表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/30

8.八つ当たり

 何故、記憶を持ってるの?

 何のために?

 神様いる?

 教えてお願い。


 私は、間違いばかりだった。

 もう、とても疲れた。

 奴隷解放なんて無理な話。

 檻から出す事しか考えてなかったけど、それがこんな事に繋がるなんて。


 利用されてはいけない。








 目を開ける。

 ……残念。生きてる。


 身体を起こす。

 ドーム型の部屋にいることで、ここはまだ竜人の所だと分かる。

 頬や頚、その他擦りむいた所が治療されていた。

 ボーッとしながら、窓に近づく。

 とにかく、誰もいない場所へ行かなければ、ここから出ても、風魔法を使えば着地出来るだろう。

 窓枠に手をかけ、顔を覗かせる3階くらいの高さ、これなら降りられる。

 

 クッと、服が引かれるのを感じる。

 そちらを見ると、大きい4本足の白い虎がこちらを心配そうに見ながら服の裾を噛んでいる。

 恐怖は、無い。誰だか分かるから。


「レビン?私は、誰にも会わないどこかで一人でいなければ……止めないで。どこかに行かないとまた、同じような人が出てくるかも。

 レビン?レビンも、私を利用するの?6000もの獣人が私に従うなんて嘘だよね?

 これじゃ、私、一体、何をしてきたのか……。


 なんで、助けに来たの?利用するため?

 私に、人を襲わせるため?戦力を集めてるの?人を全滅させるの?多分勝てないわよ?人はしぶといから、双方共に甚大な被害が出るだけ。

 あなた達に、我慢しろとは言えないけれど、人に手を出すのはやめた方がいい。

 人の意識を変えない限りは何も変わらない」


 聞きたい事がありすぎて、でも何も聞きたくなくて言いたい事も多すぎて、早口で喋る。

 自分が何を話してるのかも分からなくなってくる。


「アーシュ、俺」

「もうやだ。獣人が人を罵る言葉も、人が獣人を罵る言葉も、もう!何も!聞きたくない!何も……耳に入れたくない……

 何が嘘?何が本当?どうすれば良いのか分からない。私なんていなければ、生まれなければ良かった!

 ……助けになんか来なければ良かったのよ!

 私に協力して欲しくて、知らしめるために誘拐させた?だから、あの時誘拐させたの?


 何も信じられない。

 もう、誰にも会いたくない、見たくない、聞きたくない。外に出さないなら、せめて一人にして欲しい。

 出ていって。一人にして……放っておいて。

 ……私は、何をされても協力しない」


 完全に獣の姿なのに揺れるアメジストの瞳で、レビンを傷付けてるのが分かる。だけど止まらない。何も信用出来ない。

 本当は違うかもしれない、でも本当なのかもしれない。何も知りたくない。


 レビンはチラリと振り返りながら、器用にドアを開け出ていく。


 私は哭いた。上がる声も止められず泣き叫んだ。

 感情が抑えられない。手当たり次第物を投げ壊し暴れた。


 みんな嫌い、馬鹿な私が一番憎い。消えてしまいたい。






 ふ、と目が覚める。

 あのまま寝たのか、ベッドの上に横になっていた。物に当たっているときについた傷も、処置されているのが分かり、部屋を見渡す。大暴れして、少し理性を取り戻す。

 レビンに酷い事言った。自己嫌悪でまた暗くなる。

 月明かりが入る部屋は綺麗に片付いており、テーブルに食事が置いてある。

 利用価値があるなら、毒は盛らないよね。

 そんな考えに至る自分が、とても嫌になる。


「生まれて来なければ良かった……」

「駄目です!」

「えっ?」


 一人かと思って呟いた言葉に返答があり、驚いてそちらを向くと、あの灰色の子が薄暗い部屋に立っていた。


「え、と?」

「ご、ごめんなさい!勝手に入って。でも駄目です!僕の父様達が、本当に、ごめんなさい。僕が、貴女の事が分かったから、それを言ったから、だから母様も父様も」


 今の私は駄目だ、この子すら傷付けてしまいそう。


「……私は、大丈夫よ?謝りに来てくれたの?ありがとう。何時か分からないけど、遅いから部屋に戻るといいよ?」


 言葉を選んだつもりだったけど、灰色の子はとても傷付いた顔をした。


「あ、えっと。夜も遅いし、ね?お姉さん、ちょっと元気ないから、その、」

「アース様。貴女にずっと会いたかった。本当に、ごめんなさい」


 取り繕う言葉を探していると、灰色の子はそう言ってドアへ向かう。取っ手に手をかけ、振り返りまた言う。


「貴女に誓いを立てた獣人達は、貴女が悲しむのが嫌なんです。夜中に、部屋に入ってごめんなさい。お休みなさい」

「おや……すみ……」


 誓いを立てた?やっぱり本当にいるの?

