9.小さな爆弾
盛大に八つ当たりをしてレビン達と少し話した後、やや落ち着きを取り戻した私は、まだ竜人の里にいる。
あまり、沢山の人と会いたくなくて、私の部屋に来るのは女神改め、リューさんだ。
竜人族の王の奥さん。王妃様。それを聞いたとき、レビンを怒鳴る姿と、土下座、躊躇いなく夫を消すと言った姿が思い出され……渇いた笑いしか出なかった。アグレッシブだけど腰の低いお方だわ。
人族全滅を唱えていたのは、子を拐われ失った竜人や、王も我が子を拐われた怒りが収まらず、今回ぷらっと外に出た私を利用しようとしたのだと。
全ての獣人を巻き込み人への攻撃が、行われないと知って力が抜けた。
そして、悲観的になり、ヒステりー起こして、悲劇のヒロインよろしく、一人鬱々していた自分を思いだし……盛大に悶える。恥ずかしくて。
私は、元来明るい性格なのよ(自称)!
レビンのぎゅうで一発で回復したのにも、赤面ものだ。単純だわ、私。
肝心のレビンは、ちょっくら証明に行ってくらぁ!と、出掛けた。証明ってまさか6000人連れてこないよね?
コンコン。
「はい?」
「アーシュ、宜しいですか?」
リューさんが顔を出す。因みに、名前はアーシュでいいと言ってある。
「はい、どうぞ」
「この子が、どうしても謝りたいと……」
見ると、あの灰色の子。確か名はリュク。
謝るのは子供に八つ当たりしたこっちなのに。
「あの」
「ごめんなさい!僕が!僕が!アーシュ様の匂いが外に出たのが分かって、それを言ったばかりに!」
「うん?」
「僕も昔助けて頂いたんです。記憶は朧気で、ほとんど覚えてないけど貴女の匂いだけずっと覚えて……会いたくて、母様が連れて来ちゃおうってなって、僕も会いたくて……貴女の居場所を知ることが出来たのは、僕のせいなんです!
それに、父様達にお礼を言いたいからって、母様が父様から隠してたの知らなくて教えたのも……僕なんです」
「アーシュ、責任はこの子だけではない。ほとんどは、周囲の者にあります。貴女に危害を加えた王と家臣は失脚。私も離縁し座を退き、新王の臣に下ります」
話のスケールが大きくなっている……。
「いえ、何もそこまで……」
「馬鹿(夫)のしたことは許されない。我が子の恩人である、貴女を利用などと……今からでもお許しさえ頂ければ消します」
「それは駄目です」
「それに、いくら会いたいと言っても最初に拐った私も同罪です。多分、レビンは分かっていたから、貴女を隠していたんでしょう。そして強行に出るほど、準備が整っているから、呑気に送り出したのかと」
そう、最初私は、母親と子供だけに会い歓迎を受けた後、迎えにレビンが来てさようならの計画だったらしい。私を使う気満々の王達には知らせず。それが漏れて、今回の事に。
「もう、他の竜人は知っています。貴女に謝罪の意をと」
ひんひん泣いてる子が、ガバァと顔を上げ、
「僕、貴女に連いて行きたい!きっとお役に立ちますから!」
「は?君、その竜人の王子じゃ?」
「父も母も任を降りたので、新王は叔父上がなります。だから、どうか、僕を!」
「……駄目ですよ」
「何故っ?!」
「君はこの竜人族を将来支えるために、今まで最高の環境と教育を与えられてきた。それらにかかった全てを返すためにも、この竜人の国に尽力しなさい。
王子じゃなくなったからしたい事をするでは、反省がみえませんよ。最初、お母様が拐うと知って、それに協力したのは事実でしょう?」
山か森で独居を目指す私には付いて来られると困る。そして、正直竜人のなんやかんやに巻き込まれるのも勘弁、というのが本音。
自分の事は棚に上げて言ってみる。
「そんな……」
「でも、あの時レビンと一緒に助けに来てくれてありがとう」
もう、王子じゃなければいいかな?と考え、ふわりと抱き締め、背をぽんぽんと叩く。レビン直伝安心の儀である。
「凄く助かりました。本当にありがとう」
「っ!う、うぅ~ごめんなさい~」
ひとしきり泣いた後、何故か勢い良く吸い込まれた。そして、出て行こうとドアへ向かい、
「アーシュ様、国に尽力した後また会いに行っても良いですか?」
「居場所が分かるなら」
「ありがとうございます!僕、諦めませんから!」
良い笑顔で出ていった。
そんなに旅したいのか?ま、大陸中ウロウロしてるから、そうは見つからないだろう。
ふと、リューさんを見ると微妙な顔をしていた。
「ありがとうございます。アーシュ様」
「やはり、止めて欲しくて連れてきたんですね」
「あの子の執念が凄まじく、誰も止められなかったので……しかし、良いんですか?あの子は、ここから人間の国に居た貴女の匂いを分かるのですよ?
