃ」
そう言ってリティは俺に後ろから抱き着いてきた。あれですか?また体に取り憑く気ですか?
『入るわけがなかろう。ただこうした方が会話しやすいじゃろ?』
いや、絶対に俺の心読みたいだけだろ。
『よく分かったの~、えらいえらい』
うぜ~、でもこのままだと乗り移るんじゃないか?
『その心配はいらぬ、あれはギュッとしないと入らんからの。残念じゃろ?』
無心になるんだ、俺の心の中を気づかれないようにするんだ!心頭滅却!
『くくく、いくら頑張っても動揺しているのがだだ漏れじゃな』
「うだ~、よしさっさと買い物行くか」
「なんで行く前から疲れているの?お兄ちゃん、私との愛について悩んでいるの?」
「ああ、常に悩みの種が俺の周りにあるのに悩んでいるよ」
『どっちのことを言っておるんじゃ?』
リティは琴莉と自分を指差しながら言ってきた。うん、どっちもだな。
書いてた分です