 頭がぐるぐるして、押し潰されそうになる。また、涙が勝手に溢れる。


「本当にいるなら、やっぱり人の側にいてはいけない」


 がばっと起き、窓を開ける。

 3階から見降ろす地面は、建物の影になり闇が広がるばかり。

 怖い、けど。窓枠に脚をかけ、えいやっと飛び出す。


 あ、あの子に会った後に飛び出したら、あの子が責められるかな?

 ヒュッと内蔵か浮く感覚があった後に、そう思う。

 

 風を使い、どのくらいの高さか分からないが、ゆっくり落ち、地に足が着く感触を確かめ、風を解除するとバランスを崩し転んだ。


 どうしよう。このまま行ってしまおうか、でもあの子が気になる。戻るにしても、私は上がる程の風は使えない。

 ウロウロしていると、ガサッと茂みから音がする。

 ハッとして、振り返ると誘拐されたときにレビンに怒鳴った女神がいた。

 身を固くする。あちらは、固まっているようだ。今の内だ!身を翻し、走り出す。


「お待ちください!」


 即捕まる……そりゃ竜人と人間じゃそうなるよね。諦めて振り返ると、何故か土下座していた。


「申し訳ありません!」

「?」

「本当に、どう償ったら良いのか分かりませんが、本当に、本当に、申し訳ありませんでした!我が夫のしたことながら、アース様に手を掛けるなど……万死に値します!」

「夫?」

「貴女を連れていったのは、我か夫とその側近達なのです」

「貴女も、子に私を拐わせた」


 意地悪く言ってみると、女神はビクッとなり、更に言う。


「そちらも申し訳ありませんでした。アース様が外に出た事が分かり、子らが会いたいと泣くもので……レビンが、アース様を守り他の獣人には分からないよう隠して独り占めしてたので……拐っちゃおうかなぁなんて」


 軽い!レビンは私を守ってた?他の獣人から?


「我らは、取り返しのつかない事をしました。ですが!レビンだけは、レビンだけは信じてやってもらえないでしょうか?!あやつは、貴女だけを」

「やめろ」 


 後ろから声がかかり、振り返れば、レビンが獣頭でいる。

 

「レビン」

「アーシュ……どこに?一人で行くのか?俺が、獣人が嫌いになったか?」

「ふ、その言い方はずるい。嫌いになれないから、一人で出ていくの」

「誤解なんだ。お願いだ、話を聞いてくれ」

「今聞いても、私は、」

「アーシュ……。」

「全部、私をどうにかして戦わせるよう誘導されているようにしか思えない。

 レビン達だって、私に幻想抱きすぎだよ。あの3人に言われた通り、人に家族に愛されないから獣人を助けたのかも。誰かに愛されたくて。好かれたくてやったのかも。所詮、家族にも憎まれる私は、獣人には、ちょうど良く利用出来るいい道具扱いなのかな?って、つ、次から次へと嫌な考えになって、」

「落ち着け」


 気付けば涙を流し、レビンの腕の中にいた。

 ぎゅうとされ、背中をぽんぽんしてくる。

 温かくて、気を張ってたのが少し抜けてしまう。


「何をすればお前を……こんなに追い詰めて、ごめんな?

 信じて欲しいけど、お前を利用なんて考えてない。お前の元に集まった獣人は、なんつーか、お前がただ大好きなんだよ。お前が心配なんだ。だから、生まれなければなんて、もう言うな。もう言わせたくない。俺、聞きたくない」

「……」

「好かれてやった?良いじゃねえか、それでも俺達は助けられた。まぁ、そう思えないほど鬼気迫るものがあったが。お前はさ、すげぇ数の人に愛されてる。それを証明するから、さ。もちょっと待っててくんね?」


 愛されてる。言葉を聞いて、やっとレビンが助けに来てくれた時に叫んでた言葉が蘇る。


「証明?」

「ああ」

「レビンは、私を利用しない?」

「しない」

「6000人はほんと?」

「ホント。もちょっと多いかな?」

「人と戦う?」

「戦わない。お前が望まなければ」


 ある意味怖い返答。


「望まんだろ?」

「うん」

「なら、しない」

「助けに来てくれてありがとう」

「遅くなってすまん」


 短く返ってくる言葉に、心が染み入る。

 凄く信じたい。


「酷い事言ってごめん」

「全くだ」

「そこは、気にすんなではないでしょうか?」

「俺、心臓止まりそうだったもん」

「ごめん」

「いや、俺こそごめん。

 だから、竜人共から隠してたのに……拐われた時は、子供だけだと思ったのに……なぁ?」


 一瞬でゾッとする気配になり、怒っているのが分かる。軽く忘れてた女神が口を開く。

 

「本当に申し訳ありませんでした。アース様。

 悪かった、レビン。夫らは……消す」

「え」

「あぁ、駄目だそれじゃ。アーシュがまた落ち込む。」

「じゃあ、分からないよう殺す」

「いや、バレてるから」





お読み頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