しかも、どれ程の距離が離れているのかも」
「へ?えっ?」
『アーシュ様の匂いが外に出たのが分かって ――』
私、そんなに臭いの!?そして何?その変態!
「あの子は匂いを手繰り寄せる事が出来ます。何でも、唯一覚えた貴女の匂いを忘れないためと、ずっと研究していました」
「物凄い執念……」
「ええ。因みに、アレ成人してます」
「……え゛」
「抱き締めて慰めているから、おかしいな?とは思ったんですが。貴女にはレビンがいますから。
やはり、精神は子供だと思っていたのですね。いやぁ、流石リュク、策士!」
あれそういう意味?!いや、ちょっと!
突っ込みどころ満載の言葉をかけられる。
「大丈夫。初恋は実らないものです。それに何より貴女にはレビンがいますから」
どんだけレビン頼みなのよ!?独居生活したら頼れないんだけど?
「もし、探しに出るときは止めて下さい」
「出来うる限りは」
それ、出来ない時もあるって……事?
未来が変態で少し暗くなったが、気になる事を聞いてみる。
「リューさんは、今回のその、処分。良いのですか?旦那様とか」
「ああ、アーシュが思い悩む事は、全くありません。夫は、元々王の器では無かったのです。確かに我が子は可愛い。拐われたら復讐をと思うのは分からなくもありません。
ですが、ずっとそれに囚われ国を省みず王たる義務を怠ってはいけないのです。王族として生まれたからには、自身すらも駒。
拐われた子は、無事戻ってきたにも関わらず、私怨で兼ねてからの野望を果たそうと動くなど愚の骨頂。何度正そうとしても聞く耳持たず、今回の事が無ければ、私が切っておりました」
「厳しいですね」
「ふふ。親としては最高でも、王としては足らぬ者。貴女への謝罪は切るしかないと思いましたよ」
「リューさん、王を切ったら自害するつもりでしょう?」
「おや、分かりましたか。一度は愛した夫です。夫婦は一蓮托生。そもそも、私の軽はずみな行為からこうなってしまったので……」
「離縁せず、共に生きる道は?」
「夫は妄執から抜け出せません。離縁しなければ、私も臣には下れぬでしょう。私も生きるなら、夫が今まで蔑ろにしてきたものを償いたい。止められなかったのは事実ですし。それにはこれが良いのです」
「そうですか……」
王族とは、なんて重たいものか。
私の国の王族もそうだった……いや、無いわ。
「そういえば、レビンといつ結婚なさるので?式を挙げる際は、祝いを是非届けたいので、知らせてくれるとありがたいのですが」
「は?」
「え?」
「レビンは、お兄様の位置付けで、結婚とかそんなのは無いですよ?」
「え?……何してるんだ、馬鹿が」
「え?」
「いえ、そうでしたか。しかし、アーシュも満更でもなく……てっきり、レビンを好いているのかと」
「はぁぁ?」
「あの脱走した時、レビンと抱き合いいちゃいちゃしていた様子は、まるで仲直りした恋人のような」
「はぁぁ!?違います!」
「いえ、すみません。さて、長居してしまいました。私も退がります」
小さな爆弾落として、リューさんは出ていく。と思ったら、振り返り、
「レビンには、恋人はいませんよ」
「なっ?!」
そして、出て行ってしまった。
親子揃って振り向き様の一言が好きだね?
「感謝しろよ?レビン。種は撒いてやったぞ」
扉の向こうで、そう呟くのは聞こえない。
息子の初恋を全力で潰すお母様。
母に変態ぶりがバレてる息子。
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